転送装置でお見送りしてくれるらしい。
出て直ぐにあるのは綺麗に整えられた部屋だが、家具はぼろぼろで壁は石材、地面は土で、まだ洞窟という名残はあった。
ふと、思った事があったからそれを如月に聞いてみる。
「そういえば、よく俺の事を盗掘だと思わなかったな。」
それを聞いた如月は、確かに、と言いたげに一つ頷いてから、少し笑った。
「寝てるのを起こされて、それで盗掘だと思うやつがいるかどうかの問題ではあるけどな。
もしかして、盗掘だと思われたかったか?」
そう言いながら、如月の手の中に不穏な空気が流れたから慌てつつ、しかし表面は笑いながら、そんなことあるわけないだろ?と返した。
「なにせ、盗掘だと思われて殺されでもしたら、元も子もないからな。」
そういいながら、部屋を出ると普通のダンジョンでよくある石の壁と、土の床、木の天井の通路に出た。
「こっちだ。」
そう言われるがまま後を追うと、土で覆われていて出られなくなっていた。
「あー、まじかー、古代遺跡だぞこちとら、わかってるのかー。」
全て棒読みだが、逆にそちらの方が呆然とした雰囲気を醸し出していた。
「そりゃ、この遺跡は既に盗掘済みとして埋められたから、森の中だったからあれだけど、そりゃそうなるよな。」
そう俺の知っていることを言うと、溜息をつくような肩の上げ下げした後に、何故かつい先ほどと同じ質問を俺に投げかけてきた。
「おいお前、家がどの辺りにあるか、教えてくれないか?」
どのあたり、というのが違うところだが、おおむね質問文が同じだ、それについ先ほどと同じ反応を返してしまう。
「へっ俺の家か?」
「今から空間を繋ぐから、教えてほしい。」
くうかんをつなぐ……空間を繋ぐ!?高等魔法どころか、下手したら国家級の魔法だぞそれ!
そうびっくりしていると、如月は体を反転させて、また歩き出した。
「それは、寮の前ってことでいいのか?」
そう、何でもないように質問すると、彼はこちらを振り向いて
「別に、部屋の中でも大丈夫だが?」
そう苦笑に近い顔をした。
「そ、そうなのか……じゃあ、
フォーラス能力者大国、城下町南西地区、光の集団ギルド近く、フォーラス能力者学校の男子寮だ。」
そうやって俺の住んでいる所を答えると、如月は難しい顔をした。
「結局どこなんだ?そこ。
ここから近いのか?」
あぁ、場所がわからなかったのか、納得。
「ここからはまぁまぁ近いと思うぞ?」
そんな会話をしていると、先ほどの部屋よりは狭いが、ほどほどに広い空間に出た。
その空間には譜面台?みたいな太い設置型の足が付いた台が部屋の端にあるだけで、それ以外に目ぼしいものがない、因みに、光は壁に着いた光る何かから出ていて、部屋全体が見渡せる、あれって結局何なんだろう。
如月は、なんだか譜面台?みたいな台に近づいて、つい先ほど聞いたことを俺に問いかけてきた。
「さて、今一度聞くけれど、お前の名前はなんだ?」
「へっ?……しんどうかげりだけど。」
疑問符を頭に浮かべながら答える。
「それじゃ、神道影理、汝の行きたい場所はいずこか。」
「…………フォーラス能力者学校男子寮、だけど…………。」
そう言うと、その言葉に反応したのか譜面台が光り出し、何もない空間に小さな球体が浮かび上がったと思ったら、薄く伸ばされ、そこに俺の住んでいる男子寮の玄関が映し出された。
それと共に、部屋の床に光る魔方陣が浮き上がった。
「おぉ、映し出された。」
俺は、譜面台みたいな装置の近くによりそう感嘆の声をあげた。
「さて、ここで大丈夫か?」
「あぁ、ここで間違いない。」
彼が手を装置にかざしながら聞いてくるのを頷くことで肯定する。
そこで、はたと何かを思いついたように顔が真顔になった如月が、俺に話し掛けてきた。
「なぁ、神道。」
「なんだ?如月。」
「また、ここに来ること、いや、来たいと思うか?」
「なんだ?いきなり。」
本当にいきなりだな、正直驚いた。
それが顔に出ていたのか、如月は唐突に説明を始めた。
「俺の事をお前は起こした、そして、俺は今現在この世界がどうなっているかを知らない。
だから、影理、お前にこの世界の事を教えてほしいんだ。」
おい、まるで契約したからこの世界を教えるのは俺の役目と言いたいのだろうか。
別にいいけれども、正直俺はこの辺りにある店はあまり知らない、フォーラス能力者大国には勉強の為に移住してきたから、日は浅くはないが、学校近くしか知らない。
おまけに、俺と一緒にいたら確実にカツアゲに遭うからあまりおすすめはしない。
「もちろん、お礼はする、例えば、昔の魔法とか、そんなものだ。」
それを聞いた俺は笑いながら見当違いな答えをしてみる。
「それってつまり、友達いないからいて欲しいってことか?」
そう返すと、すぐさまそれを
「そうなんじゃない、ただ、誰かにこの世界の事を教えてほしいって言っているだけで……」
と如月は否定するが、ニュアンスが来てほしいと言っているようで、思わず笑いながら茶化してしまう。
「あはははっそうだな、それじゃ、今度の休みにここに来てみるよ。」
そう答えると、悔しそうな、だけど恥ずかしがりながら喜んでいるようにも見える。
「くっそ、その言葉覚えているからな!…………それで?男子寮の何号室だ?」
そう言われたから、少し焦る。
「そこまで送らなくてもいいんだぞ?」
「いいんだよ、それどころか、そっちの方が都合がいいんだ。
お前の部屋に陣を敷かせてもらうからな。」
そう言われても、プライバシーってものがあるからなぁ。
「うーん、それはちょっと…………」
拒否の意を相手に示しが、相手はひるまない。
「俺はそっちにいかない、お前は直ぐにこっちに来られる、何が悪いんだ?」
そうやって、頭に疑問符が相手には浮かぶが、俺としては迷惑な話である。
「いやー、そっちに悪いし、初対面だろ?」
そう俺は拒むが、どうしても俺の部屋に陣を敷きたいのか、俺にくいつく如月。
「正直、寮の入り口に双方向の陣を敷く方がやばいって。」
そうやって問答を続けて結局折れたのは俺の方で、
「はぁ、わかったわかった、それでいいから。
だけど、来るのは今度の休みだからな?」
両手をあげて降参のポーズをしながらそう言った。
「よっしゃ!」
本当にうれしそうにガッツポーズをする如月に、精神年齢がいくつか聞きたくなったが、そこをぐっと抑えて、俺は条件を提示した。
「だけど、なるだけ接触しないこと!いいか?」
言うと「わかったわかった」という気のない返事だけが返ってきた。
「それじゃ、魔方陣の上に乗ってくれ。」
「はいはい。」
俺が魔方陣の真ん中に立ったことを確認した如月は、俺に最後と思われる質問を投げかけてきた。
「しんどうかげり、汝の望む場所はどこだ。」
今度は俺の部屋の場所を答える。
「俺が望むのはフォーラス能力者学校、男子寮、4階、405号室、エレベーター、階段から見て右、5部屋の場所だ。」
そう言うと、相手は魔方陣の近くに歩いて来て、魔方陣に手をついた。
「場所を特定した、これより転移を始める。」
如月が言葉を発した後にはたと気が付いたことがあった。
「どうやってこっちに来ればいいか、聞いてなかったな。」
そう言うか言わないかの時に視界が真っ暗になったから、驚いて目をつぶった。
……………………