act38 疑念のwar
act38 疑念のwar(戦火)
「カナメ、お前は用事があるんだろ。ここはオレたちが引き受けるから行ってこい。」
シグナルがカナメを露骨に促す。
そう露骨に。
「なるほど、わかったぜ。今回の依頼者と大体の依頼内容が・・・」
カナメは少し思案し、いぶかしげな表情を浮かべる。
「察しがよくて助かるわ、カナメはん。こっちも時間無いさかい、まあ大体のことを理解してもらえると助かるわ。」
ウィルスは悪びれることなくいけしゃあしゃあと答える。
「察しろと無言で訴えてきてるくせによく言う。それに今回は怪しいことが多いからな、もともと考えて居ただけだ。」
「それでも考えてたんや、十分やないですか。まあ、依頼の詳細は説明できまへんで、機密事やさかい。」
「わかっている、ある程度はオレの考えを引っ張りだすために情報を与えてくるくせに
肝心なところは考えろって言ってくるあたり相変わらず嫌なやり方だ。」
「褒めてもろて、ありがとうございます。でも察してください、シグナルも機嫌悪いよって。」
「わかっている、だからこれ以上は聞かない。その代わり本人に聞くことにする。じゃあ、な。」
とカナメはその場から離れる。
これからカナメは、大華連邦主義国の特務部隊フォグ・シザーズの基地に向かう。
ここは、本来カナメの目的地である。
最初は、セーレンに促されるまま向かっていたが、今回はきちんと目的をもって向かう。
その目的とは・・・特務部隊フォグ・シザーズの基地の壊滅、及びフォグ・シザーズ隊長シュトーレン・ヴァルトの暗殺である。
そのため、カナメは奴らが使っていた軍用車両を使い、奴らの基地に向かう。
カナメは、両手にハンドガンを持ち、通用口を通る。
通用口にある管理事務所の警備員が唖然として横転する車を見て居るのが見えた。
カナメは窓越しにその警備員に2発撃ちこむ。
窓ガラスには2の穴が開き、その穴と中心にひびが入る。
さらにその先にいた警備員は虚空を見ながら糸の切れた人形のように膝から崩れる。
さらにその先には血にまみれた壁が見える。
カナメは歩みを進め基地内に入る。
横転した車にわらわらと人が集まる。
腰にはカナメがもつハンドガンと同系統のハンドガンを携帯していた。
それを確認するとカナメは、そいつらを敵と認定しハンドガンを打つ。
見事に相手をヘッドショットし、撃退していくカナメ。
その姿は、拳銃を使い人を殺して回る殺人鬼のようだ。
だが、ここは戦場であり敵国の軍事基地だ。
きれいごとでは生きていけない場所だ。
死にたくなければどんな卑怯な手を使っても勝たなければいけない。
負ければ死だ。
それでは彼自身の目的も果たせない。
平和な国でこんなことをすればテロになる。
平和な世界では平和な世界での、戦場では戦場の戦い方がある。
それを考え行動する必要があるのだ。
彼は冷静にハンドガンを打ちまくる。
カナメは斃れた相手から弾丸のカートリッジを奪う。
現在のカナメの手持ちはハンドガンが二丁に弾丸カートリッジが20、それにコンバットナイフが2本だけだ。
この装備では基地一つ相手にするには、無理ゲー過ぎる。
なので敵から弾丸を補充しながら戦うしかない。
死体からモノをあさるなんて不敬だと思う人もいる。
きれいごとでなんでも事が運ぶなんて思うのは、世間知らずだけだ。
自分が死にたくなければ相手を殺す。
武器がなければ死体からでも奪う。
弱肉強食が常の戦場では当たり前の光景だ。
むしろ自然界ではそれが当たり前だ。
正論や理想論では生きてはいけない。
言葉で相手を論破しても生きてはいけないのだ。
だから、奪い取る。生きるために。
カナメにとっては、そういう世界が当たり前なのだ。
だから、カナメはハンドガンを打ち続けた。
そして、歩みを止めなかった。
そうこうしているうちに今度は完全装備の兵隊がこちらに向かってくるのが見えた。
カナメは彼らを確認する。
ライフルタイプの銃を所持しコンバットジャケットを着てヘルメットをかぶっていた。
彼らはカナメに近づき、銃を構える。
