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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
54/66

如月ちゃんには沢山秘密がありそうね。byケビン

「あら、如月ちゃん、お金持っていないの?」

ケビンがそう聞いてくるから、俺が頷いておく。

「あぁ、こいつの家少し特殊でな、おこずかいを渡さない家らしくって、こういった外食を突発的にやろうとすると少し面倒くさいんだ。」

とまぁ、こんな感じにでっち上げをすると、それに如月が乗ってくる。

「俺んちの族ちょ……母さんがな、しまり屋で、だけど、今度から学校に転入することになったという事で、ご飯代とかは自分で稼ぐことになっているんだけど、だけどはれての寮生活ってことで、あんまり気にしていなかったんだよな~。」

そう言った所で、如月が俺の肩を掴んでグイッと引き寄せた、そして、素早く俺の耳にこそこそ話をしてくる。

「一体俺の事をどういう位置づけにしたいんだお前は。」

「学校に中々行かせてもらえない若者。」

「いや、その設定苦しすぎるだろ!」

「設定だって言うならば、確かに苦しいわよねぇ~?」

「ちょっおう!」

如月が驚いて顔を跳ね上げると、ケビンはつい先ほどの位置からは動かず、机に頬杖をつきながらにこにこと話を聞いている。

「なーにか、あたしに隠しているわね?なーに?2人してこそこそと、話しちゃった方がすっきりするわよ?」

そうは言われても……如月と顔を見合わせる、その間に多少の考えの応酬があったようにも感じるが、正直、分からない。

如月が一つ溜息を吐いてから、ケビンと向かいあう。

「確かに、隠していることはある。」

「ちょっ如月!?」

如月の身を案じて静止の意味を込めた声をかけてしまう。

「だけど、この情報を渡すにはちょっと、まだ信用が足りないんだ。

なにせ、まだあって二日目だからな、だから、もうちょっと様子を見させてくれないか?」

そうド直球ストレートでボールを投げつけた如月に、ケビンは直ぐに何かを察したらしく、案外すんなりと引いてくれた。

「えぇ、そこまで言うなら今回は引くわ、だ・け・ど、いつか、話してくれる気になったら、教えてくれてもいいのよ?

