act10 一方的なassertion
act10 一方的なassertion(主張)
喫茶店に入るとそこにはペルボがぐったりしていた。
「何さぼっている」
カルウの容赦ない言葉が飛ぶ。
『私もへとへとなんだけど、まだ新人研修と部屋割りの説明がまだだしね』
と思いフォローを入れずにいるユタカ。
「お前の仕事もこなしたから大変やったんや。」
「そのぐらい大丈夫だろ。お前なら」
「おまえな、カヨコちゃんの相手がどれほど大変なんかわかっとるんか」
「ああ、でも仕事させとけば大丈夫だろ」
「簡単に言うなよ」
というと同時にキッチンで作業を始めるペルボ。
その姿を確認するとユタカをカウンターにいざない自身もカウンターに座るカルウ。
「さて、軽食しか出せへんけどサンドイッチと珈琲な。あと嬢ちゃんには部屋の鍵。
最低限度の家具はあるから大丈夫やと思う。ただし、半年ほど何もしてへんから掃除はよろしく」
「はい、それは大丈夫だと思います。」
「掃除はそいつも手伝ってくれるやろ。それから早速やけど明日から新人研修開始な」
「え、あの詳しいことはおふたりに聞けとしか言われてないんですけど」
不安そうな口調で言うユタカに
「えっとやな、ここというかこの建物は千早第三ビルで探偵社と喫茶店、社員寮をかねてんのや。
で、この横にある建物が千早第二ビルで新人研修の会場であり、カルウが管理してるところ」
サンドイッチとコーヒーを二人に出しながらペルボは言う。
「どんなことをするんですか」
「それは、明日のお楽しみ。ていうか手の内言うてまうと他の新人に対して不公平になるから言えまへん。」
と、胸の前で両腕をクロスしバツのマークをする。
「まあ、それ食って、部屋掃除して、明日の朝9時にここに集合してくれればいい。」
カルウがサンドイッチをほう張りながら補足する。
「でも、いいの?」
「大丈夫だ。それに掃除もそんなに手間にはならないはずだ。ペルボがそこまで手を抜いてないだろ。」
「まあな、おばちゃん連中にお願いしたからな。そのへんは大丈夫やろ。」
「そうですか。」
「大変なのは明日からだ。」
「はい、わかりました。残りは明日からなんですよね」
とユタカは疲れた顔をせぃっぱい笑顔に変えて返事をした。
そして、ユタカの長い一日が終えた。
それは、新たな火種を運ぶ風の前兆でもあった。
翌日、
ユタカは大慌てだった。
エプロンを着て子供たちの相手に奮闘していた。
言葉と行動を選び傷つけたず、適度にしつける言葉をいい、遊んだり慰めたりと大忙しである。
そんな状態の若者が後五人ほどいてそれを年配の女性職員が三人ほどフォローしていた。
ここは、千早第二ビル一階にある赤坂村保育幼稚園である。
千早第二ビルは、喫茶店のある第三ビルの真横にあり、一階に赤坂村保育幼稚園と老人介護ホームがあり
二階はその事務所、三階は公民館を兼ねている。
朝、ユタカはカルウに連れられて赤坂村保育幼稚園に来て唖然とした。
これが新人研修とは、と。小さい子供たちのお世話なんてと。
だが、カルウは一言、
「自分たちだってお世話されてきたんだ。次は自分たちがお世話する番だ。これは順番なんだよ。
自分が無関係なんて思っている時点で甘ったれているんだ。それを実感してもらうための研修だ。頑張れよ。」
と。
女性職員に仕事の説明を受け。他の新人に挨拶をし、子供たちに紹介され、
ちびっ子ギャングたちに翻弄されてる
という現状が出来上がりである。
「相手の気持ちを理解するための研修には持ってこいなんだって」
女性職員のチナミさんが合間をぬって教えてくれた。
本当にそうなのかと疑いながらせわしない仕事をこなしていた。
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千早第一ビルは、山にめり込んだビルであり、別名:山ビルと呼ばれている。
その山ビルは一、二階を村役場と千早開発商社で分けて使用している。
三階以上は千早開発商社で使用している。
屋上は解放されており、一般の方も使用できる。
千早第一ビルの駐車場は山の中にあり、村役場と千早開発商社のそれぞれ職員用と
一般の方も使用できるよう有料になっている。使用料は駐車場の維持費として使用されている。
その駐車場にいかがわしい一団を乗せた車が止まる。
