chapter 1-2 帰郷
ファンは馬車のがたつく窓を力一杯開けながら、気になっている疑問を口にした。
「どうして馬車にいるんですか、グエンさん?」
ロッシュの国都ガリシアは昼下がりの陽光に包まれている。
街の擦り切れた石畳の上を忙しげに荷馬車が行き交い、道端で店を広げる商売人達の物売りの声が溢れかえっている。昔ながらの赤茶色の煉瓦で造られた古い建物と、蒼石から精製された建築資材で造られた新しい建物が混在する街に、気持ちいい初夏の風が通りを吹き抜けていく。
自然には滅多に雨が降らない「浮かぶ国」だが、領主の城に隣接するガリシア周辺は蒼石を使って天候を管理されている。そのため本格的に夏の始まらないこの時期は過ごしやすい。
整った顔に掛かる深紅の髪をかき上げながらグエンダは眉を顰めた。
(男の癖にごちゃごちゃと、うるさいわね……)
平然とファンの向かいの席に陣取っているグエンダは、いかにもやれやれという感じで肩をすくめると、はいと乗車前に購入しておいた紅茶の容器をファンに手渡す。
「こんな美人が退屈な旅に同行してあげるっていうのにつれないわよね」
荷物を積み終わり、乗合馬車は乗客でごった返す駅舎を滑り出した。
馬車を牽く馬の蹄の音が煉瓦の壁と白い石畳との間で跳ね返り、心地よい残響を生んでいる。
蒼石による輸送機関が制限されている『浮かぶ国』において、民衆の主な交通手段は馬車だ。主要な町から町へは毎日数回の路線便が運行されている。
ファンの故郷、国境沿いの町ナバラに向かう、色褪せた馬車に乗る乗客は疎らである。
二人席が向かい合わせになる四人用の前部座席を、防護服を脱ぎゆったりとした上着の長い丈から太股が覗くグエンダと、見栄えのしない地味な私服に着替えたファンの二人だけで占領している。背もたれで仕切られただけで、同じ造りの後部席には中年の夫婦らしい男女二人が並んで座っていた。
ファンは礼を言って受け取り一口含んで喉を潤してから、全く解消されていない疑問を再び口にする。
「てっきり隣の馬車に乗ると思ってたのに……。確かに帰る方角は同じですよ。でも、グエンさんの故郷に帰るにはガリシアから直接行かれた方が……。ナバラには観光するようなものは無いです……よ?」
相手の意図が掴めなくてファンは、言葉に力が無く語尾も途切れがちだ。
(ナバラに何も無いのは知ってるわよ)
グエンダは心の中でにたりと笑った。
ナバラは、粘土で作る日干し煉瓦と認定者集団が主な産業の地味な町だ。
粘土は数少ない『浮かぶ国』に残された資源で、粘土の採取でナバラは有名であった。しかし粘土で作る日干し煉瓦は安価だが見た目が悪く、近年好景気のロッシュでは高価でも見た目の良い蒼石を原料とする建築製材に押され気味であった。そのため、ナバラの煉瓦職人達は不景気の波に沈んでいる。
反対に、認定者集団は好景気に沸いていた。認定者集団は落ちた島の蒼石施設を何百年も守っている敵対的存在を掃討して、管理局が円滑に蒼石の回収が出来るようお膳立てするのが仕事である。島が多く落ちている近年のロッシュでは、認定者集団の数が足りないほど仕事が多い。
探るような目付きをファンに向けながら、一呼吸ためて澄んだ声で宣言する。
「あたしは一目、エレナちゃんを見たいのよぉ!」
「ぶっー」
ファンは口にしていた紅茶を、窓の外に盛大に吹き出して、むせ返ってしまう。
咳き込むファンの背中をさすりながら、グエンダは生暖かい視線で観察する。
「グ、グエンさん? 本当に会うつもりなんですか? 彼女は幼馴染みというか、家が近所のエレナに勉強を教えてあげていただけの関係です。いや、なんですか、その目は? ですから恋人という関係ではなくてですね……。ってあれ?」
ファンは口の周りを紅茶で濡らしたまま、必要以上に慌てふためいて支離滅裂だ。
