自分の正体が一発でばれた
「……へっ?」
如月が、狐につままれたかのように目を丸くする。
「あー……ごめん?」
困惑した顔を彼がしたから、一応謝る。
「みんな、なんで?」
そういうと、魔物の一匹が理由を述べた。
「だって、この人から威圧的な雰囲気と、我々と同種の雰囲気が出ておりまして……その、攻撃したら、ろくなことがなさそうというか……むしろ、この人について行きたくなるというか……」
それを如月は聞くが否や直ぐに
「もしや、モンスターチャーム!?」
そう答えてきた。
「うわー、一発で言い当てられたよ。」
そう言って頭を抱えたくなった。
「だけど、モンスターチャームって獣人族しか持っていなかったような……」
「わーわーわーわー!それはいうなぁ!」
彼が俺の正体を言おうとするのを必死に阻止する、何せ獣人族はあまり良い顔をされない、むしろ迫害対象であると俺自身は認識していた。
「あー、くそ、ばれたんだったら仕方ないから言うけど、俺、獣人族で、どうでもいいかもしれないけど劣等生なんだ。」
そう、俺の正体をばらすと
「だからなんなんだ?」
目の前の彼は、首を傾げた。
「あ、驚かないんだ。」
意外にも驚かれなかったことに驚いた。
「いや、驚くも何も、獣人族と劣等生との関係性がなかなかにつかめないんだが……」
言われて、そっちか!という顔をしてしまう。
「いや、なんというか、その……おれ、獣人とかそういったの関係なしに友達がいなくって、それで、魔物と友達になっていたら、更に友達がいなくなったというか……おまけに、勉強もできなくて、で、いじめられていたりもしてー」
正直、俺は嘘を言った。
獣人とか関係なしにとは言ったが、俺自身獣人族だということを酷く嫌がっていた、学校も普通の民族として入った。
理由はある、この能力者学校という場所は、一種の王立の研究機関だ、いつ洗脳をされて、いつ研究所でモルモットになって、いつ殺されるか分からない場所だからだ。
獣人族そのものとしては大丈夫ではあるが、世間一般的に言うと新しく見つかった研究対象、赤髪で黒目の異形種、そんな認識からいじめを受けているのだと。
しかし、この男は違うようだ。
「だから、森の中で封印されている俺を見つけたと同時に封印を解いたと。」
どうやら、俺の事をそんな変な目で見ることもなく平然と俺の事を見ているらしい、それにこっそり胸をなで下ろしつつ。
「悪い!そんなことしたら迷惑だったよな?」
そう聞くと、
「いや?迷惑だなんて思っていないけど。むしろ、ありがたいけど。」
そんな答えが返ってきた。
「ならよかったー。」
そうやって声に出すと、なんだか優しい目をよこされて、その状態で10秒経ったところで如月は辺りを見渡して怒りの形相をした。
「なぁ神道、すこしこのダンジョンを動かすから俺の近くに寄ってくれ。」
「動かす?」
「さっさと寄れ。」
「あ、あぁ……」
そして俺が如月の近くによるとモンスターたちはいつの間にかに帰っていたのか周りに居なくなり、如月はは怒りの形相のまま地面に両手をついた。
すると突如として床がうねりだし、壁が蠢き出して部屋全体が動き出す。
「うおおおお!なんだ?なんだ!?」
「うるっせ、黙ってろ。」
崩れかけていた部屋の壁がみるみるうちに修復されて、部屋のあちこちからはミシミシと音が聞こえてくる。
床も綺麗になり、部屋が息を吹き返したかのように補修されていくのをただ、驚いた目で見ていることしかできなかったし、部屋が蠢いているから、下手に動いたらこけるという心配があった。
部屋の蠢きが止まった時には天井には見たこともない、古いタイプだと思われる証明が灯り、木からは何故か木漏れ日がさし、壁は白く、地面は土という、本当の神殿は見たこともないが、それに近い神々しさが部屋の中に漂っていた。
声を出せないでいると、隣から声がかかった。
「おい、神道…………だったか?」
「な、なんだ?」
いきなりの事で、声が裏返る。
「今何時かわかるか?」
そう言われて、今気が付いたが、今何時だ!?
急いでスマホを取り出し電源をつける。
「あちゃー、もうこんな時間か……。」
頭を抱えながら、隣にいる彼にそこに書かれている文字を見せる。
そこにはPM10:00と書かれていた。
門限が基本7時、ここまで来た時間を考えると帰るのに1時間は要する。
彼は、舌足らずに「じゅうじ……か?」と言ってくるが、俺の心中穏やかではない。
「寮長に完全に怒られるわ、これ、死んだわ、積みだ積み。」
そう言いながら座り込んで溜息を吐くと、隣から溜息が聞こえてきて、腕を掴まれて立たされた。
「お前の家はどこだ?」
そう如月が聞いてくるのを、目をぱちくりさせながら聞き返す。
「へっ?俺の家か?」
如月は頷いて見せてから、
「今日はもう遅いみたいだから、出口近くまで送ろうかと思ってな。」
そう答えてきた。
このダンジョンの事はよくわからないし、とりあえず、その言葉に甘えることにした。
「お言葉に甘えて、とりあえず出口を案内してくれ。」
「あぁ、わかった。」
そんな言葉を2、3交わしてから、俺たちは大木のある部屋から出たのだった。