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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
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戦闘勝利後の後始末

「ひ、ひぃぃぃ!」

ケビンが俺にしがみついてくるのをチラリと見る、どうやら、まだ恐怖状態が解けていないみたいだ。

「終わったぞー。」

如月がこちらに歩いてくる、それにしがみつかれている方とは違う方の手を挙げて答える。

「おう、お疲れー。」

「あ、あれはなんなの!?」

そう如月の事を指さしながら言うケビンに、俺は笑いかける。

「あれは如月だよ。

如月、ケビンまだ幻覚を見ているようなんだ、どうにかならないか?」

如月に伝えると、如月は困ったような笑顔をしてから、ケビンに向かって手を向ける。

「俺、あんまり状態異常を回復させるのは得意じゃないけどなぁ~、神聖なる異常解除。」

すると、白くて暖かい光がケビンを包み込んだ後にはじけた。

「あ、あら?神道ちゃんと如月ちゃんがいる?」

2、3回瞬きをした後に、俺にしがみついているのを思いだしたのか、離れる。

「ごめんなさい神道ちゃん、しがみついちゃって。」

「いや、いいよ。

それより、如月に聞きたいことがある。」

ケビンに微笑みかけた後に如月の方を真っ直ぐに見て、問いかけると、如月は首を傾げつつも話を聞いてくれる。

「どうやって寮長の事を倒したんだ?如月の手にあったのは炎だったはずだけど、寮長は濡れていたぞ?」

聞くと、あぁ、そのことかといった具合に話し始める。

「始めは炎で攻撃しようかとも思ったけれども、霧が出始めた辺りで止めたんだ。

その代わりに水属性の攻撃魔法に変えたんだ、そうすれば、炎を使えなくすることも出来るし、何より圧で倒れるかなぁと思ったからな。」

それに、と言いながら、寮長の方を振り返る。

「なにより、倒れ伏すあいつを見たかったし、下手に炎で攻撃したら後が大変だと思ったんだ。」

「それは、どういった意味で?」

俺が聞くと、如月がこちらを向く。

「下手に炎で攻撃して、風属性で返された日にゃあ倍の力で攻撃されるようなものだからな。」

それに、なるほどと思いながら頷いた。

「風を送ると、火は強くなるからな。」

「強すぎる風じゃなければそういうことだ、おまけに、風で火種が飛んで来たら危ないだろ。」

なんか、本当に安心して俺は溜息を吐いた。

「なんだかんだで、勝てて良かったな。

はぉー!安心したー!」

言いながら座り込んでしまう、正直俺はあまり活躍していないが、それでも勝ちは勝ちだ、これからどんな不正があるか分からないが、それでも何とかなったことには変わらない。

「如月ちゃん?神道ちゃん?まだやることが残っているわよ?」

ケビンに言われてから思いだす、如月は分かっていないらしく、首を傾げる。

「食堂のおばちゃん、いえ、審判の元に行かなきゃ!」

ケビンが如月にその事を伝えた後に、俺は立ち上がる。

「そうだな、勝った証明を貰うのと、報酬を要求する権利が与えられたからな!」

俺たちがそんな会話をしていると、いつの間にかに審判が近くにまで来ていた。

「みんな、おめでとう、これが寮長に勝った証よ。」

ニコニコと微笑みながら審判である食堂のおばちゃんに渡されたのは、勲章のようなメダルと、なかなかに頑丈そうな3枚の賞状のような紙だった。

「このメダルが寮長に勝った証である、寮長に勝利した人に贈られる銀のメダル、紙が寮の中での規則が一つ、なんでも免除にすることができる依頼書なの、効果の範囲は勝者に任せることになっているわ。

規則以外をここに記入する人もいるわね。

言ってしまえば、寮の中で好きなことを一つ、願いを叶える為の依頼書ね。

だけど、人の道徳を反するものや、反社会的な事、体に悪いこと、不健全性的行為等は認められないわ。

例えば未成年なのに煙草を吸いたいとか、女子を部屋に呼んだ挙句に性行為をしたいとか、人に暴力を振るう部屋が欲しいとか、そういった事は叶えられないけれど、それ以外だったら基本大丈夫よ。」

