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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
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少しの報復の後、405号室の自分の部屋に戻る。

「おまえら、おまえらをどうにかすればオレタチノ寮での扱いが良くなる……」

ゆらりと立ち上がった細身の男がこちらに迫ってこようとモーションをかけたと同時に、後ろに居た東雲が勢いよくとびかかる。

「影理、こやつ、いかにいたす。」

東雲が組み付いて動けなくなっている男に近づき1つ聞く。

「おい、お前、ケビンに暴行を加えて、楽しかったか?」

有無を言わさない雰囲気を醸し出しながら聞くと、相手はこんな状況だというのにニヤニヤと笑いながら答えてくる。

「あぁ、楽しかったな。

何より、先生のお達しなんだ、何をやってもいいだろう?」

呆れて何も言えない、俺は魔物3人に一言、命令を下した。

「東雲、烏丸、佐久間、徹底的に怖がらせる為に、魔力を吸い取ってやれ、精神的に追い詰めるんだ、ただし、3人に傷はつけるな、後が厄介だ。」

そういうと、3人とも嬉しそうに標的となった男たちに近づいていく、まるで獲物を得たかのような表情だ。

それもそうだ、魔物の好きなものに魔力がある、たとえ微々たる魔力だったとしても全て吸い尽くそうとするくらいだ。

そして、吸われている方は、痛みを伴うらしい、らしいというのは俺が体験をしていなからだ。

「さて、命令を下したことだし、ケビン、俺の部屋に行こう。」

洋服を着終えたケビンに手を差し出しながら言う、それにおずおずといった具合で手を取るケビン。

「神道も酷い事するなぁ~、まぁ自業自得だけどな。」

如月は制裁した3人組を見ながら溜息を吐く。

「少しいいかしら。」

ケビンが俺の手を掴んでいる方とは反対の手で涙を拭きながら聞いてくるから、それに「なんだ?」と返す。

「お香、持って行かせて、明日使うものくらいは持って行きたいの。」

ベッドから降りるケビンを黙ってみる俺たち、そして、恐らくケビンの机の上から自身が作ったであろうお香を箱に詰めてから、俺たちに振り返る。

「これでいいわ、行きましょう。」

辛そうに体をさすりながら、制裁する方と制裁されている方を合わせた6人の脇を通って玄関にまで行くケビン。

「とりあえず、この割れた錬金術の為の壺も持って行くか。」

そう言って如月は机の上に置かれている錬金釜だった物とその中身を、異次元から袋を取り出して詰めている。

「如月、これありがとうな。」

如月に持っていた傷薬と応急処置セットを渡すと、彼は微笑みながら受け取った。

「どういたしまして、さて、錬金釜もつめ終わったし、行くか。」

そうして如月も玄関から出ていくのを見た。

「影理、俺たちはどうすればいい。」

絶賛魔力吸い上げ中の烏丸が聞いてきたから、終わり時を伝える。

「完全に魔力を吸い上げると死んでしまうから、大体半分吸い取ったところで止めにして、みんなは帰ってもいいし、俺の部屋によってもいいからな。

そこら辺は任せた。」

魔物たちは頷き、ケビンを襲った男たちから魔力を吸い続けている。

命令もし終えたから玄関から出ると、ケビンと如月が待っていた。

「部屋の鍵、確か神道だったよな、開けてくれ。」

「はいよ、わかった。」

そうして、俺たちはくぐもった叫び声が響く部屋から出て、俺の部屋である405号室に行くのであった。


……


「それにしても、錬金釜が壊れて、仲間もボコボコにされて……ちょっと悪戯しただけなのに、ここまでする必要あると思うか?」

みんなで俺の部屋に入った時の如月の第一声がそれだ、魔法を使った事による罪悪感というか、罪の意識がないように見える。

「あのなぁ、第一に如月が魔法を使った事から起こったことなんだぞ?これ。

この寮の決まりが分かっていなかった如月が悪いんだとは思うんだが?」

それに飄々と答える如月。

「いや、魔法は使わないと上達しないだろ、それにそんなの聞いていないぞ。」

それにカッとなって強く言い返しまう。

「聞いていないからって、だからといって、こうなると思っていなかった俺のせいかもしれないけれど、だけど!こうなるなんて!」

自分でも何を言っているのかわからない、しかし、苛立ちが心の底から湧き上がってくる。

「ケビンがこんな目に遭ったのも、元はと言えば如月が魔法を寮内で使ったからじゃないか!」

それを聞いた如月の眉間に皺がよる。

「ちょっと待てよ、それ、俺が全面的に悪いみたいじゃないか。

確かに魔法を使ったのは悪いことなのかもしれない、だけど、それに対して徹底的に叩く寮長にも問題があると俺は思うんだが?」

「違うのかよ。」

「ここまでやらずに普通に怒るだけでもいいんじゃないのか?」

それを聞いて、玄関先で如月の胸倉を掴んで壁に押し当てる。

「きっと、何かしらの理由があるんだ!そうじゃなきゃこんなこと起こるわけがない!」

「ってぇな!何すんだ!」

完全に頭に血が上がって取っ組み合いのけんかに発展しそうになっている俺たちの間に、ケビンが入ってきた。

「ちょっと、2人とも、ケンカしている場合じゃないんじゃない?

それに、あたしの為にケンカしないで!」

俺たちはケビンの手によって引き離される。

「ケビン!お前が怪我をしたのは、元はと言えば如月が魔法を使ったからなんだぞ!?

おまけに、ケビンは対戦相手のはずだったのに俺たちのグループに入れられたりして……、嫌だとか思わなかったのか!?」

自分で言っておいて地味に傷ついた。

「嫌だとは、まぁ少しは思ったわ。」

肩を竦めながらケビンはそう答えてくる。

「だったらどうして怒らない?」

「だって、2人ともあたしの事を助けようとしてくれたじゃない。

たとえ演技だったとしても、うれしかったわよ。」

優しい眼差しでそう言われると、怒りが少しだけ治まるのを感じた。

「俺、思うんだけど、いいか?」

如月がおずおずと手を挙げる、どうやら如月も多少は怒りが治まっているらしかったから、話を聞いてみる。

「なんだよ如月、何かあるのか?」

それに如月は溜息を吐いてから話しだす。

「攻撃系の魔法は確かに危ないかもしれない、だけど、生活魔法も使ってはいけないっていう道理はないんじゃないのか?」

それを聞いた俺はびっくりして如月の口を塞いだ、生活魔法は現代において古典魔法と言われる既に滅びた魔法である、下手に口に出すと正体がばれるのではと思って、口を塞いでしまった。

「せいかつまほう……ってなにかしら?」

ケビンが疑問を俺に投げかけてくる。

「あーっと、生活魔法じゃなくって……そう!性格改善魔法って意味だよな!な!如月。」

とっさに思いついたことをでまかせで言ってみたが、如月は不服そうな顔をしながら俺の手を小指をあらぬ方向に曲げることで外す。

「いででででで!」

「あのなぁ、この程度隠しても仕方ないだろう?生活魔法だ。

性格改善魔法とか、俺が洗脳魔法を使うわけないだろ?」

そう言って、ケビンに向かってニヤリと笑いながら、靴を脱いで部屋の中に入る。

「ちょっと待ってろ、今から冷蔵庫を作ってみるからな。」

そして、如月が円卓の下から箱を取り出した。


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