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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
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ケビンの手当てと寮の中の闇

「ケビン!!」

上半身を抱き上げると顔が少し腫れているようにも見える、長袖のシャツを身につけているため体に傷があるか確かめられない。

「ベッドに移動させようと思うんだけど、佐久間、烏丸手伝ってくれるか?」

「「わかった。」」

窓の近くにいる烏丸と佐久間に体と足を持つように指示をして、俺は上半身を持ち上げる、そしてそのまま近くの2段ベッドの下の部分に寝かせた。

誰のベッドかは知らないけれど、けが人がいる状態でけが人のベッドはどれだとか、そんなこと言ってはいられない。

「ケビン、意識はあるか?」

問いかけると、ケビンが目を開けた。

「え、えぇ、一応ね……。」

目の上が腫れているのか、上手く目を開けなさそうだ。

「ケガの度合いを見る為に、服を脱がそうと思うけれど、大丈夫か?」

聞くと、何故かそれをかなり渋っているケビンだったが、なにか心の中で決心がついたような顔をした後に、「いいわ、自分で脱ぐから」と言った。

「ケガしているのに、大丈夫か?」

「えぇ、確かに体中痛いけれど、何とか動けるから。」

寝た状態で言いながら、ボタンを全て外して前を開ける、開けたのはいいが、下着のせいでケガが見えない。

けれど、血は出ていないのか下着に赤いところは見受けられなかった。

とりあえずケビンにシャツと下着を脱がせてもいいかと聞くと、自分で脱ぐと言って体を起こしてから、シャツと下着を脱いだ。

その下には背中に大きな痣が複数と、大小さまざまなかすり傷が上半身の全体的にあった。

「これは……」

思わず絶句する俺と、辛そうに顔を伏せるケビン。

とにかく如月から薬を貰おうと横を見ると入り口付近でなにやら話しているようすだったが、気にせずに話しかける。

「如月、湿布薬と傷薬、持ってないか?」

如月に聞いてみると、直ぐに傷薬と応急手当セットが出てきた、それを投げずに手渡しで渡しに来る。

「とりあえず、傷薬は持っているけれど、湿布は今持っていないから後で手に入れるとして……、ケビン、大丈夫か?」

尋ねると、ぐっと涙をこらえたのか、唇をかみしめた後に、ぽつりと。

「いきなりのことで、正直怖かった。」

そう、言った後に黙ってしまった。

「俺はもう少しあいつらに聞きたいことがあるから、行ってくるな。」

そう言って如月が3人の元に行くのを見てから、ケビンに話し掛ける。

「とにかく今は、傷の手当てをしなきゃいけないから、泣いてもいいけれど、痛いところを教えてくれ。」

それを言うと、ケビンの目から涙が出てくるが、ただ頷いただけで何も言わない、脱脂綿だと思われる綿をピンセットでつまんでから傷薬に浸し、それを大きな傷口に当てていく。

「……っつ……?」

傷口に脱脂綿を押し当てられた時に体をびくつかせたが、頭に疑問を浮かべている顔をした。

「痛くないか?」

聞くと、黙って頷く。

「ならよかった。」

そういって、ただ黙って消毒をしていく。

「影理、俺たちはどうしたら……」

烏丸がそう俺に聞いてきたから、とりあえず命令を出す。

「この部屋に錬金釜?とにかく壺があるから、それが無事か見てみてくれ。

円卓の上に置いてあったはずだから、下に落ちているかもしれない。」

そういうと、ケビンが嗚咽を漏らし始めた。

「ケビン?」

「錬金術の為の壺、駄目かもしれない……。」

「えっ?」

その時、後ろから佐久間の声がした。

「かげりー、あったけど、こりゃー駄目だな。

完全に真っ二つだ。」

いいながら佐久間が見せてきたのは、あの装飾がなされた錬金釜の無残な姿だった。

「土が周りに散乱していたが、一体何をしようとしていたんだ?」

確かに、傍から見たら何をしようとしているのか分かららないだろうな、という感想はある。

「あとで説明する、それで、何をされたんだ?辛くない範囲で言ってくれ。」

ケビンは、ただただ涙を流すばかりで何も言わない、言いたくないのだろうと思い、怪我の手当てを進めることにした。


……


大体の傷の手当てが終わったところで、如月が眉間に皺を寄せながらこちらにやってきた。

「大体の事をあいつらから聴き出したけど、なんつーか、この寮には入りたくない位に闇が深いな。」

そう俺たちに吐き捨てるように告げた。

「一体、どんな話だった?」

俺が聞くと、如月は頷いてから話し始める。

「なんだか、寮長からの命令というか、報酬付きの依頼で俺たち3人のことを邪魔しろと言われたらしい。」

それを聞いた俺は目が点になる。

「ちょっと待てよ、それってどういう事だ。」

「なんか、それしか言わないんだ。

ずっと、俺たちは寮長に言われたからやったんだ、ただ、それだけなんだ。

俺たちは悪くない、悪いのは寮長だ。

ケビンには悪いと思っている、だけど、寮長の命令で。

そんな事を言っていたから、脅して吐かせてみたんだ、そしたら報酬付きで俺たちは雇われたんだって言っていたな。」

それに頭が真っ白になる、寮長がそんな姑息なことを使うやつだとは聞いたことが、そこまで思って一つ思いだした。

大人げないことも平然とやってのける、その上対戦した後の人がドエム認定されることがある。

これらの意味を、俺はそのままの意味でしかとらえていなかったのだ。

そう、対戦してその結果ドエム認定されるとしか、思っていなかったのだ。

「それで、報酬っていうのは……」

「最新のゲーム機、お金、寮での優遇措置、その辺りが報酬として与えられるそうだ。

ほんっとうにクズだな。」

イライラとした様子の如月を見ながら俺は、顔から血の気が引くのを感じた。

寮長に、目をつけられた、それが寮の中で意味することとしてはなんだ。

その事に、俺と同様に顔面が白くなっている人が居た、ケビンだ。

「いや……いやよ、ずっとこんな状況になるのは嫌。」

悲痛な面持ちでそう呟くように言ったケビンに如月がいち早く答える。

「当然だ、ここまで大人げない奴だとは思わなかった。

第一、ここまでする必要性を俺は感じないんだが、2人はどう思う?」

正直、頭が働かない、しかし、ここ2日間の事を思い出すと、如月が問題を起こしたからこうなってしまったのではないのだろうかという思考回路が出てくる。

「あたしは、正直、どうしてこうなったのかわからないの。

ずっと、殴られたり蹴られたりしている時に言われたわ。

お前なんかがこの寮に居たら迷惑だ、さっさと出ていけ、女っぽくって気持ちが悪い、今までずっとこうしたかった。」

ボロボロと涙をこぼしながら伝えられるその事実に、ケビンを暴行した生徒が、ただ便乗してことに及んだと伝えてくる。

「あたし、ここに居てはいけないのかしら、こんな口調だからなのかしら、隠さなくてもいいって言ったのは、相手なのに……!」

あまりにも痛々しいその姿に、とりあえず下着を着るように促すと、ゆっくりと衣服を身につけ始めた。

「そんなことはない、居ちゃいけないなんて俺も、神道も思っていない、なぁ?」

如月が俺に話を振ってくるのに対して、即座に答える。

「俺たちはそんなこと全く思っていないから、涙を拭いた方が良い。」

そう言いながらポケットに入れていたハンカチを渡すと、ケビンは「ありがと」とだけ言って受け取ってくれた。

「それじゃ、ケビンが衣服を全部身につけたら、神道の部屋に行くか。」

そう言って如月が締めようとした時に、視界の端で何か動いた気がした。


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