廃村の攻防、再び
「…一体何処まで行ってたの?随分と遅かったけど…」
麻呼は、静かに部屋へと入ってきた明にそう尋ねた。
≪ちょっと、面白いものを見つけてな…ついつい遅くなっちまったんだ、悪かったな?…≫
明は、罰の悪そうな苦笑いを浮かべてそう言った。
「別に、何かあった訳じゃないからいいけど…明は、準備できてるの?」
麻呼は、黒っぽい服に身を包んで腕に荘厳な腕輪をはめながら明を振り返ってそう尋ねた。
≪俺は、特に用意するようなこともないしな…≫
明は、忙しそうに支度する麻呼を微笑ましそうに眺めてそう言った。
「ふーん…よし、そろそろ出かけようか…」
麻呼は、そう言って小型のケースを手に立ち上がった。
「麻呼…今から出かけるの?」
おずおずと声を掛けてきた涼子は、心配そうな面持ちで部屋の入り口から中を覗き込んでいた。
「涼子…心配しないで、少し時間は掛かるけど明日の朝までには戻るから…」
麻呼は、涼子に向き直って優しい微笑を向けてそう言った。
「うん…分かってる。でも、なんだかとっても嫌な感じがするの、麻呼をこのまま行かせちゃいけない様な…」
涼子は、うつむき加減に麻呼を見上げてうまく言い表せない不安を懸命に伝えようとする。
「涼子…大丈夫よ。私は、死んだりしない…ちゃんとここに戻って来るって約束するから…ね?だから、そんなに心配しないで…」
麻呼は、涼子を安心させるように優しく笑ってそう言った。
「分かった。これ、持っていって、時間が掛かるって事は10時までに、戻って来れないでしょう?」
涼子が、そう言って差し出したのは、かわいらしいピンクの鈴がついた鍵だった。
「これ、家の鍵…」
麻呼は、涼子から鍵を受け取って不思議そうに眺めている。
「無いと早く帰って来たとき困るでしょう?それとこれ、お腹が空いたら食べてね…」
涼子は、そう言って一つの風呂敷包みを差し出して麻呼を心配させまいと口元に薄い笑みを浮かべてそう言った。
「これは?」
麻呼は、涼子から風呂敷包みを受け取って不思議そうにそう尋ねる。
「おにぎりとお茶とお水よ…この水は、この近くの山にある神社から汲んで来たの…もしかしたら、何か麻呼の役に立つかもと思って…」
涼子は、風呂敷の隙間からのぞいているペットボトルを指差してそう言った。
「へー、ありがとう…じゃあ、そろそろ行ってくるね」
麻呼は、元気にお礼を言って部屋から出て行った。
そして、急いで靴を履き外に飛び出し、だんだんと薄暗くなっていく辺りを一度だけ見回して、F村目指して走り出す。
≪麻呼!急げ、まもなく日が完全に落ちるぞ≫
明は、麻呼の隣に並んで走りながらそう言った。
「分かってる!!走って行けば何とかなるよ!!」
麻呼は、思いっきり全速力で走りながらそう言った。
≪麻呼!≫
背後から麻呼を呼ぶ声が聞こえる。その次の瞬間、麻呼の体が地面から離れる。
「す、翠月!」
麻呼は、自身を抱えすごいスピードで疾走している翠月を振り返って驚いたようにそう声を上げる。
≪じっとしていろ。このままF村に向かう…≫
翠月は、すっかり暗くなった道の前方を見たままものすごいスピードで疾走しながらそう言った。そのあと、たった15分でF村の入り口付近に到着した。
「すごい、翠月のおかげで予定通りに着いた…」
麻呼は、翠月に抱えられたままで本当に驚いた様子で周りを見回した。
≪さ、行くぞ!早く準備しろ!≫
明は、辺りに敵がいないか用心深く気配を探りながらそう言った。
「うん、すぐにやるからちょっと待って!」
麻呼は、翠月にゆっくりと地面に下ろしてもらいながらそう言った。
≪何をするつもりだ?≫
翠月は、怪訝そう麻呼を見下ろしてそう尋ねた。
「ここから隠行して村の中に入るんだ…」
