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陰陽師  作者: K.
9/11

宿敵との激突





「くっ、“神炎祓濯(シンエンフッタク)!”」




麻呼は、走るスピードを僅かに緩めて胸の前で剣印を結んで短い呪言と共に女性目掛けてそれを振り下ろす。



すると、神気を含んだ炎の刃が黒髪の女性目掛けて襲い掛かる。





「甘い!“砕破竜風(サイハリュウフウ)!”」





しかし、麻呼の放った炎の刃は目標に辿り着く前に茶髪の青年が放った風の刃に弾かれてしまった。





「…フゥ…全く、今日はとことん厄介な日になってくれちゃって…」





麻呼は、立ち止まってその様子を冷静に確認してからうっとおしそうに前髪を掻き揚げながら大きな溜め息と共にそう言った。



そして、腰に挟んでいた扇子を抜き取って軽く身構える。





「まぁまぁ、そう言わずに…こんな機会めったに無いんだから、今は楽しもうよ…“風神斬(フウシンザン)風魔(フウマ)!”」





青年は、無邪気にそう言って麻呼に微笑みかけてから勢い良く術を放つ。





「…こんなの楽しめる訳が無い、“霊壁昇華(レイヘキショウカ)神霊壁(シンレイヘキ)”…」





麻呼は、青年の放った術を不機嫌そうに見つめて神力と霊力で即座に盾を築く。





「すごい、術を放つまでのスピードが尋常じゃない…あのタイミングなら普通防ぎようが無いのに」





青年は、すごく驚いたようで大きく瞳を見開いてそう言った。





「さすがはあの人の孫って言うだけはありそうね…でもこれならどうかしら?」





女性は、麻呼にニッコリと微笑みながら再びポケットから黒い人形の紙を数枚取り出してそれを空中に投げる。




すると、その数枚の黒い紙があっという間に巨大な黒い蜘蛛の群れとなった。





「…全く、(ミズチ)百足(ムカデ)の次は、蜘蛛か…」





麻呼は、自分ににじり寄ってくる蜘蛛を見て僅かに表情を曇らせてそう言った。



そして、軽い溜め息と共に装備していた変わった形のナイフを数本蜘蛛の頭部目掛けて投げつける。





神具(しんぐ)!?」





女性と青年は、巨大蜘蛛に突き刺さったナイフを見て同時に驚きの声を上げる。




「“ノウマクサンマンダ・バサラダンセン・ソワカ!”」




麻呼は、蜘蛛にナイフが刺さったことを確認すると不敵に微笑んでからすばやく剣印(けんいん)と最小限に省略した真言(しんごん)詠唱(えいしょう)した。




すると、頭部に刺さったナイフから強い神気(しんき)が放たれて蜘蛛の動きをからめ捕ってしまった。



そして、麻呼が最後に“(メツ)”と叫ぶと巨大な蜘蛛の体は音を立てて崩れてしまった。





「な…」





茶髪の青年と黒髪の女性は、音を立てて崩れていく蜘蛛を見ながらあまりの出来事に言葉を失ってしまう。





「…なるほど、真言の最大の省略、神気の扱い、それに加えてあの戦闘センス…さすがは、あの人の愛孫とでも言うべきか?」





(ソウ)は、麻呼たちから20mほど離れた場所で激しい攻防を繰り返していた。





≪…お前には、関係のないことだ!≫





明は、声荒くそう言って蒼に向かって再び狐火を放つ。





「そうは言ってもあの人の孫だ…多少なりと興味はある」





蒼は、軽々と狐火(きつねび)を避けながら皮肉っぽい口調でそう言って麻呼に視線を向ける。





≪あいつには、指一本触れさせん!≫





明は、蒼に勢い良く飛び掛って鋭い爪で切り裂こうとする。





「さてと、困った…俺は、あの九十九神(つくもがみ)さえ渡してくれれば彼女に危害を加える気は無いのだが…」





蒼は、わざとらしく困ったように重い溜め息をついてそう言った。





