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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
63/66

如月はケビンに暴露した、俺もケビンに暴露した。

とりあえず俺たちは俺の部屋に戻り、何を寮長にお願いするかを考えていた。

「とりあえず、この部屋での魔法の使用の解禁、それに尽きるかな。」

如月がペンを持ちながら、貰って来た依頼書とは違う紙に、見たことはあるが読めない文字でスラスラと何事かを書いている。

「それで、ケビンと神道、2人はどういったことを願うんだ?」

それに即座にケビンが答える。

「あたしはとりあえずこの紙を暫くは使わないでおくことにするわ。

もしかしたら、今以上に強く望む何かが出てくるかもしれないし、正直なところを言うと、ある程度の制約はあるけれども、急に願いをなんでも叶えてやる~って、思いつかないわね。」

言いながら、ペンを机の上に置くのを横目に、俺は頭を抱える。

「俺はー……何がいいかな。」

そう声に出すと、今まで一切話さなかったローブが突然話し始めた。

『わし思うに、そなたの願いは、如月と同じ部屋になるという事ではないのか?』

『確かに合っている、あってはいるけれども!言われたくなかった!』

頭の中で口論をしている間に、静寂が広がっていたらしく、ケビンがその静寂を破るためなのか。

「神さまがここで踊りを踊っているわね。」

という、謎の発言をしていた。

「さて、とりあえずはこの部屋の住人は魔法の使用を許可してもらえるようにという事を書きたいんだけど、書き方を教えてくれないか?」

そう言いながら俺の方を見てきた如月に、俺はローブを脱ぎながら如月から紙を貰って、そこにサラサラと文字を書く。

「そういえば如月ちゃん、文字は書けないって言っていたわよねぇ?」

ケビンがそう如月に問うと、如月は首をうなずかせる。

「あぁ、そうだが?」

「なんだか、如月ちゃんが何かを書いていた紙を見てみると、なんとなく見覚えがあるというか、古代文字っぽいわよね~。」

その言葉に、俺は思わず体をびくつかせる、そういえば、如月は文字が書けないという設定な上、文字が読めないということも言っていたのを思い出す。

「古代文字、なのか?」

如月が首を傾げるのに、ケビンが口元を隠しながら驚いたように声を出す。

「あら、如月ちゃん知らないで誰かから教わったのかしら?」

「あぁ、錬金術や魔法を使うときにたまたま、この文字を使っていたのを見たから、それを後ろから見ていたことによって覚えたっていう感じかな。」

ケビンがそれに目を丸くする。

「その文字が使える人自体が今居ないっていうのに、一体どこの誰がそういった文字を使ってあなたに教えたのかしら!すごく気になるわ。」

顔の真剣さから、本当に知りたがっているという事がひしひしと伝わってくる。

「えーっと、俺のじいちゃんとか、ばあちゃんとかだな。」

目線が斜め上の方を向きながらの発言だから、恐らく嘘を言っているように見えるな、しかし、ケビンには通用したようだ。

「あら、案外直ぐに教えてくれるのね。」

「まぁな、俺、じいちゃんとばあちゃんから魔法とか錬金術とか、昔の伝承とか教えてもらっていたからな。」

そう遠い目をしながら話している。

「それで、祖父母のお二人は……?」

「既に亡くなっているよ、そうじゃなきゃ捨てられていないからな。」

「捨てられ……?」

「あぁ、貧民街にいたって言っただろ?俺、小さい頃はじいちゃんとばあちゃんに育てられていたんだけど、2人が死んでからは母さんも父さんもいない天涯孤独な身で生きていたんだ。」

