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GLAIVE (狂炎伝承)   作者: 団栗山 玄狐
Ver.01 狂気の眼
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act06 狂気の眼invade

act06 狂気の眼invade(侵入)


「彼を止めることはできますか」

その質問は意外だった。

現在絶賛暴走中の狂戦士の姿を見てその言葉が出ること自体が。

完全な死亡フラグ絶賛発生中なのに豪気なことである。


「でけへんな。むしろ、今すぐにでもこの場から逃げ出さんとわしらもあそこの死体と肩を並べることになる」


「でも、私の能力《呼び掛け》なら彼を呼び戻せるはずです。一度彼の心に侵入できたのですから」


「なるほど、喫茶店でやったのはそれか。なら呼び戻せるが…問題がある」


「何ですか」


「あいつに近寄る方法がない。」


「でも、彼は殺気に反応するのでしょう。彼を助けたいという気持ちには動きが鈍るはずです。」

彼女の真剣なまなざしに


「女は腹をくくると怖いなぁ。冷静やね。確かに間違いでもない。」


「じゃあ、」


「まあ、まて、最後まで話を聞け。その方法は一回しか通用せん。それにほぼ一瞬に近い時間しかない。

それでもやるつもりかいな。」


「はい。私は彼に謝らないといけません。父のことに関してもです。

ちゃんと元の彼にあってきちんと」


「理由がそんなんで命を懸ける覚悟をするなんて、豪気やね。

そやけど、あいつを止めてもらえるなら協力はするわ。」


二人は、 ビルの屋上に一人立つ彼の姿を見詰めながら改めて決意を固める。

彼女には安全な選択肢が、まだ残っているにも関わらず

一番困難な選択をした事は誰の目にも明らかだ。

この選択を他の人間はどう判断するだろう。

勇気なのか、無謀なのか答えに困る事だろう。

彼女は、今日一日多くの事があり混乱もしている。


そんな中「さて、始めますか」

彼女の右隣で一緒に物陰から彼を見つめていたもう一人が彼女に語り掛ける。

彼女は無言で頭を下げる。

彼と同じ服装である彼の同僚ウィルスは、自分が立てた無謀な計画のタイミングを計っていた。

失敗すれば、せっかく救出した彼女まで死なす事となる。

だが、成功率は一桁すらない計画なのだがウィルスの彼を助けたいという思いは彼女と同じだ。


「後は、宜しく」と言い残しウィルスは、彼の前に立ちはだかる。

声を掛ける必要はなかった。ただ立ち上がるだけで彼は、気付いてくれるからだ。

勿論、彼はウィルスを即座に見つけ、仲間としてではなく敵として認識する。

静かに広がる暗闇の中で彼は、ゆっくりと自らの同僚の元に歩みよる。

当たり前のように歩みよる彼の姿に寒気すら感じられた。


彼の放つ殺気は、鈍感な人間でさえも恐怖を感じてしまうほどの密度を誇っていた。

その彼が約2mほど前まで来たのだ、たとえ同僚であるウィルスであってもただ見つめことしか出来ないだろう。

彼の注意がウィルスに向いているこの瞬間に

彼女は、彼に向かって走り出した。

彼は、僅かな足音に反応し、振り向き拳を振り上げわずかにためらった。


なぜ、ためらったのかは、解らないが

そのすきに彼女は彼の胸に飛び込み、抱き着いた。

そして眼をつむり、意識を集中した。


光が流れるような視界が続き、景色が安定する。

夕焼けのような赤い空。


赤黒い光とともに辺りには焼けこげた臭いが満ちていた。

先ほどまでいた深夜のビルの屋上から夕暮れの児童公園と思われる場所に彼女は移動していた。


しばらくして彼女は、赤黒い空の色が夕暮れではない事に気づいた。

何故なら、周りの建物が燃え上がり火の粉が立ち込めていた。

あちこちが、燃えているのだ。ただ、悲鳴などは聞こえない。

ただ、深夜の中燃え盛る炎が街を包み込んでいるのだ。

むせ返る熱気の中、見覚えのある場所に立っていた。


ここは、彼の心の中。

そして、彼女はマッドアイズとなった彼の心の中に入り込むという危険な賭けをしたのだ。

賭けは成功したのだが、これからが問題なのだと改めて感じていた。

彼が公園の何処にいるかは知っているがどうすれば彼の意識を取り戻せるのかが

