1話 女神
1話
地平線すら見えない何もない世界に2人でポツンと立っている。
「ねぇ、お兄ちゃんは何のために強くなったの?」
斧を持った少年が和希に向かって聞いた。
「みんなを守るためだよ」
和希は温もりのある優しい笑顔でそっと少年の頭を撫でる。
「ーーーーーーーーーーーーーーー」
頭を撫でている手の隙間から少年の顔が少し見える。
その少年の顔が徐々に暗く不気味な笑顔に変わっていくのが見えた。
「じゃあ、何でこの前
僕のお父さんとお母さんを殺したの?」
斧を持った少年が聞いた、不気味なぐらいに満面の笑みで。
「ーーーーーーーーーーーーーーー」
和希は何も答えることが出来ず死んだ魚のような目で呆然と立ち尽くしている。
そんな和希の意識を戻そうとするかのように少年が
和希の袖を掴み揺らしながら言う。
「ねぇ、ねぇねぇ、ねぇねぇ、何で?何で?何で?
何で!何で!!何で!!!何で!!!!」
「ドックンドックンドックンドックンドックン」
和希の心臓の音と
トーンがどんどん低くなり怒りと憎しみが混ざった
声が聞こえてくる。
それらの雰囲気に合わせるかのように真っ白の世界がどんどん赤く濃くなり暗くなる。
「———————」
「———————」
「何で?」
斧を持った少年は泣き崩れて笑顔が完全に消え、
丸く座り込んだ。
※※※※※※※※※※
「はぁはぁはぁ」
何だ今のは、夢か?
いや、玄関で倒れていたってことは幻想か?
学校から帰ってドアの前で気絶していたんだな。
2日連続で徹夜してテスト勉強してたからだな、
ゆっくり休むとするか。
病人のようにゆっくりとドアを開け中に入った。
「おにぃー帰ったのー?」
「うん、帰ったよ楓ただいま」
風呂上りなのか首にタオルをかけている。こいつが俺の妹だ。まだ反抗期が来ていないみたいで
『おにぃー』と呼んでくれる。
まだまだ可愛い中学2年生だ。
「おにぃーお母さん達帰ってくるからもうそのまま
お風呂入っちゃって」
「うん、分かった」
俺は玄関から入って右にあるリビングのソファーに荷物を置きそのまま浴室へと向かった。
俺の家の風呂は長方形の浴槽で横にシャワーと椅子がある一般的な風呂であり、温泉や銭湯などにある
大きな風呂よりも落ち着くので気に入っている。
(ガラガラガラ)
俺には風呂に入る時の決まり事がある。
まずは椅子に座り体と頭を洗う、それから湯につかり
500秒数えて、そしたら湯から上がり浴室で
体を拭く。これが俺の毎日行なっている決まり事だ。
ルーティーンと言った方がいいのか?
俺はいつも通り体と頭を洗い風呂に入り500秒数え始めた。
•
•
•
•
497
498
499
500!
しばらくして
ピッタリ500秒が経ったところで勢いよく立とうとした瞬間、ガッチリと誰かに湯の中で足を掴まれているのを感じた。
「ギャァァァァァァァーーーーーーーァ!」
和希の声と同時に額に青線が入る。
なになになになに?心霊現象?
505秒経ってるんですけど、
両足掴まれて動けないんですけど、
怖すぎてショック死しそうなんですけど、
あと、掴んできてる手が冷たいんですど、
あ、これは余計か。
俺どうすればいいの?何か怪物に食べられるの?
すると•••••
「どっきゅーーーーーーん!」
急に浴槽の湯の中から
俺より頭2個分ぐらい小さい背の銀髪ショートで
天女の羽衣みたいなのをまとった少女が出てきた。
それから無表情で静かに俺と同じ目線になるように浮いて頭の高さを合わせてきた。
「ギャァァァァァァァーーーーーーーァ!」
恐怖のせいで反応が遅れ、頭の高さを合わせて来てから2秒後ぐらいに和希は限界まで口を開き白目で叫んだ。それだけ余裕が無いのだ。
「私はこの全世界の水の女神、ヴィーナスですわ」
腰に手を当てて偉そうに言った。
和希はとっさに自分の頬を両手で引っ張り夢じゃ無いか確かめた。
「いたっ」
へ?現実なのか?
