『ボロアパートまで来たの?じゃぁ◆していいね?』
どちらさまですか?あぁ先日の。
名刺ですか。ほぅフリーのライターさんですか。
わざわざこんなボロアパートまで取材にくるとは。
ささっ、あがって。お茶飲みながらお話しを。
『私』の話をもう一度?いいよ、オッケーさ。
どこにでもいる中流家庭で生まれ育ったよ。
特に問題なく成長して就職までは良かったんだ。
つまらない上司のせいで、うつになったんだ。
でも、妻になった人のおかげで良くなってね。
会社は辞めて、自営業をはじめてね。
やっと自分の時間ができたよ。
前の会社はいわゆるブラック企業でね。
ギリギリ終電。たまに逃してアウトだったよ。
うん?妻かい?今はいないよ。
そうそう妻に助けてもらった様なもんだからね。
はずかしい事に依存しちゃってね。
風邪なんてひかれたら、それだけで右往左往だよ。
それだけ妻を愛してるんだよ。
で、空いた時間でネット小説にハマってたんだ。
そうそう君も好きな「小説を読もう!」だね。
色々読むうちにいろんな考えの人がいてね。
『私』とは?と自己分析を始めたよ。
結局わからず、人間観察に駅に行くことに。
すぐにわかったよ。
おっさんと言える年齢に差し掛かったサラリーマン。
あの節くれだった手、歯ごたえバツグンだろう。
いかにも文学少女なおさげと眼鏡の女子高生。
彼女のキレイな眼はいつまでも舐めていたい。
まえから歩いてくるちょっとマッチョのおねぇ。
クリスマスにがぶりとしたい腿肉だなあ、とか。
簡単だった。『私』は異常者だった。
それから毎日駅に通ってる。
『私』には高級食材の見本市だもの。
ただね、実行に移してはいけない。
愛する妻に迷惑がかかってしまうからね。
だからずっと我慢だよ。眺めるだけ。
で、終わり。の、はずだった。
奇しくも今日はクリスマス。
我慢を続けた『私』に最高のプレゼント。
君だぁ。逃がさないよぉ。
妻に迷惑?言ったよねぇ今はいないって。
先日、急病であっさりと死んだよ。
もう、我慢する必要はないんだ。
だいじょうぶ。すぐに痛くなくなるよ。
ふふ、いただきます。
がぶり。
さてぇ、ディナーはこれからだぁ。
えきへ行こう。ふふ。