人生は山あり山あり山しかない
登場人物の紹介
ブギ・・・本作の主人公、元ニート魔法使い。敵を邪魔する魔法が得意。彼にこの名前をつけたことを少し後悔している。少し。
ダン・・・主人公の所属する「協同体」のリーダー。会話で横文字を良く使っているが、中身がある話が出来る男。作者は気に入っている。
サン・・・主人公の所属する「協同体」の賑やかし担当。いつも酒の匂いがする。きっと彼が酒に依存する深い過去がある。きっと。
イルダ・・・主人公の所属する「協同体」の居眠り担当。
だいたい寝ている。かといって、肩を揺するとアゴに強烈なカウンターが飛んでくる。
人生には様々なことがある。
良いことも悪いことも。
そういったことを俺が知っている言葉で表すなら、
「人生山あり、谷あり」
という。
だが、現実の世界ではどうだろうか。
俺の体感で言えば、9割が山を登っているような、つまりは困難に立ち向かっていることが多い気がする。
だから
「人生山あり、山あり」
くらいの方が個人的にはしっくりくるのだが、
皆さんはどうだろうか。
さて、本題に入ろうなぜこの話をしたかと言うと、
そう本編に繋がるからだね。
これから主人公ブギに訪れる試練を皆さんに見て欲しい、そしてどんな選択をするのか、彼は山を登るのか、途中下山していくのか。彼の行く末を見守ってほしい。
ただ、作者が思うことがあるとすれば、
どんな選択肢も間違いではないと思う。ただ、選択肢を正解とするか不正解とするかは自分次第であると。
だからと言って極端な真似はするなよ!
ーーーーーーー
朝目が覚めると、街がやけに騒がしかった。
この場合の騒がしいというのは、賑やかになったとかプラスの意味ではなく、かなりマイナスよりな意味である。
街のあちこちで店が閉まり、大きな荷物を背負って移動している姿が見える。
そんな状況を見ていると、かすかに警鐘が聞こえてきた。
警鐘
危険を知らす鐘の音。
本来は街に住む全員に聞こえなければいけないものであるが、街が広がり、建物が増えることで、聞こえにくくなってしまう場所も多い。
どうやら俺の住むこの駆け出し冒険者が住むような、いかにもボロい宿屋もその場所になってしまっているようだ。
警鐘がなっているのだから、何か危機が迫っている。
それが何かは微塵もわかりはしないが、取り敢えず荷物をまとめ避難をする。
宿屋を出てしばらく、街の人の流れに乗っていると、
「冒険者は冒険者ギルドへ」
という立て札を持っている男を目にした。
無視することも出来たが、それを目にした所で、他の「協同体」のメンバーがどうしているのか気になった。
いちよう顔を出しておこうと思い。
人の波を抜け、冒険者ギルドを目指す。
冒険者ギルドまで行く途中で、冒険者らしき人だかりを見つけた。
どうやら、集められたは良いものの、集まり過ぎてギルド側が処理できず溢れかえってしまっているようだ。
どうしたものかと思案していると声を掛けられた。
「ちゃんと来たみてーだな」
サンが今日は酒の匂いを漂わせずに立っていた。
この人酒飲んでなくても生きていけるんだ。
「もうみんな集まってる、着いてこい。」
そう言われて着いていくと、ダンとイルダが立っている場所まで案内してくれた。
最初はダンに怒られるんじゃねと思っていたが、そうでも無かった。
ダンは淡々と今起きている現状を説明をしてくれた。
今回の警鐘の原因は、
「街の近くに悪魔が現れました。」
悪魔について今一度説明しておこう。
悪魔と言っても作品ごとに違うからな。
今この世界は勢力的には人間と悪魔が拮抗している状況にある。
正しく言えば、神が面白半分でどちらかが勝ちそうになると負けそうな方に力を与えて、どちらが先に倒れるのかを見物している。
読者の諸君の中で、もしこの説明が違うと思う人がいれば許してほしい。
設定を作ったのが2週間くらい前でちょっと忘れちゃった。
テヘペロ
だいたいこんな感じでいるのだが、今は悪魔に力が譲渡され、徐々に人間が悪魔に領土を奪われていっている。
今回もそうした流れで、辺境にある初心者が多く住むこの街に、初心者狩り悪魔が現れたようだ。
悪魔が現れたので、街の人々は帝都に避難をするように指示が出ている。
帝都に辿りつくには長い距離を移動する必要があり、途中の関所まで人々の護衛を回せないものだから、冒険者が働けと言うことで、護衛を任されているようだ。
「俺たちがどこを守れば良いのか配置などは決まってるんですか?」
ダンに尋ねると、
「いえ、何も決まっていません。」
「我々は避難しようと考えています。」
「え?」
「この司令官もいない、配置も決まってない状況で護衛をするのはあまりにバカバカしい。」
「我々は自分たちの命、最優先で行きましょう。」
「でも」
人々を守るのは悪いことではないし、力を持っているものが誰かを守るのは必要なことだと俺は思う。
それに人が死ぬのをただ黙って見ているのかとも思った。
何故だろう、今日は何か大きな衝動が俺を動かしている。
その衝動に身を任せ、ダンに反論をしようとした。
しかし
「我々は」
ダンが少し声を荒げて言った。
「我々は勇者じゃない。」
「あなたは悪魔に出会ったことが無いから知らないかも知れないですが、ただの冒険者風情が足止めをすることは非常に難しい。」
「もし君がやりたいと言うのなら、死ぬつもりで一人で勝手にやってください。」
確かに俺は悪魔に出会ったことはない。
しかもダンが言うことなら間違いではないだろう。
俺は渋々了承し、「協同体」のメンバー全員で避難することが決まった。
街を出て関所を出ると、街の護衛が何人か居たが、30分も歩いていると護衛は一人も居なくなった。
冒険者で護衛を買って出たものはほとんどいなかったようだ。
関所まであと1時間半と言ったところか、
歩いていると後ろから悲鳴が聴こえた。
何かと思い後ろを振り返ろうとした瞬間、道沿いに立っていた木々が倒れ、地面が破裂した。
その光景に頭が追いつかなかった、
何人かの人が倒れ、列を成して歩いていた人々はみな悲鳴をあげながら走りだした。
他人を押し倒し走り出す人。
怪我をして倒れ込んでいる人。
全速力で走り出すサン。
全速力で走り出すサン?