やっぱりテスト勉強は前日にするもんじゃねーな。
「どなたですか?」
尖った口調で聞く。
「だから今言ったじゃない、水の女神ヴィーナスよ」
ヴィーナス?は?何だよ、おとぎ話じゃあるまいし。ふざけてんのかこの女の子
まぁ、ちょっと可愛いから許すけど。
「ーーーーーーー」
2人とも黙り込み静かになった。
ちょっかいを出してみたくなり和希は
ふよふよ浮いている羽衣を右手の人差し指でつついてみた。
「さ、触るでない!」
自称女神は顔を真っ赤にして言った。
「ていうか、どうやってここから出て来たんですか?」
夢じゃない限りこれが普通の反応だ。
「私は水の女神だから水のある場所ならどこへだって移動できるのよ、、、女神だから」
人間を見下すような罵る目で和希に言った。
何だこの女神、めっちゃくちゃすごいな。
言い方はなんかむかつくけど、、、
そんな便利な悪用できることを出来る女神に嫉妬したのか和希は右手の人差し指を立ててつつこうとした。
その時、
(ガブリッ)
「いってぇぇーーーー!」
「なんで噛むんだよ!」
「あなたがまた何かしようとするからよ」
かじりながら喋るから余計痛い。
「ごめん、ごめんて」
無意識に敬語が抜けている和希。昔に喋ったことがあるような感じがしたのだ。
「んで、何で女神がここに来たんだ?」
正直言っちゃ悪いが500秒浸かってせっかく
温まった体が冷えるからさっさと帰って欲しい。
「聞こえたわよ、今さっさと帰って欲しいって言ったでしょ?」
「え、」
(ガブリッ)
大きく口を開け、指5本とも噛んできた。
「いってぇぇぇーーーー!」
「何で心の声が聞こえてんだよ、プライバシーの侵害だぞ!」
何なんだよこの女神は、本当に何をしに来たんだよ。
「神だからプライバシーとか無いのよ、道を歩いているだけで全部見えちゃうんだもの」
「全部って、、全部か?」
「う、うん、そうよ」
和希は夢の世界に飛び込んだ子供のような
キラキラした目で女神を見つめた。
「話し戻るけど、私が何をしに来たか簡単に言うと
あなたを迎えに来たの。」
「あなたには今日から異世界のユグドラシルに来てもらうわよ」
「は?異世界?何で俺が行かなきゃ何ねーんだよ、
学校に行かないと行けないし、家族や友達もいるんだぞ?」
「あなたに拒否権はないの、一緒について来てもらうから」
いや、いくらなんでも強引すぎだろ、
まぁ可愛いから許すけど
あ、一応言っておくけどが俺はロリコンじゃないからな。
「ロリコンの件についてはあっちの世界で詳しく
聞くわ、そろそろ行くわよ」
あ、やべ、聞こえてたんだ
次は両手を噛まれるのかな。
少し噛まれるのを楽しんでいる和希がいた。
(ザブンっ)
和希は潜って風呂の中を確認した、すると底がなくなって広い水中の空間になっていることに気づいた。
和希は女神が浮かせてるおかげで立っていられるのだ。何もしていなかったらとっくに溺れている。
「うわ、すげー本当にお前は女神だったんだな、
ただの変態中二病かと思ってたぜ」
「逆に変態中二病と思っていた人とこんなにも長い時間よく丸出しで話しているわね。」
「••••••••••••••••••」
「あ!?」
和希はようやく気づきすぐにあそこを隠す。
「ま、まあな」
真っ赤な顔をして言った。
「見た目は小さいかもしれないけど5000年ぐらい生きてるから」
え、そうなの!?中身ちょーおばあちゃんなの?
女神が殺意がこもった目で睨んできている。
「すまんすまん、、、、。」
「で、潜ったら異世界に行けるのか?」
「そうよ、下の方に金色の石があってその石に触ると転移されるのよ」
「じゃあ行くか、せーーーーの!」
和希は『せーの!』の掛け声で潜るふりをして潜らなかった。今和希は空中でのんきに1人で呼吸をしている、口笛を吹きながら。
正直行きたくないなー。
ようやく夢の青春高校生活が始まるって時なのに。
女神は1人で潜っていった。
気づいたら怒られるぞこりゃ、
バレなかったら今まで通り過ごそうかな。
べ、別に俺は楽しんでなんかないからな
本当だ、女神を騙して笑っているとかありえないからな。
和希がそういうふうなくだらない事
を考えていると•••••••••••
「うおっ!」
水中から足を強引に引っ張られ
このまま空気を吸わずに引きずり込まれた。
(ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼ)
勢いよく入水したせいで和希の周りに泡が立った
俺は本当に異世界に行ってしまうのか。
結構深いんだな、これ息持つのか?
あとちょっとで息上がりそうなんだけど。
ちゃんと帰れるんだろな、
(ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼ)
ほぼ失心状態で下へ進む。
女神が金色の石を触ると辺り一面が光り、
和希達はその光に包まれていった。
「ぐはぁぁー」
「着いたわよ。ここがユグドラシル、異世界よ」
和希達は沢山の魚がいる横2メートルぐらいの
水槽の中に転移され中から2人顔を出して街を見ている。
ここは商店街みたいなところのようで
装備をつけた冒険者や、
リザードマンの引く人力車、
杖を持ったエルフなど、色んな人種の人達がいて
活気のある古い街が見え、何より自然が溢れている。
取り分け目を引くのは街の大通りの先に王城の代わりにそびえ立つような堂々とした大樹だ、直径5キロ
ぐらいあるようだ。
樹頭は雲で隠れていて見えない。
「ここが異世界か、来てみると意外と迫力があるもんだな女神」
「そうね、あとこの世界では女神って呼ばないで
ヴィーナスを省略してヴィナって呼ぶのよ
街の人達が混乱しちゃうから」
「わかった、、、女神のヴィーナスーーーーー!」
口に手を添えて全力で叫けび
(ガブッ)
思いっきり右手を噛まれた。
「いっでぇぇーーーーー!」