7.騎士参上
「昨日、ルイ様から全員に連絡があっただろ? 今日は誰も都市に入っては行けないって、もしそれを無視して来たらその場で処刑するって......」
3人の冒険者のリーダーがそう言った。いや、どういう事だ? 確かに門には誰も並んでいなかったが......
来ただけで処刑って。てか誰だ? ルイ様って。
「いやぁ。俺、旅をしてたからそんな連絡受けてなくて.......」
「コネクトの魔法で全人類に連絡したはずだぞ!」
「......」
悪魔の俺に人間の使う法術のコネクトが届くわけがないんだよな。それより、何でこいつらはこんなにびびってんだ? 俺が処刑されてないからか?
「どうしたんだよ。急に立ち上がりやがって、そんなに俺が生きてるのが不思議か?」
一緒に飲んでいた3人の冒険者達が俺から距離をとるように席を立った。
「昨日ある村で、魔物が現れた。しかもその魔物はただの魔物ではなく強大な力を持った悪魔だ」
「それがどうしたんだよ?」
冒険者のリーダーが妙な事を言いだした。
いや、待てよ! 村に悪魔? それってまさか俺のことか、いやそんな訳......。俺はあの村で正体がバレるような事はしてないはずだぞ。
「そして、その悪魔は今日この街へ来ると言う情報がある。もし、今日この街へ入って来る者がいたなら。それはルイ様から連絡を受けなかった......
悪魔だけだ」
“ブゥーーーーーン“
“マチニマモノガシュツゲンシマシタ“
''シミンノミナサマハタダチニヒナンシテクダサイ“
突然、街中に響くような音でアラームが鳴った。それと同時に俺の周りにいた3人冒険者が武器を握った。
周りの冒険者達も何事だとばかりにソワソワしだした。
「おい! ちょっと待て落ち着け、勝手に決めつけるなよまだ俺が悪魔って......」
「すまない。もし違ったとしても今日、街に侵入した者を見つけ次第、始末しろ。それがルイ様からの命令なんだよ」
だから誰だよルイ! こいつが 様 付けするって事は騎士と同じもしくはそれ以上の奴か。それより何で俺の正体とここに来る事がバレてるんだ?
いや、今は他の冒険者にバレる前に急いで逃げないと、まずい事になるな。クソっこいつの声がデカいせいで周りの冒険者達から注目を浴びてしまった。
だがまだ、この3人以外には俺だとはバレて無いようだ。仕方ない。
「【改・全時間停止】」
俺がそう言うと世界の時間が......
ん? 止まらない? 俺は確かに魔法を使ったはずなのに何故か時間が止められない。どういう事だ、なぜ止まらない?
「お前らー! 魔物だ! 魔物が出たぞーー!」
クッソ。間に合わなかった、ついにコイツが大きな声で俺の正体をギルドの冒険者達に言いやがった。
「何? どこだ、どこに魔物がいるんだ?」
ダメだ。このままだとすぐにバレるな、今は急いでこの場を離れた方が良いようだ。俺は武器を構えている冒険者達を避けるように走ってギルドを出た。だが後ろからは俺を逃さんとばかりに冒険者達が追いかけてきた。
「あそこだ! あの腰に剣をかけてる奴だ」
どうやら人間達には剣を腰にかける風習はないようで皆が剣を背中につけている。そのせいで俺が変に目立ってしまっている。
なぜか魔法が今は使えなくっている。理由は分からないがこんな事は今まで無かった、これも人間の仕業だとすると普通に勝てる気がしなくなってくるな。
俺はそのまま街中を走り回った。当然、街に魔物が出たのだから門はすでに閉鎖されているだろう。かと言ってこのまま城に乗り込もうにも魔法が使えない以上、ただの自殺行為だ。
とりあえずこのまま走り続けて冒険者達を巻くしか無い。だが数が多い、いくら巻いてもまた見つかる。一体どうすれば......
