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Bell〜魔王軍幹部の逆英雄談〜  作者: ジョンセンフ
【season2】騎士と勇者
9/12

9.死の覚悟

 ん? 何だここは。俺は気がつくとあたり一帯真っ白な部屋の真ん中でポツンと一人で座っていた。

 それになぜかこの部屋にはドアや窓などは無い、だがなぜか明るいし変な良い感じのムードの音楽がする。変な夢でも見ているのだろうか?


「ブロちゃん……」


 どこからかそんな俺を呼ぶような声が聞こえてきた、それにこの声ルーシェ?


「ルーシェ? どこにいる、いるなら早く出て来てくれ。今どういう状況かを知りたい」


 当然だ、今俺の真上の天井ではなぜか二羽のニワトリが空を飛んでいる。分かるか!? ニワトリだぞニワトリが飛んでるんだ、こんなのおかしい早く今の状況を知らなくては。


 しかし、周りを見渡してもルーシェはいない。一体どうなっているんだ? 確か昨日寝る前にルーシェに変な薬を飲まされて……いや違う! アレは逆に俺が油断していたルーシェに飲ませたはずだ。だとすると本当に夢なのか?


「……ワァッ!」


 俺がそんな事を考えていると突然、後ろから何者かが抱きついてきた。確かにいきなりの事で流石に驚いたが、俺はすぐにそれがルーシェである事に気がついた。なぜなら、俺相手に死角から抱きついてくるような命知らずはこの世にこいつしかいない。


 なるほど、俺は今自分が置かれている状況を理解した。久々で忘れていたがルーシェの固有魔法【誤感(ノーセンス)】は対象の相手の五感を支配する、それに厄介な事にこの幻覚で起きた事は実際に起きた事のように感じ幻覚に触られれば実際に感じる。


 本当にこいつは昔からこういう事をよく意味もなくやってくる。まぁとはいえこの催眠もそれが幻覚であると強く認識すればいずれ解ける。


 ところでさっきから後ろから幻覚のルーシェがずっと吐息をかけてくるんだが、まったく幻覚まで本人そっくりかよ……


 俺はそんな事を考えながらもこれが幻覚であると強く唱えた。すると辺り一面真っ白だった部屋が辺り一面空き瓶だらけのきったねぇ部屋に戻った。

 

 ただ一つ妙だ、幻覚は解けたはずなのになんだか体が重いような……。俺が恐る恐る後ろを振り向くとそこには金髪の小悪魔が俺に抱きついたままよだれを垂らし寝ていた。


 いや、お前は幻覚じゃなかったのかよ! て言うか何で俺に催眠かけといて自分は寝てるんだよ、頭おかしいのか?


 “カーン“ “カーン“


 すると突然、外からそんな大きな音がした。


「おい! ルーシェ起きろ、おい早く起きろ。クソっ全然起きねぇじゃねぇか、本当誰だよこんな奴にこんな大事な偵察の任務任せたの」

 

「ん……、あれ? ブロちゃんもう起きたの? まだこんな時間だよ?」


「もうこんな時間なんだよ、朝の9時だぞそろそろ勇者達が戻ってきてもおかしくない時間だろ?」


 ルーシェは寝起きの顔で答えた。


「おかしいよ。勇者達は朝の8時にはこの街についてるんだよ?」


 俺は一瞬こいつに殺意が湧いた確かに勇者の来る時間をはっきり聞かなかった俺も悪いだが、勇者の来る時間を知っておきながらその時間に悠々と寝ていたこいつは悪いどころか死刑レベルだ。


 するとルーシェはゆっくりと動き出すと奥の部屋から二本の酒瓶を持ってきた。


「はい、ブロちゃん」


 ルーシェは二本あった酒瓶のうち一本を俺に渡してくれた。まさかこれが朝食とでも言うのだろうか。

 いや……まさかな……


 俺は渡された酒瓶の栓を抜くと瓶を強く握りしめ酒瓶の中身を……口に注ぎ込んだ。


 いやぁまったく酒はうまいぜ!




