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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
模擬戦闘の足音が聞こえる
39/66

中庭にて

「中庭って、結構広いんだな。」

如月が感想を漏らす、俺もそれにならって見渡してみる、こうやって中庭を見渡すのなんていつ以来だろうか。

恐らく、入学以来だな。

パッと見て目につくのは、中庭には一本の木が立っていて、出入り口は二か所、東棟と西棟で分かれている、俺たちが立っているのは東棟の出入り口で中庭自体には南東に電灯、南西に池、北東に木、北西に何故か松明がある、因みに俺は西棟に住んでいて、食堂は西南にあるが、その食堂から一番近い中庭に出る階段が東棟にあるから、東棟の出入り口から俺たちは中庭に出た。

どうして西棟から出ないのかという事が頭に過ったから一応付け加えておくと、この寮は南北に長い寮だから、東西には短いのだ、そんで、簡単に目につくものを近い順にいっただけだ。

と、そんなことはどうでもいいか。

「それで、中庭で何をするつもりなんだ?」

俺がそれを聞くと、如月は俺たちに笑顔を向けてきた。

「ついさっき、契約精霊を見せるって言ったよな?たまたま丁度いい感じの属性素材があるから、試しにやってみても大丈夫かな?」

かな?

その言葉に疑問に思ったのは俺だけらしく、ケビンはそもそも精霊の概念さえも分かって居なさそうだった。

「ちょっといいかしら?精霊って何かしら。」

「精霊の説明か?」

如月は少し面倒くさそうな顔をしたが、直ぐにニッと笑って説明を始めた。

「この世には光と闇の魔法があるっていうのは、知らないんだよな?」

「光と闇?」

ついこの間の俺みたいに、ケビンが首を傾げる。

「知らないのだったら教えるけど、父親とか、友人とかには話すなよ?俺が捕まる。」

それを聞いた俺とケビンは驚く。

「捕まるような知識なの!?」

ケビンが驚いた様子で声を荒げる、俺は直ぐに周りを見回して人が居ないかを確認する、ここ、音が反響するからな。

とりあえず休日になると基本的にはみんな出払ってしまっている、と思う、通路には誰もいなかった。

「ケビン、声が大きい。」

「ご、ごめんなさいね?」

咳払いして如月が続ける。

「光と闇の魔法があるということは、光と闇の精霊がいるんだ、ここまではいいか?」

俺たちは頷く。

「話を続けるぞ?精霊っていうのは、いうなればその土地にいる魔法を司っている大切な存在ってやつだ。」

「大切な存在?」

ケビンが首を傾げるのを如月は頷いてから話を続ける。

「ざっくりというとな、詳細を言うと、光は自然、闇は人工物を司っているんだが、その精霊と契約を交わすとより強い魔法を使うことができるってところかな?」

それを言うと、ケビンは目を光らせる。

「つまり、沢山の精霊と契約を交わせば、より強い力を使えるのね?」

しかし、如月は首を横に振る。

「精霊はとても繊細で頑固で、かなり神経質なんだ。

下手に力がないものが契約をすると、一瞬にして殺されー、はしないけど、気に入られなかったら一方的に契約を破棄されるな。」

それに、ケビンが目を丸くする。

「精霊って意思があるものなの?」

それに、如月が首を傾げた。

「そもそもそこから説明しないと駄目か?昨日お前も会ったぞ?」

「そうなの?」

そこまでの会話で、俺はかなりの違和感を感じた、昨日の事を覚えていないのか?

「如月、なにかおかしくないか?」

そこまで言った所で、如月はケビンの頭をまた鷲掴んだ。

「ちょっなにするのよ!」

いきなりの事で目が点になる、如月はそんな事はお構いなしに魔法を唱えた。

「我が求めうるは澄み切った思考、そなたを開放す、ブレインウォッシングリリース!」

そう言うと、つい先ほどと同じように、しかし真っ白な霧がケビンの頭からバッと広がり、今度はその霧が如月の周りにまとわりつこうとするのに、如月は

「突風!」

と魔法を唱えることによりそれを散らした。

「いやー、すまんすまん、洗脳が完全に解けきっていなかったみたいだったから、解かせてもらったぞ。」

かなりわけがわからん!というか、いきなりだな!それ以前にどういう状況!?