(ほんと、情けない男よね……)
グエンダは心の中で弟分の醜態にため息をつきながら。
「まあ、遠回りって言っても、馬車の乗り換え一回位の違いだしね」
あからさまな感想は心の中のだけにしまい、当たり障りのない内容を口にした。
ハンカチを取り出して口元を拭い、やっと落ちついたファンがたずねた。
「でもグエンさんの出身がノルトラインなのは知ってましたが、まさかオーデンだったとは驚きました」
ノルトラインはロッシュの北側に位置している。ロッシュ同様に島の牽引を許された最古の領国の一つである。
グエンダの故郷のオーデンはノルトライン国境のロッシュ側に在った。同じ国境同士とは言っても間に緩衝地帯を挟むので、ナバラからオーデンまでは順調にいっても駅馬車で半日ほどかかってしまう。
『浮かぶ国』では、島の牽引を認められた国と国との間に緩衝地帯が設定されるのが通例である。これは領空に入った島を牽引する権利が何処の国にあるのかをはっきりさせ、蒼石収集を巡って国同士が争うことを回避するのが目的だからだ。便宜上、干渉地の帰属は皇王家の領地となっている。しかし大部分は住む者も居ない荒れ地でしかない。
少しでも多くの島を確保するため、管理局は島が領空に入ったら即座に牽引を開始する。その際、居住地域が少なく、掃討の際に近隣への影響が小さい国境付近に落とされる島は多い。故に国境地帯の町には認定者集団が多く、ナバラ、オーデンも例に漏れない。
「生まれは皇都だけどね。赤ん坊の頃に移り住んだらしいから、ぜんぜん覚えてないのよね。だから、自分では生粋のオーデン子って思ってるわ」
「そうだったんですか。皇都には行ったことが無いんですが、オーデンへは何回か行った事がありますよ。特に初めて行ったときは、見たことがない色々な機械があって驚いたのを今でも良く覚えてますよ」
昔を思い出したファンが懐かしそうに細めた目は、どことなく寂しそうでもあった。
オーデンが属するノルトラインは『浮かぶ国』の領国の中でも一、二を誇る工業国である。独自の技術で造られた工業製品は有名であった。ファンは行商人をしていた両親の商品の買い付けに同行して何度が訪れたことがあった。
「帰るって言っても、すぐに戻らなきゃいけなし、まー、あたしと違ってお堅い両親だから、特に会いたいって訳でも無いんだけど……。今回は他の用事もあるし――」
明るく話すグエンダだったが、急に声をひそめて続けた。
「――それに、お城でのんびりっていう訳にはいかない感じだったしね……」
珍しくグエンダの歯切れの悪いせりふに、ファンも心配そうに相づちを打つ。
「確かに、嫌な感じでしたよね……」
(ほんとにね……)
心の中で同意しながら今朝の出来事を思い出す。
――城に戻って朝食を取っていた二人に言い渡されたのは、意外にも来週初めまで三日間の休暇を出すので、城から離れろとの事実上の命令であった。教えられた理由はロッシュ一族が多忙なためと伝えられた。
(部外者は目障りだから、休暇やるからどっか行けか……)
丁寧だが小馬鹿にした態度の侍従長は二人に、旅費も負担するから一度故郷にでも戻ったらどうかと提案し、遠回しに遠くへ行くように要求した。
(あたしが居たら不味いような、きな臭い会議で警護を外された事は何回もあったけど……。まー、休暇はありがたいから、別に詮索しなくてもいいんだけど、今まで会議など出たこともない、ミリアムまで関係するのは気になるけど
……)
一瞬、領主の一人娘ミリアム・ドナ・ロッシュの姿が脳裏をよぎった。
一年前ファンとの初顔合わせの際、淡く頬を染めて腰まである手入れの行き届いた栗毛を持ち上げ、照れ隠しに手元で巻き毛を作り、まともにファンの顔を見ることが出来ない貴婦人というにはまだ早い愛くるしい少女。
