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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
40/66

如月の、中庭での精霊について「ざっくりと説明してみた」

溜息吐きすぎて幸せが逃げないか?とも思ったし、洗脳の説明はあれで足りているのかとも思ったが、口には出さなかった。

「洗脳魔法の話はここまでにして……、えっと、どこまで説明したかな。

そうだそうだ、ケビンが精霊に意思があるのかと言った辺りだったな、でだ、ケビン、昨日の記憶はあるか?」

それに、ケビンは思いだそうとしているのか、頭に指をあてて考えてから、言葉を出した。

「昨日会ったのはー……、あなたとアンナちゃんよね?」

「そうだ、因みにアンナは風と木の混合妖精だと本人は言っていたが、彼女こそ精霊なんだ。」

その説明に、ついさっき分からなかったのに、分かるのかとも思ったが、つい先ほどとは違う反応をケビンは示してきた。

「なんだか、今度は納得できるわね。」

「まじか!」

驚いて思わず声をあげてしまうが注意はされなかった、それどころかケビンに理由を言われてしまう。

「えぇ、洗脳が解ける前までは頭の中にそんなものは存在しない、って声が響いていたんだけど、今はすんなりと理解できたわよ?」

そ、れ、に、と若干色っぽく前置きした後に

「こんなに頭が冴えわたっているのだもの、もしかしたら、学力も上がるかもしれないわぁ。」

と、嬉しそうに言ったが、如月がそれをバッサリと切り捨てる。

「いや、洗脳されている時にはカンニングのようなことはできるけど、洗脳を解いた後は自力で勉強しないと頭に入らないぞ?」

「やだ、それどういう事?」

口元に手を持って行き、ケビンは絶望したような顔になる。

「そのままの意味だ、一斉に情報を伝達するためのツールを消したようなものだから、これからは自分の力で頑張らないと学力は身につかないぞ。」

それにあからさまに落ち込むケビン、それに同情するしかないが、同情していいのかこれ?

如月の言い方、不正を今までやってきたみたいな言い方だぞ?

「まぁ、不正が出来なくなったから、それはそれでいいんじゃないのか?頭の中を覗き見られることもないだろうし……」

「そ、そうね、勉強は自分の実力が大切だものね!」

劣等生の俺からすると、何故か今のは胸に刺さったぞ……

胸を抑えていたが、如月の説明は続く。

「アンナが精霊だという理由は、あー、難しいな。

とりあえず、光精霊か闇精霊というくくりだったら、アンナは光精霊だな、近くに森があるだろ?そこで産まれた妖精だな。」

そう言って、ここからじゃ見えないけれど、恐らく森がある方を如月は見る。

「因みに、光精霊と闇精霊の言い方の違いとしては、光精霊は妖精って言って、闇精霊は幽霊や妖怪って言うんだ。

そこからの記憶だけど、確か教科書には光の精霊たちが闇の精霊を完全に死滅させたっていう文があっただろ?」

それに、俺たちは頷く。

「あれ、俺の考えからすると、反対じゃないかなって気がするんだ。」

俺たちはその考えに驚きを隠せなかった。

「ど、どういう事だ?アンナは光精霊なんだろ?」

「そ、それに、闇精霊がいなくなったのは本当なんでしょう?」

怒涛の如く聞くが、それを静止されられて、如月がニッと笑った。

「それは、明日理由が分かると思うぞ?

それじゃ、これから精霊と契約を試しに結べたら、結んでみることにする。」

言いながら如月は立ち上がり、周りを見回してから中庭の中に歩いて行く彼に、俺たちはついて行く、そして、中庭の中央に立った如月は目を閉じ、手を胸の前で組んでからその場に跪いた。

「なにが起こるのかしら。」

「さぁ……」

俺たちがひそひそ声で話していると、突然の突風が俺たちの後ろから吹いてきた。

「きゃあっ!」

「な、なんだ?」

いきなりの突風で目の中にゴミが入ったのか、ゴロゴロする、瞬きをして涙でゴミを流そうとしていると、如月よりも前、というか対面に一人の女性が立っていた。

「あら、懐かしい顔があるわね。」

「それは言わない約束だろ?セシル。」

その女性は、真っ白でボリュームがある髪を肩甲骨にまで伸ばし、昔の男性修道士が着ていそうな洋服を纏い、腰のあたりで縛っている、因みに、頭には何も被ってはいない。

胸が大きくて、顔の造形も悪くはない。

控えめで、つややかな唇、切れ長で優し気な目、鼻も高くて、どこかのモデルみたいだ。

見とれていると、その女性と目が合う。

「後ろにいる子たちは、誰なの?」

優し気な、しかし有無を言わさないその言葉は、俺の体を貫いた。

それで動けなくなっている俺に気が付いていないだろう如月は、立ち上がってその女性と話を始める。

「あぁ、後ろの2人は闇精霊を見たいっていう2人でね、本当は君じゃなくって俺の事を全く知らない精霊を呼ぼうと思っていたんだけど、どうしてきたんだい?」

腰に手を当て美人な女性と馴れ馴れしく話すその光景を、うらやまけしからんといった心持で見る。

「それはね?ラクタが、あなたが目を覚ましたから一度は行きなさいーって言ってきたのよ?