「ねぇブロちゃんこれからどうする?」


 俺は考えていた、本来なら勇者達が街に戻ってきたところで一人一人のステータスを確認するはずだったのだがどっかの金髪ツインテールがしくじったせいで別の案を考えなくてはならなくなったのだ。それに魔法が使えない以上……


「っ!! なぁルーシェお前さっき魔術使ってたよな何で使えた」


 そうあの時ルーシェは間違いなく魔術を使っていた。だが俺は今も使えないのだ。


「何っていつも使ってるんだけど? もしかしてブロちゃん魔法使えなくなっちゃったの?」


「いや、何故かこの街に入ってから俺の魔法が一切使えなくなってな」


「でもブロちゃん昨日、普通に魔術使ってたよ。ほら私とコネクトの魔術で会話してたでしょ?」


 た、確かに言われてみれば俺はあの時こいつと魔術を使って会話していた。


 と言うことはもしかすると。


「【光弾(ピストル)】」


“パリーン“


「あぁぁぁ! 何で私のお酒を狙うわけ? 流石にこれは酷いよ。いくらブロちゃんでもやって良い事と悪い事があるんだからね!」


「悪りぃ悪りぃ手が滑った」


 魔術で酒瓶を割るとルーシェは頬を少し膨らませながら怒った。

 だがこれで何となく分かった、どうやらこの街では何故か俺の固有魔法『時人(トラベラー)』の魔法だけ使えなくなっているらしい。あくまでも勘だがな。


……悪魔でも


 それに勇者達が戻ってきた以上この街から出ないといけない。だがどうやって警備をくぐりぬけようか。


「ねぇブロちゃんそう言えばこの街の地下に人間に捕まったゴブリン達がたくさんいるんだけどその子達はどうする?」


 ゴブリンか、まぁあいつらには最近悪いことしちまったからたまには助けてやってもいいかな?


「で、これからどうするの?」


「よし! ルーシェ俺にいい考えが…… っておい! 酒なんか飲んでないでしっかり聞け」


 時間もあまりない以上、今日中にはこの街を出て別の安全な街で情報集めをしないとな。流石にこのコンディションで勇者達に会いにいくのは危険すぎるひとまずティファの救出と逃げる事だけに集中しよう。








ー「おいルーシェ聞こえてるか?」


(聞こえないよ〜)


 よし、しっかりと聞こえてるな。俺は今街の中央にある城の前に立っている。ちなみにルーシェはこの城の地下に侵入している……はずだ。


「じゃルーシェまずはそこにいる警備達を倒してからゴブリン達をいつでも助けられるように……」


(ゴブリン達ならもうここにいるよ。今はブロちゃんが何だっけティファ? みたいな人間を助けるまでみんなで待機してるよ)


 さ、流石は我らが幹部思っていた以上に仕事が早いな。少し驚いた。


「そうかならそこでしばらく待機していてくれ、その時が来たら知らせる」


(リョキ!)


 まぁ少し心配ではあるがあいつならなんとかやってくれるだろう。それよりも今はこのデカイ城にどう入るかだ。


 城の門にはいかにも弱そうな門番が二人立っているだけだった。悪魔が侵入したと言うのに妙に薄い守りだな。まぁ好都合だ。


 俺は一般人に紛れながら門へと近づいた。すると門番の二人が俺に近寄ってきた。当然だ、ここで何もしなかったら門番の意味がない。


「おい! そこのお前何のようだ」


 一人の門番がそう言うと持っていた斧のような武器で行手を塞いできた。俺は自らの目を少し赤く光らせると続くように言った……


「道を開けろ(【支配(サディスト)】)」


 するとさっきまで道を塞いでいた二人の門番がゆっくりと後ろにさがり、そのまま門を開けてくれた。


 全く俺の仲間達もこれだけ忠実だとありがたいんだがな。俺は城の中に入るとすぐ開いていた門を閉じた。そして目の赤い光も消えていった。


 城の中は思っていた以上に豪華な作りになっていた。なんて言うかこう、めっちゃ金ピカだ。


 ただ城がでかい分ティファを見つけ出すのも一苦労だ、それに万一にも勇者に出会そうものなら死も覚悟しなくてはならない。


 にしても警備が薄いな少し城の中を歩き回ってみたがまだ誰一人として合わない。いやこれはどう考えてもおかしい……


「ルーシェ聞こえるか?」


(うん、聞こえてるよどうしたの? もう準備okなの?)


