寮長は厳しい、そして、昼食はもう無い。
「また神道、おまえか!昨日と言い今日と言い、何をやっているんだ!」
「ご、ごめんなさい……」
何故俺だけがピンポイントで怒られているんだ?
「それと、そこの黒髪のお前、昨日からずっと居座っているのか。」
それを聞かれた如月は、目を逸らす。
「えーっと、そうです。」
どうしてそこで本当の事をいう?
「お前はさっさと家に帰れ!まだこの寮に入る資格はないんだぞ。」
……昨日から気になっていたけれど、食堂のおばちゃんといい、寮長といい、どうして如月が寮に入ることになっているんだ?あとで問い詰めてみるか……。
「そして、ケビン。
お前、こいつらと仲がいいのか?」
その質問に目を背けるケビン、正直、ここまで一緒にいたら言い逃れできないだろう。
「そう……ですね、仲いいです。」
寮長は溜息を吐いてから、ケビンに宣告をする。
「罰として、お前もこの黒髪のチームに入れることにする、異論はないな?」
「へっ?」
ケビンは驚いた様子で寮長の目を見た、それを寮長は睨み付けながら再度申した。
「ないな?」
「は、はい。」
ケビンの返答を聞いた寮長は舌打ちをしてから、
「明日、楽しみにしておけよ?」
とだけ言って、廊下に戻ろうとしたところを如月が待ったをかける。
「寮長先生、明日のルールを聞いていないのですが!いつルールは発表されますか?」
その声に振り向いた寮長は、忌々しそうにこちらを睨みつける。
「明日、9時から模擬戦闘を行う、その時にルールは言おう、ま、そこにいるやつに聞けば分かるだろうがな。」
それだけを言い残し、寮長は去っていった。
まるで嵐のように去っていった寮長の後姿を見て、そして宣告されたことをかみ砕き、頭の中に吸収されたのか、ぼんやりとした顔をしたケビンの顔色がどんどん悪くなっていく。
「ど、どうしましょう、あ、あたし……殺されるのかしら?」
泣きそうになっているケビンの肩をトントンと叩いた如月の手を払い落して、ケビンは如月に怒りをぶつける。
「どうして、どうして魔法なんか使ったの!?魔法が危険なものだって言われなかったのかしら?」
如月の事を怒鳴るが、如月はどこ吹く風である。
「寮長と、その取り巻きを潰せば願いが叶う、つまり、魔法を制限している寮長のことを叩き潰せばいいだけのことだろ?」
全く反省の色を見せない相手にケビンは顔を青ざめさせる。
「あなた、本当にあの寮長の事を知らないのね……昨日から思っていたことなんだけど、この寮から見たら、あなたは侵入者なの?」
それに如月は頷く。
「そうともいうな。」
「そうともじゃなくって、完璧に侵入者だろうが。」
俺が思わずツッコミを入れてしまう。
「あなたが侵入者かそうでないかはまた別の話だけれど、それでも、あの寮長の力を知らないのは危ないわ。
いいわ、部屋に行って話しましょう。」
その時どこからか、というか俺たち3人の腹から音が聞こえてきた。
「食事をしてから説明の方いいか?」
如月がそう提案すると、ケビンは一つ咳払いしてから、
「そうね、そろそろ食事の時間だし、食堂に向かいましょうか。」
言った後に見た時計は12時半を指していた。
……
食堂には沢山の人、というほど人はおらず、長机に座っている人の大半が1人で食事をとっている人だ。
ビュッフェ方式の食事はなくなっており、自分で食事を作らなければならない状況になっていた。
「あー、面倒くさいなぁ、だからといって、どこかで買って食べるっていうのもなぁ……」
俺が町に買い出しに行ったりしたら、学校の奴に目をつけられてカツアゲされる未来が見えたため、悩んでいると、名乗りを上げる人が居た、ケビンだ。
「せっかく調理場が解放されているのに料理しないのはもったいないわ!あたしが料理を振る舞ってあげる!」
ケビンが腕まくりするのを如月が止める。
「いや、迷惑をかけさせたんだ、俺が作るよ。」
そして、調理場に行こうとするのにケビンがそれを引き留める。
「いーえ、みんなにあたしが振る舞いたいの、ダメかしら」
「だめだ、俺がやる。」
そんな男同士の戦いに終止符を打つつもりはないが、打たなければいけない、気もする。
これで俺がやるなんて言い出したら、確実に俺に押し付けられるパターンである。
料理が出来ない俺が言うことではないかもしれないけれど、完全に振りが出来ている。
「というか、2人でやればいいんじゃないのか?」
腹が減っているから無責任に適当なことを言ってみると、すると2人は顎に手をあてて考えてから。
「「確かに……」」
と漏らしていた。
「因みに、俺は作れないからな、手伝うことは一応できるけど。」
本当の事を言うと、如月には別にいいと言われた。
「それでもいい、とりあえず冷蔵庫に食材を見に行くぞ。」