(普段は気難しい子なだけにビックリしたはね……。あれを一目惚れって言うのかな? ……そういえば、幼馴染みのエレナってどんな娘かな…………って、これが息子の恋人が気になる母親の気持ちってやつ!? うわぁー、最悪……)
グエンダは自嘲気味に軽く拳で頭を叩く。
車輪が石畳の上を転がる心地よい音を聞きながら、あれこれと妄想していたグエンダの視界に、三百メトルを超える大型輸送船の船体が入ってきた。
銀色の船体に陽の光を反射させ、澄み切った空にのんびりと浮かんでいる。輸送船はガリシアの空港に着陸しようと、ゆっくりと高度を下げ、馬車の方角へ向かっている。しばらくすると馬車は輸送船の陰に飲み込まれ、周囲の景色が色を失っていった。
「ねぇ、今週に来た輸送船って何隻目?」
グエンダは窓枠に肘を着き、窓から入ってくる風に気持ちよさそうに深紅色の髪を遊ばせながら、ぼんやりと通り過ぎていく輸送船を眺めている。
重量がある工業物資に関しては、蒼石からの精製が各国で行われていた。しかし、食料品や軍需品の精製方法に関しては皇王家が独占している。そのため、皇王家から現金で購入するか、蒼石を皇王家へ上納するかして、人間が生きていく上で欠かせない水や食料を定期的に受け取る必要があった。皇王家からの物資を止められてしまえば、どんな大国であろうと一ヶ月を持たずに崩壊してしまう。
この制度は、『浮かぶ国』における皇王家の支配体制を盤石のものとしている。
「確か……、今週は……五日で三隻目ですね」
質問されてファンは顎に手をやり少し考えた後に、律儀に正確な答えを口にした。
「多いわね……」
三百メタルを超える輸送船の積載量であればガリシアの人口が必要とする水の十日分ほどを輸送できた。実際にはガリシア周辺の都市の補給分や水以外の食料品も運んでいるので、ガリシア周辺地域の補給としては四日に一隻の割合で皇王家からの補給があれば日常生活に支障がでることはない。
「それだけ蒼石の収集が上手く行われている証拠ですよ。喜ばしいことじゃないですか」
ぼやっと空を見やるグエンダに対して、身振りを交えてファンは熱心に説明を続ける。
「諸島管理局の担当官の話では、この調子で島の落下数が増えれば十年に一度の豊年だそうです。お陰で在野の認定者集団や生産者組合も随分と潤っているようですよ。浮遊紀五一二年度のロッシュ中間予測――」
だが、ファンの熱心さは、グエンダに別な疑問を呼び起こした。
(管理局か……。確かに確実でご立派な仕事だけど。そんなにも素晴らしいものなの?)
ファンに出会って暫くたってから、幾度無く繰り返してきた疑問であった。
一国の浮沈をも左右する管理局の仕事は、綺麗事だけでは終わらない。
表からは見えない所では、欲望をむき出しにした非情の世界であることを、認定者として暮らしてきたグエンダは肌身に染みて承知している。
命を賭けて稼ごうとする認定者と、彼らを駒にして政策を実行する管理局の担当者。
(学生に毛が生えた程度の甘い考えでは潰れてしまう――)
「――ですから、ロッシュも完全循環型水蒸気機関の導入を検討する事が――」
ここぞとばかりに額に汗を浮かべるほど熱中してファンは知識を披露し続ける。
しかし、ファンが熱中すればするほどグエンダの危惧は深く、重くなっていく。
子供のように楽しそうに話すファンの顔をみて、グエンダは確信する。
(この子は、管理局には合ってない……)
グエンダの考えは、友人として過剰な心配なのかもしれない。
でも、だからこそ本気で心配してしまう――
暢気に講釈を述べるファンに焦りにも似た苛立ちが募ってしまう。
上の空のグエンダを、とがめるようにファンが顔を覗き込む。
「――って、グエンさん、聞いてます?」
ファンの小言を言う態度に、一瞬にしてグエンダの表情がこわばる。
(人の気も知らないで!)
