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山で神隠し

 おれがまだ小学4年の頃、一時行方不明になった事がある。


 村の人達が総出で川から山まで探して、絶望的かと思われた時、カイドウとソウビに連れられて戻ってきた…らしい。

 らしい、というのは、自分自身では覚えてなくてあとから聞かされたからだ。

 戻った時の記憶はないけれど、行方不明になる直前〜行方不明だった時の記憶はある。


 行方不明になった日、その日は夏休み初日で、おれは晴と菜子、そして村の子ども達と一緒に山で遊んでいた。


 おれは神社裏に繋がる山道で、何かいいモノが見つかるような気がして一人で歩いていた。

 それは多分、予感みたいなもの。


 ふわふわ、ひらひら

 白く発光する、蝶を見つけた。

 ふわ、ふわ、パッ…上に下に舞ったと思った次の瞬間に、フッと消えたり、消えたと思ったらパッと現れたり。

 その不規則な動きに夢中になって、どんどん奥へと入っていたらしい。

 気付いたら、森を抜けていた。


 『そこ』は、不思議なところだった。


 腰くらいある丈の細くて長い草が一面に生えていて、その草原の中心に桜の巨木が鎮座している。

 その桜は時期ハズレの満開で、風もないのにさらさらと花びらが降っていた。地面は落ちた花びらで白く染まっていて、積雪のような光景だ。


 おれは桜の根元まで走った。


 木から落ちる花びらが地面に着くまでの間にキャッチすると願いが叶う、という遊びがしたくなったから。

 目の前も周辺も真っ白で何度も挑戦して、何枚も取れた…と思うのに、手のひらを広げてもそこには何も残らない。花びらが手のひらをすり抜けるように消えている。

 おれは半ば意地になって挑戦し続けた。


 どのくらい時間が経ったのか知らない。

 気付いたら、二人組のにぃちゃんがそばに立っていた。一人は村で何度も見かける小麦色の髪をした男の人。もう一人は初めて見る灰白の髪の男の人。


「何やってんだ?」

「花びらキャッチ。宙で取れたら何でも願い事が叶うんだ」

「へぇ?」

「あっ!嘘だと思ってるんだろ!?叶うんだぞ」

「例えば?」

「美味しい物食べられますように、楽しい事がありますように。えーとあとは……」


 叶った願い事を指折りながら伝えたら、二人に大爆笑された。小麦色の方は身体をくの字にしてひいひい笑ってる。


「あー、お前が無害なのはわかった。ククッ」

「今どき珍しいくらい無垢な子どもだ」

「なんだそれ」

「褒めてるんだ」

「そーそー、褒めてるんだから笑え」

「わかった。……で、ここって何?」

「そもそも、お前がここにいる事がおかしい。どうやって入った?」

「えっと、蝶を追いかけたらここにいた」

「それだけ、か?」

「うん」


 正直に話したのに、二人とも少し変な顔になった。


「ちょっと頭触る」


 小麦色がおれの頭に手のひらを乗せた。あったかい手だ。ふわっと太陽の匂いがする。


「んん…間違ってねーな」

「言葉通りか?」

「まあな。大体何でお前が気付かないんだ。ここら一帯はお前の領域だろーが」

「一応謝っておくが、神も万能じゃない」


 わしゃわしゃと頭を撫でて、解放された。

 難しい顔して話す二人を見上げる。やっぱり、小麦色の方は見たことある。


「なあ、にぃちゃんはいつも神社にいるよな?」

「は?」

「境内の階段のところとか鳥居の上とか」

「待て待て。何で見えてる?」

「お前、名前は?」

「さいとうあかる」

「齋藤…鞍毅のとこか?」

「くらきはじいちゃんだぞ」


 小麦色はいつも神社にいる。たまに村をうろうろしてるけど、大抵は屋根や鳥居の上、階段に座って酒瓶をあおってる時もある。

 誰かと話してるのは見ないから、じいちゃんの名前が出て驚いた。


「鞍毅の孫か。じゃあ、見えててもおかしくはないな。…朱琉、少し触る」


 今度は灰白の方がおれに触れてきた。頭、腕、背中…

 なんだか雨の匂いがする。泣いてんのかなと思って、見上げたら少し不思議な顔をしてた。悲しい?いや、懐かしい?


「カイドウ、この子は神子だ。俺が気付かないのも仕方ない。俺と同じ神気をまとっている。だから蝶がくっついていたし、ここにも入れた」

「神子だと?嘘だろ…」


 信じられないという顔して、小麦色がこっちを見る。


「俺は嘘をつけない。知ってるだろう?」

「あー、まあ。言葉のあやだ。神子か…んじゃ、俺はまたあっち側に居ればいいか?」

「そうだな。頼む」

「お前に頼まれるの、何百年ぶりだ?」

「さあな」


 二人の中で何かがあったらしいが、こっちは何もわからない。わからない事はすぐ聞く事にする。


「なあ、神子ってなんだ?」

「神子ってのは、神様の声を聞ける者だ。良かったな、朱琉。お前が神子だぞ」

「へ?神子?おれが?」

「そう。これから忙しくなるぞ。神儀にも参加しないといけなくなるし、祭にはお前が必要だし」

「え、おれ何もわかんないけど」

「そこは俺らが教える。なんせ、神とその弟弟子だからな」


 神と言って指差したのは、灰白の男。

 そして自分の胸を親指で示しながら弟弟子だと言い切ったのは、小麦色。

 ぶっ叩きたいくらいいい笑顔だった。


 ちょっと待て。神?


「呆けてる場合じゃないぞ」

「いきなり神、と言われても驚くだろう」

「だって、神さまって大きな狼なんだろ?人間じゃん!」

「そりゃあ、手があった方が便利じゃねーか。堂々と酒も呑めるし」


 ゴツン!灰白の拳骨が小麦色の頭に落ちた。

 あれは痛そうだ。実際、小麦色が頭を押さえて唸っている。「手加減しろ」

 それを無視して、灰白が木から離れて行く。草原の真ん中まで歩いて、フッと一瞬姿が消えた。

 そして次の瞬間、灰白の大きな狼が姿を現した。

 神社に飾られてある、古い大きな絵と同じーー

 しなやかな体躯、太い四肢には若葉の緑が生える。


 大上村の守護神。大神さま。


「な、わかっただろ?」


 頭をさすりさすり立ち上がった、小麦色に「怖いか?」と聞かれるけど、怖くない。むしろ…


「すっげー!!触りたい。もふもふしたい。乗りたい!なあ、ダメか!?いいよな!?」


 テンションMAXな、おれ。


「想像超えてた」

「大丈夫かな、この神子」


 




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