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GLAIVE (狂炎伝承)   作者: 団栗山 玄狐
Ver.01 狂気の眼
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act03 ビルclimb

act03 ビルclimb(登る)


 コンクリートの壁にはめ殺しの窓とパイプベット、

 そして頑丈そうなドアが一つある部屋の角で

 両手で膝を抱え込むように座り一人悩むユタカの姿があった。

 よく、捕まった人間を閉じ込めておくような部屋に座り込んで考えていた。

 今思えばカルウの言い分は至極当然なものだった。


 追いつめられている自分を悲劇のヒロインのように見立て

 へ理屈をこねて、相手の立場すら考えず自分本意になってしまう。

 これは、相手の弱みを掴み思い通りにすることは、協力ではなく脅迫に当たるものだ。

 それをやろうとしている自分は、自分を束縛しようとしている相手と同じ存在になる。


 だが、人は追いつめられると《その大切な当たり前》をいとも簡単に忘れてしまう。

 カルウは、そのことを改めて確認させてくれたのだが、時すでに遅しである。

 今、自分がこうして囚われている状態で気付くなんて馬鹿なんだろう、

 とつくづくユタカは後悔していた。


 だが、もう終わってしまった事をとやかく言ってもしかたがない。

 頼みの綱であるグレイブに接触することも出来ず、

 ただ見知らぬ人を巻き込んで自分の利益の為に手伝いを強要していて失敗。


 たった二日の逃走劇で最低なことをしていた。

 ここは、何処なのかすら分からず、その内また何処かに連れて行かれるのだろうなと考え、

 悔やみながら部屋の端でうつむきながら座り込んでいた。


 暗闇に静かにたたずむ摩天楼。

 静かに立ち並ぶ高層ビルの谷間に流れる道路を照らすように鈍く輝く月の下。

 その中の屋上にヘリが降りたビルがあった。

 あからさまに威圧的なヘリはダークグリーンで塗られ『私は軍用です』と自ら語っていた。

 さて、そのビルの足元で正面玄関に当たる所にこれまた怪しい紺色の軽ワゴン車が止った。


 車の中から、これまた怪しい二人組が出てきた。

 服装は、ダークブルーの作業着をような物を着込んでいる。

 顔にはサングラスのようなゴーグルを付け口元だけが見えていた。


「シグナルさんよ。ターゲットの位置は把握済みやけど。

 でも、そこまで行くのが至難の業なんやけどな。どないする」

 と言いながらビルを見上げていた。


「どんな事しても結局ばれるんだから。簡単に行こうか、ウィルス」

 と軽ワゴン車の後部ドアを開け、そこからオフロード仕様のバイクを

 降ろしている男-シグナルが簡潔に言った。


「せやけど、それやと騒ぎが大きくなるんやないか」


「それは、いつものことだろ。それに面倒を背負い込むのは、

あちらさんだし気にしなくても良いと思うが」バイクをビルの正面に置き見上げる。


「あのな、面倒はお互い様や。」


「確かにな。でも原因を作ったのはあちらさんだ。

後始末ぐらい引き受けてもらわないと割に合わない」

 ビルの正面入口に向かってバイクを停め、各部のチェックをする。


「さて、お前さんに愚痴をいっても仕方無いないか。」

 ウィルスは、シグナルにリュックを手渡した。

「ま、そういう事だ。ここは確実にお仕事を済ませよう」


 シグナルはリュックを受け取りそのまま背負うとバイクにまたがった。

「こっちは準備出来次第、追いかけるさかい。そっちは派手にやっといてくれ」

 というとそのまま軽ワゴン車に向かっていく。


「何で面倒事は、こっちにやらせようとしているんだよ」

 とごちるながらバイクのエンジンをかける。

 4サイクルのエンジン音が甲高く街に響く。

 それは、シグナルなりの宣戦布告にも見えた。


 シグナルはバイクでビルの正面玄関のガラスを突き破る。

 その後、当然ようになるべき、非常ベルが鳴らなかった。


「言わなくても派手にやるくせに。何が面倒事なんだか」

