水晶の中身
「おい、おい!大丈夫か?」
とにかくこの目の前にいる男が一体どんな人なのかは知らないが、呼吸をしているのかを顔に手をかざしたり、胸が上下しているので確認する。
とりあえず、息はしているようだ、肩を掴んで揺さぶってみる、しかしその体はおよそ生きている人間の体温では無く、死んでいるようにも感じられる。
「つめたっ…………この人、もしかして死んでる……?いや、だけど、呼吸はしているみたいだし…………」
呟いた後、俺は持っていたタオルを使って乾布摩擦を試みることした。
「んー、人の体を温めるのって、これでいいんだっけな。」
そんなことを口にしていたら、うっすらと青年の目が開いた。
「あ!目が覚めたか?」
青年はまぶしそうに目を細めて、目をしぱしぱさせながら俺の事を見てきた。
青年の顔の造形は悪くなく、目は黒く、たれ目で、鼻がそこそこに高く、シャープな顎をしている。
「よかったー、周りにあるのが骸骨だけだったから、もしかしたら死んでいるのかと思ったけど、意外と生きてた」
正直、生きているということが信じられない状況だったというか、そんな状況だったから目を覚ましたこの青年を見て胸をなで下ろした。
まぁ、死体だったとしても、困るだけなんだけどな。
「……イガイは、ヨケイダ」
かすれた声でそう言ってきたから、持っていた飲料水の入った水筒を差し出す。
「水、飲むか?」
そう聞くと、一旦水筒を見た後、手を空中に差し出して、手を一回くるりとまわすとその指先に水の塊が出来上がった。
その出来上がった水を青年は、手を口の近くに寄せてそれを飲み始めた。
昨今の魔法と言うのは、使えるものが多少なりともいるが、基本的には容易に使えない代物であって、それも、機械が台頭しているこの世の中では基本的に、そんな魔法を見たことがなかった。
それに、魔法というものは、戦争で使われるような代物であって、こうやって細かい力の制御を使うようなことは、まずできないと言われている。
制御できないから、珍しい。
それどころか、オカルト雑誌の中では出てくる高等魔法という種類の魔法なのかと興奮した。
「今どき、そんな高等魔法が使えるなんて……!すごいな……!」
そう思わず声が漏れると、思いっきり睨まれた。
そして、その水の球を飲み終えた青年は、あー、あー、と声を2、3回出してからせき込み、俺の方に頭を向けた。
「お前は何者だ。」
そう敵対心丸出しの青年に、とりあえず当たり障りのない自己紹介をする。
「俺の名前は神道影理、フォーラス能力者学校に通っている。」
そういえば、青年がここは学校近くの森にいるということを知っているのかを突然聞きたくなったから、とりあえず聞いてみる。
「というか、ここはその学校の森にある地下迷宮だぞ?」
そう聞くと、その言葉の意味をかみ砕いて脳に浸透させるかのように下を見て、ぼそりと
「地下迷宮……」
そういうと、首を傾げた。
「……知らないのか?」
そう聞いてみると、青年は俺の方を見て、
「……ここにそんな学校あったか?」
そう質問を返された。