それに、殿方は多少何か秘密があった方が魅力的に映るものですものね。」

その言葉に2人して苦笑いした後に、メニューからどの料理が良いかを選んだ。

「さて、どの料理を食べるかだよなぁ~、俺はこのカルボナーラかな。」

「あ、あたしはこのマルゲリータにするわ?」

ケビンがピザを指さしたのに、なんとなく驚く。

「ピザを食べるのか?」

「なに?何かあるの?」

「いや、グラタンとか、そういったものを食べるようなイメージがあったから、少し驚いただけ。」

「ふぅーん、そう。」

「如月は?何がいい?」

如月が難しそうな顔をしながらメニューを見ている、すると、ケビンが驚くような言葉が如月から飛び出してきた。

「えっと、これはなんて読むんだ?」

「えっ?如月ちゃん、文字読めないの!?」

ケビンの突然の大声のせいでレストラン内の客がこちらを見る。

「ばっか、声が大きい!」

「あら、ごめんなさいね?」

如月が焦ったように口止めをすると、口を自分の手で塞ぎながらケビンが申し訳なさそうにしている、そんなケビンの事を見ながら如月は溜息を一つ吐いてから話し始める。

「あぁ、俺、どうやら文字が読めないらしいんだ。」

「どうやら?まるで前は読めていたみたいな話し方ね。」

そんなケビンのツッコミに言葉を詰まらせる如月、それに助け舟を出した。

「まぁ、な、如月がいた区域は貧民層の区域だったから、文字は習っていないんだよ。」

苦し紛れにそう答えると、ケビンの顔に疑問が浮かんでいた。

「だけど、錬金術も魔術も文字が読めなければ出来ないことだと思うの。

つ・ま・り、それも嘘ね。」

自分で墓穴を掘るスタイルになってしまった。

「神道、もうしゃべるな。」

頭を押さえた如月にそう言われてしまっては引き下がるほかない、謝りながら話すのをやめる。

「ケビン、俺は魔法も錬金術も実地で覚えたんだ、本とかに書いてあることではなくて、人から教わって覚えたと言った方が正しいな。」

如月が溜息を吐いてからそう言うが、ケビンは信じていないようだ。

「それも、どこまで本当なんだか。」

「と、いうか、時期が来たら話すから、その時が来るまでは話せない。

そういうものだと思ってくれればいいから。」

そうやって話を切ると、ケビンは少しだけむすっとした顔をしたが、直ぐに諦めたらしかった。

「わかったわ、待っていてあげる、とりあえずわからない文字があったら聞いて頂戴ね。」

「ありがとう、恩に着る。」

そうして、メニューに書いてある言葉を一つ一つ教えた結果、如月はドリアを頼むことにしたらしかった。

ベルを鳴らしてウェイトレスを呼ぶ、そして俺はカルボナーラを、ケビンはマルゲリータを、如月はドリアを頼んだ。

「さて、料理が来るまでの間に一つ確認しておきたいことがあるんだが、いいかな。」

如月がそう言うのに俺たち2人は頷く。

「どうやら全員が明日の模擬戦闘前に怪我をしていることになってしまった訳だが、怪我の状態はどんな感じなんだ?」

それを聞いたケビンが如月を見る。

「えっ?如月ちゃんケガしていたの?」

「まぁね、ちょいと大型の魔物に引っ掛かれてね、手当はしてあるけど、まだ痛むんだ。」

言いながら胸のあたりを人さし指でトントンと叩く。

「大型の魔物って……森にでも入ったの?そんな珍しいものに引っ掛かれるって……。」

如月への申し訳なさとケビンへの嘘に罪悪感を抱いて、俺は目を逸らしたが、誰も気が付いていないらしかった。

「猫型の魔物でな、胸から腹にかけてざっくりと怪我をしていて、実は本調子じゃないんだ。

治癒魔法は知らないし、とりあえず処置はしたって感じだな。

で、ケビンの怪我の度合いはどんな感じなんだ?まだ痛むか?」

それを聞くと、フラッシュバックを起こしたのかケビンの目に涙が浮かぶが、目元を拭ってこっちを見る。

「とりあえず、体にできている打撲が洋服に擦られて多少疼くっていうのと、擦り傷の痛みはとりあえずないっていうところかしら。」

袖をめくると、大きな青あざがあり、どれ程の暴行を受けたのかが直ぐにわかる。

「後で医務室に行くか、俺が湿布を作ってもいいんだが、どうする?」

如月からのその申し出に、ケビンはせっかくだからと後で湿布を貰いに行く約束を如月にしていた。

「よろしくお願いね如月ちゃん。」

「任せておけ、即効性は低いかもしれないけれど、しっかりと痛みを取るやつを作ってやる。

で、神道、お前は傷の方はどうなんだ?」

話しがこちらに振られたから答える。

「如月に処置してもらった所は治っている、即効性が高すぎてびっくりしたけどな。」

レストランにいるため洋服は脱げないが、怪我をしている所を指さすと如月は頷いた。

「治っているならそれはそれでいいんだ。」

そんな事を話していたら、ケビンが驚きを顔に出した。

「神道ちゃん、確か怪我をしたの2、3日前じゃなかったかしら?そんなに早くに怪我が、それも火傷って治るものなの?」

それに対して如月が答えた。

「あぁ、薬の調合が得意な人が家族に昔居てな、調合をしてもらった残りを少し使わせてもらったんだ。」

「昔……?もしかして、今は。」

首を傾げたケビンの言葉に、如月は答える。

「既に死んでいるな。」

その顔には壮絶な悲しみが浮かんでいた。

「如月、そんな薬品を俺に使ってくれたのか?」

つい、その事を聞いてみると、如月は眉を思いっきりしかめたまま口元だけ笑うという泣き笑いの顔をした。

「思わずな、痛そうだったから使わないという手を考えていなかった。

それに、俺にも一応調合する力はある、苦手だけれどもその人の作る下位互換的な力を持った薬だったら作れなくはないからな。」

お通夜みたいな雰囲気が辺りに流れる、それを引き起こした張本人である如月が「さて!」と言いながら手を叩く。

「明日の事を考えなきゃな、今晩の間に何が出来るのかは疑問だけれども、それでも足掻かなければならない!なにせ、こんなに酷い目に遭ったからな!」

明るい話題にしようとして失敗している例がここにあった。

「そうね、明日模擬戦闘なのよね、気が重いわ~。」

ケビンの顔からは表情が消えている。

「正直勝てる気がしない、魔法がそんなに使えるわけでもない俺が他の寮の生徒と対決出来るわけがない。」

吐き捨てるように言葉を漏らす、どんな顔をしているのかは分からないが、顔が死んでいる気がする。

「打開策ならある、食事が終わったら神道の部屋に向かうのでいいか?」

如月の言葉に俺たち2人は一応頷く。

「一応、どんな策か教えてもらってもいいかしら?」

そこまでをケビンが言った所で料理が来る。

「さて、それじゃ、明日の為の俺が考えた策を伝えるぞ?」

その後、俺たちは食事をしながら如月からその策とやらを聞き、少しだけ案を出したりして食事を終えた。

そんなこんなで、布陣やら使う魔法やら、明日までに揃えたいものまで色々と話していたら結構な時間になったため、急いで席を立ち、お金を支払ってから錬金術に使う材料を求めて素材屋に走った。