赤と灰色の線が入った白装束を着た仮面の男を先頭に
村役場の受付にやってきた。
あからさまに怪しい一団に受付の女性職員も困惑する。
仮面の男は、
「こちらに移住したいのだが」
と質問をし
年配の男性職員が役場の応接室に招き入れる。
いくら何でも怪しすぎる一団だ。
このまま、目立つところで話すのも後々面倒になる。と判断したのだ。
応接室には年配の男性職員が書類を準備し、ソファーに座りその対面に
仮面の男はソファーに座る。
仮面の男の後ろには同じよな白装束を着た人間が6人立っていた。
年配の男性職員の後ろには若い男性職員が立っていた。
「さてと、移住をご希望という事ですがお名前とご職業を教えてください。」
年配の男性職員は、尋ねる。
「そうですな、私は、カボン・バレー。幸福の導きという宗教団体で司祭を務めるものです。」
と、仮面の男は答えた。
年配の男性職員は顔をこわばらせる。
何といっても幸福の導きという宗教団体は、最近問題視されているところだからだ。
あちこちで問題を起こし、暴力沙汰も珍しくないのだ。
「えー、こちらでは村規約に沿って行動していただくことが決められています。
過度な宗教活動や問題行動などは警察沙汰になりますのでご注意ください。」
年配の男性職員は念を押すように言う。
仮面の男:カボン・バレーは、
こちらを見据えて言う。
「それは、どういう意味かな。ことらとしては穏便に話を進めに来たのだが・・・」
「あなたたちの評判は聞いています。ですがこちらとしては一応、対応しておかないといけません。
ここにはこの場所での規則があります。それを遵守していただくことが決まりとなっております。
これに対いては他意はありません」
年配の男性職員は目を細め話す。
「そうか、だが我らには我らのやり方がある。
汝らには意見や決め事に縛られることはない。」
「ですが、こればかりは規則です。もし了承願えないのであれば移住の拒否を行い、ここより退去願うしかありません。」
凛とした対応をする。
「我らに指図するのか。これは神の啓示なのだ。神の決めたことに我らは従い行動している。」
「何を言っているのかよくわかりませんが。」
と質問するが
「わからないのか。神はこの土地を巫女を所望している。それに逆らう事は万死に値する。
質問などするな。考えるな。我らが神の言葉に身をゆだねればいい。それだけでいい。」
「そんなことは、認められません。そんな勝手な言い分は脅迫に相当します。
こちらとしては移住の拒否を行い、ここより退去していただくしかありません。」
「そうか、ならば消えろ。神に逆らう愚か者よ。」
担当者に銃口を向け、ためらわず引き金を引く。
甲高い音が鳴る。
だが年配の男性職員が座るソファーは背もたれ側に倒れていた。
後ろにいた若い男性職員がとっさにソファーの背もたれを後ろに倒したのだ。
そのおかげで年配の男性職員は命を拾った。だが後頭部しこたま床に打ち付けていたが。
仮面の男は、フンっと吐き捨てるようにいい、立ち上がる。
「予定通り、この森林都市の制圧と巫女二人の確保を行え、迅速にな。
教祖様が来るときには面倒ごとをすべて処理するように」
「はっ!」
の2人を残し白装束を着た連中は部屋を出る。
「貴様たちは見ているがいい。これが神の啓示により決められた運命だ。」
冷たい目でそこにいる職員たちを見下した。
村の中では武装集団が建物に侵入し、銃を発砲する。
その姿は、宗教団体ではなく軍隊そのものである。
その中の一団が千早第二ビルに迫る。
千早第二ビルは、幼年組の保育幼稚園と老人ホームを兼ねている。
社員の家族をあずかれるところである。
そのビルの一階の公園に白装束が10人ほどで踏み込んでくる連中に
「あなた方、関係者以外は入らないでください」
と年配の女性職員が立ちはだかる。
「神の啓示の邪魔をするな」
とその中の一人に殴り伏せられる。
そして、その様子を見ていた子どもが
「おばちゃんに何をする」といいながら年配の女性職員を殴った男に殴りかかっていく。
「邪魔だ」男はためらいもせず、子供を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた子供に駆け寄るユタカ。
「子どもに何するの」
とにらみつける。
