魔物は町中に出たがらない。
椅子から立ち上がって玄関の扉を開けると、そこにはつい先ほど魔力を吸うように指示した三人の魔物が立っていた。
「影理、つい先ほどの者達の魔力の大体半分ほどを吸い取って参った。
その後の彼らの処置の程、いかがせむか。」
恐らく、大体の魔力を吸い取ってきたからどうしようかと言っているんだろうな。
「その後、男たちはどうしたんだ?」
そう言うと、東雲は頷いてから話し始める。
「応、その後はその場に捨て置きて候。」
「あいよ、わかった。」
後ろを向いて、2人の事を見てから俺はとりあえず伝えることを伝える。
「どうやら、ケビンを襲った奴らは全員伸びているようだから、今のうちに財布は持ってくるといいみたいだな。」
そういうと、如月は頷き、ケビンは怪訝そうな顔をした。
「どうして、そう分かるのかしら?」
ケビンの問いに答えたのは如月だった、如月って意外と説明したがる性質なんだなっていうか、説明しないと気が済まない性質なんじゃないのかこいつ。
「大抵の場合、魔物に魔力を吸われた奴は暫く動けなくなるんだ。
そして、吸われてから一日は魔力を体の中に取り込もうとする働きで周りの魔素を吸収するための痛みでのたうち回ることになる、といわれている。
体内にある魔力を半分ほど吸われると、恐らくだけど、今頃全身が酷い筋肉痛の強化版みたいなことになっている上に、内臓にもダメージがあるような感じになるんじゃないのかな。」
「そ、そうなの?」
おずおずといった具合でケビンが如月に問うのに、烏丸がそれに答える。
「あぁ、確かに俺たちが人間から魔力を吸うと、その人間は暫く動けなくなるのは事実ではあるね。」
腕を組んだ状態の烏丸の話をケビンは頷きながら聞いている、それに佐久間も続いて話す。
「因みに、半分以上の魔力を吸うと、呼吸困難に陥ったり、失神したりする奴もいるってわけよ。」
「ま、そんなわけだから、財布を持ってくるなら今のうちって感じだな。」
そう俺が締めると、ケビンは泣きそうになりながら俺たちにお礼を言って来た。
「みんな、こんなあたしの事を助ける為に、本当にありがとう。」
言われると、照れくさくなってそっぽを向いてしまう、如月の声がする。
「なーに、仲間に加勢しなきゃ俺の義に反するからな、別にいいよ。」
そう言いつつも、うれしそうな雰囲気は伝わってくる、玄関にいる魔物たちはいまいちわかっていない顔をしている。
「そ、そんなことは置いといて、財布を持って、どこかに行こうか。
と、言いたいところだが、ここで一つ問題があるんだ。」
そう俺が告げると、如月とケビンが首を傾げる。
「俺な?町を歩くと学校の奴らに絡まれて、カツアゲに遭う事が多いんだ、だから、一緒に行ったら大変なことになると思うんだが……。」
申し訳なさそうに言うと、ケビンは不思議そうな顔をした。
「それだったら、玄関にいる三人を連れて行けばいいだけじゃないのかしら?」
それに対して魔物たちが困ったような顔をした。
「それがしたちは、人の眼に触らるることを良しと致さぬと云ふか、そもそも、人の形は致し候なれど、それがしたちは影の者、下手に見つかるとどがんされるでござるかいかにももんでないから、ついて参れないんじゃ。」
東雲の言った事を、烏丸がそれを翻訳してくれた。
「ええっとだね、俺たちは人の目に触れることを良しとしない、それ以前に人の姿をしてはいるけれども、俺たちはそもそも隠れなければいけない存在、下手に見つかると何をされるかわからないから、一緒について行けないから、と言っているんだと思うな。
とにかく、俺たちは影理についてはいけない、すまないね。」
申し訳なさそうに烏丸が言うが、俺はいつもの事だったためあまり気にしてはいない。
しかし、如月とケビンの反応は違った。
「確か、魔物や妖怪の類が人の形を成している理由の一つに、人に擬態することによって街並みに紛れるという理由じゃなかったか?」
「あたしはその状態で人に溶け込むのは簡単だと思うわよ?」
2人が言うのに俺は何とも言えない気分になる。
「あのなぁ、魔物を捕獲してどこかに連れて行ってしまうような国に魔物たちはいるんだ、光の集団が何をしているのか知らないけど。
これは魔物たちの噂とかで結構言われていることなんだけど、基本的に、光の集団の奴らに見つかると、どこかに連れ去られて二度と戻ってこない奴が大勢いるらしいんだ。」
俺は言いながら窓の外、というよりはここの窓からは見えない森のある方角に目を向ける。
「なぜか、学校近くにあるあの森の中にいる魔物たちは光の集団に連れ去られないんだとか言っていたな。」
それを聞いた如月は照れたように頬を掻き、ケビンは不思議そうな顔をしている。
「そんじゃまぁ、ワイらは一旦撤収させてもらうでー。」
話を無理やりに断ち切った佐久間が部屋の中に靴を手に持って入ってきてから窓から飛び降りる。
「ちょっと!ここ四階よ!?」
ケビンが驚いたような声を出す。
「其れでは、それがしたちも退却するか」
「そうだね、ここにいたら町中に連れだされそうだから、一先ず行こうか。」
そして、2人も手に靴を持って部屋の中に入ってきた。
「なぁ、今の光の集団がどういった事をやっているのか、後で意見交換しないか?」
如月が2人に問うと、烏丸が振り返る。
「あぁ、いいよ。
影理の友人のいう事だからね、約束しようか。」
にこりと烏丸が笑うと、既に窓際に立っていた東雲が烏丸を呼ぶ。
「かーい、行かないとかー?」
東雲に呼ばれた烏丸は窓際にまで歩いて行く。
「一先ずは退散させてもらうよ、また今度、呼ばれたら、直ぐに参上しよう。」
そして、窓から烏丸が飛び立ち、東雲はその足にへばりついた。
そのまま2人はどこかへと消えていった。
「さて、みんなもいなくなったことだし、ケビンの財布でも取りに行くか。」
そう言って、俺は一番最初に玄関を出る、それに、如月が待ったをかける。
「あ、俺は後から合流するから、先に行っていてくれないか?」
「何かあるのか?」
俺が聞くと、如月が頷く。
「少し、やりたいことがあってね。
なに、2人で財布を取ってきて、暫く扉の外で待っていてくれればいいからさ。」
如月の発言に俺はもしやと思う、一つ、如月の行動に心当たりがあるのだ。
恐らく、錬金釜を持ってくるつもりなんだろう。
俺はケビンを促して、部屋の外に出る。
ケビンが不思議そうな顔をしているのを気にせず、ケビンの部屋に行くと、案の定扉の鍵は開いていて、俺が先頭に立って部屋の中を見てみる。
部屋の中ではケビンをボコボコにした奴らが床に、確かに捨て置かれていた。