頭が混乱して、その場で固まる中、ケビンの様子がおかしい。

「ここは、どこかしら?」

座り込んだケビンは、まるで始めてここを見たかのような、来たかのような反応をしている。

「今度は記憶がなくなったかー。」

「は!?」

如月の記憶がなくなった発言に俺は更に驚き、如月の方を勢いよく見る。

「魔法の気配が抜けきらなかったから、魔法を解いたけど、洗脳魔法という点ではビンゴだったみたいだが、それでまた記憶がなくなるとか……。

どれだけ昔からこの学校は洗脳魔法を使っていたんだ?」

それに両手の平を如月に向けながら静止をかける。

「まった、まって、ちょっとまって、置いてけぼりになってる、つまり、どういうことだ?」

「また後でな?今から記憶を修復するから。」

如月はそう言うとケビンの前に座り、左腕をかませてから右手をケビンの頭に当て、なにやら唱え始める、するとケビンがビクンビクンと暴れ出す。

「ひぃっ!」

思わず後退ってしまう光景、ケビンが如月の事をドンドンと叩きながら暴れ出す。

「我ら一族の名に置いて、そなたの記憶を解きほぐそう、最初の記憶と最近の記憶、洗脳されし時にそなたは何をした。

洗脳されし時、そなたは何を見た、そなたは何を聞いた……」

凄く苦しそうな如月に声をかけることも出来ずに、ずっとオロオロとしているしかなかった。

5分後、暴れているケビンが落ち着き、如月も辛そうな顔から脂汗は流れているものの元に戻った。

「ふぅ……、修復完了、ケビン、どうだ調子は。」

如月がそれを聞くと、ケビンは何かを話そうとするが、口に如月の腕が詰まっており話せないという状況が出来上がっていた。

「んーん?」

それにはてなマークを飛ばしているケビンから、如月が腕を抜く。

「すまんすまん、腕がはまっていたな。」

抜いたと同時に如月の顎にアッパーがはまった。

「ゴフッ」

「いきなりなにするのよ!痛かったじゃない!」

見ている俺としては、正直自業自得だと思った。

「いてて、洗脳魔法を解除しただけだけど……、思考が術者に筒抜けなのは嫌だろう?」

顎をさすりながら如月が弁解をするが、ケビンの怒りは収まらない。

「何言っているの!?わけわかんない!」

「だけど、記憶は戻っているだろ?」

如月が優しい顔で聞くと、ケビンは怒りを無理やりに抑え、少し考える様子を見せた後、驚いた顔をした。

「本当、確かに一時的に記憶がないっていう記憶があるけど、今までの記憶が戻っているわ。」

「それが、本当の自分なんだよ。」

ケビンにそう言っているが、正直、完全に置いてけぼりだ。

俺が見ていて分かったのは、如月が突然ケビンの頭を鷲掴んだと思ったら、ケビンの記憶が飛び、その後ケビンが記憶喪失になって、暴れて、現在に至る。

うん、わけがわからん。

とりあえず、如月とケビンだけが理解できている状況を壊そうと、俺は如月につい先ほどの事を簡潔に聞くことにした。

「如月、今北産業。」

「うん?なんだそれ。」

如月が首をかしげるのに、俺は腕を組んだ状態で仁王立ちをしながら如月の事を見つめる。

「すまん、三行で説明をしてくれ、無理だったら、普通に説明してくれていいから。」

「さんぎょう……?

なるほど、洗脳解除、魔法も解除、修復完了、そういうことだ。」

なるほどわからない、それをそのまま伝える。

「なるほどわからん、詳細希望。」

それに如月がずっこける、仕方ないだろ意味わからないんだから。

「結局か!それじゃ説明するぞ?

ケビンには洗脳魔法がかかっていて、その洗脳魔法の種類がな?記憶が改ざんされている上に、その変えられる前の記憶が術者に筒抜け系の魔法だったんだ、それで記憶が引き抜かれていた、ここまではいいか?」

それを言われても、意味が分からない、第一記憶を引き抜くことなんてできるのか?

しかし、今度はケビンが理解をしたらしく、「もしかして……」と前置きをしてからケビンが答え始めた。

「時折記憶にないことが頭の中に記憶として植え付けられていたり、逆に他人からずっと監視されている感じがあったり、時折記憶が思いだせなくなっていたりする、そんな状況が起こったりするかしら?」

それに、如月が指を鳴らす。

「御名答、その上それが普通だと洗脳によって思いこまされるから、基本的に気が付かないんだよな~、気が付いただろ?」

それにケビンは戸惑いつつも何か納得しているかのように頷く。

「え、えぇ……、なんだか気味が悪いけど確かに、何かに監視されているような感じはなくなったわね。」

そんな様子のケビンに如月が笑いかける。

「恐らく今後、変な声とかも聞こえなくなるから、安心していいぞ?」

「え、えぇ、ありがとう……」

いや、2人だけで納得してもこちらとしてはやはり意味が分からない。

「えーっと、つい先ほどの食事中にケビンを襲ったのも、洗脳を解くためとか言っていたが、あれも関係しているのか?」

聞くと、如月は頷いた。

「あれも、洗脳を解くための術だ、そして、洗脳にも2種類の魔法があって、片方は光属性、もう片方は闇属性の洗脳魔法なんだ。」

「と、いうと?」

俺がそう言うと、如月が腰に両手を当てながら答えてくれた。

「つまりだ。

洗脳魔法はかなりの種類があって、その洗脳魔法を解くための魔法は2種類、だけどこの学校では常に洗脳魔法が横行しているのか、ケビンは洗脳魔法にかかっていた。

そんな感じかな。」

その時俺は少しは理解したとともに、とあることに気が付いた。

如月が何をやりたかったのかを、そして、疑問に思った事も。

「如月、もしかして、ついさっきの話が誰かに聞かれるのを予防するために洗脳を解いたのか?」

「そうだけど?」

如月が首をかしげるのに俺はとある不安を話した。

「お、俺は洗脳されていないのか?」

すると、如月が俺の事をじっと見た後、きょとんとした顔で答えてくる。

「そういった淀みみたいなものは感じられないけど……試しにやってみるか?」

怖いけれど、不安をなくすためにもやってみたく思ったからお願いする。

「あぁ、よろしく頼む。」

如月が立ち上がって頭に触れてくるのが少し違和感だが、別にどうってことはない、そして、如月が魔法を唱える。

「我が求めうるは澄み切った思考、そなたを解放す、ブレインウォッシングリリース!」

しかし、何も感じない。

「ついでに洗脳解除!」

何も感じない。

「どうだ?何か感じたか?」

げっそりとした如月に俺は答える。

「いや?全然。」

「だろ?」

そして、如月が疲れたように座り込み、一つ溜息を吐いてから止まっていた精霊の説明を再開させた。


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