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GLAIVE (狂炎伝承)   作者: 団栗山 玄狐
Ver.01 狂気の眼
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act01 公園chase

act01 公園chase(追跡)

 さて、春の暖かな陽気が辺り一面を包み込み、

『のどか』の一言で済みそうな光景が広がる片田舎。

 鼻垂れ小僧たちが全身泥まみれになりながら、

 夕暮れまで駆け回りそうなそんな場所。

 しかし、よく見ればここは都市部から離れた場所にある自然公園である。


 この一角にある昔の家屋を表現しているエリアである。

 ここにおよそ似つかわしくない風貌の人間が駆抜けた。

 野球帽のツバを後に廻してかぶり、

 ゴーグルを付け黒のジャケットにジーンズ姿で

 スケートボードに乗っている。

 見た目は現代風だが、モーターボードと呼ばれるエンジン付の

 スケートボードに乗り、約時速20キロほどの速さで公園を走っている。

 エンジンから延びるコードの先にスピードを調整するコントローラーが付いており

 それを右手に持ち、走り抜ける。

 時折少年?は、後ろを振り返り辺り見回し走り続ける。

 前を見てはキョロキョロするのだが何処に行こうとするかまでも迷っているようだった。

 公園でのんびりしている人にとっては、

 土煙を上げ、モーター音を響かせて走られるのと、はた迷惑である。

 また、その後を同じような速さで追いかける人間場慣れした男性が三人もいれば

 さらに迷惑極まりない。

 この不自然な状況を騒がない人間は流石におらず、当然のように大騒ぎになる。

 騒ぎが起きる頃に、張本人達はもうその場にはおらず、

 騒ぎだけを遠くに残していった。

 公園の入口近くでモーターボードのエンジンを止め、

 彼は、茂みの中に逃げ込んだ。

 その後を追いかける男性三人は、彼が隠れたことに気付かず、

 そのまま公園の外へ走っていった。

 追手がいなくなったことを茂みのの中から確認してから


「ふう」と若い女性のような声で深い息を吐いた。

 そして、少年のような風貌をしていた彼女は、茂みから這い出ると体全体に

 被っていた薄いビニールシートを外しその場に座り込む。

 大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着けてから辺りを見回せば、

 公園入口にきている事に気付く。


 公園の前には2車線の道路が有り、入口の左横には、小売店があった。

 その小売店の前に400cc程の単車が停めてあるのが彼女に見えた。


『あれで逃げれればあいつらを振り切れるかも』そう思うと

 彼女は軽く周りを見回し、誰もいない事を確認してから

 そのバイク駆け寄り、すぐさまキーが付いているかを確認する。

 バイクのキーが付いたままであるのが分かると彼女は、

『ラッキー』とつぶやきバイクにまたがる。


 手足にバイクの重みを感じながらハンドルのレバーを両側とも握り、

 エンジンを掛けると彼女の体に鈍くエンジン音が響く。

 そのままハンドルのレバーを両方とも放すし、アクセルを廻すが

 ただエンジン音が大きくなるだけでいっこうに前に進まない。

 何度アクセルを廻しても同じ事をエンジン音が大きくなるだけで

 前に進まない。

 それどころかスタンドすら上げずにひたすらアクセルを回す。

 さらに2回ほどそれを繰り返し


「何で進まないのよ。原付と同じじゃないの」と独りゴチる。

 どうやら、バイクの変速方法が分からないというよりも

 根本的にそのバイクに変速機がついている事を知らない様だ。


『それにこれ重い』バイクを真っすぐに立てることもできない。


「もう鬼ごっこは終りですよ。」と彼女の背後から声がする。


 不意をつかれて後ろを振り返るとそこには先ほどまで彼女を

 追い回していた内の一人が単車の後ろを両手で掴み、

 小柄で小太りの男が一人、杖を突いて立っていた。


「なんで?」声をあらげた。『完全にまいたはずなのに』と思いながらも

 慌ててバイクを降りようとするが、単車を掴んでいる男が逃がすまいと

 右手で彼女の右肩を上から押さえつける。


「追手が一組とは限りませんよ。

 それにもう鬼ごっこにお付き合いできるほど私も若くないのでね」

 と、したり顔で彼女に向かって言う。

 彼女は、必死に自分の右肩に乗る手をどけようともがくが成果が出ない。

 

