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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
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錬金術が、使えそうで使えない。

「それじゃ、失礼するな。」

如月が壺を手に取り様々な角度から見ているのを横目に、俺はケビンに質問をする。

「そういえば、材料とかはこの部屋にどれくらいあるんだ?」

それにケビンは左右を見ながら答える。

「えっと、確か素材用のリュックサックの中に多少はあったはずよ?」

「俺さぁ、錬金術学科じゃないから、どんな素材を使えば何が出来るかとか知らないし、第一錬金術学科の友達がいないから知り様がないんだ。

正直、ケビンには道具面でかなり助けてもらうことになるけれど、いいか?」

それを聞いたケビンは、真面目な顔をして頷いた。

「あたしの力がどれ程通用するかは分からないけれど、今回の戦いに便乗する形であたしの願いも叶えてもらうつもりだから。

幾らでも力になるわよ?」

その言葉に謎の感動を覚える俺、今まで魔物としか接していなかったからか、心の中に結構な重量を持ってその存在感を放つ。

「力になるかぁ、よかったー。」

「だけど、寮長のくじ運次第では、あたしも足手まといになる可能性があることを覚えておいて?」

ケビンにそう釘を打たれるが、それでも、多少なりとも頼りにするのは仕方ない事だと思う。

とまぁ、そんな会話をしていると、如月の壺を置くゴトリという音で会話は中断された。

「少しだけかもしれないけれど、使い方分かるかもしれないから、適当に余っている材料はあるか?」

そうケビンに問うと、ケビンは椅子から立ち上がり、自分の机であろう机にまで歩いて行き、そこに掛けてあるリュックサックを手に取った。

「この中に一応あるけれども、今から出してみるわね?」

そうして出された錬金術の素材というのが、瓶に入った水らしき透明な何か、まだ生きているであろう切り口が緑色の木の枝、何かの種、黒い粉末、空にしか見えない瓶、箱に入った土、という何に使うのかいまいちわからないラインナップを円卓の上に並べた。

「とりあえず、素材に名前をつけるとすると、ただの水、生きている木、木の種、火薬、人混みの空気、そこら辺の土。

本当はもう少し素材を集めて何が作れるか調べた方が良いのかもしれないけれど、時間がないわ、これで作れる何かを模索しましょう。」

俺はそれに盛大にずっこけた。

「そんな、ふわっとしたやり方で錬金術は成功するのか!?」

「仕方ないじゃない、今ある素材はこれくらいしかないんだから。」

如月にも何か言ってもらえるように目を向けると、真剣なまなざしでその素材を見ていた。

「えっとー、如月さん?それでなにか作れたりしますか?」

「いや、できないな。」

その言葉に再度ずっこけるけれども、納得はする。

「だよな、そもそもこんなもので何が作れるって言うんだ?」

そう言うと、如月にたしなめられた。

「錬金術は、身近なものに魔力を込めつつ、姿かたちを変えるためのものでもあるから、一概に何も作れないとは言い切れないんだよ。

ただ、材料が少ないだけで。」

その言葉に、怪訝そうな顔をしたケビンが如月に訊ねる。

「あたしも、とりあえず集めたっていうだけのものだったから、精査はしていないの。

それで、何があればなにが出来るか聞いてもいいかしら?」

如月は口元に手を当てて少し唸った後に、苦しそうに答える。

「例えば、ここにあるものを媒介として、何か木製の丸い球が付いた肩たたきがあれば、簡易的な魔力ブースターは確かに作れるけれども……。」

「「作れるけれども?」」

声がケビンとハモる。

「すごく中途半端なものしか作れない上に、威力は小さい。

一言で言えば意味がない。」

聞いただけ損した気分になった。

「結局何も作れないんじゃないか。」

眉間を揉みながら言うと、如月が別の物を提示してくる、しかし、そのどれもがいまいち力が弱かったりして、碌なものじゃなかった為、その中でも一番威力が強いであろう木刀を作ることになった。

「とりあえず木の種と、土、それと水を入れて……。」

如月がケビンから借りた壺の中に素材を入れていく。

「よし、それじゃ試してみるか。

ケビン、この壺の蓋は何かあるか?」

そう如月が聞くのに、ケビンは不思議そうな顔をした。

「ん?どうかしたのか?」

如月が尋ねる、すると頬に手を当てたケビンは不思議そうな顔の理由を言ってきた。

「えっとね?蓋は付いていなかったの。」

「……は?」

思わず固まる如月にどんな感情で接すればいいのかわからない。

「錬金術に使う壺、それは分かっていたのだけれども……蓋は付いていない状態で売られていたのよ、それ。

装飾が気に入ったから買って、それで眺めていただけだったんだけれども、まさか蓋があるなんて、気が付かなかったわぁ。」

如月の目が徐々に座っていくのに目を合わせないケビン、それに対して何も言えない俺。

如月はその言い分に溜息を吐いただけで何も言わず、席を立つ。

「ど、どうかしたの如月ちゃん……怒ってる?」

おどおどとした様子でケビンが聞くのに、如月は一言「怒ってはいない」といっただけだった。

「えーっと、代用品がどこかにあるとか?そんな感じか?」

俺が助け舟にもならなさそうな泥舟を浮かせると、如月はその泥舟に乗っかる。

「大体そんな感じだ。

木製の釜の蓋があればなんとか、代用品にはなるんだが、どこかにあるか?」

目が完璧に座っている、これは呆れとも怒りともつかない顔をしている、恐らく俺たちに代用品を持ってきてもらうという事さえ期待もしていないんだろうな。

「えーっと、ちょっとまっていてちょうだい、どこかにないか探してみるから。」

ケビンがそう言って探そうとするのを遮り、朝に、俺の代わりに部屋の鍵をかけたことによって持っている鍵を取り出してキーホルダーを回して見せる。

「少しまってろ、それっぽいもの探してくる。」

それだけ言うと、如月は玄関に歩いて行く。

「ちょっちょっと待て、俺も行く。」

そうして出て行こうとする如月の後を追って俺も玄関から出ようとする。

「ケビン、少し待っていてくれ。

直ぐに戻ってくるから!」

そう言い残し、俺たちは急いで自分の部屋に戻っていった。


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