全く解らなかった。

そして、彼女は気づく。

彼がシグナルなんだと。あの時のもぐりこんだ彼の心の中と同じ風景であり、

光景だからだ。なぜという気持ちよりも先に助けなきゃという気持ちが勝っていた。

彼女は、ためらわず子供の頃の彼がいる滑り台に向かっていった。

彼に会えば何かができるのではないかと思ったからだ。

滑り台を支える柱の根元に三角座りをしながら膝に顔を埋めている男の子がいた。

間違いなく彼-カルウ=ブースだと確信した。


彼の服についた染みは返り血であり、ウィルスから聞いた年令とも符号するからだ。

彼を助けたいという気持ちが強かったせいか不安や恐怖はあまり感じなかった。

滑り台の下を中腰にで覗きこみ「どうしたの」と声を掛けた。

彼は、肩を震わせながらうつむくいていた顔を上げ彼女を見る。

その顔を見て彼女は少し安心した。

涙と鼻水で顔は汚れ、まだ泣き足りないような目をしていたからだ。

はたから見れば、普通の子にしか見えない。

鼻水を啜りながら「おでいじゃん、誰」と彼は声をこもらせて言った。


「私はね、ユタカって言うの。迷子になった子を探しに来たんだよ。」

とやさしい笑顔で答えた。


「じゃあ、君はなんて言うの」


「ぼぐばね、かるうっていうの」

泣き止む事も無く男の子は答えた。

ユタカは、困っていた。何で彼は泣いているのだろうか。


「ばやぐ、にげたほうがいいよ。

ぼくのそばにいるとみんな動かなくなっちゃうから」

鼻をせせりながら話しつづけた。


「僕がみんなを動かなくしちゃうんだ。友達も近所のおじさんも僕が動かなくしちゃったんだ」

そう言うと更に目から涙が溢れだした。

彼の頭をやさしくなでながら


「大丈夫だよ、もうそんなことはないから」

「でも、でも・・・」

そう彼が続きを言おうとした時に

彼女が彼をやさしく抱きしめる。


「大丈夫だよ、また君がみんなを動かなくしちゃいそうになったら、私がしかりつけてでも

止めてあげるから。今回だってちゃんと止めに来たでしょう」


「本当にできるの?」

さらに問い掛ける。


「必ず止めてあげる。約束だよ。」


「ありがとう。でも、無理しないでね。」


「大丈夫、私だってここまでこれたんだもの。覚悟か自信ができたしね。」


「そうなの。」


「そうよ、おねえさんはつっよいんだよ」

と胸を張る。


「うん、わかった。だから元の世界に戻っても頑張ってね。もう一人の僕は鈍感で不器用だから」


「え、今なんて」

尋ねようとした瞬間、意識が途切れる。


しばらくして、頬に風を感じる。自分が生きていることを確認できてた。

改めて思う。無茶なことをしたんだな、と。

相手は、伝説の狂戦士。一人で都市一つを葬ることのできる存在だ。

瞬殺されてもおかしくない。なんでこんなことしたんだろう。と悩む。

また、それとは別に自分が彼を止めることができたという満足感がある。


血なまぐさいにおいと鉄やオイル、こげ臭いが混じった空気が立ち込めていた。

ユタカは頭にポンっと優しく乗る手を感じた。

殺意があふれ出ていた人の手ではなく慈愛のこもった手だ。

「助けに来たのは、こっちなんだがな」

男性の声がする。

「でも、私はただ謝りたかった。自分だけが不幸な人間で周りにどんな事をしてもいいと思っていた。

人に嫌なことをしたのにそれを謝れないままでいたくなかった。」

彼女は涙目になりながら言葉をつづった。


「まあ、助かった。あとは、あんたと親父さんを助け出すだけだ。」

と言いながらやさしくユタカの頭をなでる。


「こんな状況でなければ、ええシーンなんやろうけど。そろそろ起きてもらってもええかね、二人とも。」

と別の人の声がした。


ユタカは自分の今に気づいたのか。跳ね起き床に正座してうつむく。


ゆっくり、身体を起こすシグナルとは対照的だ。


「さて、世話を掛けたな」


「今回、だいぶらくやったで。そこのお嬢さんのおかげでな」


「そうか、それなら脱出するかね」


「そやな、親父さんといっしょにな」


そういうと、4人はその場をあとにした。


一晩の戦闘が今、終わりをつけたのだった。

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