ケビンにそう言って聞かせる如月の目は嘘を言っているようでは無かった。

「聞いちゃ悪かったかしら?」

ケビンがそうバツの悪そうな顔をしていると、如月がクスクスと笑い始める。

「っていうのは嘘で、本当はこのフォーラスに来る前に住んでいた村が壊滅状態になったから、この町の貧民街の方に住み着いたってだけなんだけどな。」

そう、肩をすくませながら答える如月にケビンは逆に驚く、それに俺が乗っかる。

「村が壊滅状態って……それこそ聞いたことがないんだが。」

俺が率先してその事を言うと、如月は至極当然といった感じに。

「あぁ、言っていないからな。」

と、悪びれもなく答えた。

「だ、だけれども……お父様とお母様もお亡くなりになったという事は嘘なのでしょう?」

ケビンが、慌てたように聞くと俺にとってはある意味、ケビンにとっては驚くべきことが話の中から出てきた。

「いや、実際には村の人のほとんどが死んでいるから、その事も本当ではあるけれども、実際のところを言うと村の人全員がこの都市に俺が幼い頃に逃げてきて、それで貧民街に身を寄せていたんだ。

で、俺の両親は村が壊滅した際に亡くなってしまったけれども、一緒に逃げてきた老夫婦に俺は育てられたんだ。

それで、確かにその老夫婦も死んでしまったけれども、一応天涯孤独ってわけじゃなかったぞ?」

如月のなんでもないっていうその姿勢に、俺が何故だかわからない疲れを感じているのと同じくらいに、ケビンも疲れを感じているようで、2人して頭を抱えた。

「如月、おまえどんな半生を生きてきたんだよ……意外と過酷で逆に疲れたんだが?」

一昨日に聞いていたこととはいえ、再度聞くと壮絶な人生を送っているんだなとしみじみと思った。

「そ、そうか?なんか……すまん。」

「いいえ、聞いたあたしたちに責任があるわ、そんな辛い過去を思い出させて本当にごめんなさい?」

顔を挙げて如月の方を見てみると、如月自身はケロリとした顔で俺たちの事を見ているから、更に疲れる。

「いや、確かに両親も老夫婦もいないし、友達も死んだから、今となっては一人……、あ。」

それを言った如月は口を押える、しかし、その言った言葉は戻らずにケビンに届いていた。

「あ、あなた……友人も亡くしていたの?」

「いやー、今のは嘘だ。

嘘だから気にしないでくれ。」

如月の汗が一気に出てくるが、時すでに遅し、ケビンが如月の近くにまで行き抱き付いていた。

「きさらぎちゃん!あなた……あなたって子は!そんな壮絶な過去を持っていたのね!?」

ぎゅうぎゅうと抱き付かれた如月はやんわりと押し返しているのが見て取れた。

「あ、あはは~、できれば離れてくれないかなぁ?ケビンさん。」

その顔は笑っているが、眉間に皺がよっている。

「それで?一体どうして友人は死んでしまったか教えてくれるかしら!?」

肩をがっしりと掴んで、そう問いかけるケビンに、如月の目は様々な方を見てケビンから目を逸らす。

「えーっとな?えーっと……言わないと駄目か?」

「えぇ、しっかりと、この目を見て教えてちょうだい?」

顔をがっしりと掴まれて目線を合わされた如月はそれでも目を逸らし続けてはいたが、一応答える気にはなったらしい、ぽつぽつと話し始めた。

「あ、えっとな……本当のところを言うと……貧民街にいたからか、光の集団の……じっけんたいしょうに選ばれたっていうかー……。」

その事を聞いたケビンが目を丸くした。

「え?光の集団の?」

「あーっと……そうだったな。

うん、あれは光の集団のはずだな。」

そう話し始めた如月は無意識なのか、ケビンの目をしっかりと見据えていた。

「村自体も、実験対象に選ばれたっていったら、信じるか?」

その眼には、しっかりとした何かが宿っていたから、俺はケビンに離すように言ってみる。

「ケビン、顔を放してやったらどうだ?如月も話す気になったみたいだしな。」

俺がそうケビンに言うと、ケビンは頷いた。

「そうね、放しても問題はないわね、ごめんなさいね如月ちゃん。」

言うと、ケビンは如月の頬を解放した。

