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平凡な魔法使いの始まり

たった2分だった。


悪魔と戦うことを決め、勇敢に立ち向かった。


本当に凄いことだと思う、でもそんなのはただのお気持ちでしかない。


現実はたった2分で終わりだった。


ダンは吹き飛ばされ、イルダは横で倒れている。

俺は悪魔の戯れで足を掴まれ宙吊りにされている。


こんなもんなんだ現実は。


どれだけ足掻こうが、所詮凡人は凡人。


どれだけ努力しても無駄なのだ。


ああ、暖かい家で母ちゃんの飯が食いたい。


父ちゃんに頑張ったなって肩を叩いて貰いたい。


なんで、冒険者になったんだろう。


間違ってばっかだ。


いつもいつも上手くいかない。


いっそのこと魔法が使えなければ。


冒険者になんてならなければを


危険に怯えはしても、実際に危険に立ち向かうことなんてしなくて良かった。


なんでこんなことになってんだ。


もう



疲れた。



帰りたい。



悪魔が俺の心を見透かしたように、


「キャッキャキャッキャ」

と気色悪く笑う。


それを見て、

ああ殺されるんだなって思った。


もういっそのこと終わらせてくれ、

こんな人生なんの意味も無いんだ。

なんも無かったんだ、なんも







なのに







なのに









なんでこんな悔しいだ。










なんでこんな生きていたいんだ。


そうだ、矛盾ばっかりなんだ、

働きたくないとか言いながら、社会からはみ出したくないから働いて。

俺は弱いとか良いながら、頼りない人間だと思われたくなくて。

人と関わりたくないとか言って、一人になると寂しくて。



俺は

俺は

俺という人間は矛盾ばっかだ。


矛盾ばっかなのに、

どうしようもないのに、

俺は足掻いていたい。




俺は




「生きていたい」。




それはただの悪足掻きだった。


敵の視界を眩ませる魔法を使った。


その魔法で悪魔は若干怯んだが、

不愉快だったのか、悪魔は怒り、俺を殺そうとした。


その時だった。


眩い閃光が走った。


「僕が来た!」


場違いな男の声が聞こえる。


ぼやけた視界を無理やり上げると、

空には人のシルエットが。


そのシルエットが腕を振り下げると、

空から稲妻が何本も降り注ぎ、悪魔の身体を貫いた。


そして、悪魔は動かなくなった。


突然の出来事に頭が追いつかなかったが、

自分がもう死ななくて良いという安心感と、

悪魔と対峙していた緊張感、

身体の疲労が一瞬で襲ってきた。


そこからの記憶はもうない。



ーーーーーーーーー



目を覚ますと騒がしかった。


身体を起こすと、色んな人が治療を受けている。


忙しなく回復術士と看護師が働いていた。

どうやら俺は、大勢の人が集められる避難テントに運び込まれていたらしい。


ぼーっと眺めていると、一人の看護師がこちらにやってきた。


「あなた、大丈夫ですか。」


ぶっきらぼうに質問される。


声を出すのも怠かったので頷くと、


「たくさんの怪我人が居ます。」

「あなた、出ていってもらえますか?」


ーーーーーーー


酷い話があったもんだ。


結局俺は目覚めてからすぐにテントを追い出された。


避難テントに人が集まりすぎて、

怪我人が優先されている、身体に問題が無ければ出て行けと言われた。


これだけ聞くと至極当たり前のことのように思えるが、

街から移動してきたんだから、泊まる場所を確保しなくちゃいけない。


しかし、移民だらけで部屋に空きは中々なく、

挙げ句の果てには明らかに値段を吊り上げている宿屋もあった。


行き先も見つからない。

ダンや、サン、イルダも見つからない。


こんなことってないよー。


そう項垂れながら、帝都の噴水の縁に腰掛けていた。


これからのことを思案していると声を掛けられた。


「君を探していたんだ。」


金髪の爽やかなでいかにも自分に自信がありますよ的な兄ちゃんだった。


なんだこいつぶん殴ってやろうか。


そう思ったが、俺は大人な男。

余裕を持って対応してあげよう。


「な、なんですか?」


どもった。

大人な俺グッバイ。


「先の戦闘で悪魔の足止めをしてくれてたのは君だろ。」

「君が魔法を使った光が見えた。」


「はぁ」

なんだこいつ。

もしかして、安全地帯から俺の戦いを観てたのか、

酷いやつだな。


「僕の魔法美しかっただろう。」

金髪の男が言った。


Whats?