 あきらめかけたその時


「あのさ、そこどいてくれる?」

 フルフェイスのヘルメットと買い物後のビニールを片手に

 若い男が彼女たちに話し掛ける。


「悪いことは言いません。下手な正義感を振りかざして我々に関わるのは止めて、

 今すぐに何処かに行きなさい」


 穏やかだが威圧的な低い声で小柄の男は、若い男に警告する。

 しかし、若い男はそのまま単車に歩み寄り、


「そんなモノ持ち合わせていないが、こっちはそうも行かないんだわ。

 そのお嬢ちゃんが乗ってるのは俺のバイクなんでね。

 返してもらわない明日からの生活に困る」と顔色一つ変えずに応える。

 助け舟のように見えた彼女は


「お願い助けてください。」


「知らん。とりあえず、バイクを返してくれ。

 あんた達の争いに興味はないんでね」


「そう思うならかかわらないでどこかに行ってくれませんかね」

小柄で小太りの男はさらに脅し文句を言う。


「さっきも言ったけど明日からの生活に困るからバイクを返してくれ」


「その単車一台と君の命どちらが大事なのでしょうか」


「両方かな」慌てること無く静かに彼は、そう答えた。


「せっかく穏便に警告してあげているのに最近の若い方は、

 身の程を知らないようですね。

 明日からの生活よりも今ある命を無駄にするとはね」


 と言うと指をパチンと鳴らし「アレを片づけなさい」


 と小柄の男は、若い男を一瞥してから一言いうと


 突然、若い男の前にもう一人男性が現れ、

 彼に殴りかかるが拳は空を切るだけだった。

 彼は、後に一歩下がり拳が当たるのをかわす。

 体を前に戻すと同時に相手の後ろに足を回し、左腕を首にひっかけ地面にたたきつける。

 相手は、そのまま倒れこむ。

 ガチャリという金属音なる。

 彼は、『ああ、なるほど』と、自身の体に残る感触と今なった音で確信する。

 これは、人間ではないと。


「危ないな、Dーロイドを使って襲いかかるなんて。

 あんた、どこの警備会社の人間なんだよ。こんな物騒なもん使って迷惑だ」

 