紅茶の容器を力任せに握りつぶすと、窓から外へ乱暴に投げ捨てた。
「そんな事が楽しいわけ? それがそんなに大切なの?」
心配な気持ちとは別に、思わず嫌みが口をついて出てしまった。
「自分から聞いたくせに……」
グエンダの反応に戸惑った表情を浮かべながらも、ファンはむくれて口を尖らせる。
ファンの表情にグエンダのもどかしさはさらにつのる。
「管理局に入る為はといえ、ミリアムのお守りも大変よね」
「――っ、ダニ様のお相手も大変そうですがね!」
ファンも何時になく苦い言葉を吐き捨てる。
ミリアムのことで終始からかわれるファンだが、実はグエンダも似た状況である。
ロッシュ家の嫡男ダニ・ドン・ロッシュの女癖が悪いのはロッシュでは有名である。ロッシュの領民の下品な冗談にはダニがよく登場する。その中にはグエンダの器量に引っかけて、彼女を寝台警護担当などと揶揄する話もあった。
そして、グエンダがその噂を気にしていることを、ファンは知っていた。
「あんなエロエロな奴だと知ってたら、契約しなかったわよ!」
痛い所を突かれたグエンダは早口に捲し立てた後、ファンの視線から逃れるように顔を背けた。
ファンも不用意な発言に気付き、下を向き唇を噛んでいる。
意地を張り合った二人の間には、乗り込んだ当初のほがらかな雰囲気は消え去っていた。
(やっちゃったな……)
小さく溜め息をつきながら反省する。
ふと視線を感じてグエンダは振り返ると、後ろの乗客からの非難するような視線とぶつかった。
ロッシュはそれほど忠誠心が厚いお国柄では無い。しかし、蒼石の収集が順調で生活しやすい今の状況では、民衆の不満は少なく支配者であるロッシュ一族への信頼は非常に高い。後部の乗客のようにロッシュ家を愚弄するような話を咎める人は多い。
乗客の視線にはファンも気がついたようで、二人は慌てて取り繕うようにわざとらしく咳払いをし、窓の外に視線をそらす。
気まずい空気を残したまま、馬車は中心部を離れていく。
下町に入ると、屋根に蒼石の蒼を配し、剣と島を意匠化した紋章を高々と掲げるセラス教の集会所の他には大きな建物は見当たらず、不揃いな日干し煉瓦の家屋が軒を並べている。
セラス教は元皇王家の一員であったセラス・セヴァーンが唱えた『生きる事とは戦いである』を教義とする宗教組織である。現在では『浮かぶ国』の全土で、信じられている唯一の信仰と言っても良い。セラス教が創設三百年足らずで多くの信者を獲得できたのは、蒼石を用いる高額な外科治療が、信者は安く受けられるのが最大の理由である。
不意に、馬車の車輪が石畳の段差で跳ねて、車体が大きく揺れ馬が高く嘶い(いなな)た。
その時を待っていたかのように、気まずい雰囲気が破られた。
「――グエンさん」
「ど、どうしたの?」
虚を突かれて珍しくグエンダが慌てた。
大きく息を吸い込んで、ファンは深く頭をさげる。
「さっきは失礼な事を言いました。申し訳ありません」
(やっぱり、すごく不器用だわ……この子)
あまりに真っ直ぐな許しを請う言葉に、思わずグエンダは座席の中で後ずさってしまう。
「こっちこそ悪かったわね」
ごめんねとグエンダは自然に頭を下げた。
素直な謝罪にファンの表情が柔らかくなる。
「あはは、照れくさいわね」
やや赤みを帯びた頬に手を添えながら、誤魔化すように言った。
そして今度は一転して、グエンダが表情を引き締めた。
「グエンさん?」
「ファン、さっきは悪かったわ。でも……」
一瞬、言葉に詰まった後、覚悟を決めたように続けた。
「……でも、少し聞いて欲しいの。管理局はあたなが考えているほど甘い所ではないわ。悪いけど、ミリアムの子守とじゃ比べようがないほど、ドロドロとしたとこなのよ。あんたの頭が良いのは知ってるわ。けどね、しっかりとした自分の考え方、……いえ信念を持たないと潰れるわよ。管理局に入ったはいいが無事に続けていけるのか、少し心配なのよ……」
一気に心にあるわだかまりを吐き出した。
しばらく考えた後、ファンは偽らない気持ちを口に上げる。
