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GLAIVE (狂炎伝承)   作者: 団栗山 玄狐
Ver.06 正義の味方と見方
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act47 身代わりMock battle

act47 身代わりMock battle(模擬戦)


カルウは、セーレン・シュヴァルツを連れて村にある道場に来ていた。

彼女はいぶかし気にカルウに勧められるまま道場に入る。


中の電気をつけるとそこは昔ながらの趣のある畳張りのいかにも道場というものだった。

靴を脱いでカルウは奥に入る。

セーレンもそれに続く。


「なんの用なんですか所長」

セーレンは警戒しながら質問を飛ばす。


その質問に物置らしき所をごそごそとしながら

「ああ、用事はね。えっと・・・あった。これに着替えてくれるかい」

そういうと彼はセーレンに向かて何かを投げつける。


彼女は慌てて投げられたものを受け取る。

それは、青い上下のジャージである。


「これに着替えてどうするんですか?」


「どうするも何も、ここは道場で君にジャージを渡した。つまりはここで試合をしよう。セーレン・シュヴァルツさん」

と表情を変えずに言ってくる。


「試合?何でそうなるんですか?」


「そうだな、キミは気を張りすぎている。その息抜きだと思えばいい。元軍人なんだから模擬戦・・・格闘戦はお手の物だろ」

カルウの表情は相変わらず変わらない。

でも言い方は、軟らかく感じる。


「息抜きに模擬戦はわかりました。でも、私が元軍人であるにも関わらず格闘戦を挑むなんて何を考えて居るんですか」

彼女は生き道理を感じていた。


民間人の彼が職業軍人に格闘戦を挑むことが理解できないのだ。

彼には負けが確定している。

しかも大差で、だ。

なのに挑んでくることが理解できない。


「まあ、良いじゃないか。早く動きやすい格好になりな。更衣室は入り口横にあるからね」

と言ってくる。


焦っているようにも考えなしにも見えない。

すごく落ち着いていて余裕すら見える。



 私をからかっているのか?