「神の意志に逆らう貴様らが悪いのだ。すべては神の啓示だ。反論など許されるわけがない。」
「何訳の分からないことを言ってるのあんた」
「やかましい。貴様から浄化されるか。」というとユタカに銃口を向ける。
「まて」と他の男が止める。
「何故止める」
「その女が巫女の一人だ。浄化することは許されていない。洗礼を受けさせなければならない」
わずかな時間で先ほどまでのほのぼのとした雰囲気が消し飛び、緊張感が周囲を支配する。
「あと一人を探せ。逃がすな」
他の白装束が建物の中に入る。
職員たちは子供たちと老人たちを守るように座り込む。
3人ほどビルの二階に上るがすぐに降りてきた。
というよりも転がり落ちてきた。もちろん意識を刈り取られてだが。
他の白装束は階段を見据える。
5人が銃口を向け、指揮官らしき二人がユタカを地面に組み伏せていた。
階段から降りてきたのはピンクのエプロンをつけた若い男性だった。
その男性は、一階の状況を見ると目をすぼる。
「何をしに来た、コスプレ野郎ども」
男性の声が低く響く。
「貴様が責任者か。」
ユタカを組み伏せていた一人が立ち上がり言う。
「そうだが、おい、子供に手を出したのは誰だ」
男性の声が低く圧力が込められ響く。
「神の啓示だ、時岡ナズナを出せ。そして、我らの神に跪け。」
指揮官らしき男は言う。
「誰がガキとおばちゃんに手を出した。」
男性の声が低く大きく圧力が込められ響く。
「貴様の言い分など知らん。神の啓示だ。時岡ナズナを出せ」
指揮官らしき男は男性の放つ圧力に負けまいと言う。
「誰がガキとおばちゃんに手を出した。」
男性の声がさらに低く大きく圧力が込められ響く。
男性の放つ圧力は、指揮官らしき男だけでなく他の白装束も息がしづらくなるほどのものになった。
さすがに男性の放つ圧力に耐えかねたのか指揮官らしき男が
「神の啓示の邪魔をしたのだ。この程度で済んでよかったというものだ」
と声を震わせ、いうと
「てめえか」と一言の後、男性の姿が消える。そして、ドンという音とともに指揮官らしき男が地面に顔面とたたきつけられていた。
そこには、先ほど押し問答をしていた男性の姿があった。
他の白装束達は息をのむ。最低でも10mは離れていたのに一瞬で移動していた男性に。
その姿をとらえることができない自分たち驚きを隠せないでいた。
人間業ではない。と各自が思っていた。
それもそのはずだ。彼らは逆鱗に触れてしまった。カルウ=ブースという人間に残されたわずかに残された感情に。
「てめえらのゴタクなどうでもいい。問題はオレの知り合いに手を出し傷つけたことだ。ただで済むと思うなよ」
威嚇する獣のような圧力に
「ひぃっ」おびえる小動物のような悲鳴を上げる。
それでもまだ気勢を張るものがいた。
「き、貴様。神の啓示の邪魔をする悪魔め。こんなことをすれば神罰が下るぞ。」
ユタカを押さえつけている男が震えを抑えつつ言い放つ。
「てめえは何という」
「神の使徒である我には神のご加護があるのだ。悪魔ごときに・・・」
「そんなゴタクなどうでもいいといった。てめえ自身は何者だ。
神を隠れ蓑して自身の責任から逃れてごまかして他者を踏みにじる。そのてめえの名前は何というんだよ。答えろよ。
それとも怖くて答えれないか。」
「何を、我には神のご加護と啓示がある。正義は我にあるのだ。」
「神の責任して自分は逃げるのか。てめえは逃げるわけか。それならこんな押し問答に意味はねえよ」
ユタカは自分の体が軽くなったことに気づく。
身体を起こし振り向くとそこには自分を押さえつけていた男がカルウに踏みつけられているところが見えた。
顔と行動に凄みを感じるがピンクのエプロンが滑稽さを出していた。
『そのエプロンがなければね。カッコイイんだけどね。』
とユタカは軽く苦笑いを浮かべる。
「他の人は」
と慌てて周囲を見ると
先ほどまで銃を構えていた白装束たちはすでに昏倒していた。
「へっ?」
と間抜けな声を出すユタカに
「あんな物騒な連中を野放しにできるか」
カルウは言い捨てる。
『やっぱり、決まらないね。その服装だと』
と思うユタカであった。
「さてと、悪いけどみんなこいつら縛り上げてくれる。」
とカルウは周りのみんなにお願いする。
安心したのか職員や子供たちまで参加して白装束どもを縛り上げていく。