「そうね、さっさと食事を作っちゃいましょう?」
3人で調理場に入ると、そこは全面的に銀色と白の世界で、一番奥に普通の冷蔵庫とは比較にならない大きさの冷蔵庫だと思われるものが2つある、そこまで2人が歩いて行くのをぼんやりと見ていると、ケビンに呼ばれる。
「ちょっと!神道ちゃん!あなたも手伝うなら来てちょうだい!」
呼ばれるというよりは、怒られた。
2人の後ろにつくと、冷蔵庫が右で、左が冷凍庫のようらしく、中身が白く霜を被っているので確認した。
「ふーん、色々な食材があるけど、今回何を作るか悩むな。」
「ご飯はあるのかしら?」
ケビンは冷凍庫を覗いている如月の後ろを通り、コンロのあるところにまで歩いて行く。
「いや、そっちじゃなくて、受け渡しするところに大きな炊飯器があるけど……」
調理台を挟んだ差し向かいにいるケビンについ、声をかけてしまう、そしてケビンが俺の後ろにある炊飯器を見ると、頬に片手をあてて恥ずかしそうに声をあげる。
「あらぁ、そうなのね!ごめんなさい、気が付かなかったわ。」
思わずそれにジト目になりながら「本当か?」と聞いてしまう。
「仕方ないじゃない、ここの調理場なんてあんまり来ないんだし。」
必至に弁解するケビンにもう一度問う。
「……ほんとうか?」
そうすると、ケビンはそっぽを向きながら答える。
「方向音痴なだけよ、これは本当。
あんまり言うと、お食事作ってあげないわよ?」
それは自由意思により決定されることなのでは?
とかは思ったが、口には出さない。
「つい、思った事を言わないと気が済まない性質でな、あと追求癖があるだけなんだ、ごめん、忘れてくれ。」
「全く、早めに直しなさい?その癖、感じが悪いから。」
とは言われても、正直昔から注意されて入るけれど、どうすれば直るのか分からないんだよなぁ。
途方に暮れていると、如月に声をかけられる。
「早くしないと1時になるから、さっさと料理作るぞ。」
如月の手の中にはキャベツとパックされている何かの肉が乗っている。
「何を作るのかしら?」
「簡単にできるスープでも作ろうかと思ってな、とりあえずキャベツと肉とジャガイモを見つけたからこれらを使って適当にな。」
いいながら冷蔵庫を閉める如月。
「神道ちゃんの方が炊飯器に近いから、中にご飯があるか、調べてくれないかしら?」
腰に手をあてたケビンにそう言われる。
「あ、俺なんだ。」
「ついさっき、追及した罰よ、なんとなく気分悪かったんだから。」
「そりゃ悪かった、ごめんな?」
いいながら炊飯器の中を見てみる、一応ご飯は残っているけれど、これ、他の奴が分量間違えて炊き過ぎて残ったって感じの量だな、3人分以上ありそうだ。
まぁ、いいけど。
「ごはん結構残ってるみたいだぞー?」
2人に声をかけると、2人ともこちらを振り返りながら同時に「「わかったー」」と答えてくれた。
「それにしても、他にもできそうねぇ、他には何か無かったのかしら?」
ケビンも冷蔵庫の中を漁って、適当な食材を探す、俺がケビンの後ろを通って如月の近くに行くと、如月からジャガイモを渡された。
「ほら、皮剥いてくれ」
簡潔にそれだけを告げると、流し台で手を洗い、調理台の下からまな板と包丁を見つけ出した如月は手慣れた動作でキャベツの葉を剥き始めた。
「あら、キャベツの葉を剥くタイプなの?あたしはそのまま切る派ね。」
「どっちでもいいんじゃないのか?」
そんな会話が聞こえてきたが、正直心中穏やかではない、ジャガイモの皮を剥いたことなんてそんなにないし、包丁を持ったことも少ない。
とりあえず流し台の上にジャガイモを置き、手を洗ってからジャガイモを洗い、如月に習って調理台の下から包丁を取り出しゆっくりと皮を剥いていく、ピーラーがあれば楽なのかもしれないが、そんなものがあるわけがない。
2人が談笑している間、黙々と作業をしていると、隣にいる如月に更に追加のジャガイモを渡された。
「な、何個のジャガイモの皮を剥けばいいんだ?」
少し考えるそぶりを見せた後、
「これ、結構大きいから大体5個で十分じゃないのか?」
そう言って、自分はキャベツをざくざくと切り、ボールの中に無造作に入れている。
「ご飯はまだ残っているみたいね、とりあえずあたしはメインとなる食べ物でも作りましょうか。」
疑問形に聞こえるその言葉とは裏腹に、手の中にはパックされているひき肉と玉ねぎがあった。
「やっぱり、寒くなってきたから温かいものがいいわよねぇ?」
腕まくりをしながらそう聞いてくるケビンに否定されるという考えはなさそうである、まぁ、正直なところ恐らくハンバーグを作るのだろうから誰も否定はしないだろうけど。
俺と如月が並んで、ケビンが調理台の向かいにいる状態で黙々と作業は進む。




