気怠げな少女の生態について
前回から増えた登場人物の紹介
ダン
癖の強いダンディーなおっさん。自分たちを協同体と名乗り、ビジネスパートナーとして主人公を勧誘。
どこか熱い意志を感じられる。だが、癖は強い。、
座右の銘「パーティーだ仲間だなんだはクソなので、海に流してください」
サン
第1話から登場している変なおっさん。
変なおっさんだが、気前は良い。
朝っぱらから酒の匂いがするが、気前は良い。
協同体の橋渡し役であり、人望が意外とある。酒臭い。
座右の銘「かーちゃん酒くれ」
イルダ
気怠げな少女。
可愛い顔に、綺麗な黒髪。
作者の好みにド・ストライク。
基本的にいつも怠そうで、会話の場ではボケーっとしていて、たまに寝てる。戦闘中はだいたい寝てる。いわゆる残念系美少女。よだれが汚い。
座右の銘「三度の飯より睡眠」
協同体に加入して2週間がたった。
最初に魔獣と戦う時には手が震えたのを覚えている。
何なら、魔法が当たらないこともあった。
だが、ダンが敵を足止めしながら指示を行い、サンが敵を仕留め。イルダが横で立ったまま寝ていた。
更に、ダンが選んでくる依頼というのが、危険度が低いが実の入りの良い依頼ばかりで、数をこなしていく内に自信がついていき、気がついたら魔獣と戦うことに慣れていた。更にちょっと小金持ちになった。
今までお世話になった母ちゃんと父ちゃんにお礼をしたいと思った。来月くらいに。
このことは、俺の心持ちを明るくし、一度勇気を出して、ダンにお礼を言った。
「あなたのためだけではありません。全体の最適値を探し、いかに効率良く金を稼げば良いか考えただけです。」
「は、はぁ。」
ツンデレかなこのおじさん。
「そんなことより、あなたの戦闘面でのいくつかの問題点をここで提示しておきます。まず・・・」
という感じの返事と長い説教が返ってきた。
そんな、俺のことは良い。
俺よりももっとやばいやつが居る。
もちろん、この協同体がやばいやつの集まりであるが、その中で一番ヤバいのは、酒の匂いがするサンでも、難しい横文字ばかり使うダンではない。
イルダだ。
イルダという少女は戦闘中に舟を漕ぐ、つまり、居眠りと洒落込もうとすることがままある。何なら寝てる時もある。
そのことに気付くのに幾らか時間がかかったが、戦闘に余裕が出来た時に隣を見たら舟を漕いでいて。
「起こさないと!」と思い。彼女の肩を揺すろうとした瞬間、強烈なカウンターパンチを食らったことを覚えている。
(正確には、彼女が持っていたスタッフで頭を殴打されて、初めて意識を失うという経験を得た。)
この経験から彼女に対して、好奇心と恐怖心を抱くようになった。
勘違いして欲しくないのであるが、気になっているからと言って惚れた腫れたとかそういう話ではない。
ほんとです。信じてください。
ということで、彼女の生態を探るべく、調査隊はジャングルへと赴くのだった。今まで協同体で一緒に戦っていた、二人のおっさんに。
ということで、サンにイルダについて聞いてみた。
イルダの話をすると途端にサンはニヤつき始めた。
「なんだ気になるのかよ、お年頃だなー。」
という感じでニヤニヤしている。あと酒臭い。
殴りたい気持ちを抑えつつ、
「彼女がどうして戦闘中に寝てるのか気になるんです。」
と尋ねた。
別にこの質問で何かがわかるわけでも無いと思ったが、軽いジャブとしてサンにかましていく。
そしたら、思わない反応が帰ってきた。
俺にとってのジャブが右ストレートを超えて、ガゼルパンチになったのかもしれない、いやデンプシーロールかもしれない。
サンはなんとも言えない顔でしばし固まったままになった。
答えに思案しているようだった。
そしてこう言った。
「ブギ、世の中には色んな不思議がある。」
「そして、その不思議というのは原理がわからないから、人々にとっての魅力的になり、人々を惹きつける。」
「お前にとってイルダちゃんは魅力的だろう。」