「有り難うございます。頼りない男なのは自分でも痛いほど解っています。……でも、大学の仕事を辞めてまで手に入れた絶好の機会です。ここで諦めたりしたら私には何も残りません。それに――」
今一度、自分の中の覚悟を確かめるように言葉を止める。
「――私なりに覚悟は決めているつもりです」
ファンは静かに、しかしはっきりと言い切った。
ミリアムの専任教師になる前にファンはガリシアにある上級大学の助手の職にあった。専任教師の仕事に応じる際に、担当の教授からは引き留められていた。その時に教授は大学には席が無くなるので、同じ職には戻ることは出来ないと警告していた。
大学に長くいる教授は短期間で多くを得ようとして失敗した若者を多く知っていた。
瞬間、二人の真剣な視線が重なり、そして別れる。
グエンダは大袈裟に天井を見上げて肩をすくめてみせた。
「あーあー、ほんと役人になっちゃうのね。すじが良いだけにもったいないわよ」
「もう、勘弁してください。筋肉の付き方を見れば嫌でも実感できます。グエンさんのお陰ですよ本当に感謝しています」
ファンもわざとらしく服を捲り、腕に力を入れて力こぶを自慢する。
二人はお互いの顔を見合わせて笑う。
あったかな空気が座席の間に戻ってくる。
「でもこうやって、話せるのも、もう少しですね。寂しくなります……」
しみじみとファンは述べた。
「そうね、あたしもあと一ヶ月ほどで護衛の契約が切れるしね」
「その後はどうなさるんですか? 今の仕事以上に、条件の良い仕事があるとも思えないのですが?」
少し身を乗り出して、心配そうに上目遣いで尋ねた。
グエンダが護衛の契約を更新を希望しないのは、普段の言動から簡単に推測できた。しかし、認定者は生きていくだけで費用が膨大に掛かる宿命であり、グエンダの過激な振る舞いの多くが、駆け出しの頃にお金の事で苦労したためであることをファンは気遣った。
グエンダは心配ないと手の平を振りながら、笑顔で答える。
「オーデンに戻ったら、前に世話になってた認定者集団のやっかいになるつもりよ。詳しくは聞いてないけど、あたしが居た頃の古株の面子は独立して、人数が減ったから構成員を集めるらしいのよね。まー、駆け出しの時よりはましな条件を貰えそうよ。実は、今回は親よりもそっちに挨拶したくて帰るようなものだし。危険は増えるけど、稼ぐには認定者集団は良い商売だしね!」
日常の言葉遣いからは信じられないほど、人付き合に関しては義理堅いグエンダである。
認定者集団という名前から、構成員全員が認定者と思われがちだが、規定の上では最低一人以上の認定者が加わっていれば認定者集団として認められる。勿論、複数の認定者が所属する認定者集団の方が純粋な掃討力が向上するのは事実である。しかし、維持費などの面から少数の認定者と強化を受けていない一般人で活動する認定者集団も珍しい存在では無かった。
グエンダは鞄から新しい容器を取り出して、豪快に半分以上を喉に流し込んでからたずねた。
「街を抜けたから、あと四時間位だっけ?」
「ええ、着く頃には夜になってますね。」
残りを一気に飲み干して、突然思い出したように、にやっと笑った。
「あーあー、私も空中浮遊車で帰りたいわ。それなら十分ほどで着くのに!」
今朝の件がまだ頭を離れないようで、ねちねちと嫌みを言う。
「それこそ蒼石の無駄使いですね」
まともに取り合わずやれやれと肩をすくめた。
グエンダは軽くファンの頭をこづき、やけくそ気味に切れた。
「うっさい、真面目な話して疲れたから、あたしはしばらく寝る」
「……わかりました」
ファンは笑いながら頭をさすった。
馬車はとうに市街地を抜け、先に広がるのは雲一つ無い澄み切った空と茶褐色の乾いた大地。その中に、踏み固められて濃い色に変わった道が一本、何処までも真っ直ぐに続いている。
色々と変更していたら「序」が長くなったので分けました。
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