拝啓、刑務所暮らしのパパへ
窓から差しこんだ朝日が眩しくて、岡田は目を覚ました。今は何時だろう、寝ぼけた頭でぼんやりと考えた。扉の方にゆるりと顔を向ける。
その視線がぴたりと一点に留まった。鉄格子のついた扉の前に、白い封筒が落ちている。
独房の外は静まり返っていて、半身を起こした岡田の顔の上で光の粒がきらきらと踊っている。
岡田はベッドから飛び出し、封筒に飛びつく。
半年間、その封筒を待っていた。差出人も分かっている。妻からだ。
宛名の欄に妻の名を確認すると、岡田は手を震わせながら慎重に封を切った。よれた便箋と写真が同封されていた。
便箋に目を通す。一枚の厚紙の表面を妻が、裏面を息子が書いたらしい。
「息子は毎日泣いていますよ」
表面は簡素な一文のみだった。ところどころ水か何かで滲んだ箇所がある。
私は涙をこらえる。密輸の容疑で逮捕されてからすでに半年を獄中で過ごしていた。便箋をひっくり返す。
「ぱぱ 早く帰ってきてね」
裏面一杯に大きな文字がクレヨンで殴り書きされていた。文字の間には星やらハートマークやらが躍動している。
見れば見るほど涙があふれてきた。今すぐに二人を抱きしめてやれないことをもどかしく思った。息子にも妻にも寂しい思いをさせてしまっている。
だが、頬を伝った涙は温かかった。
写真を見る。つい最近六歳になった息子の写真。仏頂面でぴかぴかの赤いランドセルを背負っている。目元には泣きはらしたような跡があった。毎日泣いているというのは本当なのだろう。
そうか、あの子が。もう小学生になるのか。
一年前、余命半年を宣告されたあの子が。
本当に良かった。あふれる喜びで胸が満たされていく。
薬は効いたのだ。
私が命懸けで密輸した、あの薬は。
まだ試験段階のものだったらしいが、確かにあの薬は本物だった。息子は今も元気に生きている。そう、私の不在を泣いて悲しむことができるくらいには、元気に生きている。
あの薬は間違いなく、息子を救ったのだ。
鉄格子の隙間から独房に朝日が差しこんでいる。光はベッドの下で跪いた岡田の背中をじんわりと温めていく。
岡田は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をシャツで拭った。何度も何度も便箋を読み返す。強く握りしめたせいで便箋はぐちゃぐちゃになっている。
起床のベルがけたたましく鳴り響いた。刑務所中がざわめきだす。隣人の不平不満や刑務官の足音が聞こえてくる。それは刑務所の一日が始まる合図だった。
床で便箋と写真を抱きながら、岡田はその音を天使のラッパのようだと思った。