第1話 到着
さも異界の者が地底から空へ唸りを上げたようだ、と心が痒くなったのは、あの街の異様な空気感に、早くも心が呑まれそうなっている為か。
ともかく、汽笛は鳴った。
しばらくすると、車輪が線路を噛む、甲高い音が辺りいっぱいに反響しながら、徐々に、徐々に、そして停止した。
さて、降りようか。少しばかりの手荷物と気概は持った。
レインコートはもう着ている。
と、そこで足を止める。
呆気に取られた、ここまでの無音か。
感嘆、全くの沈黙である。
汽車からの喧しさが取っ払われた途端に、何一つとて、音が消え失せた。
それなのに、そこは依然として街の体であった。
石畳はすぐそこにある。開いた客車の出入り口からすぐそこに見る事が出来る。だがしかし、音が無いだけでここまで不安感が煽られるのだ。まるで、その石畳に足を付ければ最後・・・、とでも言わんばかりの空気感である。
だが、それもこれも所詮は自分の気の持ちようなのだ。そう鼓舞して踏み込み、そして聞こえた床の軋む音が心を宥めた所で、決断というものの大切さを無用に思い知った。
コツンと、靴が石畳を打つ。一つため息をついた後、襟を正した。
態と靴を躙らせ、細かい砂利が靴と擦れる音を聞いて、少しばかりの現実感を街に補給し、足の運びの助けにする。
さて、アレは見つかるだろうか。




