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津波  作者: パプリカ
19/22

19

結局、恵太くんのお姉ちゃんはお祭りの翌日には帰ってきたらしい。

やっぱり単なる家出で、事件に巻き込まれたわけでも、棺桶少女の犠牲になったわけでもなかったらしい。


わざわざその報告を恵太くんはしてくれた。ぼくの家にまで来て、この前はごめんなさいと謝ってくれた。ぼくは迷惑だとも思ってはいなかったので、頭を下げてくる恵太くんに対してはどこか照れ臭かった。


この出来事がきっかけとなり、ぼくたちは仲直りをした。喧嘩なんかをしていたわけでもないので仲直りという表現が正しいのかどうかはわからないけれど、とにかく一日で一気に距離が縮まって、夏休みに一緒に遊ぶようになった。


その中には久瀬さんもいた。あのときお姉ちゃんを探そうと初めに言ったのは久瀬さんだったから、ぼくが仲間に入れてほしいとお願いした。二人は最初戸惑っていたけれど、結局はいいよと言った。


ほくたちは小学生だからそんなに遠出とかはできないけれど、それでも一緒に町を歩いたり、普通の話をしたりするだけでも楽しかった。夏になっても海には人はいなかったから、ぼくたちはよく砂浜に行った。


恵太くんと里英ちゃんはこれまでほとんど砂浜に来たことがなかったらしい。理由はなんとなく怖かったからだという。

ここの砂浜はぼくのお気に入りの場所だったから、ぼくが二人を誘ったら、渋々と言った感じで頷いた。


実際に初めて砂浜に来たとき、二人はなんだか恐る恐るという感じだったので、ぼくは吹き出してしまった。ぼくに笑われたのが恥ずかしかったのか、二人はなんでもないという態度で砂浜に降りて、それからは普通に遊ぶことができた。


裸足で砂浜を走り回ったり、ときには海にも膝くらいまで入ったりした。

恵太くんも里英ちゃんも怖がったのは最初だけで、慣れたら平気で海に入ることができた。

お互いに水を掛け合い、その冷たさに悲鳴を上げたりした。ここでは大声を出しても叱られないし、広々とした空間にいるだけでも開放的な気分になった。


久瀬さんは決してはしゃぐようなことはなかったけれど、ぼくたちの誘いを断ることはなかった。海で遊ぶときは砂浜に座ってこっちを静かに眺めていた。


恵太くんたちと遊ぶことが多くなったせいで、棺桶少女探しはしばらく行っていなかった。

それについても久瀬さんの口からは不満とかは出なかった。あまり感情を表に出さない久瀬さんだけれど、ぼくたちといることが決して苦痛でないことはこちらにも伝わってきた。


知らない大人に声をかけられたのは、何度目かの砂浜からの帰りだった。


見たことのないおばさんが、ぼくたちの前に立ち塞がるようにした。


「あなたね、久瀬さんの娘は」


そのおばさんはなぜか怒っていた。険しい目付きで、久瀬さんを見下ろしている。


「もういい加減にしてよ。こっちももう我慢の限界なのよ」


突然そんなことを言われたので、ぼくたちは困惑した。知らない大人に話しかけられるだけでも驚くことなのに、その相手が怒っているのでかなり動揺した。

しかも理由もなにも話さずに。


「ねぇ、聞いてるの、あなた」

「なんのことですか」


ぼくがそう聞いたのは、久瀬さんが何も言わなかったからだ。おばさんからの目線をそらすようにして、俯いている。


「あなたたちには関係ないでしょ」

「関係あります。久瀬さんは友達なんですから」

「なら、友達は選ぶようにすべきね。この子の父親は盗っ人なんだから」

「え、どういうことですか?」


おばさんによると、この前のお祭りのとき、自宅が何者かに荒らされたのだという。価値のありそうなものやお金が盗まれたのだとか。


あれがそうだったんだ、とぼくは思った。棺桶少女を探し終えた帰りに見た謎の人影が泥棒の姿ということになる。


で、その犯人が久瀬さんの父親だとこの人は疑っているようだけど。


「それって証拠はあるんですか?」

「この子の親はあの祭りには参加していなかったし、元々評判だって悪い。そうに決まってるわ」


どうやら断定はできないようだった。

それもそのはずで、もし本当に久瀬さんの父親が犯人であるという証拠があるのなら、警察のほうがすでに久瀬さんの家に行っているはずだから。こうして子供のところに来るということは、この人の単なる思い込みの可能性が高いと思う。


「それは根拠とは言えないと思います。警察もそうと疑っているわけではないんですよね」

「この子の父親はプロなのよ。だから証拠だって残さないのよ」

「もし盗みを繰り返していたら、さすがに警察だってどこかで気づくと思います。警察は久瀬さんの父親を疑っていると言っていたんですか?」

「そうではないけど」


いまの発言を聞いて、ぼくはとりあえずホッとした。以前に恵太くんたちから聞いた話は頭にはあったから、ぼくの心のどこかにはもしかしたらと疑うところもあった。


「それに、これは子供には直接関係のないことのはずです。もしもそんな疑いがあるのなら、直接親のほうに言えばいいじゃないですか」

「全然聞く耳を持たないからこうして子供に言ってるんでしょうが。それに暴力をふるうっていう話もあるし……とにかく危険なのよ、この子の父親は」


卑怯な大人だな、とぼくは思った。証拠もないのに子供を責めるなんて。結局、誰かのせいにしたいだけなんしゃないのだろうか、この人は。


こんな人は無視をしてそこを立ち去ろうとしたとき、突然、久瀬さんが走り出した。


ぼくが呼び止める間もなかった。久瀬さんはおばさんの横を駆け抜け、町のほうへと姿を消した。

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