麻呼は、持って来たケースの中から必要な道具を探しながらそう言った。
≪だが、霊力で隠行してもあの蛟はかぎつけるぞ≫
翠月は、麻呼を心配そうに眺めながらそう言った。
「うん。でも、神力ならどう?」
麻呼は、そう言って翠月に笑い掛けながらケースの中から一つの道具を取り出した。
≪ふっ、相変わらず…無茶をしたがる…≫
翠月は、面白そうに口元を歪めてそう言った。
「別に…そんなつもりは無いけどね…」
麻呼は、ケースを閉めて呪具を片手にゆっくりと立ち上がって自嘲気味に笑った。
≪麻呼、そろそろ行くぞ!≫
明は、じれったそうに声を張り上げて麻呼を振り返る。
「うん、少し待ってね…」
麻呼は、じれったそうに顔を顰める明ににっこりと笑いかけてそう言った。そして、静かに眼を閉じて神経を集中させる。
「“彼の地を治めし神々よ…我らの交わせし盟約の下に汝らの力を我に与えん…”」
麻呼は、瞳を閉じたまま真剣に真言を詠唱する。すると、風もないのに周りの木々がざわめきだす。
≪神気の呪具を使ってもこんなに時間がかかるなんて、神とやらももったいぶりやがって…≫
明は、不服そうに麻呼を見つめて一人でぐちる。
「“汝ら、神の力を彼の盟約の下に我今、ここにて行使する…”」
明が不服そうに長々と愚痴っている間に麻呼の真言の詠唱が終了した。それと同時に麻呼の体から膨大な神気が立ち上る。
≪だが、その分扱える神気は膨大なんだよな…≫
明は、面白く無さそうに目を細めてそう呟いた。
「何、一人でぶつぶつ言ってるの?」
麻呼は、不思議そうに明の顔を覗き込んでそう尋ねた。
≪いや、なんでもない…それより、さっさと隠行しろ。いつまで経っても先に進めないだろうが…≫
明は、軽い溜息をつきながらそう言って麻呼を見上げる。
「それなら、もうしてるよ…これ、隠行の腕輪だって明に教えていなかったっけ?」
麻呼は、驚いたような口調でそう言って、腕にはめている荘厳な腕輪を明に見せた。
≪そういや、前にそんなこと言ってたっけな…たしか、その腕輪自体結構な通力を持ってて、はめてるだけで隠行してくれるんだろ?≫
明は、確認するような口調で麻呼を見上げてそう尋ねた。
「うん、でも使用する霊力なんかははめている術者のものだから、その辺は気をつける必要があるんだけどね…」
麻呼は、無邪気な笑みを浮かべて明にそう答える。
≪さてと…行くか?≫
明は、急に真剣な顔でF村の入り口を睨み付けてそう言った。
「うん、行こう!」
麻呼は、表情を引き締めて力一杯そう言った。
≪我らもお供します…≫
そう言って、麻呼の背後に現れたのは、次代十二神将の螢峯と璃笙、そして、翠月だった。
「皆…でも、この先はとっても危険だよ?」
麻呼は、3人に視線を向けて真剣な顔でそう言った。
≪もちろん、承知の上です!かような所に主だけでは、なお、危険でございます。どうか我らにも…≫
璃笙は、深々と頭を下げて麻呼からの言葉を待っている。
「…分かった。そこまで言うならお願いするよ…」
麻呼は、軽い溜め息と共にそう言って、ほんのり口元に薄い笑みを浮かべた。
≪ありがとうございます…≫
璃笙は、一度、驚いたような顔で麻呼を見上げてから先ほどよりもさらに深く頭を下げた。
「お礼を言うのはこっちだよ。皆、ありがとう…とっても頼もしいよ…」
麻呼は、本当に嬉しそうにそう言ってF村の入り口の方へと歩き出す。
≪麻呼…心配するな…お前には、俺たちが付いている≫
明は、こわばった表情の麻呼を勇気付ける様に微笑んでそう言った。
「うん、分かってる…大丈夫、行けるよ」
麻呼は、明を安心させようと懸命に笑おうとするがよほど緊張しているのか、引きつった笑みにしかならなかった。