まだ、このおじさんは俺がイルダに惚れた腫れたの感情を持っているという誤解をしている。だが、答えに幾らかの不安が混じっていたことを俺は感じていた。
「つまりだなブギよ。」
「そのことは答えられない。」
サンにイルダの眠りについての答えが聞けなかった。
俺はなんとなく、サンのはぐらかす言葉たちに何かを感じた。
この話をしてはならない。と
だが、それでも知りたいと思ってしまった。
何より、不安だ。
協同体で戦闘中に俺の隣に立つのはイルダである。
そういう人間に不信感を抱き続けて、共に戦おうなどと俺には出来ない。
この話がタブーであるかも知れないと知りながら、次はダンに聞いてみることにした。
「本人に聴いてください。」
開口一番がそれだった。
イルダの眠りの話題を出した瞬間に即答である。
少々戸惑っていると、
「相手を知りたいなら、その相手と話すのが一番です。」
「誰かの言葉はその人の人となりを表すことはあっても、本質を見抜くことはできません。」
「良い機会です。あの子と話してくるように。」
そうして、ダンにイルダがこの町のどこに居るのか聞いた。
彼女は仕事以外は自分の部屋で寝ているか、街の小高い丘のよく日の当たる場所で寝ているらしい。
ダンには、丘の方の場所を聞いて、そちらに向かうことになった。
その丘は草が生い茂っていて、街が軽く見下ろすことができた。
生活の音、冒険者の騒ぎ声、鍛冶屋の鉄を叩く音、そのどれもが少し遠巻きに、丁度心地良い音に聞こえるような不思議な場所だった。
そこにあるベンチには、幾らか人が居たが、堂々と寝ているのはイルダだけだった。
だが、誰も文句を言わないあたり何かあるのだろうか。
彼女に近づき声をかける。
「あのー」
起きない。
問題が発生した。
女の子をどう起こしたら良いだろうか。
決して、俺の女の子に対する免疫の話ではない。
本当です。神に近います。
正確に言えば、カウンターパンチが飛んでくるのではないかとビクビクしているのだ。
俺はあの時のことは未だ忘れられていない。
読者諸兄には体験しようが無いことだが、自分より強いと思っていない相手に失神させられるというのは非常に虎と馬、つまりトラウマになるのだ。
ビクビクしながら
「えっとー」
「おはようございますー」
と声をかけると思ったよりあっさりイルダが起きた。
声をかけた俺の方を見ると、もう一度寝ようかと横になる。
その様子に驚いて、思わず。
「ちょっと!」
と声が大きくなってしまった。
もしかしたら相手を不快にさせてしまったかも知れないと思ったが。
特になんとも言えない顔で横になりながら、俺の方を見た。
「なにかあった?」
凄い、横に寝そべりながら、こんな堂々と話をする人を初めてみた。
ちょっとカッコいいかもとか思った。
俺は質問をすることにした。
「えーっとイルダさんに聞きたいことがありまして。」
「敬称は別につけなくて良いよ。」
「あ、そうですか。」
「聞きたいことって?」
「あ、はい。その戦闘中に寝てることについてなのですが。」
直球ドストレートで聞いてしまった。他のおじさん二人が話すことを躊躇っていることを知りながら。
人と話すのが上手くない俺という人間は、どうにも上手く言葉を選べない。
だが、イルダは驚いた様子もなく、答えてくれた。
「呪いなの」
「あ、え?」
「呪い」
聞こえてはいたが、反応に困る答えではあった。
呪い、これはジョークなのだろうか、眠る呪いなんてのは聞いたことがない。いや呪いに何があるかなんて知らないが。ジョークであったら、どう答えれば良いか、しかし本当だったら・・・
という感じで思考のループに入ってしまったのである。
この無限ループにはbreak文はついていない。
思案している俺にイルダは話をしてくれた。
それは、イルダという女の子がどんな人生を歩いて来たかの話。
ーーーーーーー
彼女は小さな村に生まれた。
元々は勤勉で、幼いながらも村の仕事をよく手伝い。
また、年上の人には丁寧に礼節を持って接し、年下の子供の面倒は良くみる非常に素晴らしい少女であった。