…………


ケビンを先頭にしてたどり着いたのは、「御剣の素材屋」という名前の看板がかかったお店だ。

ケビンが扉を開くと、来客のベルが鳴り、中にいた店員が声を出す。

「いらっしゃい。」

中に入ると、入り口近くにカウンターがあり、そこでお店の店主だと思われれる45歳くらいの人が新聞を読んでいた。

店内のほうを見ると、棚がずらりと置いてあって、特価コーナーなる場所もあった。

ケビンが会釈をしながら店内に入るのにならって会釈をしながら店内に入る。

「この店、初めて来たんだが、どこに何があるのかわかるのか?」

聞くとケビンがうなずく。

「えぇ、このお店は錬金術師御用達だからね、クラスの友達も使っているわよ?」

「「へぇ~。」」

如月の声とハモったのを気にしていないらしく、ケビンは買い物かごを手に取って特価コーナーに直行した。

「多分、これとこれ、あと、これも必要ね。

あ!これ安い!買った!」

そんな感じにかごの中に入れたものを見てみると、石やら何かが入った瓶やら、ぱっと見では何が入っているのかわからないものが入っていた。

「なぁ、とりあえず今回作るものはわかっているのか?」

聞くと、ケビンはこちらを見ないまま話してくる。

「えぇ、とりあえずはね、神道ちゃんもお金を出してくれるなら後で面白いものを作ってあげるわよ?」

面白いものとは、いったい何なのだろうか、とりあえず今回はお金を出すことにする。

「なんデルクくらい出せばいい?」

「そうねぇ、2500デルクくらい?」

人差し指を顎に当てながら考えた後に提示された金額は、食事5回分くらいの値段だった。

「高っ!」

「仕方ないじゃない、明日の戦いに勝つためには多少無理してでもお金を出さないと。」

ケビンは腰に手を当ててそう言ってきたから、思わず聞き返す。

「そんなケビンは何円くらい出すんだ?」

「あたし?そーねぇ、大体2000デルクくらいかしら?」

「俺よりは少ないけど、高!」

「仕方ないじゃない、あ、500デルクは錬金術代ね?」

「地味にお金を取られる!」

そんなやり取りをしながらも、どんどんと素材がかごの中に積みあがっていく。

「そんなに買って大丈夫か?」

「大丈夫よ、問題ないわ、何せ、会員カードも割引も、いろいろあるからね。」

そんなやり取りをしながら周りを見渡すと、そこにいたはずの如月がいなくなっていた。

「あいつ、どこに行ったんだ?」

みたいなことを言った辺りで、ケビンが動いた、それについていくと、どうやら明日のための素材をかごに入れるために動いたらしく、石、水、火薬、その他もろもろをかごの中に入れて、元の特価コーナーにまで来た。

「よし!これでいいわ、神道ちゃん、少しはお金出してくれるわよね?」

「そりゃそうだけど……そんなに買い込んでどうするんだ?」

多分だが、明日の模擬戦に出す以上のものがかごの中に入っているものと思われるんだが……。

「当然授業に使うものもあるわよ、趣味もあるけど。」

いや、明日の戦闘に使うものだけを買えよ。

「二人とも、買うものが決まったのか?」

後ろから声が聞こえてきたから、ケビンと同時くらいに後ろを振り返ったら、そこには如月がいた。

「えぇ、そうね。」

「そういえば、お前どこ行っていたんだ?」

素朴な疑問をケビンの次に言うと、如月は肩をすくめた。

「どんなものがあるのか興味があってね、少し見てきたけど、買えそうもないや。」

ケビンがそれに反応した。

「そうね、どんなものが欲しかったのかしら?」

そんな問いに、如月が一言「魔鉱石」といったら、盛大にうなずかれた。

「そりゃ買えるわけがないわね、あんな高いもの。」

「だから、あきらめて戻ってきたよ。」

そんな話をしながらレジに到着した。

「おねがいしまーす。」

ケビンがレジにかごを置いて、清算してみると、5000デルク以上と出たから、俺が半分、ケビンがもう半分を出した。

「おい、錬金術師、計算はしたのか?」

「あ、あらら、ごめんなさいね?悪気はなかったの。」

「金がすっからかんだぞ。」

「えーっと、後で好きなものを作ってあげるから、ゆるして?ね?」

そんな会話をしていたら、如月が買った全ての素材を袋詰めにして俺たちの間に入ってきた。

「とりあえず、帰ろうぜ?そろそろ門限が近いんじゃないか?」

言われたから、ケビンが携帯を取り出して時間を見た、一緒になって見てみると、確かに時間がぎりぎりだった。

「うお!もうこんな時間なのか?急がないと寮長に締め出されるぞ!」

と、いうことで、俺たちは急いで店から出た後にダッシュで寮にまで戻るのであった。

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