そして、警告をしてきた。
銃を捨て、両手を上にあげろ、と。
カナメは、冷たい視線を送り、ハンドガンを兵士に向かって撃つ。
すると、弾が当たった兵士が大爆発を起こし、周囲にいた兵士を巻き込む。
慌てる兵士たち。
銃を掃射しても当たらない。
相手が持つのは小口径の銃である。
そんなもので爆発など起きるはずがない、ないのだが実際に起きていた。
それも一度ではなく何回もカナメが撃つたびに爆発が起きていた。
どれだけ多くの弾丸を撃っても当たらない上に撃たれれば爆発する。
相手にどれだけ弾丸を浴びせても顔色一つ変えずに進むカナメ。
こんなモノを見せられれば
兵士たちの中から悪魔だ、化け物だの声が出るのは当然だ。
自分たちの常識を逸脱した現象が目の前で起きているからだ。どうしていいかわからなくなっていた。
本来冷静でいなければいけない戦場で混乱していたのだ。
この影からカナメに向けて銃を乱射する兵士。
狙いを定めているわけでもないので当たらない。
移動する瞬間にカナメに撃たれ爆発する。
その時に近くにいた兵士が巻き込まれる。
彼らに一つの疑問がある。なぜあんなハンドガン程度で爆発するのか、アレは奴らの新型兵器なのかである。
疑問が不安を呼び、攻めきれない。
相手は一人なのに。数では勝るのに、奴に撃たれれば爆発するこれが彼らを臆病にしたのだ。
その間にカナメは倒れている兵士から武器、弾薬を回収する。
彼らは気づくべきだった。
カナメの行動で彼が使っているのは、自分たちと同じ武器だということを。
現状は膠着状態に陥った。
そこに整備工場らしき建屋から荷台に機銃を乗せた軍用車が3台、カナメの所に向かってきた。
各軍用車に2名ずつ乗っており、一人は運転手、どうやらもう一人は射手のようだ。
現場の外側に車が止まるともう片方が動き、荷台の機銃に向かい準備を始める。
もちろんその様子はカナメも気づいていた。
だが、そこまで手が回らない、とも言っていられない。
アレは、たぶん敵味方関係なく打たれる、そう感じているようだ。
敵味方が確認できない事態を収拾するには、最も効率的な手段だと思う。
人道的、心情的なことを除けば。
侵入した敵が少人数なことも流石に理解されているうえでの判断だろう。
カナメは応戦するタイミングで機銃の銃口に向けてそれぞれ2発ずつ打ち込む。
炸薬は抜いた弾丸を使ってだ。
今までは炸薬を多めに使用した弾丸を使っていた。
これは、敵兵が無防備にぶら下げている手榴弾に向かって撃つためだ。
これで手榴弾を撃てば誘爆させられるためだ。
今までのハンドガンでの爆発を起こした原因である。
だが、これは神業と言うほどの射撃の腕前が必要である。
それをカナメはやって見せた。
敵兵たちは、そのことにまだ気づいていない。
と言うか考えにも至っていない。
そんなできないことを考える必要性がないからだ。
わずかな可能性を考えず、できるわけがないと考えて居る。
非常に合理的な考え方である。
なので見落としてしまうのだ。
わずかな可能性を、それを非現実、非合理的と見誤る。
これが、心理的盲点なのに気づかない。
カナメは弾丸のカートリッジを変え、今度は軍用車に乗る人間目掛けて撃つ。
運転手一人に対して2発づつ撃つ。これは確実に相手を仕留めるためだ。
弾丸は貫通弾を使用していた。
防弾ガラスを打ち抜くことが可能なので入れ替えたのだ。
そして、さらに射手を狙う。二人は仕留めることができた。
が、一人はうまくよけられ機銃の銃口がカナメに向けられる。
そして、引き金を引いた瞬間、機銃が暴発する。
先程カナメが打ち込んだ弾が機銃を詰まらせたのだ。
暴発したことで射手はそれに巻き込まれうずくまる。
カナメはそれを見落とさず相手を仕留めた。
せっかくの増援もあっけなく撃破され、慌てる兵士たち。
さらに追い打ちが来る。
先程カナメは集めていた武器のうち、手榴弾を敵兵に向けてばらまく。
冷静な判断のできないところでの追い打ちに対処できず、残っていた兵士たちはすべて仕留められることとなった。