如月の回想「学校での出来事」
それは、俺が神道と別れた後に校内をぶらつきながら水道を探すことにした時の事だった。
………
「へぇ~、今の蛇口はどこかに繋がっているんだぁ。」
そう言いながら誰も居ない廊下にあった蛇口をひねって遊んでいたら、どこかから足音が聞こえてきたから直ぐに蛇口を締める。
「あれ?蛇口から水が流れている音が聞こえてきたからこっちに生徒がいると思ってきたんだけど、気のせいだったかな?」
そう言いながら大人の女性が歩いてきた、眼鏡を掛けていて髪の毛を後ろで束ねていて、整った顔立ちという優しそうな雰囲気に合わせて、洋服もピンク色のカーディガンに白のブラウス、紺色の長いスカートという、恐らく文系教科のステレオタイプな先生にしか見えない、だが、その先生の周りには何やら灰色のもやがかかっているように見える。
とりあえず見つかったという事で後ずさりしながら音を立てないように逃げようとする、と。
「待ちなさい、そこにいるのはわかっていますよ。」
こちらを指さしながらそう言われてしまったからか、動けなくなる。
「姿が見えないけれど、貴方は誰かしら?幽霊の類?それとも、何らかの魔法かしら?」
その言葉で、見えていないのが分かったからその場から逃げだす、いや、逃げ出そうとした。
「今逃げたら、あとが酷いわよ、貴方の周りには罠が既に仕掛けてあるから。」
その言葉を聞くか否かと言った所で、足が何かにからめとられて思いっきりこける。
走る必要性がないと判断していたから疾風の駆け足の魔法をかけていなかったのと、もしも掛けていなかったとしても、空間を歪める系の魔法をかけていなかった俺の責任だと舌打ちをついしてしまった。
最後の抵抗に、髪の毛を黒く染める、そこで歩いてきたその女性に透明化魔法を解かれた。
「全く、どうして逃げようとしたの?って、貴方、ここの学校の生徒なの?制服を着ていないみたいだけど。」
そう女性の先生は俺に問いかけてくる、まぁ俺の実年齢としては封印される前は28歳ではあるが、見た目年齢は15~16歳で通ってしまう外見であると自負はしている。
なにせ、俺の民族は成長が遅いからな、ここ、重要である。
「えっと、そのー。」
正直、女性の先生の言葉にどう返せばいいのか言葉に困ってしまって、目線をさまよわせていると、クスリと笑っている先生が目に映る。
「まぁ、私は他の先生とは違って幽霊とかに寛大な方だから別にいいけれど、あんまりおいたをしちゃだめよ?」
そして、足に絡まっている呪縛系の魔法を解いてもらう。
「それにしても、どうして魔法で隠れてこの学校に入ってきたのかしら、それだったとしたら、何のために?」
聞かれて体が反応しそうになるのを抑えながら適当な理由をこじつける。
「あの、その、俺、この学校に興味があって、それだけど、学校に行くだけのお金はないし、それで、透明になれば、入りこめるかなぁ~とか思ったりして………。」
苦し紛れにそんな言い訳をしてみると、相手はすごーく疑っているような顔をしてきたから、俺はとにかくこの学校に初めてきた侵入生で学校に憧れているけれども入れないから侵入してしまったという体でいこうと、頭の中に暗示をかける。
「それで?侵入した理由は分かったわ、なにか収穫はあったの?」
「特にありませんでした。」
思わず秒で答えてしまってからしまったと思った。
興味があるのに収穫はなかった、それすなわち学習する意欲はあるが、人に聞く度胸がない。
そして、それにつながる意味としては、追い出される。
まぁ、追い出されるのでもいいか、そう思っていたら、その女性はこう答えてきた。
「どうやら見たところ、貴方は人間のようだから、幽霊みたいに追い出したりはしないというか、できないけれども、だけど、姿を消すといった魔法は大学で習ったりするとても難しい魔法だから、貴方が収穫がないといっていたのも仕方ないとは思うわ。」
どうして俺が幽霊でないと断言できるのかとか、追い出される前提でいたというか、そんな心持だったおかげで、つい口から音が漏れ出してしまう。
「まじか~。」
俺は口を意識的に閉じておいた方がいいらしい、目の前にいる女性教師が目を吊り上げたからな。
「うん?先生に向かってどういう口の利きかたかしら?」
「ごめんなさい。」
ここで先生の機嫌を損ねるのはよろしくない、それどころか、こいつは研究員の可能性だってあるわけで……研究員?