≪麻呼、大丈夫よ。心配しなくても、昼間みたいに蛟がぞろぞろと出てきても、私たちがぎったんぎったんにしてやるわ!≫
螢峯は、麻呼を見上げて不敵な笑みを浮かべながら意気揚々とそう言った。
「ふふふ、ありがとう螢峯…おかげで少し気が楽になったよ」
麻呼は、最初、驚いたように眼をぱちくりさせて螢峯を見ていたがしばらくすると苦しそうに苦笑いを浮かべてそう言った。
螢峯は、麻呼の笑顔見るとほっとしたような笑みを浮かべた。
≪じゃあ、先に進みましょう?≫
螢峯は、麻呼ににっこりと微笑みかけてそう言った。麻呼は、表情を引き締めてコクリと頷いてから村の中へと進んでいく。
≪なんだかとっても静かね…≫
螢峯は、麻呼の隣を歩きながら周りを見回して不審がるようにそう言った。
「…そうだね…でも、今のところは、蛟の気配もなくて少し安心かな?」
麻呼は、辺りに気を配りながら大きな溜め息をついてそう言った。
≪まだ、本当に安全かどうか分かったわけじゃない…気を抜くな≫
翠月は、麻呼の右斜め後ろを歩きながらそう言った。
「それは、分かってるよ、この村を無事に出るまでは、けして気を抜くなと言いたいんでしょう?」
麻呼は、再び表情を引き締めながら確認するようにそう言った。
≪だが、ここまでがらんとして静かだと、なんだか拍子抜けしちまうな…≫
明は、けして緊張を緩めずに常に辺りを警戒しながらそう言った。
「確かに、逆に違和感があるよね…本当に蛟は、出てこないかな…」
麻呼は、明に視線を向けてそう尋ねた。
≪ここに放ってある物が蛟だけとは、限りません。けしてお気を抜かれませんように…≫
璃笙は、麻呼の左斜め後ろを歩きながらそう念を押す。
「分かってるよ…気をつけないとね…」
麻呼は、真剣な声でそう返事をしながら暗くてよく見えない村の奥を睨みつけた。
≪…ところで、麻呼。例の男の子って一体何処にいるの?≫
螢峯は、不思議そうに麻呼を見上げてそう尋ねてくる。
「うん、この村の奥に大きな竹林があるんだその竹林の向こうに古い神社があってね、その子はそこにいるよ…」
麻呼は、螢峯に視線を向けて分かりやすいようにそう説明した。
≪じゃあ急いで行ってあげないと…≫
螢峯は、驚いた様にそう言って拳を握り締めてそう言った。
「そうだね…」
麻呼は、そう言って螢峯に優しい笑みを向けた。そのとき、建物の影で黒く大きなものがうごめいた。
それは、麻呼たちの存在に気が付いたのか体を大きくうごめかせて上半身を起こそうとする。
≪止まれ、麻呼!…何かいるぞ…≫
建物の影でうごめくものにいち早く気が付いた明は、急に立ち止まって麻呼を庇うように身構えてそう言った。
「え!?明?どうし…!」
麻呼は、始め驚いた様に明を見下ろしていたが暗い影の中でうごめく多数の気配に気づき体をこわばらせる。螢峯たちも麻呼を庇うようにして身構えてから周りの闇を睨みつける。
≪くそ!気付くのが遅かった…来るぞ!≫
明が、悔しそうに舌打ちをした次の瞬間、建物の影から体長1mほどもあろうかと言う大百足がぞろぞろと這い出してきた。
≪い、イヤー!!何あれ!?気持ち悪いー!!一体どうなってるのよ、これ!?なんなのよー!!≫
螢峯は、大百足を指差して全身に鳥肌を立たせながらギャーギャーと叫んでいる。
「百足、だね…それも、とびっきり大きな…」
麻呼は、口元を引きつらせて百足を凝視したままでそう言った。
≪…趣味悪い…こんな奴ら、とっとと片付けて先に進むぞ!≫
明は、そう言って肩越しに翠月を振り返ってにたりと不敵な笑みを浮かべた。
≪こんな気持ちの悪いの麻呼には近づけさせないわよ!!≫
螢峯は、怒りにも似た声で一言そう言うと鋭く百足を睨みつけた。