彼女は、思った。だが、それにしても彼にはメリットがない。

本当に気晴らしに付き合ってくれるだけなのかもしれない。


それでも職業軍人に格闘戦を挑むことがわからない。

そう思いながらも彼女は、更衣室でジャージに着替え彼の元に立つ。


「サイズは大丈夫かい?」


「ええ、大丈夫です。ですが、模擬戦とはいえ手加減はしませんよ」


「そう、それでいいよ。じゃあ始めようか」

そういうとカルウは左斜めに体を動かし、構えずに立つ。


それに対して彼女は両手を前に構える。

そして、彼女はカルウを見据える。


そこには、すきがあるような佇まいなのにすきがあるように感じない男性が立っていた。

さっきまで勝てる余裕すら感じていた人物が、達人に見えることに彼女は内心慌てる。



 なに?この人。

 軍基地内でもこんな雰囲気を出しているのはカナメと隊長だけだったのに。

 なんでこんな田舎にいるの?こんな人。



気持ちを落ち着けようと小さく細かく呼吸を整える。



「どうした、来ないのか」

カルウが煽る。


「そうね。じゃあ、行きます」

彼女は、前に出て右ハイキックを一閃。


カルウの左側頭部に向けて叩き込む。

カルウはそれを左手で受け止め、蹴りの勢いそのままに右に体ごと側転する。


それを見た彼女は追撃する。拳を強く握り左右で連打を撃ち込む。

カルウはそれを左手で受けながら体を右に運ぶ。

彼女を中心にして円を描くように。


更に彼女はしゃがみ、足払いをするのだがそれも後ろに下がりかわす。

追撃しようと前に出る前にカルウは元の位置まで戻る。


それを見て慌てるセーレン。

動きが的確過ぎるのだ。


こちらの動きをまるで先読みするような動きをする。

その為に、本来の動きが出来ずにいた。

でも彼女は、それでもいいと思っていた。


状況もわからないままほったらかしにされ、どこまで頑張ればいいかもわからずイライラが募るばかりだった。

そんなときの模擬戦だ、彼女にとっては正に渡りに船だ。


存分に暴れてコテンパンにするつもりだったのだが、まるで当たらない。

攻撃するたびにかわされる、いなされる。


全力で攻撃をする。もちろん手加減なんてものは、彼女の頭にはない。

する必要もない、なんせ当たらないどころかかすりもしないのだから。


彼女の額に汗がにじむ。

どんなにフェイントを入れても彼に届かない。

左手で受けられる又はいなされる。


というか左手のみで彼女が繰り出す攻撃をことごとく受け止め、いなす。


彼女もここまで来ると意地になる。

額ににじむ汗が彼女が必死になっている証拠でもある。


カルウは、セーレンから繰り出される攻撃を冷静に判断し、対処する。


小一時間ほどの手合わせなのだが、彼女は手数こそ多い攻撃を仕掛けるのだが

全て当たらない。


そのうちセーレンがスタミナ切れを起こしてしまい、その場にへたり込む。

セーレンは肩で息をしながら見上げる。


そこにいる彼は、。息すら切れていない、どころか汗すらかいていない。

彼女からすれば憎たらしい限りだ。


元軍人であるプライドすら粉々になってしまっているのだが、不思議と嫌な感じがしない。

むしろ精一杯やって相手にもなっていない。

力の差が歴然であったので清々しいくらいである。


「あ、あなたはいったい何者なんですか?」

息を切らしながら彼女が問いかける。



「そうだな、それはもう少し待ってくれるか。他の連中が来てから説明する」


「他の連中ですか?誰か来るのですか」


「来るよ、ホントはカナメがやらないといけないのだが、これ以上君をほったらかしするわけにもいかないしな。」


扉がガラガラと音を立てた。


音のする方を向くと、そこには男性が二人、女性・・・というより女子が一人、手に荷物を持って現れた。


「おお、ええ顔になっとるやないか」

と言いながら靴を脱ぎ棄て道場に上がる男性・・・喫茶店のマスターであるペルボが言い放つ。


「もう、靴くらいそろえてよ。行儀悪いよ、もう」

と言いながら、ペルボが脱ぎ棄てた靴をそろえる女子・・・時岡ナズナが文句を言っていた。


「本当だ、オマエもいい年だろうが。見本になれ、とは言わん。だが常識の範囲の礼儀はわきまえんか」

とナイスミドルの眼鏡をかけたスーツ姿の男性が苦言を言う。


「そないに説教せんといてや、コウイチはん。少しくらいエエやろ」

ナイスミドルの眼鏡をかけたスーツ姿の男性に・・・くぬぎコウイチにペルボは答える。


「オマエには、きちんと話をする機会を作らんといかんな」


「手加減してや、今日はあの嬢ちゃんの歓迎会も兼ねてんねやさかい」

笑いながらペルボが言う。


「はいはい、そこまでにしようよ。二人とも、今回はあくまでも仮のネタ晴らしなんだから」

苦言を吐くカルウは表情を変えない。



「仮のネタ晴らしってなんです?」

セーレンが不思議そうな顔をしている。


「キミが探偵事務所預かりで所属してもらっていることは理解できているな」


「はい、そこにはカナメが所属しているので安心はできます。まあ、当の本人はこちらに来てから一度も見てないのは気になりますが・・・それ以外はこれといって問題ないと思います」


「ん、気づいていないのか?」


「ハイ?」


「はぁ~」

と深いため息を吐き頭をかかえる。


「????」


「ちなみに、ここにいる三人を見て何か感じることは?」


「こちらに来てよくしていただいているくらいですけど・・・・何かあります?」


「なかなかだな、さすがはカナメが拾ってきた奴というところか」


「????」


「では、改めて言っておこう。椚探偵社にこの三人も所属している。

そして、キミも当事者だから説明しておくと君をここに連れて来た時にこの三人もいた。

正確には君と一緒に作戦に参加していた」


「へっ?それってまさか・・・」

彼女の顔が青ざめる。


まさか・・・と言う気持ちが彼女を覆いつくす。


「やっと気づいたようだな、椚探偵社は表向きの看板だ。ウラ向きの看板はグレイブと言う。

とちなみにカルウがコードネーム シグナル、ペルボがコードネーム ウィルス、でナズナがコードネーム リセトとなる。

三人ともここに来る前からすでに顔見知りとなるんだが、これもカナメのバカ者が言わないといけないことだ。

あのバカのしりぬぐいもせんといかんとは面倒なことだ」

とヤレヤレと言った感じである。


彼女は唖然とした顔をする。

なんせ、顔見知りがすでにそばにいたことに、それに気づかない己のうかつさに。


「まあ、ええやないの。ネタ晴らしもしたことやし、歓迎会と行きましょか。」


足元に広げられたお菓子や食べ物たち。

驚いているセーレンを置いて状況は進む。

彼女の中での情報と気持ちの整理は、どこ吹く風状態である。


もう説明が済んだから大丈夫だとの認識なのだ。

説明責任は済んだが、その後のフォーローが雑である。


それは、本人次第という放任主義が爆発していた。



「できあいのもですみませんが、時間がなくてすいません」

恐縮した風に笑顔をセーレンに向けるナズナ。


「これでいいだろ、近況報告と親睦会だ。堅苦しいのは逆に彼女が困るだろ。カナメが未だにつかまらないのが気に入らないが・・・」とふてぶてしい言い方のカルウ。


セーレンは思う。


 あの戦いの場と同じだ。

 なんか安心する


彼女が居場所を手に入れた瞬間でもあった。

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