“シュッ“
俺が冒険者を巻くため裏通りに隠れていると、突然現れた謎の男が剣で俺に斬りかかってきた。俺はそれをギリギリでかわすと一歩下がった。
「ほぉ。よくかわしたね、やっぱり噂どうりただの魔物では無いようだ」
その男は俺に少しづつ近寄りながらそう言った。俺はその男から今までの冒険者とは違う何かを感じた。
綺麗な言葉使い。冒険者とは思えない綺麗な服装。うざいくらいなハンサムな顔。そして、レベル348という異次元な強さ。
間違いないこいつは......
「僕はシル・ザーク、国の騎士だ。ザークと呼んでくれ」
やはり騎士か。正直、あの剣筋を見ると思っていたより手強い気がしてくる。
「ねぇ君が街に現れた魔物だよね。出来るならこのまま僕に捕まってくれないかな? 僕も生き物を殺めるのは好きじゃなくてね。大人しく捕まってくれたら命は奪わないからさ」
「でも自由は奪うんだろ?」
「う......ん。それを言われると弱いな。でも答えはNOって事でいいかな?」
「......」
俺はゆっくりと短剣を手に取った。魔法が使えない以上勝ち目は少ない。だが相手が騎士であるならこのまま逃してはくれないだろ。一か八かやるしか無い。
「ほぉ。これだけのレベル差がありながら逃げずに戦うなんて感心するよ。
でも、僕は手加減が苦手でね命を奪わないであげられるかは分からないな」
「フッ、悪いが俺も手加減出来るか......」
その瞬間、さっきまで3mは距離があったはずの騎士ザークが突然、俺の目の前に現れた。ザークは無言のまま剣を縦に振った。あまりに一瞬の事で対応が遅れた俺は避けきれず左腕を斬られた。
幸い傷はそれほど深くはなかった。魔法で傷を治そうとしたがやはり使えない。
俺が一旦その場を離れようと後ろを振り返ると、そこには既に騎士ザークがいた。早すぎる、瞬間移動でもしているようだ。
俺は反射的に手に持っていた短剣でザークに斬りかかったが、ザークの蹴りの方が早く俺は数mほど吹っ飛び壁に当たった。
「うぅ......。イッテェ。お前、思ってたより案外やるじゃねぇか」
正直、油断していた。こいつら騎士のレベルはあのゴードンより高いんだったな。
しかし、ザークは俺に休む間もあたえずに剣を握ったまま真っ直ぐに突っ込んできた。俺は横に避けたが背中を軽く斬られた。
「さっきから逃げてばかりだけど、どうしたんだい?手加減はできないんじゃなかったっけ?」
「うるっせーな。お前もそれで本気か? あんまり俺をガッカリさせんなよ」
「そうせかさないでくれよ。ちゃんと本気でやるからサッ!」
ザークの剣が早くなった。俺はザークの剣を自分の短剣を使い防ぐが力の差があるせいで押し負けそうだ。仕方ない。
“フッ“
俺は相手の隙をついて持っていた短剣をザークに向けて投げるが、ザークは瞬間移動でもするかのように俺の後ろに回りこんできた。
だが、ここまでは予定通り、俺はザークが回りこんできた瞬間にアイツが剣を握っていた腕を掴むと、胸ポケットから自決用の爆弾を取り出した。そうこのままアイツもろとも自爆する。むろん、こんな爆弾で死んでくれるとは思えないが時間稼ぎにはなるだろう。
俺が爆弾に付いてある栓を引っ張ろうとした時、ザークが突然俺に掴まれていない方の腕の手の平をこちらに向けてきた。
“バンッ“
その音とともに俺はザークの手から出た衝撃波によって後ろへ飛ばされた。俺は掴んでいた手を離した。
忘れていた、こいつら騎士クラスのレベルにもなると魔法を何も言わずに撃てるんだったな。
「おっと、危ないな。まさかそんな武器を持っているなんて、少し驚いたよ。でも、それじゃ僕は倒せないよ。そろそろ降参したらどうだい?」
「このぐらいで俺が降参する訳ないだろ。それに勝負はこれからダッ!」
そう言うと俺はザークに向かって走った。
「どうした? ようやく覚悟が出来たのか?」
ザークは向かって来る俺に剣を振るが、俺はそれをスライディングする様にかわすと、後ろに回り込み落ちていた短剣を拾った。
“シュッ“