「ほう、君は何者かね。このDーロイドは一応軍用なのだが。」

 小柄の男は一瞬で身構え、辺りに漂う空気が張り詰めたものに変わる。

 まだ、発表自体がまだされていないDATのことを知っていた。

 この事が小柄の男を警戒させたのだ。


 彼は頭を掻きながら


「俺はね、そのバイクを無事に返してくれればいいんだけど。

 それに面倒事は、ごめんだしね」


「そう思うのであれば、見ないふりをすればいいではないですか。

 たかだか、バイク一つでわざわざ面倒ごとに

 首を突っ込んでくるから大変なことになる」

 彼の目の前にいる黒いスーツ姿のDーロイドが身構える。


「今日は、ツキがないらしいな」と頭を掻きながらぐちる。


「そうですな。最初の警告で逃げていればいいものを。

 まあ、お嬢様には、これから逃げ出せばどれだけ無関係な人間に

 迷惑をかけるかを理解できるでしょうから一石二鳥でもありますがね」

 小柄の男は、薄ら笑いを浮かべた。


 このやり取りを彼女は苦虫を噛み潰しながら聞いていた。

 自分の責任で無関係な人を巻き込んでしまった迂闊さに。

 キンッという甲高い金属音が突然辺りに鳴り


「さて、これくらいの力の差を見せ付ければあんた達は、

 御退場していただけるのかな」

 彼は自分の前に立ちふさがるDーロイドの左横を通り自分の単車の元へ向かう。


 小柄の男は、慌てて「何をしている早く仕留めんか」と激を飛ばす。

 だが、Dーロイドが振り返ろうとした瞬間、上半身がくるりと回り地面に落ちる。

 残った下半身の腰の部分を見ると電子部品がチカチカと光るのが見える。


「なっ、」小柄の男は、息を飲んだ。

 彼は、Dーロイドの横を通り抜けただけなのに何もしていないはずなのに

 Dーロイドは真っ二つになっているのだ。

 少し落ち着き彼を見るとその右手にはナックルガードの付いた

 刃渡り20cm程のナイフが握られていた。

 小柄の男の背中に冷たいものが走る。


『いつのまに切ったのだ』、『あの金属を切断できるはずがないのに』

『人間がDーロイドの機動力を超えるなどありえない』と様々なことを

 頭の中で自問自答される。


 彼がバイクの前で立ち止まると今度はバイクを

 掴んでいたDーロイドの両手が体と離れた。

 確かにキンッという金属音が低く響いてはいる。

 だが、何もしていない様に見える。


 これは、彼の動きが目で追えないほど速いのだと気付いてはいるが

 納得は出来ない。

 そんなに速く動く事が出来る人間など本来いないはずなのだから。


「さてと、帰ってもらえるかな」

 彼は、小柄の男の方を見た。


「貴様、何者だ」小柄の男の刺すような視線が彼に向けられる。


「そんなことに答える義務はないんだけど。

 それに命の危険は、今、あんたに迫っているのじゃないのか」

 その視線に動じる事も無く彼は答えた。


 たしかに小柄の男にとっての優位は完全に崩された。

 このままでは自分の命すら危うくなってしまった。


 こんなどこの馬の骨とも知れない者にこうも簡単に

 立場を逆転されるとは、考えもしなかった為である。

 軍用Dーロイドと使っているというおごりが招いた油断である。

 完全な誤算だ。相手の力を見誤った自分のミスだ。


 今、現実に追いつめられている現状を何とかしなければ行けない。


 焦る気持ちの中、必死に打開策を考えるがそんなに簡単には浮かばない。

 たしかに『帰れ』と言っているから素直に帰れば問題無いのかもしれない。

 だが、こんな若造に情けを掛けられて、

 騙し討ちなどされては情けなくて仕方が無い。

 そう考えていると


「後から襲ったりしないから早く帰ってくれませんかね」

 まるでこちらの考えを見透かされたような言葉が彼から投げかけられる。


「く、今回は、お言葉に甘えさせていただきます。

 ですが次はありませんよ。いいですね」

 と、悔しさに顔を歪ませながら小柄の男は、その場を去っていく。

 彼にとってはもう2度と会いたくないのだが。

 彼は、右手のナイフを腰のナイフホルダーにしまい込み振り返り


「そろそろバイクを返してもらえるかな」と彼女に声を掛ける。

 あまりのことに呆気に取られていた彼女は、

 彼に声を掛けられるまで途方に暮れていた。


「は、はい。分かりました」

 彼女は、慌ててバイクから降りる。

 彼は、何も無かったかのようにバイクに残っていたDーロイドの腕を

 外し店のごみ箱にほり込んだ。


「あ、あの」彼女は絞り出すような声を出し彼に話し掛けた。


「なに?」彼は、振り向き彼女を見る。


「えっと。あなたにお願いがあります。

 私、明本ユタカ(アケモト ユタカ)って言います。

 あの助けていただけませんか」

 彼女は、いやユタカはそう言いながら頭を下げた。


「もう助けたでしょうが」

 彼は、バイクが壊れていないかどうか点検しながら応えると


「いえ、さっきのことは有り難うございます。

 それとは別の件で助けていただきたいんですけど」

 すぐに頭を上げ取り付くように言う。


「面倒事はごめんだよ。

 それにさっきのはバイクが壊されそうだったからだ。

 別にあんたを助けるつもりでやったことじゃない」

 取り付く島もなく彼は、言い捨てる。


「迷惑なのは分かります。でもしばらくの間でもいいんです。

 お願いします」

 深々と頭を下げて頼み込むユタカに対し


「やだね。初対面のあんたを助けてやる義理はない。

 それにバイク泥棒に情けを掛けてやれるほど人間が出来ていないしな」


「その事についてはすいませんでした。でもお願いします。

 今、私が頼れるのあなたしか居ないんです」

 といいながら、Dーロイドが掴んだ所を同じように彼のバイクを掴み

 瞳を潤ませ訴えるように彼を見つめた。

 彼は、大きく息を吐き出し


「わかった、わかった。話ぐらいは聞いてやるよ。

 その前にあんたの右肩にぶら下がっているやつを捨ててきてくれ。

 あんたはいいかもしれないが、はたから見るとかなり不気味だからね」

 根負けしたのか、

 それともただめんどくさくなったのか彼は、しぶしぶ了承した。

 ユタカは、お礼を言いながら慌てて右肩にぶら下がるDーロイドの腕を外した。


「近くに知り合いがやってる喫茶店があるからそこでかまわないか」

 彼は、ユタカに向かってそう尋ねると


「はい、御任せします」と元気よく応えた。


完全な銃刀法違反ですが物語の流れで必要な行動と判断しました。

皆さんはしないでね。

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