≪麻呼は、俺が護る!お前たちは、思う存分暴れて来い!≫
明は、麻呼に尋ねることなくきびきびと独断で翠月たちに指示を出す。
「…“炎華招来、紅炎乱舞…キュウキュウジョリツリョウ!”」
螢峯たちが、明の指示に返事をして戦闘体勢に入るよりも先に麻呼が短い呪文と共に神気の炎を百足目掛けて投げつけていた。
百足は、深紅の炎にその身を焼かれながら苦しそうにのた打ち回っている。
≪ま、麻呼?…どうしたの?≫
螢峯は、僅かに眼を細めて冷ややかに大百足たちを見つめている麻呼に恐る恐る声を掛ける。
「ねえ、こう言うのは、皆でやったほうが早く済むと思うんだけど…何より、私一人だけ仲間はずれなのは嫌だな」
麻呼は、少し寂しそうな表情で螢峯たちを見ながらそう言った。
≪…悪い、麻呼…お前の考えも聞かずに…≫
明は、すごく反省した口調でうな垂れながらそう言った。
「いいよ、分かってくれさえすれば…」
麻呼は、うな垂れている明に暖かな微笑を浮かべてそう言った。
≪麻呼、ごめんね…≫
螢峯は、悲しげな表情で麻呼を見上げてそう言った。
「いいんだよ。分かってくれれば…さぁ、百足をさっさと倒して先に進もう!もちろん、皆でね?」
麻呼は、満面の笑みで螢峯たちを見回しながらそう言った。
螢峯たちは、力強く頷いてそれぞれ表情を引き締める。
「目指すのは、村の奥にある神社!まずは、そこに辿り着くのが何より最優先!他は、ほうって置いても構わない、神社までの道を塞ぐ百足だけを一掃する!!」
麻呼は、声を張り上げて螢峯たちのそう指示を出す。
≪わかった!≫
螢峯たちは、大きな声でそう返事をして各自戦闘体勢に入る。
≪麻呼…≫
明は、麻呼の隣で身構えながら真剣な声で麻呼に声を掛ける。
「?何?どうかした?…」
麻呼は、視線だけを明に注ぎながら不思議そうにそう尋ねた。
≪…けして、無理だけはするなよ…≫
明は、今までにないような真剣な声で麻呼にそう言った。
「…分かってる。十分気をつけるよ…さっきのも、私のことを心配してくれてたからなんでしょ?」
麻呼は、明ににっこりと笑い掛けながらそう言った。
≪…まぁな…だが、お前をのけ者にしたかったわけじゃないんだぞ!≫
明は、弁解する様に麻呼を見上げて真剣にそう言った。
「それも、分かってる…こういった場合、術者は、土壇場まで力を温存しとくのが本当はいいんだよね。でも、やっぱり、仲間外れは嫌なんだ…ごめんね」
麻呼は、百足たちと激しい攻防を繰り広げている螢峯たちに一度視線を向けてから本当に反省した面持ちで明にそう謝った。
≪…いいんだ、謝る必要はない。それがお前の性分なのだから…どうしようもない…≫
明は、麻呼と自分に向かってくる百足に狐火を放ってから麻呼ににっこりと笑いかけてそう言った。
「ありがとう…明…あのね…」
麻呼は、真剣な眼で明を見ながら遠慮深げに声を掛ける。
≪?何だ?どうかしたか?≫
明は、心配そうに麻呼を見上げてそう尋ねてくる。
「…明に、いろいろと聞きたいことがあるんだけど…」
麻呼は、とても不安げな表情で明を見つめてそう言った。
≪…今は、忙しいから、この一件が無事に済んでからでもいいか?≫
明は、再び狐火を固まっていた百足の群れに放ちながらそう言った。
「うん、構わない…別に急いでるわけじゃないから…」
麻呼は、百足たちの視線を戻しながらそう言った。
≪よし。じゃあ、とっととこいつ等片付けて、その古ぼけた神社にいるって言う幽霊に会いに行こうぜ!≫
明は、意気揚々と麻呼を見上げてそう言った。
「うん、そうだね…みんな!全力で村の奥に向かうよ!」
麻呼は、ちりぢりに闘っている螢峯たちにもよく聞こえるように声を張り上げてそう言った。