そう、イルダという人間は人々に、そして村に愛されていた。そして、それはもっと大きなものからも。
ある日神の奇跡が宿った。それは祝祷術と言われるものであり、人々の傷を癒し、大地から、そして神から寵愛を受けた証であった。
しかし、それには代償があった。
どんな状況であっても、突然眠りに落ちてしまうという代償である。
その代償は彼女という人間を貶めるものであった。
ゲームのように、
「イルダは神の寵愛を受け、祝祷術を覚えた。」
というような、盛大なナレーション、音楽が人々に聞こえたら何かが変わっていたかも知れない。
だが、現実はそうじゃない。
ただ、突然眠り出し、人の話は聞けない、仕事は出来ないという状態になると、村の人々は徐々に彼女から離れていき、やがて彼女は村で孤立してしまった。
彼女の親でさえも、そんな彼女を遠ざけるようになり、彼女はやがて別の街の修道院に預けられることになってしまう。
彼女は異常であるとレッテルを貼られ、隔離されてしまったのだ。
そのことに彼女は深く傷ついた。
預けられた修道院で彼女が祝祷術を授かっていることがわかり修道院の人々に歓待を受けたとしてもそのことが彼女の心を癒すことは無かった。
彼女は心の中で叫んだ
「お前らに愛されたかった訳じゃない、ただ村の人々に、母親と父親に愛されたかった。」
彼女は修道院で引きこもることとなった、出される食事を食べ、ひたすら眠るだけの日々を過ごすこととなった。
もちろん修道院がそれを許すはずもない。
彼女は修道院も追い出され、一人ぼっちになってしまった。
だが彼女を拾う人が居た。
その人は彼女に戦い方と祝祷術の使い方を教えた。
その日々は彼女を再び人として再構築するものであった。
彼女は再び必要としてくれる人が居るのだと、愛してくれる人が居るのだと。
そのことが、彼女をもう一度立ち上がらせる力になった。
やがて、彼女は冒険者となった。
眠りについてしまうことで揉め事になることがあり、様々なパーティーを転々としたが、最終的にこの協同体という歪なパーティーが彼女の居場所となったのだ。
ーーーーーーー
彼女の話を聞いていて、俺は何を思ったのだろうか。
様々な感情が渦巻いては消えていく。
なんと声を掛けて良いのだろうか。
何も言えないで黙っているとイルダが言った。
「長かったでしょ。」
苦笑する彼女を見ると心が痛んだ。
だから、そんな彼女を見て、そんな彼女の話を聞いて感情が昂ったのかも知れない。
「好きです」
唐突に出た言葉が宙に舞う。
気まずい雰囲気になる前になんとか言葉を紡がなければ。
「えっと、俺はあなたのことを何も知りません。」
「実際、ただ寝てるだけの人だと思ってました。」
「変な人だと。」
その言葉にイルダはまたなんとも言えない顔で笑った。
「でも、あなたを少し知った今、あなたのことを嫌いにはなりません。今後何があっても。」
「なんでか、わかりませんが、俺は今そういう気持ちになってます。」
「そういう決意が満ちている。」
イルダはしばし、何も言わなかった。
その間の俺といったら、
(なんてことを言ったのだろう。気持ち悪いと思われなかっただろうか。)という、心配と恥ずかしさが頭の中を駆け巡っていた。
だがイルダは言ってくれた。
「ありがとう」
俺の目を真っ直ぐ見てそう言った。
これが初めてだったかも知れない。
人と見つめ合うこと、人を愛おしく思うこと、同時に逃げ出してしまいたいという気持ちも。
この思いをなんと言うのか俺は知らない。
「私は負けないよ。」
「もう二度と呪いになんて負けない。眠気には負けるけど。」
「こんな呪いで人生を投げ出そうとなんて二度としない。」
「神に誓うね」
そう言って笑った彼女の顔は、太陽に照らされていて、とても明るく見えた。
設定をつけていく中で文章が溢れだしてしまった。
俺の熱いパッションも、なんか意味のわからんところがあっても許してください。
まあ、自分で許すんですけどね。
読んで頂きありがとうございました。
また、続きもよろしくお願いします。