act34 平和と戦場のdisparity
act34 平和と戦場のdisparity(差)
「お前はうまく乗せられて、オレの行動を制限させるためにここにいいるんだよ。」
「はあ?それで私が足かせ?あんたバカにしてんの!それとも平和ボケしてんの。
ここは戦場よ、あんたのいる世界と違うのよ。足かせというか足手まといなのはアンタでしょ!」
と強い口調で言い放つセーレン。
刺すような視線をカナメにぶつける。
だが、その視線など気にせずカナメが話を続ける。
「その足手まといを今まで仕留めそこなっている奴に言われたくないね。」
「何のことかしら?」
と冷汗を隠しながらそっぽ向くがすでに遅い。
「オマエ、オレが気づかないとでも思っていたのかよ。ああも露骨にこっちを襲ってきていてばれないと思ったのか。
もし、そうならとんだ能天気もんだ。オレがお前らの刺客を簡単に対処できないようにお前がオレに張り付いてんだ。
刺客どもがオレだけでなくお前も一緒に始末しようとしていたことにも気づいていないのかよ!
つまりオマエは捨て石なんだよ!
もしかして、気づいてなかったのか?」
カナメがさらに追い打ちをかける。
カナメからすればあまりにも簡単な答えだ。刺客たちと実力的にもセーレンは大したことがない。
ここで処分しても大した問題にならないだろう。
それほど彼女は重要視されていない。
だから使いつぶしても彼らからすればその程度にかすぎないのだ。
でもカナメは別である。当時でも部隊内では5本の指に入るほど逸材。
それに前部隊を全滅に追いやった一人である。
警戒されるのは当然だ。
ましてやカナメの実力を知る隊長ならなおのことだ。
カナメを確実に仕留めるためには、どうすればいいかをまず考えるだろう。
目標が誰かをかばいながら刺客と戦えば目標の力をそぐことが可能だ。
実際作戦ならば目標の能力値が100とするならば、かばうべき相手をつければ40ほどにできる。
そうすれば、いかに目標の能力が高くても処理が容易となる。
そのための足かせだ。セーレン自身気づいてはいないようだ。
平和ボケしているのはどっちだとカナメは思っていた。
前の部隊にいたときも天然発揮しまくりのセーレンなので気づいていないようだったが、今回は完全に見えていないようだ。
見事な戦術である。
「なな、なんでそんなこと言うの!私だって気にしてるのよ!今回の件が成功すれば副長としての立場だって問題なくなるから頑張っているのに」
と涙目で訴えかけてくるセーレン。
少しは自覚があったのか、と思うカナメだが
「今のセリフ自体が平和ボケの人間のように聞こえるな。とても戦場に身を置く人間のセリフに感じないな。」
そのセリフに涙目で抗議するセーレン。
乙女か!と思うカナメはやれやれと話をつづけた。
「それにお前が配置した部隊にオレが気づいていないと思うか?十人ほどがオレたちを囲むように配置されていてお前の指示を待っている状態か。」
「なんでわかるの君は!」
カマをかけただけなのだが大当たりのようだ。
ほんと昔から変わらない、そう思うカナメがため息をつく。
「何よ、私がわかりやすいっていうことなの」
「その通りだ。」
「フン!いいわよ。ここであんたを倒せば何もかも問題ないもの」
「いや、できないだろ。訓練でもオマエはオレに勝てないだろ。それをたかが十人ほどの手下で来ても返り討ちだろ」
カナメが呆れるように言うとセーレンは抱き着いてきた。
カナメは何事かと思う。
「でも、私は君の足かせなんだろ。その役目を全うすれば問題ないでしょ」
しまったという顔でカナメは慌てる。ここに来て自分の役目に忠実になるとは思わなかったのだ。
ここで刺客に襲われると動けない。
元仲間であるセーレンの身を案じてしまったのだ。