螢峯たちは、麻呼の声に大きく分かったと答えると自分たちを取り囲んでいた百足たちに凄烈な神気を放って一掃してしまった。
≪…ったく、あいつらも最初からこうしていれば、時間もそうかからねーのにな…≫
明は、螢峯たちの凄烈な神気を浴びて灰となっていく百足たちを眺めて皮肉交じりに大きな溜め息をついた。
≪無茶を言うな…今のように凄烈な神気は、そうめったに出すことが出来ないのだ…≫
璃笙は、自分の肩に手を置いて首をコキコキと鳴らして麻呼たちに歩み寄りながらそう言った。
≪そうよ。でも、何で今、あんなに強い神気が出たのかしら?≫
螢峯は、不思議そうに首を傾げながらそう言った。
≪…麻呼のおかげだろう…≫
翠月は、すっかり灰となってしまった百足たちを一瞥してからそう言った。
「え?私の?私何もしてないけど…」
麻呼は、思い当たる節がなく難しい顔をして考え込む。
≪…そんなの、別にいいじゃねーか。取り敢えずこれで、ようやく先に進める…先を急ごうぜ≫
明は、嬉しそうにそう言って麻呼を見上げる。
麻呼は、そうだねっと嬉しそうに明に笑い返して村の奥を睨みつける。
≪麻呼、行きましょ!≫
螢峯は、麻呼の手を握って力強くそう言った。麻呼は、見上げている螢峯に力強く頷き返して村の奥を見据えたまま歩き出す。
≪…今の、お前はどう思う?≫
明は、螢峯の手を握って毅然と歩く麻呼の後ろ姿を見ながら翠月にしか聞こえないくらいの声でそう言った。
≪…間違いなく、麻呼の力だ…ほんの一瞬だけ、封印された力の一部が現れたのだろう…≫
翠月は、明に視線を向けずに小声でそう答える。
≪だが、封印が解除されるのは、まだ先のはずだ、なのになぜ…≫
明は、真剣な表情で翠月に問いかけるような口調でそう言った。
≪…あくまでも推測だが、麻呼の力が、封印の力を上回りつつあるからなのか、麻呼が、神気を扱っていたからなのか…そこまでは、我々では、判断しかねる…≫
翠月は、深刻な表情で麻呼を見つめてそう言った。
≪…まあ、どちらにしろ、封印が解けかかっていると言うのは間違いないな…≫
明は、僅かに目を細めて何かを確認するようにそう言った。
翠月は、そうだなと短い返事をしてそれっきり口を閉ざしてしまった。そして、麻呼たちは、周りに敵がいないか気を配りながら村の奥に進んで行った。
そんな、麻呼たちの行動をすべて見ていた3対の瞳が、人気のなくなった村の入り口付近に不意に現れる。
「…あれが、右帥 未砂の孫?」
何処からともなくそう声がして3対の内の一対の瞳が、面白そうに麻呼たちが消えて行った方角を見て眼を細める。
すると、今まで眼しか無かった場所に次第に口や鼻が浮かび上がり、最後には長い黒髪の若い女の姿となった。
その後を追うように残り2対の瞳の鼻や口が浮かび上がり、黒髪の若い長身男と茶髪のボーイッシュな男の姿となった。
「そう、あれが、“現代の天才陰陽師”と歌われた右帥 未砂の唯一の孫だ…」
黒髪の長身男は、冷たい氷のような瞳でそう答える。
「やっぱり、あの人の孫ってだけはある、さすがだねー、俺たちの放った式、ことごとく灰にしてくれちゃって…」
もう一人の茶髪の男は、ケタケタと可笑しそうに笑ってそう言った。
「でも、あの子をとられるのは、不味いんじゃない?」
黒髪の女は、長い髪をうっとうしそうに後ろに払いながら表情を曇らせてそう言った。
「…あれは、俺たちの獲物だ…誰にも渡しはしない…」
黒髪の男は、冷たい目を僅かに細めて口元に不敵な笑みを浮かべてそう言った。すると、建物の影で一際巨大な影が、男の声にあわせるように大きくうごめく。
そして、麻呼の向かった神社のほうを見つめて三人はそれぞれ口元に歪んだ笑みを浮かべてから、まるで闇に紛れるように姿を消した。