「僕は雷の魔法を扱うのに長けていてね。」

「あの悪魔が雷に弱くて良かったよ。」


もしかして


「あ、あなたがあの悪魔を?」


「そうだよ。」

「僕の華麗なる魔法でね。」


男がウィンクする。

なんだこいつ。

関わりたくないな。


「俺になんの用ですか?」

用があるなら早く聞きたい、

そして関わらないでほしい。


「ああ、そうだった。」

「僕はレオン。君のパーティーの一人が君を探していてね。」

「僕は心優しいから君を探していたのさ。」


えっ

レオン良いやつじゃん。

無下に扱おうとしてごめん。

けど、ウィンクだけはやめて。


「どこに居るんですか?」


「ダンさんと女の子は帝都の診療所に居るよ。サンさんは冒険者ギルドに居る。」

「みんな無事だと伝えてくれとサンさんに頼まれたよ。」


どうやらことの経緯を聞いてみると。


悪魔が現れた後にすぐさま逃げ出したサンは、

逃げたのでは無く(ここ重要らしい)

帝都に居るレオンを呼びに走ったらしい。


レオンは元々は冒険者らしいが、その強さと功績から、今は非常事態の際に国や市民を守る役目を任されている。


そのため、勝てそうにないことを悟ったサンの素晴らしい判断により、レオンがあの場に召喚され、今回俺は殺されずに難を逃れたのである。


「ダンさんが君を呼んでるそうだ。」


一通り説明を終えたレオンが用件を伝えてくれた。


「なんでも、今後の「協同体」の方針を君に話したいらしい。」

「「協同体」ってなんだか、ダンさんらしい言葉のチョイスだね。」


その言葉に引っかかりを覚える。

「ダンさんとサンさんと知り合いなんですか?」

素直な疑問をぶつけてみた。


「昔ちょっとね。」

言い淀んでいるのを見て、

これ以上追及するのは失礼そうだと思い、

レオンに感謝を述べて、ダンに会いに行くことにした。


「ありがとうございました。」

「なんか色々。」


レオンは苦笑しながら

「いや、良いんだ。」

「また困ったことがあったら僕のとこに来てくれて良いよ。」

「君はこれからーー」


その先の言葉を飲み込んだレオンは何か困った顔をしていた。


「いやなんでもない。」

「また何かあれば僕を頼ってくれ。」

「僕が華麗に助けてあげるよ。」

そう言って、去っていった。


第一印象で人を決めつけるものじゃないな。

結局、色々なことを説明してもらって助かった。

最後のはまたムカついたが。


俺は、ダンさんの話を聞くために、

レオンに教えてもらった場所に向かうことにした。


ーーーーーーーーー


「来ましたか」


レオンに案内された診療所に行くと、

二人部屋にイルダとダンが居た。


イルダはベッドの上で爆睡している。

可愛いやつめ。


「あのダンさん、話って。」


「レオンから聞いたと思いますが、今後の「協同体」の話です。」

なんだか、不穏な空気が漂っている、

空気清浄機が欲しいな。


「見ての通り、私とイルダはしばらく働くことが出来ません。」

見てもあまり、わからんが、診療所のベッドに寝かされている以上は、ケガと更に治癒魔術では治せない何かが残ってしまったのだろう。


「なのであなたはクビになります。」


「はぇ?」

なんとなく予想はしていたーー

はぇ?

クビですか?


言葉のチョイスが酷すぎる。

もう少し言い方があるだろうに、

ダンという男はどこまでも真っ直ぐにしか言葉を言わない。


「これまで、あなたと何ヶ月か、ともに仕事をしてきました。」

「最初はあなたという人間は役に立ちませんでしたが、今ではそこそこ役に立つようになりました。」

真っ直ぐ過ぎてちょっと殴りたくなったが、病人に乱暴は出来ない。


「あなたはまだまだ未熟です。」

「それでも、少なくとも我々の力を借りずとも歩いていけるでしょう。」

「だから、ここで一度お別れです。」


ダンが笑った。

いつも無表情で、堅物のダンが笑った。


「さあ、行ってください。」

「別れと始まりはセットで、いつも急に訪れますよ。」

「あなたは前を向いて歩いて行くべきだ。」

「立ち止まってはなりません。」


まるで、最後のお別れみたいな言葉だが、

その通りだと思った。


始めは何も出来ない冒険者だったが、今ではサポートや妨害など、一つの仕事はキチンとこなせる。

立派では無いが、一人の冒険者だ。


だから、行かなければ。

そうだ俺は独りの修羅なのだ。


「今までクソお世話になりました。」


ダンに深々と頭を下げる。


ダンは笑顔のまま頷いた。


「じゃあね。」


最初誰が発したか分からなかったが、

いつの間にか起きたイルダがこちらを見て言った。


ああ、これでお別れか、なんだかあっさりしたものだな。


色々あった。


この活字の間に、行間の間にどれだけの物語があっただろうか。


それを表すのが難しいが、それでも彼らの物語はあったのだ。


これは終わりではない。

一つの始まり。

一つの大きな物語のほんの一片でしかない。


一人の魔法使いの始まりなのだ。


そう、「平凡な魔法使いの始まり」なのだ。












この物語を最後まで読んでくれた誰かへ。


本当にありがとう。


たった5話という、短い話でしたが。

俺の中の色々なものを必死に絞り出して書きました。


拙い部分も多かったと思いますが、

不格好でも書き終えることが出来ることが何より大切だと思ってます。


だから、短くても、不格好でも書き終えられて、ほっとしました。


そして、そんな短くて、不格好な物語を呼んでくれたあなたにもう一度感謝を。


「ありがとう。」


さて、この物語は終わりですが、

自分の気分次第で続きを書こうと思っています。


疲れるんでね、また時間がかかると思いますが。

また、書いていけたらと思います。


それではここまで読んでくれた誰かさんへ。


「どうかお元気で。」

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