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第一部 灰被り魔女と初代モフモフの恋  第二章 魔術師軍団の提言

 

 この国は元々魔力持ちの国王と貴族達が、魔力を持たない弱い平民を守るために興した国だった。


 しかし時ともに魔族の数が減っていくと、それに比例するように強い魔力を持つ人間も減っていった。

 確かに貴族階級の者達の多くは、今でも多少の魔力を持っている。しかし、瞬間移動ができるほどの強い魔力持ちは、滅多に現れないのが現状だ。

 

 それ故に国王も貴族達も今では単なる血筋だけを継承する、そんな形骸的なものになりつつあった。

 

 そうは言ってもこの国の子供は全員七歳になると、魔術師学校で魔力検査を受ける。

 そこで僅かでも魔力があると判定された者のみが王立学園に入学できる。

 魔力持ちは貴重なので、数は少ないが魔力があるとわかると、平民でも奨学金を貰って入学することも可能だ。

 

 そしてたとえどんなに高貴な家柄に生まれようと、魔力が全く無い子供は王立学園には入れず、それぞれの適性に合った学び舎に入る。例えば騎士学校や医学専門学校や、領地経営科、貴族科、神学校などに。

 家の継承については魔力の有り無しは本来関係はないのだが、婚姻の時には不利になりがちなので、魔力有りの子弟が優先される傾向があるのが実情だった。

 

 そして魔力持ちの子供の中には、時々先祖返りと認定される強い魔力持ちの子供が生まれる場合がある。

 その子供達だけは、本人の意志などは一切関係なく否応なしに魔術師学校に放り込まれる。

 しかも、彼らはそこで寄宿舎生活を送ることまで余儀なくされる。

 十五歳になるまで。

 

 人権無視と言われそうだが、強い魔力を持ちながら訓練を受けずにいれば、いつ魔力が暴走するかわからない。

 一度暴走したら他人だけでなく本人自身にもただではすまないことになる。

 それ故にやむを得ない処置だろう。誰だって好き好んで自分の子を人殺しにはしたくないだろうし、自分も死にたくはないだろう。もちろん子供自身も。

 

 この検査で強い魔力持ちと判定される子供の人数は、年によってかなりばらつきがある。

 その理由はおそらく、天の采配によるものだと魔術師達は考えていた。

 

 何故ならいつも忘れた頃に魔族達からの攻撃を受けるのだが、歴史書を紐解いて見ると、その攻撃の数十年前になると魔力持ちの子供が多く生まれるということが、統計上はっきりしているからだ。

 

 アロンディス王子が生まれたその年にやたらと魔力持ちの子供達が生まれた時、恐らく今後二十年以内に魔族の襲撃があるだろうと魔術師達は確信した。

 

 そしてこの時、魔術師達はそのことを即位したばかりの若い国王に進言した。

 しかし国王を始めとする有力貴族達の多くが、そんな迷信は信じないと一笑に付した。

 それを信じて一緒に対策を講じようとしたのは、その職に就いたばかりのまだ若い宰相だけだった。

 彼は数年前から前宰相の補佐をしていた人物で、有能だと評判の高い侯爵だった。

 

 もっとも国王達の反応は、魔術師達にとっては想定内のことだった。

 そもそも魔術師達は現国王が即位した時から、将来に備えて古城を整備して、魔族達との抗争に備えろとずっと進言し続けてきた。

 しかし、平和ボケした国王とその側近達はそれをただの妄想だとして、いつも聞き入れようとしなかったからだ。

 

 つまり、魔術師達だってどうせ聞き入れられないとわかった上で提言をしていたのだ。

 自分達はできるだけのことはやったのだ、ということを周囲に認知させる必要があったので、形式上仕方なく提言していただけだった。

 魔術師達は最初から彼らに何も期待していなかった。何故なら、何を言っても無駄な人種だと彼らのことを認識していたからだ。

 

 この国王は四年前に即位したのだが、その半年ほど前の学園の卒業パーティーで、お馬鹿な側近連中と共に、集団で婚約破棄騒動を起こしたような人物だったのだ。

 

 

 ✽✽✽

 

 

 実は、この国の魔術師達はただの護衛要員ではなかった。

 寧ろ彼らの真の姿はこの国の中枢を担う国王のブレインだった。

 それは当然と言えば当然の話だろう。そもそもこの国は魔力持ちの人間がそれを持たない者達を守る目的で作られたのだから。

 

 魔力を持たない国王や貴族などは本来なら平民と何ら変わらないのだ。

 魔力がなくてもせめてそれを凌駕するだけの頭脳や体力、あるいは人々を掌握できるくらいの指導力があれば別だろう。

 しかし、安穏とただその地位に胡座をかくだけの者には、この国において上に立つ資格はないのだ。

 