なんで一人で逃げてんだ?
呆然と歩いていると全力で背中を叩かれた。
「走ってください。良いですか、絶対に後ろを振り返らず走ってください。」
「早く!」
急かされながら走り出した。
未だに状況が飲み込めず、言われた通りに動く。
ふと、後ろを振り返ると言う言葉が頭をよぎった。
きっと普段ならこの言葉を聞き入れ、ただ走っていただろう。
しかし、この惨状が受け入れられず、あと一つで良いから判断材料が欲しかった。
俺は後ろを振り返って見てしまった。
悪魔が現れるのがなんであるかを目の当たりにした。
真っ赤に染まる地面と、肉片が散らばっていた。
それが、人が切り刻まれ、潰された後だと気づくのに時間がかかった。
更に俺は見てしまった。
悪魔を。
そいつは3mくらいの人型だった。
おかしいところを上げるとすると、顔が3つ着いていて、腕には大きな刃物が着いている。異常な筋肉量で肌が真っ白だった。
そして、悪魔の顔の一つと目が合うと、そいつはニヤッと笑った。
全身が粟立ち、自らの呼吸が荒くなっているのが、恐怖からなのか、走っているからなのかわからなかった。
ただひたすら走った。
前を走るダンと、イルダの背中に着いて行くように走った。
途中で人を押し倒したりもしたし、助けを求める人を見捨てもした。
逃げ出す前に感じていた大きな衝動「正義感」というものは、いつの間にか小さく萎んで、
「死にたくない」
その思いだけが頭を、そして身体を満たしていた。
どれくらい経っただろうか、
気がつくと関所が見えていた。
そこで一気に緊張感が抜けていく。
ようやくゴールが見えた。
ここに辿り着けばきっと誰かが何とかしてくれる。
誰かが誰であるかなんてどうでも良かった。
ただ自分さえ生きていれば良いとそう思っていた。
だが、その願いは呆気なく砕けちった。
関所は大勢の人でごった返していた。
どうやら悪魔が近づき過ぎていたのだろう。
関所の大きな門は閉じ、人一人が入れるような小さな扉を人々は押し合い圧し合いしながら奪いあっていて、すぐに入れそうもない。
しかもだ、
「オオオオオォオオオオオォ」
人とは到底思えないような唸り声が響いて来ていた。
すぐそこまで悪魔が来ていた。
俺は思わずその場に崩れ落ちてしまった。
もう終わりじゃないか。
そう思ってしまった。
そして、先に逃げたサンを責める思いと、途中で押し倒してしまった人、助けを求めていたのに無視してしまった人のことを考えて動けなくなった。
俺はもう少しマシになったと思っていた。
魔獣を倒し、自立した生活を送って、「協同体」のメンバーと交流して少しは立派な人間になれたと思っていた。
でも実際は所詮魔法が使えるだけの、毛が生えた程度のただの人間だった。
そう塞ぎ込んでいると、誰かが肩に手を置いてくれた。
そして、背中を叩かれた。
イルダとダンだった。
「良く聞いてください!」
「悪魔と戦います!」
俺はもう無理だと無言で訴えた。
だがダンは諦めずに声を掛けてくれた。
「立て!」
「生きるために立つのです!」
「もう駄目かも知れない、もう死ぬかも知れない。」
「でもそれが生きるのを諦めて良い理由にはならない!」
その言葉に何を言ってるんだ、そんなの無理だと思ったが、ダンの手を見たとき、その手が震えているのを見たとき、ダンの思いが伝わってきた。
ダンは本当にちゃんしている。
この窮地でも、震えていても、俺という人間を慮って言葉を掛けてくれている。
死に抗おうとしている。
本当に凄い人だと思った。
でも、その言葉だけでは、立ち上がれなかった。
だが、そんな俺を見て、イルダが手を握ってくれた。
目を見つめながら、
「一緒に生きよう。」
そう言ってくれた。
恐怖も迷いも振り切ることは出来ない。
それでも、立ち上がることを選ぶことが出来る。
俺は立ち上がり、震えを必死に抑えながら、背中に背負っていた杖を手にした。
このシリーズは次がラストになります。
「平凡な魔法使いの始まり」
最後まで見届けてくれると嬉しいです。