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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
封印されし人間
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今日も部屋での食事だ

とりあえず人化の術を使い、姿を元に戻した後、今日は俺の方が疲れたという事でお開きになり、寮の一室に戻ってきた、如月も夕食をたかりに俺と一緒に戻ってきた。

現在時刻は午後8時、まだ夕食が残っている時間帯だ、如月を部屋に残して食堂に行ってみると、まだまばらに人が居て、食べ終わった人がたむろしている場所もあるが、ほとんどが空席となっている。

食堂は自由席だから席を気にすることはないが、とりあえず今日も部屋で食べることにする。

「おや、怪我の方は大丈夫なのかい?」

食堂の配膳の列ができるところに行くと、食堂のおばちゃんが俺の事を心配してくれた。

「いえ、まだ良くないので今日も部屋で食べます。」

「はいよ、わかった、何号室だったっけ?」

「405号室です。」

「それじゃ、もってかせるから部屋で待ちな。」

「ありがとうございます。」

そんな会話をした後に部屋に戻ると、如月は昨日と同じようにベッドの上でゴロゴロしていた。

どうやら破れた洋服は着替えており、白い包帯が洋服の間から見えている、俺がやってしまった事とはいえ、悪いことをしてしまったと今さらながらに反省した。

「あ、おかえりなさい。」

如月は昨日とは違い直ぐにベッドから降りて椅子に座った、思考としては昨日と似たようなものなのか少しばかりばつが悪そうな顔をしている。

「いや、昨日泊まっただろ。」

「だけど、今日も泊まるとは言っていない。」

「別にいいよ、友達だし、な?」

「そういうなら、甘えるけれども……。」

如月はそう言い渋々といった感じに椅子の上で体育座りをする。

「そういえば、今日もこっちで食事をすることにしたからな。」

俺がそれを告げながら向かいの椅子に座ると、如月は目を大きく見開き、いかにも驚いていますという表情をした。

「本当か、それ。」

「何を驚いているんだ?たかりに来たくせに。」

聞くと、バツの悪そうな顔を更にして「まさか、俺の為か?」と聞いてくるから、つい笑いが出てしまう。

「そうじゃなかったら、どうするんだ?」

ニコニコと笑いながら聞いてみると如月が更に困った顔をして

「俺は何も出来ないからな、何か手伝う。」

と、答えてきたから、つい、いじめたくなる。

「というかお前、俺にめしをたかりに来たんだろ?少しくらい堂々としたらどうなんだ?」

「それは、そうなんだが。」

ますます萎縮する如月に、つい先ほど俺がしてしまった事を謝りたいが、なんだか機会を逃してしまっている感じになり、どちらかというと俺の事を怒れよという心が浮かんでくる。

どうしたものかと考えていると、コンコンとノックの音が聞こえてきたから椅子から立ち上がり玄関に向かう。

「はい。」

「食事、持ってきてあげたわよ。」

昨日と同じ男子生徒が俺に食事を持ってきてくれた。

「あ、ありがとうございます。」

「そ、れ、と、おばちゃんから聞いたわよ?ケガ、大丈夫なの?」

食堂のおばちゃんめ、食事はありがたいが噂はあまりよろしくないぞ。

「まぁ、部屋に持ってきてもらう程度には良くないですね。」

「それは心配ねぇ、もしも辛かったらあたしのところに来なさい、結構近くの部屋だから。」

だからの所の独特のニュアンスが耳に残るな。

「はぁ。」

「あたし、409号室にいるから、いつでもいいなさい。」

いや、部屋を知ってどうしろと?

「あ、ありがとうございます。」

「それじゃ、待ってるからね。」

待ったとしても、俺、行かないからな?

その男子生徒、というかオネェは俺に食事を渡してから廊下を歩いて行った、結果的に心配された上に俺はそいつの事を見おくる結果となったが、なんだったんだアイツ、ちくわ大明神か?

とまぁ、そんな事を考えながら部屋に入ると、如月がつい先ほどとは違いニコニコとして座っていた。

「どうしたんだ?」

「いや?心配してくれる人がいたんだなぁって思ってな。」

話を聞いていたのか、一つ溜息を吐いてから説明をする。

「あれは、知らない人、たまたまおばちゃんから話を聞いて俺の事を心配したふりをしているだけ。」

吐き捨てるように言うと、如月は俺を何とも言えない生暖かい目で何故か見てきた、なんだよ、非難するならすればいいじゃないか。

「神道、一体何が今まであったかは深くは聞かないけれど、辛いことがあったら俺にぶつけてきてもいいんだからな?」

なにやら優しく言われたが、なんだか馬鹿にされている気がしてイライラした、顔に出ているであろう気持ちを代弁するかのように口からは「同い年の癖に」という言葉が出ていた、すると、それを聞いた如月が大笑いを始めた。

「あっはははは!同い年か!」

まるで、こりゃ愉快!と言いたげに笑われたため、更に気分が降下する。

まぁ、ついさっきケガをさせてしまったという負い目はあるが、それはそれ、これはこれ。

乱暴にご飯が乗っているトレイを机に置く。

「あんまり馬鹿にするなら、飯は抜きだ。」

言いながら睨み付けると、如月は姿勢を正して真顔になる。

「それは困ります、恵んで下さい。」

その態度に機嫌を直したが、いかにも機嫌が悪そうに俺は如月の真向かいにある椅子に腰かけ、強く睨み付ける。

「とりあえず、馬鹿にしないんだったら飯をやるけど、俺の事を馬鹿にするようなら、たたき出す。」

それに萎縮したようには見えないが、真剣なまなざしで「馬鹿にしません、というか、馬鹿にしていません。」という返答を貰ったから、如月の事を許すことにした。

とりあえず、器を貰うために手を差し出す。

「器、出して。」

すると、如月は何やら首を傾げている、そして、俺は思いだした。

そういえば、昨日食器全部出した可能性があるなこれ、やっべ、どうしよう。



…………

~昨日の食堂~


「なんだい?この歪な形の食器らしき何かは、まぁ、明日この部屋の子に聞いてみればいいことね。」

その後、おばちゃんはこの食器の事をすっかり忘れていたのだった。


~回想終了~


…………


「あー、神道?昨日俺、お前に食器渡さなかったか?」

聞かれると、確かにそんな気がしてくる、と、いうか、その器を渡してしまった気がかなりする。

「あー、ごめん?」

その言葉に苦笑いした如月は椅子から立ち上がる。

「この寮の事はわからないけれども、自分の食器がないんじゃあ食べられないから、少し食堂の所に行ってもらってくるな?」

いいながら扉の方に行こうとする如月を引き留める。

「いや、ばれたらやばいし、俺がいってくるよ。」

「どうしてだ?」

なんでって、そりゃ

「下手に行って如月の存在がばれたりしたら困るだろ?

それに、怪我をしている如月を行かせるのは気が引ける。」

それを言うと、如月も納得したような顔はするが、やはり何か引っかかるらしい。

再度不服そうな顔をした。

「そりゃ、まぁそうかもしれないけれど……。」

「とはいっても、俺が部屋に戻って食事をしていて、昨日器を間違えて出してしまったといっても、すんなりと返してくれるかなぁ。」

うーん、と2人で考えた結果、透明になって2人で食堂のおばちゃんから食器を取り返してくるということになった。


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