≪フン、あの九十九神ならとうの昔に逃がしたさ…今頃は、無事に逃げおおせた頃だろう≫





明は、蒼に向かってざまぁみろという様子で意地の悪い笑いを浮かべた。





「!…なるほど…君たちがここに残ったのは、俺たちの足止めをするためだったのか…これは、少し見くびっていたようだね」





蒼は、少々驚いた様子で感心したようにそう言うと急に表情が豹変(ひょうへん)する。



次の瞬間、白刃(はくじん)(やいば)が明目掛けて放たれる。明は、寸での所で横に飛び退(すさ)って刃を避ける。





≪くっ、急に攻撃パターンが変わった!≫





明は、小さく舌打ちをして再び身構えながら蒼の出方を(うかが)う。




「少し、遊びすぎた様だ…なるべく穏便(おんびん)に事を済ませたかったのだが、仕方ない…」




蒼は、いつの間にか右手に見事な直刃(スグハ)の剣を抜き身で握っていた。



そして、ほんの一瞬、明が蒼を見失った瞬間の事だった。





「急いで九十九神を追わなくてはならなくなった…悪く思うなよ…」





蒼は、血反吐を吐いて前のめりに倒れ込む明を一瞥してそう言った。





≪な…何を?!≫





明は、何が起こったのか理解できずに地面に倒れ込んだまま腹部の切り傷に視線を向けた。





「いい反応だった。即死させるつもりで切ったのに刃が体に届く瞬間に僅かにずれた…だが、十分に致命傷だ。もう動けないだろう」





蒼は、明に背を向けたままで剣についた血を勢い良く振るい落としながらそう言った。





≪……あ、まいんだよ!≫





明は、渾身(こんしん)の力を込めて最大級の狐火を背を向けたままの蒼に向けて放った。



しかし、その狐火を蒼は、造作も無く剣で二つに両断した。





「…その傷で、まだこれだけ動けるとは思わなかった…」





蒼は、本当に驚いた様にそう言って懸命に起き上がろうとしている明を冷ややかに見下ろした。





≪…考えが、甘いんだよ…俺は、まだ死んだわけじゃない…まだ、やれるさ≫





明は、腹の切り傷から血が噴き出すのも気にせずに蒼を鋭く睨み付けて立ち上がった。





「…無駄な事を…そんな体で一体何ができるというんだ?」





蒼は、顔色一つ変えずに明を冷たく見下ろしてそう言った。





≪お前に攻撃を食らわすことぐらいはできるさ…≫





明は、そう言って勢い良く蒼に飛び掛る。



しかし、蒼はそれを軽々と避けて眼にも留まらぬ速さで明の体に再び剣を振り下ろす。





「…それ以上動けば本当に死ぬぞ…」





蒼は、よろよろと立ち上がる明を見て冷ややかな口調でそう言った。





≪へん、上等だ!お前の斬撃なんて、全然効いてねーんだよ!≫





明は、力強く蒼を睨み付けて精一杯の虚勢(きょせい)を張る。





「…見事な心意気だな…」





蒼は、小さく一言そう呟いて剣を構えた。




次の瞬間、蒼と明の体が交差する。





明は、着地するなり体全身から血を流して倒れこんでしまいそのまま動かなくなってしまった。





「…(れい)(りく)!」




蒼が、二言、名前らしい単語を叫ぶと同時に麻呼と闘っていた茶髪の青年と黒髪の女性の肩が大きく震えて一瞬だけ動きが止まる。



その一瞬の間に蒼は、2人と麻呼との間に移動していた。





「!(速い!全く見えなかった…この人かなり強い…)」





麻呼は、真剣な表情で蒼と血だらけで倒れている明を見つめる。





「蒼!邪魔するな!今いいとこなんだから!」





陸と呼ばれた茶髪の青年は、不満気に口を尖らせてそう言った。





「ダメだ…これ以上、ここで足止される訳にはいかない…俺が終わらせる」





蒼は、冷ややかな視線だけで陸を黙らせる。



