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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
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寮長への依頼書書き、そして、お前はだれだ。

「とりあえず、部屋に戻るか?」

その言葉に賛同するように俺たちが頷くと、如月が譜面台のような装置のところにまで歩いて行き、何かを弄っているようだった。

1分ほどの無言の後、如月が装置をいじるのを終わらせる。

「よしっ!ケビンがここに来た時に一人でも出入りできるように設定し直したぞ。」

満足そうに頷いた後に、如月が合言葉を言う。

「転送!」

すると、俺たちは来た時と同じようにまた光に包まれて、そして気が付いたら俺の部屋に戻ってきていた。

「それじゃ、早速依頼書に如月とケビンの寮室を俺の部屋にするよう書くけど、いいか?」

俺がそう聞くと、2人が頷いたから靴を脱いで部屋に入る。

2人が話しながら俺の後から歩いてくるのを気にせずに、つい先ほど俺が座っていた場所に置いてある依頼書に、俺の名前と依頼を書き込んだ。

内容とすると。

如月とケビンの部屋をこの部屋にするように、その際2人の荷物も一緒にこの部屋の管轄になるようにして下さい。

ついでに、期間は俺が卒業する、或いは記載した二人の内のどちらかが部屋を変えたいと言うまで、といった事を紙に書いた。

「これって、部屋移動の願いも書いていいんだよな?」

2人がつい先ほど座っていた場所に座っているから、その2人に訊ねると。

「多分大丈夫じゃないか?変なことでもないだろう。」

「そうね、確かに変ではないけれども、あたしみたいな錬金学科の人と、魔術・魔法学科の人が一緒の部屋にいるのは珍しいことではあるわね。」

というような話だった。

「そうなのか?ケビン。」

如月がそう疑問を投げかけるのをケビンは「えぇ、」と頷きながら肯定する。

「基本的に、錬金学科と魔術・魔法学科は別の部屋になることが多いわね、というか、それが決まりなのかしら。

あたしが知っている中では聞いたことがないわね。」

「正直、寮則では見たことがないけれども、実際に一緒の部屋になっている奴はいないよな。」

俺も頷いて肯定すると、如月が笑う。

「なら、俺たちが先駆者になるっていうこともありなわけだ!いやー、新しいことを開拓するのは気分が良いなぁ!」

機嫌よく如月が言うのに、ケビンもテンションが上がったのか、如月の言葉に頷いている。

「まぁ、もう書いちゃったことは仕方ないし、如月の依頼書が書き終わったら食事にでも行くか?」

俺の提案にケビンは時計を見る。

「そうね、なんだかお腹が減ったと思ったら、12時回っていたのね。」

「そうか、そんな時間なのか。」

如月も頷いたから、俺は依頼書を円卓の上に置いたまま如月が、俺が書いた字を真似て依頼書に書き込むのをじっと見ていた。

「………………………神道。」

「なんだ?如月。」

「やり辛いから見るな。」

「あぁ、すまん。」

そんなやりとりがあった後、暫くして頭を上げたと同時に溜息を吐いた如月がたった一言。

「書き終わったぞ。」

と言ったから、俺たちはひとまず紙をその場に置き、もしかしたら外出するかもしれないということから財布を持って、とりあえず一階にある食堂にまでエレベーターで行くことにした。