 魔術とは即ち科学であり、論理的思考がなければ使いこなせない。そのために彼らは魔術師学校で徹底的に学問を学ぶ。

 それは数学や科学や生物学そして医学だけではなく、歴史や文学や政治学、そして心理学までも。

 その上、それら全ての根幹を成すのは体力だとばかりに、彼らは日夜体作りに励む。

 つまり魔術師軍団は、国の防衛をも担う最強知的集団だったのだ。

 

 一般国民にとって憧れの存在である騎士団は、所詮魔術師軍団の傘下に過ぎなかったのだ。

 それはこの国の貴族なら上層部にいる者でなくても知っていて当然のことだった。

 それなのに何故か現在の国王とその側近達はそれを理解していないかった。

 きちんと教育をされたはずなのに。

 

 いくらこれがデータに基づく論理的思考法ロジカルシンキング)の結果だと訴えても、そもそも論理的ロジカルな思考ができない連中なのだから、どんなに説明しても無駄であった。

 

 こんな連中をいつまでも相手にしていは多くの国民を魔族の餌にしまう。

 それ故に彼らは国王一派のことは無視をして、勝手に宰相とともに対策を施すことにした。

 そう。魔族の餌はあいつらだけでいいと、あっさりと切り捨てることにしたのだ。

 まさしく魔術師ならではの論理的思考法ロジカルシンキング)による決断であった。

 

 こうして宰相と魔術師軍団は、古城の修繕と首都機能の移転を密かに押し進めることにした。

 それは子供達が生まれる四年前のことである。

 それでも宰相だけは、一縷の望みを抱いていた。

 王子を含め、高位貴族から多く魔力持ちの子供たち達が誕生したことにより、魔術師の言ったことが裏付けされたのだから、これで気づいてくれるだろうと。

 しかし結局これである。

 

 国王とその側近達は魔族対策をするどころか、魔族退治には欠かせない魔術師の卵、いや我が子を捨てようというのだからもうどうしようもない。

 

 国の組織上、宰相であるアルベルゲと魔術師軍団との関係が密であるのは当然のことである。

 魔術師軍団が国王のブレインであるというのは事実だが、その間には当然宰相を挟んでいるからである。

 

 つまり、魔術師軍団のそのまたブレインが宰相の存在なのである。

 しかし実際のところ、アルベルゲにとって魔術師軍団との関係は、単なる実務的ビジネスライクなものではなかった。

 

 何故なら、幼い頃から人間関係で苦労してきたアルベルゲを助けてくれたのは、家族でも学園の教師でも、それこそ幼馴染みの国王やその側近達でもなかったからだ。

 元宰相以外で彼に手を差し伸べてくれたのは、魔術師軍団だけだったのだ。

 


 ✽✽✽

 


「陛下。以前魔術師総長が古城の修理を進言した際に、それを必要ないと言って却下されましたよね。

 それなのに、その後その舌の根も乾かないうちにそれを撤回して、今度は寄りにもよって当時私の婚約者だったカノンを、古城の管理者に任命しました。

 あれって私達に対する嫌がらせですよね。

 結婚間近だったというのにその花嫁を古城に押し込めて、そこから勝手に出たら職務規律違反として処罰するとおっしゃったのですから」

 

 アルベルゲがこう切り出すと国王は酷く慌て出した。そして必死に言い訳を始めた。

 

「あれは本当にそんなことを意図してやったわけじゃないんだ。側近達の差し金だ。いやあいつらだって、自分の妻達にねだられて仕方なかったんだ。許してくれ!」

 

 と。

 

 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、どこまで馬鹿なんだ。

 よくもまあこんな場所で恥ずかしげもなくそんなことを暴露できるものだ。

 

 自分の夫に、自分の好きな男が婚約したから、その男と婚約者を別れさせて!って頼む妻たち(元貴族令嬢達)……

 

 お願いされたからといって、それに協力する夫達(高位貴族で国王の側近達)……

 

 そしてそれに手を貸す上司(国王)……

 

 全くもって信じがたい。

 そんな倫理観のない人間ばかりが治めている国に、どんな未来があるのだろう。

 自分達のことはともかく、政が一事が万事この調子で行われていることに、宰相は絶望的な気分になった。

 

 二年前のあの頃だって、宰相であるアルベルゲは、役立たずの国王に代わって死に国政を担っていた。

 それなのに国王は、彼を側で支えてくれていた彼の妻になる予定の女性に、なんと古城の管理をするように命じたのである。

 王都から馬で片道五日もかかる岩山の上の古城に。

 読んで下さってありがとうございました

m(_ _)m


 あと一回、話の内容がわかりやすくなるところまで投稿したいと思っています。

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