そして、その視線を麻呼の方にゆっくりと向ける。





「ダメよ!今、あの子を殺したら!!」





麗は、とても真剣な顔で口調荒く蒼に抗議する。





「だから、俺がやるんだ…お前たちでは彼女を殺してしまうからな…」





蒼は、麻呼から視線を動かさずに静かな口調でそう言った。





「…気付かれちゃったんですね」





麻呼は、少し儚げに笑って残念そうにそう言った。





「ああ、だからこそ、ここでこれ以上無駄な時間を使えない…悪いが、手荒に行かせて貰う」





蒼は、抑揚の無い声でそう言って何も持っていない左手ですばやく小さな印を刻む。




すると、まるでそれを合図にするかのように四方八方から眼に見えない風の刃が麻呼目掛けて襲い掛かる。






「うああああぁぁぁ!!」





麻呼は、蒼の仕草が余りに僅かだったため事に気付くのが遅れてしまい、全身に多くの傷を負ってしまった。




麻呼は、反動を支える事が出来ずに地面にガクリと膝をついた。





「…今の攻撃が見切れないようじゃ、身内の敵討ちなど出来はしないぞ…」





蒼は、いつの間にか全身から血を(したた)らせる麻呼の背後に立っていた。





「…ツッ!あなたが…殺したのか?」





麻呼は、苦しそうに息をしながら肩越しに眼だけで蒼を振り返る。





「…俺が、直接手を下したわけじゃない…だが、俺はその場に居た。だからこそ、あの狐は俺の臭いを覚えていた…詳しくは、あの狐に聴く事だな…」





蒼は、右手に握った剣を高く振り上げて抑揚の無い眼で麻呼を見下ろした。




そして、蒼が麻呼目掛けて剣を振り下ろそうとしたときだった、蒼の前に白いものが飛び出して麻呼を庇うように立ちはだかったのだ。





「お前は!」





蒼は、驚きの余り振り下ろそうとしていた剣を空中で静止させた。





雪那(セツナ)!」





麻呼は、自分を庇うようにして立ちはだかる小さな背中を見つめて驚きの声を上げる。




何とそれは、九十九神の雪那だったのだ。





≪麻呼をこれ以上傷つけることは許さない!!≫





雪那は、ぽろぽろと涙をこぼしながら命一杯腕を広げ、声を張り上げてそう言った。





「何で…今まで気配なんて…」





陸は、突如現れた雪那を呆然と見つめてそう呟いた。





「…あの子よ。ここに、札と呪具で何重にも作られた八方陣結界があるわ…」





麗は、崩れた神社の瓦礫に埋まった結界陣を見ながら感心したようにそう言った。





「八方陣結界?なるほど、八方陣結界は、すべての霊気や妖気そして、神気までもを遮断する結界だ…そこに隠しておけばいくら優れた術者でも気付かないというわけか…」





蒼は、途中で止めていた剣をゆっくりと下ろして感心するように麻呼を見る。





「そして、私たちが嘘に惑わされてここを離れてからその九十九神と一緒にここを離れるつもりだったのよ…」





麗は、悔しそうな口調でそう言って鋭く麻呼を睨みつける。





「どうして出て来たのよ!何があっても出てくるなって…」





麻呼は、懸命に立ち上がりながら雪那に強い口調で怒ったようにそう言った。





しかし、その言葉は必死な様子の雪那の言葉に遮られてしまった。






≪これ以上、僕のために関係のない人が傷つくのを黙って見てるなんて事出来ないよ!…だって、麻呼が僕のために傷つく必要なんてないんだもん≫




雪那(セツナ)は、キッと蒼を睨んだまま涙声で精一杯大きな声でそう言った。





「…お前が大人しく俺たちと一緒に来ればこれ以上、無関係な者が傷つくことは無い…」





蒼は、抑揚の無い声で淡々とそう言った。





「!冗談じゃない!どうしてもこの子を連れて行くと言うのなら私を殺してからにしなさい!」





