ケビンの秘密、だと本人は言っております
「席は自由なのか?」
「あぁ、そうだよ。」
如月が何処に座ろうかと考えているようだったから、適当な場所を選んで座ろうと俺が前に出た時には、ケビンが窓際の席を取っていた。
「ふたりとも~、こっちよ~!」
正直な話、行きにくい。
第一、他人ごとではあるがかなり異様な三人組だと思う、だって、俺は見た目上不良というレッテルを張られそうな赤い地毛のいじめられっ子、昨日から突然姿を現した正体不明の男子、オネェ、本当に濃い陣形だと思う。
如月も戸惑っているのか、オネェの元にまで行き渋っているから、俺が率先してケビンの元にまで歩いて行く。
「全く、ふたりとも、遅いわよ!」
周りにプンプンという効果音がなりそうな怒り方をしているケビンに形だけの謝罪をする。
「あーうん、ごめん。」
目はさまよっているし、とりあえず隣に座るしかないため、隣に座る。
「別にいいわ、ほら、如月ちゃんも!こっちにいらっしゃい?」
手招きをして自分の隣をポンポンと叩くケビンに動揺を隠せない様子で如月も歩いてくる、「お、おう……」という、いかにも動揺していますという様子を見せながら。
「それで?洗脳って何の事かしら?」
言いながら体を如月の方にせり出してくるケビンに若干の引き気味になりながらも、如月はある提案を出してきた。
「こ、交渉条件だ、昨日今日とこっちから情報を出すばかりじゃなくって、そっちからも情報を出さなければ俺は話さないぞ。」
しかし、それにケビンは動じない。
「あら、言いたくなければ言わなくてもいいのよ?
とりあえず、今日のあたしの話そうと思っていたことは、これ、だけなんだし。」
言いながら一枚の紙を出して俺の方に出してくる。
「あたしのプロフィールはそこに載っているわ、質問したいならして頂戴?」
渡された紙を見てみると、そこにはケビンの情報が書いてある、どこまで信頼していいかはまた別の話だけどな。
学科は錬金術学科、得意なことは魔法薬づくり、苦手なことは戦い、家族構成や好きな食べ物、嫌いな食べ物まで書いてある……ん?
「なぁ、少し聞いていいか?」
「なぁに?なんでも聞いていいわよ?」
「ケビンの父親のアルバード・スーって聞いたことがあるような……」
それを聞くと、ケビンの顔がいきなり険しくなった。
「あぁ、あのクソ親父のことか、なんだ、アイツの事を聞きたいのか。」
「ヒェ……」
その様子の劇的な変わりように思わず声が漏れる。
「その紙、俺にも見せてくれないか?」
「えぇ、いいわよ?」
紙がケビンの手によって如月にわたる、そして、如月も紙を見ると全く別の質問をした。
「魔法薬づくりとは書いてあるけれども、それって強化薬とか弱体薬とか、いろんなものがあるんだが、何が得意なんだ?」
そこは突かれてもいい場所らしい、ケビンはニコニコと対応している。
「基本的な魔法薬は作れるわね、あと、香の調合も行っているわよ?」
如月が口元に手をあてて考えているそぶりを見せた後、更に質問を重ねていく。
「戦いが嫌いって言ってはいるが、それはどの程度なんだ?」
「それは、どういう事かしら?」
ケビンが首を傾げる。
「人を殴ることが嫌い、傷つくことが嫌い、報復されるのが嫌い、色々な嫌いがあるからな、一応聞いておこうと思って。」
如月の言葉にケビンは「やだぁ!もう!」と言いながら如月の背中をバンバン叩く、傷に響くのか若干痛そうだ。
「それって、あたしに手加減してくれるってこと?」
「うぇ!?ま、まぁそうとってくれていいよ。」
「そうねぇ、あたしの場合、人を殴ることも苦手だし、人に殴られるのも苦手なの、だから、基本的には平和主義ってところかしらね。」
「そのタイプの嫌いかぁ、教えてくれてありがとうな。」
痛そうにしながらも、にっこりと笑いながら如月が返すのに、ケビンはおばさんのような動きで返礼をする。
「いぃえぇ、どうしましてぇ。」
そして、俺の方を向いた後、また睨まれた、俺、悪い事聞いたのか?
「それにしても、クソ親父の事を聞かれるたぁ思わなかったなぁ。」
「そ、そこまで嫌いなら書かなければ良かったじゃないか!」
俺が精神的危機的状況に陥っているというのに、如月はのんきにも食事を開始させている。
「俺はなぁ、どうしてもクソ親父のせいで自分の事を聞かれたらクソ親父の事を言わなければならない呪いにかかってんだよぉ!」
目の前で髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きむしるその様は恐ろしささえ感じる。
ヘルプを頼もうと如月を見るが、ご飯に集中している、裏切り者が!
「ど、どういうことなんだ?のろいっていうのは。」
びくびくとしながら聞いてみると、ケビンはおもむろに食べ物にフォークを突き刺しこちらにそのフォークを突き付けてくる。
「俺のクソ親父は白の集団に所属している研究員なんだが、研究材料としてしか俺たち兄弟の事を見ていない奴なんだ、というか、こうやって話をしようとしているだけでも意識が持って行かれそうになる。」
フォークを持っている方とは違う肘を机につく、そしてその手で頭を辛そうに押さえ始めた。
「だ、大丈夫か!?」
「あークソ、だからあの親父の事は話したくないんだ……」
そう言ったあと、暫くの沈黙が俺たちの間に流れる。
「白の集団ってなんだ?」
口の中を食べ物でいっぱいにした如月が聞いてくる。
「今この状況でそれを聞くか!?」
俺が注意すると、それに目をぱちくりとさせて首を傾げ、食べ物を飲み込んでから一言言い放つ。
「駄目なのか?」
「駄目に決まっているだろう!」
それに独り言のように「そっかー、ダメなのかぁ。」と言ってまた食事を再開させようとした辺りで、ケビンが顔をあげた。
「あ、大丈夫か?」
そうケビンの顔色をうかがってみると、その顔には恍惚とも微笑ともとれる笑顔を浮かべており、背中に薄ら寒いものが走った、そして。
「わが父の為ならば、私は命を差し出してもいい、この命、素材としてわが父が所属している白の集団に捧げても、けっして惜しくはない、それこそ、我に与えられた使命なり!
さぁ、白の集団の一員となれば、明るい未来が待っている!今こそ、光の集団から分かれた白の集団にしょぞく……」
何やらわけのわからないことを口走り始め、恐怖しか感じない、その間も如月は食事を続けている、どうなっているんだその精神!!
「神道?食べないのか?」
如月に聞かれるが、「正直こんな状況で食べられるとでも!?」と、つい言葉が出てしまう。
「俺は今、呪いを解く機会をうかがっている最中だからな、なに、こんなのは簡単に治せるよ。」
「なにが!?むしろ何を!?」
そんな会話をしている最中にも、ケビンは何かを口走っていて、その眼には涙が浮かんでいる。
「さぁ、我らとともに歩いて行こう!アルバード・スーの名において「みつけた」ッツ!?」
突然如月が立ち上がったと思ったら、ケビンの頭を鷲掴みにして、俺に命令してきた。
「神道、ケビンの手からフォークを奪え、今から洗脳を解く。」
鋭く言われるが、正直いきなりの事で驚いて動けなくなる。
「へっ?」
「早く!」
「あ、あぁ。」
何が何やらといった具合でも、とりあえずケビンからフォークを奪うと、如月の周りに光がまとわりつくのが見えた。