独特なイントネーションで話してくる食堂のおばちゃんから一人一つずつそのメダルと賞状を貰う。

「「「ありがとうございます!」」」

俺たち全員が受け取った後に同時にそうお礼を言うと、食堂のおばちゃんはクスリと笑った。

「実は、今回もまた寮長が勝ってしまうのではないかと心配だったのだけれど、それが無くなって、おばさんは本当に安心したわ。」

その目はとてもやさしく、俺たちは顔を見合わせながら笑ってしまった。

「さぁ、審判台の前まで行って、宣言をしましょう?その後は、後片付けをしなきゃね。」

その言葉に、俺たちは思いだす。

「おーい、誰か助けてくれぇ~。」

「ばっか、どうせ今誰も俺たちのこと見てないって!」

「だけどよぉ、こんなのってないだろ~!?」

悲痛な叫びを上げているパンツ一丁の生徒が2人、木からぶら下がっているのを。

「なんか、悪いことしたな。」

「そうだな。」

「勝者の影には叫びをあげ悲痛に泣く敗者がいることを、忘れちゃいけないわね。」

そんな事を三人で話ながら、俺たちは審判台にまで歩いて行く。

審判台に上がった食堂のおばちゃんが高らかに宣言をする。

「さぁ!ここに3人の勝者が生まれました!みなさん!温かい拍手を!」

すると、直ぐに拍手の音が中庭に響き渡るのと同時に、寮長に勝ったことへの賛辞が送られた。

それは暫く止むことはなく、審判の言葉によって、ようやっと収まった。

「それでは、これで模擬戦闘を終わりにする!一同、解散!」

その号令によって、模擬戦闘を見ていた寮生は、皆それぞれに解散する。

その後、食堂のおばちゃんは俺たちに話し掛けてきた。

「さて、3人は中庭に吊り下げられている2人の生徒を解放してから部屋に戻りなさい。

その依頼書は卒業するまでだったらいつまででも受け付けるから、期限は心配しないでも大丈夫よ?

依頼書には名前とお願いしたいことを書いたら寮長に提出してね?もしも捨てられたり破られるとかそういうことを心配しているのだったら大丈夫、この紙は特殊な素材で出来ていて、破くことは勿論、捨てることも出来ないわ。」

審判であった食堂のおばちゃんがその事を俺たちに言った後、木に吊り下げられている2人を早く下ろすようにと急かしたから、俺たちはその吊り下げられている2人の生徒の事をおろしに行くことにした。

「おーい、大丈夫かー?」

俺が2人に呼びかけると、2人はあからさまに体をびくつかせた。

「大丈夫なわけないだろう!もう模擬戦は終わったから、下ろしてくれ!」

つい先ほど、誰も見ていないと言っていた男子生徒の方が俺の問いかけに答えた。

「如月、木属性の魔法で吊り下げたんだよな?」

それだけしか言っていないのに、察したのか、魔法を使って二人の男子生徒の事を下ろしてから体に巻き付いている蔓性の植物を外す。

「はぁーあ、腕が痺れているな、こりゃ。」

「そうだな、模擬戦でまさかこっちが酷い目に遭うとは思わなかったよ。」

2人とも腕をぐるぐると回して動きを確認しているのを見てから二人から嫌味ともとれる賛辞の言葉を貰った。

「とりあえず、模擬戦勝利おめでとう。

洋服を木っ端みじんにしたのは何か理由があるんだろうなぁ?」

問いかけに答えてくれた方がこちらを睨みつけながら問いかけてくる。

2人の外見を言うと、銀髪の赤目で錬金学科の生徒1と金髪緑目の魔術・魔法学科の生徒2といった具合である。

「あー、それは悪かった。

降参を簡単に取るためには洋服をはぎとればいいと思ったから、この作戦にはなったんだが……やりすぎたかな。」

俺が代表としていうと、魔法学科の方が首を振った。

「いや、確かに作戦としてはあっていると思うよ、人は洋服をはぎとれば基本的に直ぐに降参するからね。」

「とはいってもなぁ。」

正直、2人ともパンツしかない状態、10月という寒い風が吹く月にその格好はすごく、言っては悪いがすごく、哀れだった。

「俺はお前ら全員に怒っている!洋服、どうしてくれるんだよ!突如としてどっかに消え去ったんだぞ!どうしてくれる!」

錬金学科の生徒がケビンに詰め寄ると、ケビンは木刀を手にしたままオロオロとしていた。

「ケビン。」

「きさらぎちゃん……」

如月がケビンに向かって木刀を渡すようにとジェスチャーをすると、ケビンがおずおずといった具合に手に持っていた木刀を渡した。

「作戦で洋服を破壊したのは謝る。

とりあえず、今から洋服を作るけれども、どんな洋服を着ていたかは覚えていないから、適当な洋服になるけれども、いいか?」

それを聞いた対戦相手だった二人をみると、生徒1は苛立ったような感じで「何がだ!」と言い、生徒2はくしゃみをしていた。

「とりあえず、見た感じ標準的な体躯をしていて、銀髪の方は細マッチョ、金髪の方はそれほどってところか……」

ブツブツと言いながら、柄頭の方にある石に手を当てる。

「創造されよ、パーカー!」

そう言いながら力を込めるような動作をしたら、柄頭と鍔の部分が光り輝き、その光から手を離して宙を舞わせると、光が霧状に霧散し、その手の中には一着のパーカーが握られていた。