正直、あなたの民族はもう、ほろ「それ以上はいけない。」あらあら、ごめんなさいね?」

その言葉の続きは恐らく滅んだ民族って言おうとしたんだろうなと勝手に解釈した。

「き、如月ちゃん?彼女は……」

ケビンが如月に話し掛けると、また強い風が吹いた。

「きゃっ!」

「今はわたくしが彼と話しているの、邪魔をしないでちょうだい?」

口調は変わっていないが、どこか警戒しているように感じるその雰囲気に、話し掛けようとしていた俺も黙ってしまう。

「それで、ここ最近どうなの?2人程、人を連れているようだけど……」

「あぁ、最近の出来事としては後ろの2人と友達になったんだ。

正直まだ、目を覚ましたばかりで戸惑っているけれど、とりあえず今回の目的である本題に入ってもいいかな?」

目の前の女性と気さくに話す如月に、何故だか畏怖の念が沸き起こりそうになるのを必死に抑える、隣にいるケビンも何かを感じ取ったらしく、ひそかに震えているのを見て取った。

そんな俺たちなんて眼中にないだろう女性が、如月に向かって微笑みかけるとそのまま。

「えぇ、いいわよ?」

OKを出した。

「2人とも、精霊との契約を見たい、あるいは契約精霊を見たいって言っていてね、それで、何も知らない2人に精霊との契約を実演してみようかなって思っていたんだけど、セシルが良ければ、2人に契約精霊の力を見せてくれないかな?」

その如月の申し出が通るとは思えなかったが、その女性は二つ返事で了解したようだった。

「と、いうわけで、彼女の名前はセシル、因みに本名は本人以外誰も知らない、俺も知らない。

セシルは純粋な風属性で、上級の精霊なんだ。

なにか質問はあったとしても、正直俺からは答えられない、ごめんな?」

「まぁ、別にいいけれど……」

俺がそういうと、セシルはムッとした表情になった。

「せっかく来てあげたというのに、なんですか?その態度は。」

針で突かれるような口調で怒られて、正直動揺する。

「ご、ごめんなさい。」

頭を下げて謝ったら、一応は許してくれたらしい。

「ふん、人間の分際で……あなた本当に人間?」

突然の疑問形で動揺する、もしかして、わかるのか?ハラハラしていると、セシルは手を一つ叩きながら納得をしたような顔をした。

「もしかして、あなたじゅ「それ以上はいけないよセシル、気にしているんだから。」あらあら、それはごめんなさい?」

如月が食い込み気味に黙らせるのをセシルさんはクスクスと笑いながら俺に謝ってくる、まぁ、言われなければ別になんともない、けど、正直苦手なタイプかもしれない。

「神道ちゃん、なにか隠しているの?」

ケビンにも聞かれるが、冷や汗しか出てこない。

「特に何も隠してなんかないぞ?」

「本当に?」

「あぁ、本当だ。」

「言いたくないのなら言わないでいいからね?」

それ、暗に聞きたいって言っているものだよな、俺が困っていると、如月が一つ咳ばらいをした。

「とりあえず、セシルと一緒なら強化できる魔法を少しだけやってみるぞ?

セシル、よろしくな?」

「任せてちょうだい。」

如月が手を上にあげて、魔法を唱える。

「つむじ風!」

すると、木から落ちた木の葉が渦を巻きながら一気に空の彼方まで飛んでいった。

「「おぉー。」」

それに、思わず声をあげる俺たち。

「これよりも強い力も出せるけど、セシルに悪いからこれ以上はできないな。」

如月は上にあげていた手をおろして、セシルの事を気にする。

「あら、心配してくれるの?相変わらず優しいのね。」

「いや、当然の事だろ?」

そんなのほほんとした光景に、なにか忘れているような気持になったが、気にならない、それだけ強い何かを感じる。

「とりあえず、セシル、この中庭に精霊がいるかわかるか?」

そう如月が問うと、セシルは中庭を見渡して一言。

「闇精霊ならいるわね、しかも、この空間を守ろうとしているようよ?なんとなく居心地が悪いわね。」

「そうか、なら、早めに帰った方がいいな。」

如月が心配して声をかけているが、それをセシルは遮る。

「呼び出しておいて、少ししかいないっていうのも、なにか癪に触るわね……。

そうねぇ、せめて2人の人間に自己紹介をしてもらわなきゃ気が済まないわ。」

と、いうわけで、俺たちが自己紹介をしようというときに、それは起こった。

「こらー!何魔法を使っているんだー!」

その声が中庭に響き渡る、それに驚いたのか、セシルは風と共に目の前から消えた。

声が聞こえる方に目を向けると、西にある階段から寮長が走って来ていた。

「りょ、寮長先生……」


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