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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
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ケビンは信用できる、と思う。

「え、ケビン……、手伝ってくれるのか?」

「えぇ、あたしの親が白の集団って名前の光の集団の子組織にあたる、組織のかなり重要な研究者でね?

そんな親だから、この学校にあたしを入れたわけなんだけれども……、その話はいいわ。

でね?クソ親父の部屋から資料を何らかの方法でコピーして持ってくれば、かなりの情報源になると思うのよ。

どうかしら?」

そんなケビンからの申し立てに如月は考え込むように腕を組んで俯き、ブツブツと何事かを呟いたかと思えば、俺の着ていた跳躍力のローブ、というか、エルダーウィンドドラゴンのローブを着て、暫く黙っていた。


…………


暫くして、如月はローブを脱ぎ、ケビンに向かってたった一言。

「いいぞ。」

とだけ言った。

「えっと、それは……。」

ケビンが戸惑ったような顔をしているのに如月は肩を竦めながら再度答える。

「だから、光の集団に対抗するための反勢力の創設メンバーに入れてやるっていっているんだ。

とりあえず、秘密を漏らさないならいいぞ。

ただし、秘密を漏らしたと同時にお前とは絶交するどころか、記憶を消しにかかるから、そのつもりで。」

と、なんだか上から目線ではあるが、そう如月は答えた後に椅子から立ち上がって、玄関にまで歩いて行く。

「ちょ、ちょっと如月ちゃん、すごく上から目線だけど……ってそうじゃない、どうして玄関に行くのかしら?」

ケビンが椅子に座りながらそう疑問を投げかけるのに、如月は手招きしてケビンの事を呼ぶ。

「ちょっとこっち来い、秘密を見せてやる。」

それに俺が反応する。

「おい!如月、いいのか!?こんな一日二日で相手の事を信用しても!」

如月は、一つ頷いてから俺の事をしっかりと見る。

「別にいい、今は人数集めが大切だし、ケビンは信用できると思うから。」

「えっと?」

ケビンが置いてけぼりになっているのに気が付いて、俺も席を立ってケビンにも席を立つように促す。

「ケビン、とりあえず紙は置いて如月の元に行ってみるか?」

「え、えっと……そうね。」

戸惑っているケビンの前を歩き、如月の元にまで行くと、如月が靴を履くように促してきた。

俺たちが靴を履いた後に如月は床に手をつき例の言葉を言う。

「転送。」

そうすると、玄関に突如として魔方陣が浮き上がったかと思ったら、俺たちの周りに光の繭みたいなものが出来上がり、気が付いたら、例のダンジョンの中だった。

「え、え?えええええええええええええええ!」

ケビンが左右を見渡して驚いていると、如月がケビンの方を振り返る。

「実は、あの部屋はここに繋がっているんだ。」

なにやら寂しげな顔をしている如月にケビンは、勢いよく食いつく。

「ここ、どこなの如月ちゃん!」

「ここは、ちょっとしたダンジョン。

昔、俺が住んでいた場所だよ。」

まさか、本当の事を言うレベルで如月も覚悟を決めているなんて……エルダードラゴンのじいさんと何を話していたんだ?

「ダンジョン……ダンジョンって今は既にほとんど無くなっているものよ?

それにどうやって……。」

「ケビン!ついてこい!」

そう考え始めたケビンの事を、如月は出入り口の近くに行き、大きな声で呼ぶことによって思考を一旦停止させる。

「え、えぇ!わかったわ!」

ケビンが小走りについて行くのに俺もついて行くと、如月は例の術部屋の前にまで歩いて行く。

「如月ちゃんがここに住んで居たのは神道ちゃんも知っているのかしら?」

「まぁ、そうだな。

正直、ここには何回か来ている。」

嘘は言っていない。

「そうだったの……確かに、人には言えないわね。」

ケビンは頷きながらそう言うと、如月のところにまできた。

「それで、ここは何かしら?」

「術部屋だ。」

ケビンが問うのに、すぐ如月は答える。

「そう、術部屋ね?…………術部屋って何かしら。」

首を傾げるケビンに如月は説明する。

「術部屋って言うのは、魔法や錬金術といった、魔素や魔力といったものを使い、失敗しても大惨事にならないよう、しっかりと力が制御されている部屋の事をいうんだ。

ちょっと中に入ってみろ。」

如月が戸を開けて中に入るから、一緒に中に入ると、ケビンが首を傾げる。

「普通の教室じゃない。」

それに、如月がニヤリとする。

「そうじゃないんだよなぁ、見ててみろ。」

そう言って、如月が突然風魔法を使い始めたのか、辺りにひゅうひゅうと風が吹き始める。

そして。

「ブラスト!」

と呪文を唱えると、部屋にあった椅子やら机やらが突如として吹き飛ぶが、部屋の中に不思議な力が働いているのか、壁や天井に叩き付けられる直前にピタリと止まって、また元の場所に戻っていく。