 ビルに突っ込んでいく相方の姿を見届け、一人ゴチると

 ウィルスは、そそくさと軽ワゴン車に乗り込みその場を走り去る。

 鳴らない非常ベルがまるで当たり前のように気にもしなかった。

 その頃、ユタカはベットに座り悩んでいた。

 どうにかここから逃げ出せないかと。

 だがそんなに簡単には良い案が浮かぶわけでもなく

 ただ、煮詰まった考えが残っていくだけだった。

 ベッドと出入り口用のドアが一つあるだけの部屋。

 壁は鉄板を貼り付けただけで簡素なものだった。


『ここから逃げる事が出来れば、マジシャンになれるのかな』

 と馬鹿な事を考えながら逃げる手段を思案にくれていた。

 ユタカがアホな事を考えているその頃、

 ビルの一階エントランスでシグナルは、バイクにまたがり停車していた。

『7Fか』と発信機の示す所を確認する。

 しかし、エレベーターを使用すると入口から蜂の巣にされるのがおちだろうし、

 かといって階段を使うのも大変だ。

 普通はそう考えるのだが、シグナルは、階段に向かっていくと手前で一度バイクを止めた。

 一呼吸してからバイクのアクセルを廻す。

 甲高いエンジン音を響かせ階段に向かっていく。

 そして、前輪を壁側に当てそのまま乗り上げさせてまるで螺旋階段を上がるように

 階段の壁を駆け上る。


 まるでサーカスの曲乗りショーを見ているような光景である。

 まさにヒルクラム(登坂競技)ならぬビルクライムだ。


これによりほんの数分で7Fについた。


 だが、これだけエンジン音を響かせておいてバレないわけがない。

 当然の様に警備員がその場に駆けつける。

 部屋の中で座り込み考えごとしていると突然、外が騒がしくなった。

 侵入者が、どうの。非常識なやつだの。対処はどうするのかと部屋越しでも解るほどの声が

 聞こえる。挙げ句の果てには、エンジン音まで響き出した。

『何を慌てているのだろう』と思ったがユタカには、あまり気に止めなかった。

 そんな事よりもここから逃げ出す方法を考えるほうが彼女にとっては最優先事項だったのだから。

 バイクが『7F』のプレートが壁に掛かった階に飛び込んだ。

 ガードマンらしいい服装の男達を3人ほどバイクで吹き飛ばし廊下を駆抜ける。

 部屋の前で自動小銃を持っている2人の黒服は、不意を突かれた為か、

 自動小銃で応戦する間も無くバイクに吹き飛ばされた。

 したたかに壁や床に体を叩き付けられた彼らは、そのまま気を失った。

 狭い廊下でよけることも逃げることもできないところに

 バイクが突っ込んでくれば仕方がない。割とひどい行為だが。

 彼らを引いた後でシグナルはバイクを止めた。壁にもたれ掛るようにしてバイクを置くと

 いまし方バイクで引いた彼らが守っていた部屋の入口に向かった。


 ユタカは少しイラついていた。

 ここから逃げ出す算段が浮かばないのと外からの雑音に対してである。

 男のうめき声やエンジン音ついには何かが倒れるかぶつかる音が部屋に響いてくるからだ。

 外の様子が分からないのと逃げ出す方法が浮かばないのとでイライラしていたのだ。

 だが、しばらくしてそんな雑音も聞こえなくなり、

 代わりにコツーン、コツーンという足音が聞こえ出した。

 足音は次第に大きくなり、ユタカが閉じ込められている部屋の前で止った。

 そして、ドアノブが静かに回り始めるのにユタカは気付いた。


『チャンスだ、ドアが開いた瞬間に飛び出して逃げよう』とユタカは思った。

 さんざん考えた挙げ句の方法がこれでは、悩む必要はないのではないかとも

 頭に浮かんだが、今はその考えを別の場所にしまい込みドアの開くタイミングを計っていた。

 そして、ドアが開きその向うにいる足を確認した所でタックルを仕掛けた。

 だが、無情にも簡単に避けられ、哀れユタカは壁に激突し、

 うめき声をあげつつ頭を押えてうずくまった。

「意外と元気なんで安心した。依頼通りに助けにきたんだが自力で逃げるほうがいいか」

 とユタカの後から若い男性の声が聞こえた。