そして俺は再び投げつけた。
ザークはそれを瞬間移動する様にかわすと俺の後ろに回り込み剣を振り上げた。そして俺は後ろに回ってきたザークを持っていた短剣で斬りつけた。ザークは胸に傷を負った。
そう、俺は短剣を投げるフリをして石を投げつけた。短剣を投げられたと思ったザークは油断して俺の後ろに回ったが、俺はそれを狙った。
「おっと......。これは、やられたなぁ」
「お前のその瞬間移動みたいな奴、あれステルスだろ? 相手の背後に瞬時に移動する魔法。それさえ分かれば対処なんて簡単なんだよ」
「流石だね。こんな短い時間でもうバレていたのか......」
俺を誰だと思ってんだ、あんな魔法数回見ただけでどんな魔法かぐらい分かる。
「どうした? 降参か? 悪いけど俺は降参しても逃してはやらねぇぞ」
「いや......」
“バーン“
突然、後ろから炎が渦を巻くように飛んできた。俺はそれをギリギリのところでかわした。魔法か? そして炎が飛んできた方から一人の男が現れた。
「おい、どぉうしたザーク。まさか魔物一匹に苦戦してんのか?」
「キールか......。苦戦と言うほどではないが、出来れば援護を願いたい」
「仕方ないなぁ」
キール? 俺はそう名乗る男のレベルを確認すると。 レベル362......間違いない、こいつも騎士か。これはヤバいな流石に騎士二人は武が悪い。
クッソ。まだ魔法が使えない、これじゃ逃げる事も出来ない。俺がそんな事を考えていると、前からイナズマのような魔法が風を切るように飛んできた。
俺がそれを避ける為、後ろに下がるとそれを見切ったザークにより奇襲をかけられ、避けきれず腹部を斬られた。そして、上からは大量の炎の塊がこれでもかとばかりに降り注いだ。
炎の雨をまともに受けた俺の体は全身に軽い火傷を負った。幸い俺の服は炎耐性があるおかげで燃えずに済んだ。だが騎士達の攻撃は止まる事なく、多属性の魔法を使うキールとステルスで背後を狙ってくる剣士ザークにより俺はついに肩に深い傷を負った。
肩に負った傷が重いのほか深く、ポタポタと血が地面に落ちた。大量出血だ。悪魔の再生能力でも追いつかないほど重症だ。
「はぁ......はぁ......」
「そろそろ限界みたいだね。その傷じゃもう逃げ回る事もできないだろうね。仕方ない僕がトドメを刺してあげよう」
「おい! 待てザーク、お前はやられかけてただろうが。俺のおかげで勝ったんだ俺がやる」
「うぅ......分かったよ」
ヤバイな、さっきの傷のせいでまともに動けない。このままだと本気で殺されるぞ。俺は持っていた短剣を全力で騎士に投げつけようとしたが、騎士キールの風魔法により短剣を飛ばされた。
クソっ! まだ魔法が使えない。どうなってるんだアイツらはあんなに魔法を使っているのになぜか俺だけ魔法が使えない。キールは手に炎の魔法を乗せながら俺に少しずつ近寄ってきた。
俺は力を振り絞り座っていた体を立たせた。
「へー。まだ立てるんだ、凄いな。お前、魔物のくせに結構やるじゃねぇか。もしかして本当はめっちゃ強い魔物だったりするのか?」
どうやら俺は騎士を甘くみ過ぎていたようだ、このまま何もしなければ間違いなくこの騎士に殺される。だが今の俺では体も動かないし何も出来ない。このまま殺されるのを待つしか......
「フフッ。本当はもっと強いか、お前けっこう見る目あるじゃねぇか。もしかしたらお前達より強いかもだぞ俺!」
俺は微笑しながらそう言った。
「なに真に受けてんだ? そんなの冗談に決まってんだろが。雑魚が!」
おっと、それは残念だ......
キールがそう言うと俺は首にかけてあったネックレスをゆっくりと外した......
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名前 ブロト 性別 男
レベル 683
種族 悪魔
幹部総司令
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