「ほら、な?」

そう言いながら振り返る如月は、正にどうだ!といった感じの顔をしている。

俺も確かに驚いたが、それ以上にケビンはどういうことなのかを理解するのに時間がかかっているのか、呆然としている。

「他にも、錬金術で失敗した時に黒煙を上げることがあるけれども、それも風の魔法で直ぐに外に出すことができるから、いくらでも失敗することができるって部屋だ。」

それ以外にも理由はあるんだけどな、といった如月はなんだか楽しそうだ。

勢いが、子どもがおもちゃを見せるような、そんな勢いがある。

「とまぁ、そんなところだ。」

帰るぞ、そう言って如月が部屋から出るのに続いて、俺たちも部屋を出る。

「きっと、ここで練習すれば魔法や錬金術の腕は上がると思うから、学校で勉強につまずいたとかあれば、ここで練習すればいいと思うぞ?」

如月がケビンに対してそう言うのに、ケビンはぼんやりとした顔をしながら頷く。

そうして、転送装置にまで戻ってきたから、如月が引き続きケビンに転送装置の使い方をかくかくしかじかで伝える。

「なるほどねぇ、ここで転送と言えばあそこの部屋に戻れるの。」

転送装置の陣の横に立って、ケビンは感心したようにそうこぼす。

「他にも色々とこのダンジョンにはギミックがあるから、一緒にまわってもいいぞ。

ただし、俺と一緒にっていうのが条件になるけどな。」

人差し指を立てながらそう話す如月を見ながら、俺は一つ提案を出すことにした。

「如月はまだ、寮の部屋が決まっていないだろう?」

その言葉に、2人は目をぱちくりとさせながら俺の方を見る。

「まぁ、確かに決まっていないけれど、その話今していないだろ?」

如月が首を傾げるのを俺が手で制する。

「まぁまぁ、話を聞いてくれ。

俺が言いたいのは、あの依頼書というか、願いを叶えてくれる紙に、如月を同室にしてもらえるようにと書こうかな~って思ったけれど、やっぱり許可がないと書いちゃいけないかなぁ~と思ってな。

どうだ?」

そう俺が提案すると、如月が頷いた。

「確かに、どの部屋になるかわからないから、今から依頼書に書くのも悪くはないかもな。」

そして、何かを思いついたような顔をした後に、如月はケビンに向き直る。

「そうだケビン、今の部屋が嫌になっていないか?」

突然の話にケビンは目を丸くする。

「いきなりどうかしたの?如月ちゃん。」

それに、如月が説明をする。

「部屋が神道の部屋になれば、ケビンも楽にこのダンジョンに来られるし、何よりもルームメイトに何かされる可能性も少なくなるって思ってな。」

その言葉にケビンは目を丸くする。

「部屋の変更?」

「そ、部屋の変更。」

如月が提案したことに俺も驚くが、確かに、俺の部屋だったらこのダンジョンに戻ってきやすいし、ある意味ではいろいろと良いことがあるかもしれない。

「そうねぇ、確かに良い案ではあるわね、だけどいいの?あたし、みんなから嫌われているみたいなのよ?」

不安そうに聞いてくるケビンに、如月は首を横に振る。

「そんなに不安がる必要はない、なにせ、今回の勝利が良い方に向かうことを俺が信じているからな。」

「お前が信じているのかよ。」

俺の素早いツッコミに如月は笑いながら対応してきた。

「というか、俺の意見は総無視か?一応言っておくけど、お前の部屋じゃなくって、俺の部屋だぞ。」

俺が如月に詰め寄るが、如月はおどけたように肩をすくませる。

「別にいいだろ?どっちにせよ俺の部屋になるわけだし、嫌になればこっちに一部屋作ればいい話だし、使っていない部屋なんてごまんとある。

それに、悪い話じゃないと思うんだけど?」

悪気のかけらもない、そんな目でこちらを見てくる如月に、溜息しか出ない。

「それで、あたしはどうしたら良いのかしら、神道ちゃん。」

ケビンが聞いてくるから、俺は腹を括る。

「ケビンがいいならそれでいいよ、歓迎する。

ただし、何かあっても俺のせいにしないこと!いいな!」

そう、ケビンに伝えると、ケビンは嬉しそうに頷いた。

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