そこで俺は手を口に当てて少しの間考える仕草、というか、癖が出た。
「そっか、その手があったか。」
「なにか、まだあるの?」
訝し気な教師に俺はいい笑顔で答える。
「いいえ、何でもありません。」
つまりだ、研究員の懐にはいってしまえばなんとかなる、虎穴に入らずんば虎子を得ず、獅子身中の虫に、つまり内側から破壊していってやる。
まずは、この学校の生徒もどきになることからだな。
と、いうわけで、ある程度いい印象を植え付けることにする。
「おれ、それでもこの学校に通いたいんです!確かに勉強したいのは魔法だけかもしれませんが、それ以外にももっともっと勉強したいんです!」
敵が今、どんなことを裏でしているのか、他にもこの世界の現状とか。
そう心の中で呟くと、先生は何やら考え出した。
「うーん、正直、貴方のレベルだと、この学校は合わない気がするけれど、それにお金もないのよね?」
「はい、ありません。」
俺が頷くと、先生は少し悩んだ後、俺に一つの道を提示した。
「だったら、寮に住めばいいんじゃないかしら?」
「寮?」
いきなりの女性の先生の提案に、一応疑問を持った対応をする、心の中では恐らく神道が通っていた寮の事を指すのだろうなと薄々思いながら。
「えぇ、この学校に来る際に町から道を通ってきたでしょ。」
そう言いながら指をたててくるくると回す、それをもしかしてと思って片目をつぶることで出ているであろう魔法を阻害させる。
結局のところをいうと、その指からは魔法は出ていなかったがな。
「その際に森の手前にある6階建ての結構大きな木製の建物が見えなかった?」
記憶をたどると、確かにそういう建物だったよな、ということを思い出す。
「はい、確かにありました。」
「あそこに空きがあるか聞いてくるから、校内をぶらついていていいわよ?ところで、名前は?」
ここで本名を出すのは馬鹿のやること、しかし、ぱっと思いつく名前が……そうだ!
「俺の名前って何だと思います?」
「馬鹿なことをいわないで、言ってみなさい?」
やっぱり駄目だったかー、それじゃ、仕方ないからあの人の名前でも出すか。
「如月託己です。」
とっさに出たのは、自分の名字と俺の民族の族長の名前だった。
ごめん霧森さん!名前お借りします!女性名だけど男性名でも使えるから気が付かないだろう!
「如月託己ね?わかったわ。それにしても、珍しい名前ね。」
「へっ?」
「きさらぎって名字、はるか昔にいた神の民族って呼ばれていた民族で使われていた名字だから、あなた、あの民族の生き残り?」
相手がどんな顔でその事を言ったのかわからないが、そこまで言われてもう限界だった。
動揺と、緊張と、どうごまかそうかという気持ちが臨界点を超えてしまい、俺は暴挙に出てしまった。
「ごめんなさい、もしかしたらかかっている魔法を強制的に解かせてもらいます。」
言うが早いか、相手が何か抵抗する前に俺は相手の顔に手をあてて、こう叫んでいた。
「我が求めうるは澄み切った思考、そなたを開放す、ブレインウォッシングリリース!」
すると、相手の頭から白いもやがバッと広がり、消失した。
「ついでに、洗脳解除!」
そうすると、今度は黒いもやがバッと広がり、それらは俺に襲い掛かってこようとしたから急いで霧に強い風属性の魔法を唱える。
「突風!」
すると、強い風が廊下を駆け抜け、空気が澄み渡るのが感じられる、それと同時にそのもやは吹き飛び、消え去ったのであった。
そして残るは女教師だけ、その教師に手を差し伸べる。
「すいません、大丈夫ですか?」
その教師は頭を2、3回振ると、俺の方を見ながら、こう説いてきた。
「ここは…?あれ?私は一体…なにを…。」
それに答えようとすると、思いもよらない答えが返ってきた。
「それと、私は誰?」
それを聞いて、俺は頭を抱えた。
「あー、そういった類の魔法かぁ」
洗脳解除系統の魔法の問題点は、記憶の一部を失くす可能性があること、理由としては、洗脳されている間の記憶を残してほしくないという考えから、解除をすると記憶を抹消する魔法も洗脳魔法の中に含まれているからだ。
そして、その魔法にも種類があって、自分のやっていた事柄だけを失くす短期記憶を失くすもの、自分の大切な事柄を失くす長期記憶を失くすもの、全てを失くす健忘症、なにか他にもあったはずだけれど、忘れた。