「とりあえず、まずは上半身と。」

そう言いながら、生徒1に上半身だけ洋服を渡す、驚いた顔をしながらも生徒1はその見た目上暖かそうな洋服を受け取る。

「どうやって作ったんだこのパーカー……木刀の柄頭から出てきたぞ。」

そんな驚きの声を無視して如月はすぐにズボンも作って生徒1に渡した。

「これが、ズボンだな。」

その行動を生徒2の洋服を生成するときにも行い、元の服とは感じは違うが、2人の体にピッタリなサイズで簡単にこしらえたのであった。

「さて、洋服を生成したことだし、とりあえずの謝罪は受け入れてもらえるかな?」

満足げな如月に対して2人が目を見合わせる。

「俺たちが戦っていた相手って、一体何者なんだ?」

「正直、わからない。」

そんな会話をしている2人の意識を、俺が咳ばらいをしてこちらに向けさせる。

「今回は模擬戦だという事で、2人に手っ取り早く降参してもらえるように洋服をはいだ上に全く別の洋服になったことは謝る、本当にすまなかった。」

そう言って、頭を下げると対戦相手であった2人は顔を見合わせた。

「とりあえず、少なくとも俺は許していない。

お気に入りの洋服を着てこなかっただけ、運が良かったな。」

そう言う生徒1とは対照的に、生徒2は俺たちに疑問を投げつけてきた。

「確かに、正直なところを言うと他の作戦はなかったのかって聞きたいな。」

生徒2の方が純粋な疑問だという表情で聞いてきたから、話しても大丈夫かと如月とケビンの2人に視線を送ると、2人とも頷いたから話を始める。

「2人から了解を貰ったから話すけれども、俺が目つぶしの香を使って無力化できなかったら錬金学科の人から潰そうっていう話になっていたんだ。」

「ほう、それは一体どういった理由で?」

言いながら生徒2は首を傾げる。

「錬金術で出来た道具を使ってこっちを無力化できる可能性があったからという理由からだな。」

その後も、どうやって初見の対戦相手を叩き潰すかの作戦を練っていたかを2人に伝えると、2人とも驚いたかのように目を見開く。

「お前たち……そんなにえげつないことを考えていたのかよ……。」

生徒2の方がそう呟き、生徒1の方は蒼くなっている。

「その中でも、一番優しい方法で降参してくれて助かったよ、ある意味で、だけどね。」

後ろから如月がそんな茶々を入れるのを押しのける。

「とりあえず、俺たちは部屋に戻ってこの勝った証を置いてくるから、もういいか?」

言うと、敵であった2人同時に待ったがかかった。

「お前たちの名前は!」

生徒2の方が率先して聞いてきたから俺たちは答える。

「俺は神道影理、君たちを蔦で縛ったのは如月託己、そして、洋服をはいだのはケビン・スーだ。」

それを言うと、後頭部に強い衝撃がかかった。

「いって!なにすんだ!」

「その説明だとあたしたちが嫌な奴みたいじゃない!」

どうやら俺のことを叩いたのはケビンだったらしく、手が叩いた後のようになっていた。

「実際に嫌な奴なんじゃないか?だって、みんなの前で洋服をはぐとか。」

「それは言わないで!」

「「お前が言うな!」」

如月がはいだことを言うと、ケビンが叫び、2人の声がハモった、そして、場を整えるためなのか生徒2が咳払いする。

「俺の名前はレナーデ・モナード、そして、こっちの銀髪はデルタ・シャーレだ。

もしも廊下ですれ違うことがあったら、その時はよろしくな。」

それを聞いたケビンが一つ疑問を提示した。

「寮長がくじで引いた人をこの模擬戦に当てるって言っていたわよねぇ、いつ頃お互いの名前を聞いたのかしら?」

それを聞いたデルタが忌々しそうにこちらを見ながら答えてくる。

「くじ引きで選ばれたその当日に自己紹介は済ませた。

俺はお前たちの顔を見るだけで苛立ちがつのるから先に部屋に戻らせてもらう。」

そう言ってデルタが戻るのを皮切りに、俺たちは解散した。

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