…………


食事をとるために食堂に来た俺は、あまりにいつも通りの食堂に、少しの残念感を抱いた。

それに対して、如月は腕組をしながらぼそりとつぶやく。

「この寮にいる生徒にとっては、通常の光景なんだろうか。」

その声を拾ったケビンが如月に答える。

「うーん、そうじゃないと思うわよ?今まで、寮長を倒せた人なんていなかったんだから。」

そんな事を話していたら、どこからかケビンを呼ぶ声が聞こえてきたように感じた。

「なぁケビン、どこからか呼ぶ声が聞こえないか?」

「あら、そう?」

ケビンに問うが、ケビン自身聞こえていないみたいだった。

「…………ぃ、け……ん。」

「ほら、なんとなくそれっぽいのが。」

「確かに聞こえるわね。」

俺たちが話している間に如月は周囲を確認していたのか、ケビンの肩を指でつつく。

「ケビン、あいつ知り合いか?」

そう言って如月がさした方を見てみたら、確かにこちらを見ながら手を振っている人が居た。

「あら本当、ダグラスじゃない。」

そう言って、ケビンが行こうとするのを見ていると、ケビンが振り返る。

「あら、一緒に行かないの?」

首を傾げるケビンには申し訳ないが、少しだけ眉間に皺を寄せる。

「気まずくならないか?」

そんな質問にケビンは微笑む。

「大丈夫よ、彼、いい人なの。

ほら、一緒に行きましょう?」

「え、えぇー……?」

手をひかれて連れて行かれそうになったから、如月に助けを求めようと見ると。

「如月、どうしてそんな平然とついて来ているんだ?」

「いや、なんか外出する前に人がついさっきの戦いについてどう思っているのかなぁーって思ってな。」

「そっか。」

それしか言えなかったが、とりあえずケビンに連れられて食堂の長テーブルの端っこで食事をしている青い目、オレンジ色の髪をした青年の近くに俺たちは歩いて行った。

「おうケビン!ついさっきの戦いっぷり見てたぜ!お前とは思えねぇほどにすっげぇ戦いだったな!」

快活そうなその青年に対して、ケビンはニコニコ顔で答える。

「ありがとダグラス、あ、紹介するわね?神道ちゃんと如月ちゃん、ついさっきの戦いの仲間なの。」

「おぅ、俺の名前は如月託己、よろしくな。」

おい、ケビン、勝手に俺を紹介するな、如月、お前も意気揚々とその紹介に乗っかるな。

そんなことを思っていると、如月とケビンに小突かれる、俺も言えってか。

「お……おれは、神道……よ、よろしく。」

目線が合わせられない、言葉が震える、快活そうな青年とかとあまり話したことがないというか、クラスの連中がこんなのばっかだからか、正直苦手だ。

「おう!よろしくな!というか神道とか言ったか?」

「は、はい!なんでしょうか!」

くっそ、声が裏返る!焦ってそんな事を考えていたらそいつから質問が出てきた。

「確か、噂だとお前が新しい寮生を引き連れてきたって聞いたけど、本当なのか?」

「あぁ……まぁ。」

癖で頭の後ろに手を当てて答える、新しい寮生は正直俺の部屋にいきなりやってきた不法侵入者と言った方があってはいるが、嘘を言ってはいない。

「あの寮長の目をかいくぐって生徒を入れるとか、本当に度胸があるよな~、感心したよ!」

満面の笑みで言われるが、正直、目が俺自身泳いでいて、何とも言えない挙動不審さが出ている、だれだ俺をこんな性格にした奴!クラスの奴らだ!

「そして、お前が新しく寮生になるって言う如月だな?」

「あぁ、そうだけど、どうかしたのか?」

俺の話題から直ぐに逸れて、ダグラスは如月の方を見ながら言った。

「さっきの戦い見ていたけれども、お前すっげー強かったよ!あの恐怖の寮長をねじ伏せた挙句に昏倒させちまうんだもんな!あれはすごかった。」

その顔は本当に感心したようで、何度も頷いている。

「あははは、あんなのちょっとした技術があればいくらでもできるよ。」

「それはちょっとしたとは言わないぞ?どんな方法を使ったか教えてくれや。」

馴れ馴れしく如月と肩を組むダグラス、それをやんわりと外す如月。

「君が錬金術師か魔術師かで教えることが変わるけど、どうして知りたいんだい?」

「俺は強くなりたいんだ!で、ケンカに強くなって番長になりたい!」

「「は?番長?」」

純粋な目でそう言ってくるダグラスに、俺と如月は思わず疑問を返してしまう。

「あぁ、番長だ!」

「どうして番長になりたいか聞いても?」

如月の問いに、ダグラスは意気揚々と答える。

「番長って響き、かっこいいだろ?学校の頂点って感じがしてさ!」

聞いた如月はケビンに何やらひそひそ話をしているが、耳が良いせいか聞こえてしまう。

「なぁ、ダグラスって頭が弱いのか?」

「術の腕前はそこそこだし、勉強もそこそこだけど、頭が弱いってわけじゃないのよ?

ただ、番長になって何がやりたいかが固まっていないだけなの。

まぁ、そこが大好きな面ではあるわね。」

そんな話をしているのを聞きながら、ダグラスの事を見てみると、不意に目が合って体がびくついた。

「え、えっと……なんだ?」

しどろもどろになりながら相手に話しかけると、頭にはてなを浮かべたような顔をしている。

「ん?いや、なんでもないけど?」

「そ、そっか。」

いいながらまた目を背ける、俺、こういった奴が苦手なんだって!

「そういえば、2人は何を話しているんだ?」

それ、俺に話をふるか!?俺は貝!いや影だ!影理なだけに!

「えーっと、何を話しているかは分からなかったな。」

無難な答えとしてはこれが適切だろう。

「そっか、まぁいいか!」

彼も納得してくれたらしいからいいか。

「なんか頭の上に耳が見えた気がしたから、もしかしたらなーって思ってな。」

とっさに俺は頭を触る、耳、出てないか!?あ、出てない。

「変なやつだなぁ、嘘だよ、う、そ。」

そんな事を言いながらケラケラと笑うそいつに、俺は少しの苛立ちを覚えた。

「そういえば、ケビンはここで食事していくのか?」

ダグラスは俺の苛立ちをよそに、ケビンに向かって問いかける。

「そうね、席が空いているし、ここで食べようかなって考えていたところよ。」

「それなら、俺の隣で食べないか?一人で食べるのはさみしいからな。」

ニッと笑いかけてくるダグラスにケビンがうなずいた。

「そうね、いっしょに食べましょうか。」

おい、やめろ、緊張で死にそうになるから。

そんなことを思っていたとしても言葉にしなければ伝わらないわけで、なんだかんだで一緒に食事をすることになった。

適当に料理を取って、ダグラスの斜め前に座る。

如月はダグラスの前、ケビンはダグラスの隣に座った。

そのあとはケビンと如月がダグラスと話していたけれども、何も耳に入らず料理の味をそこそこに感じながら食事を終えたのだった。

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