「はぁ、まぁ解放してもらったんだし、俺の過去を話さないとな。」

如月が溜息と共に漏らしたそれを、俺は突っ込もうかと思ったが、その前に如月は話し始めた。

「そう、俺は昔に友人も、親も、全てを光の集団に研究対象として奪われた村の生き残りなんだ。」

それを聞いたケビンは、酷くショックを受けた顔をしていた。

「それって、かなり希少な人じゃないの!」

正直、俺は珍しいからっていう理由だけでこの学校に入れられたのだけど?とは言わなかった。

「で、その村で使っていた言葉が今では使われなくなっていた古い言葉だった……ただそれだけの事だよ。」

肩を竦めてそれだけを告げると、もういいか?と、目で訴えてきた。

「え、えぇ……、あともう一点だけ、いいかしら?」

「なんだ?」

おどおどとした様子でケビンは如月に問いかける。

「もしかして……、光の集団の事を、憎んでる?」

そう聞くケビンに向かって如月はなんてことないように一言。

「憎んでいるぞ、この上なくな。」

といった。

「だったら、この寮に、いえ、この学校にいない方がいいわ。」

ケビンが腕を組みながらそういうのに、俺もうなずく。

「確かに、この学校は光の集団のことを崇拝、それどころか生徒全員を実験台にする、学校の皮をかぶった研究施設だからな。」

それを聞いた如月はびっくりした顔をした。

「そうなのか?この学校そんなに危ないところなのか?」

「危ない、というか、光の集団系列でもいいから光の集団にかかわりがなければ何されるかわかったもんじゃない学校だぞ。」

そういうが、如月がなんとも実感が湧いていない顔をしていた。

「神道はこの学校から影響を受けているようには見えないけれど、なんでなんだ?」

俺は自分の学校に入った理由を思い出した。

「俺は珍しい個体だってことで学校に入れたんだ。」

「珍しい個体?」

ケビンが頭にはてなマークを浮かべたから軽く説明する。

「俺は実験台としてこの学校に入ったんだ、学力はないけど、実験台としての特待生制度があったからな、地元じゃ名誉なこととして送り出されたよ。」

「それじゃ説明になってないわ、なんの個体だってことになっているのかしら、そのことを教えてくれないかしら?」

ケビンがぐいぐい来る、これは元来の性格なのだろうか。

「あんまり言いたくはないんだけどな……俺は獣人なんだよ、人型じゃなくて獣型になるタイプのな。」

それを聞いたケビンの手がそわつく。

「獣人……確かに今獣人は少ないわね、それにしても、耳とか尻尾とかないけれど、どうしてなのかしら?」

そわついている手の理由が気になるが、あまり聞かれてほしくないことだったから、早々に話を切り上げる。

「それは秘密でいいか?」

「残念だけれど、秘密のある殿方のほうが格好良いから許してあげるわ。」

肩をすくめながらケビンがいうのに、如月が問いかける。

「ところで、ワキワキしていた手は、何か理由があるのか?」

「あぁ、これは耳とか尻尾とかが出てくることができたら触らせてもらおうと思っただけよ、気にしないで頂戴。」

尻尾や耳が出ていなくてよかった。

と、いうか。

「ケビン、俺が獣人だってことを聞いても動揺しなかったけれど、なんでだ?」

ケビンはバツが悪そうに答える。

「あたしの周りには獣人が一応いたからね、実験対象になってしまう人もいたけれど、なんとか回避をして生きている人もいたから、そのことを思い出しただけよ。」

なんとなく釈然としないが、一応納得しておく。

「で?結局答えになっていないが、どうして神道は洗脳されていないんだ?」

如月が腕を組みながら聞いてくるのに、俺は答える。

「理由は複数あるんだが、まず一つ目、洗脳を受けるような状況を作らなかったから、授業中にも洗脳を受ける機会はあったんだが、それがなぜか効かなかったんだ。

二つ目は、俺の友達が理由だ、魔物の友達は俺が洗脳を受けそうになるたびに洗脳を解いてくれていたからな。

三つ目、そもそも学校での交流が少なかったから光の集団に勧誘されることもなかった。