オレも平和ボケしているな、とカナメが思っていると刺客たちゆっくりと闇夜から姿を見せ始める。
服装は黒い覆面に軍人がつけているような武器をつけるようなジャケット、ズボンはワーキングズボンのような
ポケットが側面についており、腰には拳銃とナイフのホルダーが見える。
右手にはコンバットナイフを持ち、そのいでたちでカナメ達を囲むようにいる刺客たち12人全員がすべて同じ装備だった。
「さあ、お前たちこいつを片付けなさい。」
セーレンの眼には覚悟が宿っていた。
カナメはそれでも冷静にふるまっていた。それはまるで自分には危険が来ないと確信しているようたたずまいに見えた。
「わるいな、この通りオレは動けない。手伝いは期待しないでくれ」
カナメはそういうとセーレンの表情が呆れ気味になる。
「何言ってんの!この状況で頭でもイカれたの、あんた。」
ここまで来ておかしなことを言うカナメに対してセーレンはむなしくなったのだ。
かつてのあこがれ存在がこの窮地でおかしくなったと思ったのだ。
だが、
周りを囲む黒服面の刺客たちの一人が突然前のめりに倒れる。
その後ろから刺客たちとは別のいでたちの人間が現れる。
顔はフルフェイスマスクでシャドウがかかっており顔が見えない。
上下ともに黒い服装だが上はプロテクターのようなものがついており、下はただのズボンにしか見えない。
「もともと期待してないよ、カナメ。このくらいなら何とでもなる。」
若い男性の声がした。
「そうだろうな、オレの依頼にこたえてくれて助かる。」
「依頼内容が似ていたのがあったからついでだよ、それにお前なら何とでもなるだろう。」
カナメに少し表情に驚きが混じる。
彼は自分の依頼を受けてくれたからだと思っていたからだ。
だが、ついでだとこの若い男性が答えた。
カナメは彼が冗談を言うタイプではないことを知っている。
だからこそ、カナメには疑問が沸く。
もう一つの依頼があることに、誰が彼らに依頼をしたのかを。
その依頼が自分の依頼より優先順位が高いこと、これの意味するところは何か。
考えてしまった。
「へえ、つまりはオレの依頼は最初の依頼に組み込まれていたってことかよ。」
考えを巡らせて行きついたのはその回答だった。
「どうとでも。お前自身で何とかしてもらわないと、お前がやる予定分をこなしてきたんだ。
オレが割に合わないだろう。」
と言う。
マスクの下にある表情が見えないのでわからないが、もともと感情が乏しい男である。
マスクがあろうがなかろうが、あまり関係ないなと思うカナメだ。
「アンタたち、何を雑談してんのよ。自分たちの置かれている状況がわかってないの。
この人数差で余裕ぶってんじゃないわよ。」
セーレンは二人がこの状況を何とも思っていないことに憤りを隠せなかった。
まるでこの状況が何でもない状態にでも見えているのがとても腹立たしく感じた。
仮にも今回は精鋭を集めたのだ。
今まではカナメの戦闘データを集めるためだったのだが、今回は違う。
カナメを処分するためだ。
なのにこの状況を何とも思っていない。馬鹿にされているように思えたのだ。
「悪いね、お嬢さん。オレにとってはあんたたち程度では相手にもならないので眼中に入れていなかった。」
若い男は悪びれることもなく言い切った。
その言葉には悪意どころか、見下しているわけでもない。
この状況すら無関心だとわかるような抑揚のない言葉遣いだったからだ。
つまり、この戦力差は彼にとってはあまり意味のない力の差だということだ。
「アンタ、何様で何者よ。この状況みて、まだ余裕ぶってるおバカさんに少し興味が出たわ。」
「ああ、申し遅れた。オレはグレイブのシグナル。ここにいる連中をつぶし、あんたに捕虜になる栄誉を与えるものだ。」
と若い男・・・シグナルは慌てることもなく静かに答える。