 ユタカは、左手で頭を押え、目に涙を浮かべて後ろを振り向くと

 そこには、紺色でいかにも軍服のような服装の男性らしき人物が立っていた。

 黒いレンズのゴーグルをしている為、口元しか見えない。


「あなたいったい誰」

 そう尋ねながらも辺りを見回す。

 するとぐったりと倒れ込んでいる黒服が二人いる事に気付いた。

「グレイブのシグナルといえば理解していただけるかな」

 黒いレンズのゴーグルをした男はそう名乗った。

 突然の事に言葉を失ってしまったユタカは、自分が探していた男の姿をまじまじと見た。


「さて、とりあえず落ち着いてもらってから逃げ出す準備に入っていただきますか」

 少し辺りを見回しながらシグナルが言うと


「あなたは、今まで何処に居たのよ。

こっちが必死に探している時は見つからないのに。

探さないとポッと出てくるのは一体どういうこと。

それに何で私の事を知ってて、ここに居る事まで知ってるの」

今にも噛み付きそうな勢いでまくしたてる。


「まあ、それについてはここから逃げ出してからゆっくりと説明しよう。

今は、そんなに余裕が有るわけでもないしね」

両手の平をユタカに向けてなだめるようなしぐさをする。


その言葉にユタカは、頷くしかなかった。

ここで説明をしてもらっているうちに自分達の逃げ場を失うのは

火を見るよりも明らかなのだから。


「私が、どれだけあなたたちを探したと思うの」

「まて、まず話を」

「やっとの思いで逃げ出したのに、すぐ追手が来てそれを交わしたと思ったら

助けてくれない人たちばかりそのあとまたつかまって爆音響く部屋に押し込められて…」

ユタカは今までイライラを爆発させ、文句を言い倒す。


さすがにこれにはシグナルもこまった。

時間がないのに彼女の愚痴が止まらない。

こんなことをしている場合ではないのだがどうしようが思案に暮れる。


そう思っていると


愚痴を言い終えたのか。大きく深呼吸した彼女は

「すっきりした」

気分さわやかに言い放つ。



「で、これからどうするの。」

シグナルを見据えて尋ねる。


「とその前に」というと彼女の手を取り、手の甲をこする。

すると削れて薄い電子媒体のシートが現れる。

そして、それを勢いよくはがす。

一瞬の痛みがユタカを襲う。

そして、そのシートをユタカが見ると

「何これ、」

「GPS発信機だね。これがある限り、君の居場所は筒抜けだね」

「いつの間に」

「ここを逃げ出すときの注意てんとして

 手をよく洗ってから行動を起こすことって言われてないか」


「たしかに、言われた」


「注意点くらいちゃんとこなさないと自分の位置なんてモロばれだ。

 まず、自分の行動くらいきちんとできないと結果はこうなるのだが」


「えっと。はすいません。」

ユタカは自分が言われたことを忘れていた。

バツの悪そうな顔をし、シグナルから顔をそらす。


「まあ、今回は君のうかつさのおかげでここが特定できたからね。

そのGPSシートを逆に利用させてもらったからね」

シグナルは淡々と答える。


「それならケガの功名じゃない」


「だが、最初からこちらの言いつけを聞いてもらえればもっと楽に進んだのだが」

釘を刺される。

このまま、調子に乗られるとどんなミスにつながるかわからない。

もう少し冷静に行動してもらわないと、と考えるシグナルである。


「すいません。」

再び、頭を下げるユタカである。



部屋を出るとそこには警備員が倒れている。

「ひっ!」

少しひく。


「ああ、彼らは気を失っているだけだよ。

バイクで引いたから骨の一つくらいは折れているだろうが」


「さらっと言い切りましたよね。引いたって。結構ひどいことしてません。」

「この状況化でよくそんな言葉が出る。君がここを出るためには人は死ぬよ。

でも、君が彼らに協力すればこれから死ぬ人の桁数が跳ね上がる。

きれいごとだけで物事は進まない。

人は生きてりゃ何かを犠牲にしている。

何も犠牲にしていないなんて断言する奴は、ただの世間知らずかバカの二択しかない」

シグナルは言い切る。


「……」言葉を失うユタカ出る。

