第10話 シナリオ作り
「1回ボクらが勝つけど宝箱を開けたら罠が発動してピンチになって、そこにソルが仲間を連れて再度攻撃を仕掛ける。ってのをやりたい。出来るかな?」
「ふーむ、なるほど」
ソルはアルフレッドと次回配信の内容について話し合っていた。
何回か配信をやったので慣れてきたのか、アルはただ撮るだけではなく配信場面の起伏にも目が行くようになっていた。
「ああ、出来る。ダンジョンでは罠も生産可能だから、それを応用すれば宝箱を開けたら罠が発動する、っていうのも出来るぞ。もちろん安全面も考える」
「助かるな。じゃあ初めから終わりまで1回シミュレートしてみようか」
2人はメモ用紙にアイディアを次々と書いていく。大まかな流れは
・アル率いるパーティがダンジョンに入る。
・ソル率いるダンジョンマスターと戦い、アルが勝つ。
・部屋に置かれた宝箱を開けたら罠が発動。と同時にソルが新手を連れて戦場に舞い戻る。
・アル一同が親玉狙いに絞ってソルを集中攻撃して撃退する。
・マナ結晶を持ち帰り配信終了。
というものだ。
「前回はボクらが撤退したからリベンジ達成。っていう意味では視聴者が期待している物は出せると思う」
「うんいいだろう、これで行こう。にしても俺たちが裏で繋がってるって知られたら視聴者を裏切ることにならないか?」
「その辺は大丈夫「このお話はフィクションです」って配信のたびに冒頭で毎回言ってるから納得した上で観てると思うよ。本物の冒険もしたこともあるけどつまらないよ。
盛り上がりに欠けるしストレス描写ばっかり続くからなぁ。前に1回本物の遺跡に潜ったことがあったけど、散々だったよ」
吟遊詩人の歌で語られる英雄の活躍は心を震わせるものだが、それは素材が最高品質の物である事に加えて「加工技術が神がかっている」のも挙げられる。
いくら伝説の英雄と言えど地味な冒険は省かれ、代わりに倒してもいない怪物を何十体と倒した事にされてしまうものだ。
「戦場を舞台にした演劇」は面白いが「戦場そのもの」は楽しくも何ともないのが世の常。リアルすぎてもウケないのだ。
「あ、そうだ。お前のサインが欲しいって言ってたんだけど大丈夫だな?」
「ええ!? ボクのサインが欲しいだって!? いやぁそこまで有名になるとはねぇ。良いよ、サインの1つや2つお安い御用さ」
アルは上機嫌でサインを書いた色紙をソルに渡してくれた。
話を終えた後、ソルは「撮影所」へと向かう。
主にハンティングに使う王家の私有地である森の中に、隠すように作ったソルお手製のダンジョン。アルフレッドの冒険を行う「撮影所」だ。
その中に入ってソルは準備をしていたのだが……。
「うーん、やっぱり無理か」
王家私有地内のダンジョンはあくまで「撮影用」であるがゆえに開発が未熟で「通路や部屋の中に罠を仕掛ける」事は出来ても
「宝箱の中に罠を仕掛ける」といった高度な技術を必要とする機能はついていない。各種パーツの小型化、起動ギミック作成等の技術がいるのだ。
仕方ない、普段住んでるダンジョンで作るか。そう思って彼は自分のダンジョンへと戻る事にした。
「あ、先生お帰りなさい。ちょっといいですか?」
「? 何だ?」
「ダンジョンでは罠も作れるって聞いていたので試しに作ってみたんですが、出来栄えを見て欲しいんです。お暇な時で構いませんので」
「分かった。ちょっとやらなきゃいけない事があるからまた今度な」
「分かりました。お願いしますね」
ソルは罠作りを優先するために、弟子の罠の出来を評価するのは後回しにしてしまった。これが番狂わせを生むのだが彼はまだ知らない。
「あ、そうそう。アルフレッドのサイン、もらってきたぞ。これだ」
「わぁっ! 本当に!? ありがとうございます!」
お土産のサインも渡して上々の気分で罠づくりを始めた。
「よし、こんなもんか」
ソルはダンジョンにおけるモノづくりを担う「錬成部屋」で慣れた手つきで罠を作っていた。爆発系の罠で見た目は派手だが、殺傷力は大した事の無い撮影用の物だ。
彼はトイレに行くためにその場を離れた後……。
(これは……嬢ちゃんが作った罠か? 危ねえからしまっておくか)
人狼のウルフェンは「ソルが作った罠付きの宝箱」を「レナが作った罠付きの宝箱」と勘違いして倉庫部屋へと持って行ってしまった。
「あれ? おかしいな。あれはどこに行った……?」
ウルフェンのやったことを知らないソルはトイレに行くため少し席を外して戻って来たら、さっき作っていた罠付きの宝箱がどこかへ行ってしまった。周辺を探すと……。
「おっと、こんなところにあったか」
ソルは「レナが作った罠付きの宝箱」を「自分が作った罠付きの宝箱」と勘違いして持って行ってしまったのだ。
(あれ? 罠のついた宝箱が無くなってるけど……? 先生が持って行ったのかな?)
勘違いか重なっている事にレナも気づいていなかった。