「いや、そうじゃなくて、今街の様子はどうだ?」


(地下だから良く分からないけどすっごい静かだよ。なんだかお葬式みたい!)


 いやそんなはずは無い、今ルーシェがいるのは地下と言っても3メートルほどの浅い所だ。昨日あんな事があったら今頃街では騎士達が俺らを探し回っているはずだ。


 それにもう3階なのにまだ誰にも会っていない、いやそれどころか全く気配すら感じない、まるで何かに備えているような……


 そんな事を考えながらルーシェと少し喋りながら城の中を探索しているとやけに一つだけ大きな扉を見つけた。


「なぁルーシェ今やけにデカい扉を見つけたんだがどうやら鍵がかかってるみたいなんだ。お前開け方とか知らないか?」


(私そう言うの詳しく無いから分かんないけど鍵が必要なんじゃ無い? 多分その中にブロちゃんが探してる人間がいるかもしれないよ)


 確かに少し動かしてみたが力でどうにかなる代物では無さそうだ。せっかくここまで来てこれかよ、次は鍵探しってか面倒だな……


「仕方ない、ティファには悪いがあまり長くこの街にもいられないからな救出は次の機会にしよう。今はこの街から出ることを最優先に……」


(どうしたの? 何かあったの?)


 な、なんだ何故か急に身体が軽くなったような、なんだこの感覚、まさか!


 俺には分かった身体が軽くなったんじゃ無い、元に戻ったんだ。そういつものあの『時人(トラベラー)』が使えていたあの時の感覚に。


 それにしても何で今元に戻ったんだ? 俺の魔術を封印していたのが人間達だったとしたら今俺の魔術の封印を解くメリットがどこにある?


(ねぇ! どうしたの?)


「いやすまん、何故だか分からないが俺の力が戻ったみたいだ、今少し使ってみたが確かに使えた」


(おぉやったねブロちゃんこれでまた、)


 “トッ“ “トッ“


「待て静かにしろ! 誰かが階段からこっちに向かってきてる。しばらく切るぞ」


(わ、わかった気お付けてね)


 俺はルーシェとのコネクトを切ると短剣を握った。見回りか? いやにしても妙だ、ずっとこの城にいた俺がそんな奴に気付かないはずがない。

 

 騎士か? だとすればこのまま始末する事になるな少し面倒だが騒ぎになる前に早めにやるか。


 階段を上がる足音が少しずつ大きくなっていく。俺はもしもに備えて首にかけてあったネックレスをいつでも取れるように掴んだ、そうもし奴が騎士では無かった時のために……


 そして階段を上がる音が無くなると今度はこちらにゆっくりと近づいてくる音がする、迷わずこっちにくるって事は場所がバレているのか?


 ついにその音の正体が廊下の角を曲がり俺の目の前に現れた。だがそこに立っていたのは騎士とは思えないほど若い青年だった、確かに剣のような物を手に構えてはいるがとても扱えるとは思えない。


 まさか、この城に住んでいる貴族の子供か何かなのだろうか。


「やっと見つけたぞ侵入者!」


 その青年は突然俺を侵入者扱いしてきた。俺は確かに門番に許可を貰って入ったんだから、少なくとも客人だと言うのに失礼な奴だ。


「驚かしてすまないな青年、実はこの城に用事があってきたんだからどうやら道に迷ったみたいで……」


「黙れ悪魔!」


 その言葉を聞いた瞬間俺は凍りついた、このネックレスをしている状態の俺を悪魔だと見抜いたのだ。普通の人間がそんな事できるはずがない。


 俺は少し距離をとるため後ろに下がると少しだけ足をつまずいた。そうその一瞬だった俺が再び顔を上げるとそこにはキラキラと輝く鋼のような物が俺の目と鼻のさきにまで来ていた。


 俺がそれを理解するよりも早く俺の視界は真っ暗になっていた。


 俺は油断し過ぎていたんだ、前にいる青年がただの子供だと思って何も警戒し無かった。俺の目の前にいたのは騎士でも貴族のガキでも無い。


 その答えは俺の視界が無くなる前の一瞬で分かった。もっと早く確認しておくべきだったんだ、流石にあの数字はおかしい……


青年 レベル649











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