今言われた言葉を自分で考え直す。

自分が今の状況から逃げているだけである、と思いま直した。


「覚悟を持つことだ。自分の行動に。今はここから逃げる為にもだ。」


「でも、父さんを助けてよ。私だけ逃げても仕方がない」


「当然だ。オレたちは降りかかる理不尽をたたき切る為のグレイブだ。

それにあんたの親父さんには文句を言わないといけないからな。

生きていてもらわないと文句も言えない」


「へ?」

あっけにとられるユタカ。

さっきまでの冷淡な口調と変わり、

怒り気味の口調になっているシグナルに驚く。


『もっと冷たい人だと思った』

と踊ろいた顔になるユタカに


「とりあえず、動こうか。今悩んでも何も変わらない。

これから何を考え、どう行動するかで変わる。」


と言いながらて手を差し出す。


「うん。」

と真剣な顔つきをしユタカは差し出された手を握り返す。



「それじゃ、とりあえず屋上を目指そうか。」

シグナルは腕時計らしきものを見ながら答える。


「ちなみにどうやって行くの」

自分でも分かっていたが改めて確認する。違っていて欲しいという想いを込めて。


「勿論、バイクで行く。時間ないしね」

さらっと答える。

「エレベーターでいこう。私がいれば向こうもなにもしないよ」

シグナルの前に立ち言うと

「別にいいが、死体を片づけないと乗れないがかまわないか」

「えっ」

一瞬、息を飲む。

「でだ、死体を片づけた後で血生臭いと血まみれ壁に我慢できるなら

俺はいっこうにかまわないがどうする?」

という。

その言葉を聞きユタカは絶句した。

確かに騒ぎは起きていた。その現場がエレベーターであり、

挙げ句の果てに後始末をしないといけないとは。

しかもそれが出来立ての死体では、目もあてられない。

「お断りします。バイクで結構です。」

顔を引き攣らせながら答えた。


どちらも嫌なのだが、どっちが嫌かで考えるとこう答えるしかないと

断言した。

血なまぐさいエレベータより上下に揺れるバイクの方がまだましだと思ったのだ。

「それじゃ、行くぞ」

とシグナルが言うとユタカは

「はい」と答えバイクの後部座席に座りシグナルの背中に張り付いた。

シグナルは、それを確認する、ユタカと自分をつなぐベルトをする。

「なんですかこれ」と尋ねると

「子供を後ろに乗せる時に使う安全用のベルトだ。ないよりはましだ」

「これで大丈夫なんですか」

「いや、気休めだ。しっかりつかまっていないと

壁にあんたの血が絵の具のように張り付くだけだ」

と冷たく言い放つ。


「壁って、バイクで階段を登るのだから上下に揺れるだけでしょう。」


「誰が階段を登るといった。階段の壁を駆けあがるんだよ。」


「はい?壁走りですか。そんな漫画みたいなこと…」

というとユタカは下の階の階段の壁を見るとタイヤの跡らしいものが見えた。

それを見てユタカは血の気が引いていくような感じがした。


「冗談ですよね、それじゃあ絶叫マシンになるじゃないですか」


「そんなつもりも、考えもない。これはオレが良くやる方法だ。

もう覚悟しろ。行くぞ」

というと勢いよくバイクを発進させる。


階段の壁にタイヤを乗せ、まるで螺旋を描くように駆けあがる。


ユタカは『悲鳴を上げてやる』と思っていたがそんな余裕はなかった。

体が左に引っ張られるそれに逆らおうと必死にシグナルに抱き着く。

絶叫マシンなんて目じゃない。あまりの恐怖に目を閉じて

いつまで抱き着いていたのだろう。

バイクのエンジン音とタイヤのこすれる音だけが響く中

突然、ドンッという音と振動がユタカの体に響いた。

しばらくし、体が引っ張られる感覚がなくなり

バイクのエンジン音はするが響くような感じではない。

タイヤのこすれる音も聞こえない。

体にあたる心地よい風がある。

そう思うとゆっくりと目を開ける。

そこは屋上ではないものの屋根があり窓がある。

そして、暗闇の先に人の気配を感じた。


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