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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
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錬金釜に使う蓋探し

「如月、どうしたんだそんなに苛立った風になって。

なんか、怖いぞ?」

俺がそう指摘するも、如月はすたすたと歩いて行ってしまう。

「おい!如月!」

「聞こえているから、何回も呼ぶな。」

振り返った如月の顔には特になんの表情も浮かんでいなかった、それが逆に怖いんだがが。

「ただ、他に代用品になりそうな蓋がなかったか考えていただけだ。」


また前を向いて歩いて行く如月の後ろを歩く、まぁケビンの部屋と俺の部屋は近いから直ぐに到着はするんだが。

部屋の鍵を開けて中に入ると直ぐに、如月が「転送」と言ったせいで如月が迷宮に行ってしまったため、俺も直ぐに移動した。

「一体なんなんだよ、そんなにピリピリしなくてもいいだろ?」

「別に怒っちゃいないさ、ただ、考え事をしているだけだ。」

如月はそう言って、教室がある方の扉を開けてそのまま歩き出す。

「だったら、ちゃんと話さないとわからないだろ?」

俺が如月の事を引き留めようとするが、如月は苛立った声色を隠そうともせず、歩きながら話を続ける。

「言っただろ、木製の釜の蓋が代用品になるから持ってくるって、ただ、異次元の倉庫にはそういったものを入れていなかったと思ったからな、ここならあると思って。」

そうして、如月が教室の右隣にある部屋に入ったのを見てから、俺も中に入る。

「600年も立っているから恐らく俺たちが使っていた釜の木の蓋はなくなっているとは思うけれども、確か錬金釜の蓋はあったはずなんだよな。

あれ、確か装飾過多でどんなに煌びやかにしていても、根っこは同じ釜なんだし。」

そう言って、雑多に物が置いてある部屋の中を漁り始めた。

「この部屋って、どうして残っているんだ?」

気になったから聞いてみると、部屋を漁りながら如月は答えてくれた。

「この部屋はもともと扉がなくて、子転移装置からしか移動できない特殊な倉庫だったんだ、おまけに神の民族しか入れないっていう条件付き、で、その倉庫を簡単に使えるようにするためにダンジョンをすこーし弄ったってだけだ。

というか、見ているんだったら少し探すの手伝え。」

そう言われるが、暗くて見えにくい。

確かに猫の目を使えば見えないことはないんだが、ガサゴソと探しているところ悪いが獣人の力は極力使いたくない。

そう思ったけれども、結局手伝うことにした。

「錬金釜の蓋ってどういったものなんだ?」

「えっと、白い蓋だな。

あの大きさの釜だと丁度はまる大きさの物が望ましいからーっと、あったあった、これを探していたんだ。」

いいながら取り出したのは、埃をかぶりに被った灰色の蓋だった。

「それが、錬金釜の蓋?」

俺が聞くか聞かないかという間に手で埃を払うから、近くに埃の塊が落ちる。

「あとは、タオルで拭けばいいだろ、戻るぞ。」

そうして如月が歩き出すのに合わせて俺も歩き出す。

なんだよ、やる気を出したっていうのに見つけやがって、とは言わないが、獣人の目にする前でよかったとは思った。

正直、力を使うとその部分が痛むのだ、なんだかびりびりと、とにかく痛むのだ。

転送部屋にまで戻り、如月が転送と言うと、俺たちは405号室、俺の部屋に戻ってくる。

そのまま玄関の扉を開け、如月は親指でさっさと出ろとジェスチャーをしてくるから、部屋から出ると、直ぐに扉の鍵をかけられる。

そのままケビンの部屋である409号室に行くと、中から声がした。

「ケビンの部屋の人が戻ってきたのか?」

俺がそう言うか言わないかというところで如月がノックをすると、中から出てきたのは俺は見たことがない生徒だった。

「おまえ、ケビンとチームを組む神道とか言うやつか?」

初対面だというのに突然の横暴な態度を示してくる大柄なその生徒は柄が悪く、俺たちに殺気でも叩き付けているのではと思う程度には如月の事を睨んでいる。

「明日の模擬戦闘のことか?それだったら確かに俺とチームを組むことになっているな。」

如月が俺に変わって答えると、突然如月の胸倉をその大柄な男は掴んできた。

「なんだ、こんなにひょろい奴が寮長の相手になるとか、ある意味安心したわ。」

驚いて俺が後ずさると、その大柄な男は俺の事を睨み付けてくる。

「そして、お前が如月だな?寮長のお相手どうもありがとう、そのおかげでケビンの事をようやく痛めつけることが出来る。」

その顔には一種の喜びを感じ取り、俺は突然の意味の分からない話をされるその恐怖に震えた。

「ま、この寮には強者と弱者がいるんだ。

そして、寮長に目をつけられたものは自動的に弱者になる。

知らないのはかわいそうだと思ったから、教えておくぜ~?」

いや、そんなの聞いたことがない。

しかし、この場でそれを言えば恐らくひどい目に遭うのは確実、というか、ケビンは大丈夫なのか?

「ケビンは、ケビンはどうした。」

それを聞くと、男は後ろに目をやる、そこには横たわっているケビンが目に入った。

「ケビン!」

俺が助ける為にと中に入ろうとすると、男がそれを遮る。

「おっと、入るなよ~?お前は危険人物だって聞いているからなー。

ここからは、立ち入り禁止だ。」

男が如月と共に扉の向こうに消えようとするのに、足を扉に挿んで止めようとする。

「待て!」

すると、如月がこちらに何かを投げたせいで、そちらに気を取られ、その隙に2人は扉の向こうに消えていった。

「嘘だろ……?」

今現在手に握っている、投げ渡された何かの正体は部屋の鍵で、どうして如月が鍵を投げてよこしたのかは分からないが、このままではいけないと急いで自分の部屋に戻る。

そして、部屋の窓にまで行き、俺の唯一の友達である「みんな」の事をよんだ。


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