麻呼は、雪那を強く引き寄せ、自分の後ろに庇って鋭く蒼を睨み付けてそう言った。





「…なぜ、その九十九神のためにお前がそこまでする?」





蒼は、麻呼を真っ直ぐ見つめ返して真剣にそう尋ねる。





「…私はね、この子みたいに必死で助けを求めてる霊たちを途中で見捨てるなんてことが出来ないのよ!…お婆ちゃんと一緒で頑固者だから」





麻呼は、苦痛に表情を歪めながら苦しそうにそう言った。





「…わかった、そこまで言うのなら仕方ない、その九十九神は諦めよう」





蒼は、大きな溜め息をついて口調静かにそう言った。





「!…本気で言ってるの!?」





麻呼は、蒼の言葉が信じられずに不振がる様子で雪那をぎゅっと抱きしめてそう尋ねる。





「…もちろん、タダでは無いがな…」





蒼は、一言そう言って麻呼の腹部に剣を突き立てる。




突き立てられた剣は、麻呼の横腹を貫通して剣先が背中の方から見えていた。




蒼は、勢い良く剣を引き抜いてまるで何事も無かったかのようにきびすを返して陸と麗の方に歩き出す。




麻呼は、雪那を離すまいと強く抱きしめたまま剣を引き抜かれた反動で倒れる。





「蒼!!」





陸は、余りの出来事に驚いてとっさに蒼の名を呼ぶ。





「…さすがだな…」





蒼は、陸に肩をつかまれても顔色一つ変えずに一言そう呟いた。






「え?一体何を?」





陸は、嬉しそうな笑みを口の端に浮かべる蒼を見て意味が分からずにそう言った。





「さすが、あの人の孫であの方が目にかけておられる人物なだけはある。剣が突き刺さる直前にほんの僅かに体を動かして致命傷を避けるとは…さすがとしか言いようが無い…」





蒼は、倒れて動かない麻呼を振り返って嬉しそうな声でそう言った。





「蒼!あんたなんて事を!早く手当てを!」





麗は、やっと我に返って急いで麻呼に走り寄ろうとする。





「止めなよ!そんなことしたらただであの九十九神をあげちゃうことになるじゃないか…これが、あの九十九神を諦める代償なんでしょう?」





陸は、麗を言葉で制しながら蒼ににこやかにそう尋ねる。





「え?どういう意味?何を言ってるのよ!今、あの子に死なれたらあの方になんて…」





麗は、立ち止まって困ったように麻呼と蒼を交互に見る。





「安心しろ、急所は外れている…すぐに、彼女を護っている式が駆けつけて手当てをするだろう」





蒼は、抑揚の無い声でそう言ってポケットから真っ白い布を取り出す。





「でも、どうするの?もう時間が無いよ?あの九十九神の霊力に匹敵するだけの品を今から捜したんじゃ間に合わないよ?」





陸は、無邪気に笑ってさほど心配して無さそうにそう言った。





「捜す必要は無いさ…ようは、強い霊力を秘めた媒体があればいいんだ…だったら、十分これで事足りる」





蒼は、そう言って先ほど取り出した布で剣に付いた血を拭いながらそう言った。





「…あの子の血ね…?」





麗は、布についた真っ赤な血を見て楽しそうに笑ってそう言った。





「確かに、彼女の血には膨大な霊力がこもっているけど…」





陸は、少々不満気に口を尖らせてそう言った。





「これ以上、お前たちの批判を聞くつもりは無い…行くぞ」





蒼は、さらに続けようとした2人を鋭い眼光で黙らせて静かに歩き出す。





「これ以上、今の蒼に何を言っても無駄だな…行こう」





陸は、仕方ないというように一度肩を(スク)めて麗と共に蒼の後を追い駆けて歩き出す。





そして、3人は夜の闇が包む竹林の中へと消えて行った。

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