とかが理由としてあげられるかな。」

頷きながら聞いた如月は、たった一言。

「学校に入らない方がいいってことはわかったけど、別に道はあるのか?」

それを言われた俺たちは思わず顔を合わせる。

「この学校が危ないっていうのは確かにあるのだけれど、正直この学校以外の場所というと、ないのよね。」

「確かに、この辺りで気軽に寮に入れる学校はここしかないんだよな。」

なんて話していたら、如月が肩をすくめながら

「とりあえず、俺は学校に入って反乱分子を大量に集めて、光の集団に反乱を起こすつもりなんだ。」

それを聞いたケビンが、不思議な顔をした。

「なんでそんなことをしたいのかしら?」

それに、如月は軽く笑うが、目が笑っていない。

「俺は光の集団の中に反勢力を作りたいとは思っているんだ。」

「反勢力?」

ケビンは頭にはてなマークを出しているのに、如月は続ける。

「光の集団の基地である、そして、光の集団が子供の頃から何かしらを教え込むのには丁度いい学校がここにはあった。

だったら、その集団のど真ん中に反勢力を作って、内側から瓦解するように仕向ければいい。

だろう?」

口調は段々と引きつったものになるのに、俺は少し恐ろしさと無理があるという気持ちでいっぱいになった。

更に言うと、腕の紋様があるところが急激に熱を持ち始めていた。

「だけど、そんな事をするのは一人じゃ無理よ!できっこない!」

反論するケビン、それに、如月は壮絶な笑みを浮かべながら引きつったような笑い声を出した。

「だからこそ!だからこそ洗脳を解くのさ!きっと、洗脳を解いた人の中には光の集団に疑問を持っている人がいるかもしれない。

いや!憎んでいる人だっているはずだ!だから!俺はやってやるんだよ!ここから、全てを!」

そう笑いながら言ってのける如月の腕を俺は掴んだ。

「如月、それくらいにしておけ。」

俺の声が届いたのか、如月はこちらを見てくるが、その顔には歪な笑みを浮かべていた。

「どうして、止めるんだ?俺はこんなにも、怒りによって感情がぐちゃぐちゃなのに。」

「だからこそだよ。」

そう言って、俺は椅子から立ち上がって如月の元まで歩いて行き、目を閉じさせる。

「ほら、落ちつけって、な?」

とにかく相手が落ち着きを取り戻すように声をかけ続ける。

「そんな怒りに身を任せた状態で良い案が出るわけがないだろう?深呼吸して。」

そう言うと、俺の言う通りにしたのか、如月は深呼吸をはじめる、すると、腕の熱が引いて行くのが分かった。

そして、腕から完全に熱が引いた状態で手を離すと、如月は完全に落ち着いたのか、溜息を吐いた。

「すまないな、神道、手間をかけさせた。」

「いや、大丈夫だけど。」

そんな俺たちを見ていたケビンが、一言。

「今、どんな状況なの?」

と、疑問を口から出していた。

「あーっと、とりあえず、如月はこの学校のど真ん中に反勢力を作って、内側から組織を瓦解させたいと言っているんだ。

今のままだと、如月一人だけだから、出来ずにあっという間に光の集団に叩き潰されるのがオチだけどな。」

俺が肩をすくませながらそう答えると、如月はムッとした顔をしつつ、それでも言葉だけは肯定的だった。

「確かに、今のままだと無理だな。

だから、仲間を募りたいんだけども、いきなり募るのもおかしな話だからゆっくりと着実に力を強めていくつもりだよ。」

そういいつつも、やはりどうしようかという顔をしているから、思わず俺も考え込んでしまう。

「言ってしまえば、家族や友人を光の集団に奪われた人たちが反旗を翻して、研究施設から家族や友人を取り戻すっていうのが目的の団体を作りたいんだ。」

如月がそう言葉を締めると、ケビンが何かを考えこみ始めた。

「ケビン?」

俺が声をかけると、ケビンはゆっくりと顔をあげ、一言。

「なにか、手伝えることはないかしら?」

それに、俺たちは驚いた。

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