そして、この女性にかかっていたものは長期記憶を失くすものだったと思われる。
まぁ、ある程度は修復可能なんだけどな。
とりあえず、この女性の記憶を戻すために修復の魔法をかける、洗脳の魔法で固まっていた記憶を取り出す作業だ。
結局洗脳の魔法と言うのは、心に制御を掛けて、ある行動を延々と続けさせたり、ある一定の記憶を植え付けるものだったりするから、それを解いて記憶を失くしたというのは、簡単に言えば偽りの記憶、例えば、本当はそんな事は現実では無かったという事を記憶の途中に埋め込まれて延々とその記憶を繰り返していたということで、本当の記憶や感情は洗脳魔法の内側に入りこんで出て来なくなっている場合がほとんどなのだ。
うーん、周りの汚れをとったら、綺麗な中身が出てくると言うのがしっくりくるかな?それをほぐすことで記憶が動き出すと。
正直、修復の魔法は頭痛を起こす、それも酷い頭痛だ。
腕をかませながら俺は記憶修復の魔法を使い続けていたが、腕が食いちぎられそうなくらいに痛い。
「ヴー!ヴー!」
叫び声が聞こえるが、それを無視して続ける、そんなこんなで格闘を続けること20分間、ようやっと記憶が戻ったらしい、チャイムが鳴る。
「よし、これで大丈夫だな。」
そういいながら噛まれていた腕を離してもらう、途中で腕を治しながらだったから時間がかかってしまった。
「あなたねぇ、突然何するのよ。」
くらくらするであろう頭をうずくまることで押さえている女性から苦情を言われる。
「ごめんなさい、でも、記憶はすっきりしたと思うのですが、どうですか?」
「ええ、貴方のおかげで頭がすっきりしたわ、ありがとう。」
完全に怒りを込めた言い方だった。
「名前、いえますか?」
「えぇ、当然、私の名前は霧島かおり、ってあれ?本名が言えるようになってる?」
それに不思議そうな顔をする女性の先生。
「そうですか、霧島先生ですか。」
思わずその名字にニッコリと微笑んでしまう、なにせ、霧森さんと似たような名字だったからだ。
「え、えぇ、本名はそうだけど、先生としての名前はシルフィード・アランって名前で……。」
混乱しているみたいだったけれど、とりあえず、直ぐにとある記憶を植え付ける、因みにこれは洗脳魔法ではなく、忠告として受け取ってもらえると嬉しい。
「自分が本名を思い出したと周りに言わない方が良い、言うと、先生は酷い目に遭うと思います。」
「ひどい目?」
純粋な目で見てくるから、答える。
「光の集団には気をつけて、殺されますから。」
そう聞くが否や、なにか思い当たるのかその女性は頷いた。
「わかった、私の先生としての名前はシルフィードだから、それを間違えないようにすればいいのね?」
それに一つ頷いてから、俺は立ち上がる。
「はい、それじゃ、俺は行きますね?」
姿を消そうとすると、足を掴まれる。
「へっ?」
「あんた、それで逃げられると?」
洗脳は解けたのに、何故!?
そう焦ると、その答えは直ぐに帰ってきた。
「確かに頭が晴れたからそれはお礼を言うわ、だけど、貴方がこの学校に侵入したことには変わりはないの。」
そのシルフィード先生の手の力が入ってくるのが分かり、焦りに焦る。
「そ、それは洗脳で……」
あたふたと答えると、怒られた。
「洗脳とか、洗脳じゃないとかじゃなくって、これは規則!安易に部外者は学校に入ってはいけないの!いい!?」
「はっはいぃ!」
こうやって怒られたのは久々で、なかなかに新鮮な気持ちだけど、なんだか散々な結果となってしまった。
廊下で暫く様々な事で怒られて、それに対して自分は確かに部外者だが本当に学校に行きたい、悪いことはしない、お金がないから助けてくれ、そういうことをずっと言い続けていたら、一応納得はしてくれたらしかったが、非常に納得しかねると顔では言っていた。
「まったく、それじゃ、仕方ないから寮の空き部屋を調べてくるから、校内を歩きまわっていいわよ、見つかったら教えてあげるから。
だけど、あんまりいたずらとかしないように!いいわね!」
呆れたように俺に言葉をくれる先生だったが、その顔色は少しだけいい。
「ハイ先生。」
そんなこんなで、俺はまた透明化して校内を散策した。




