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津波  作者: パプリカ
7/22

かつて、この町には人魚がいるという伝説があった。

海での目撃情報がたくさんあったからだ。


人魚をとらえようとする人も大勢いた。外部からたくさんの人がこの町を訪れ、海を捜索した。


でも、なかなか見つけることはできなかった。人魚が姿を見せるのはこの町の住人に対してだけで、余所者の前には決して現れることはなかった。


町の住人と人魚との間には信頼関係があって、大事な秘密を漏らす人もいなかった。


そんなとき、一人の外国人がこの街を訪れた。彼は牧師を名乗り、自分が信奉する宗教を広めるために、この町に滞在することにしたのだと言った。

彼は永住を考えてるといい、わざわざ山の中腹に家を建てることにした。


当時、この町では外国人はとても珍しかったので、最初は険悪な雰囲気があったという。でも彼はとても社交的で、日本語も不自由なくしゃべることができた。やがて町に溶け込むようになり、地元の女性と結婚するまでになった。


あの地震が起きたのは、それから十年ほど経った後のことだった。

二人の間には幼い子供がいた。まだ小学生の女の子だった。

彼女は地震が起きたとき、自宅にいた。両親は出掛けていて、ひとりで留守番をしていた。


ちょうど階段を降りているところで、激しい揺れに襲われた。揺れに耐えきれず足を踏み外してしまい、段差に体をぶつけながら下へと落ちていき、そして気を失った。


次に気づいたとき、地震が起きてからどのくらい経ったのか、彼女にはわからなかった。体は自由に動くことができたので、とりあえず外に出てみると、庭は死体で埋め尽くされていた。


そこは足の踏み場もないほどだった。津波で運ばれたのか、それともこの高台が安全だと思った人が死体を運んできたのか。


どちらにしても、彼女は死体をどうにかしなければ外に出ることが出来なくなっていた。両親がどうなったのかも知りたかったので、なんとか外に出ようとした。


死体にはなるべく直接は触れたくはなかった。数が多すぎて、脇にどけて道を作ることも出来そうになかった。そこで彼女は手袋と、何か運ぶものはないかと家を探し回った。


地下室には一度も入ったことがなかった。父親から入ってはいけないと言われていた。鍵もかかっていたので入ろうとしたこともなかったけれど、あの地震の影響で床が歪み、鍵が壊れる形となっていた。


薄暗い階段をおりていくと小部屋があって、そこの中央に棺桶が置かれていた。なぜこんなところに棺桶が、という疑問がわいたものの、死体をどかすのにはちょうどよさそうだなと彼女は思った。


棺桶には鎖がついていた。それを持って引きずってみると、意外にも軽い。まるで紙で出来ているかのようだった。


棺桶を地上に引きずり出し、玄関のところまで行った。積み重なった死体をあまり見ないようにして棺桶に入れていった。棺桶はとても大きく、複数の死体を入れることができた。


死体でいっぱいになった棺桶の蓋を閉め、再び家の中へと戻ろうとした。


そのとき、彼女は妙な感覚を味わった。棺桶がやけに軽く、先程とさほど変わらない重さだった。複数の遺体が入っているのになぜ、と思って試しに蓋を開けてみると、中は空っぽになっていた。いや、正確には死体がなくなり、人の骨だけが残っていた。


これは便利だな、と彼女は思った。

どういう原理でそうなったのかはわかないけれど、この機能があれば簡単に死体をなくすことができる。

彼女は玄関前の死体を次々に棺桶へと入れていき、骨へと変えていった。


そして。

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