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滅びた民族と俺の話  作者: 春川 歩
封印されし人間
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変異した神道

椅子が倒れ、机も倒れ上に置いてあったバケツが落ちる。

「が、あ、あ、ぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」

着ている洋服で窮屈になるのを阻止するためにブレザーの前を開ける、しかしブレザーは無事だが、その下のシャツはボタンがはじけ飛んだらしい、いきなり苦しくなくなる。

ズボンは緩々だったのがぴっちぴちになり、動きにくくなる、ベルトのせいで腰回りがきつい。

顔が痛い、耳も痛い、変化する痛みに苛まれるが、それらはものの3分で終了した。

「これは……」

如月が俺の事を見て驚いている、だろうな、俺は獣人ではあるが人型ではなく、変異すると完璧な獣になるタイプの獣人だ。

猫と狼を掛け合わせたような混血型の獣人、それが、俺だ。

猫のような目と、爪を持った足、狼の胴体と尻尾と頭部の部分を掛けあわせた姿に変異した。

『どうした、如月、これが俺の変異した姿だ。』

ついさっきまで説教を垂れていた口が塞がったことにホッとしつつ、こいつも、ただの人かと認識した。

「神道、お前。」

『なんだ、ビビって声も出ないのか。』

「ちがう、俺が言いたいのは、神道『だまれ!』」

どうせ、救われることはない、どうせ、何をやってもだめ、そういうことにしないと、俺の中の何かが壊れそうだった。

『説教を垂れるんだったら、力を示してみろ、そうすれば俺は言うことを聞くことにしよう。』

「それ、どこのゲームのボス?」

なめてるのか、こいつ。

『俺の事を、馬鹿にするなぁ!』

言いながら部屋の端にまで行き勢いよく如月に攻撃を仕掛けると、如月はそれを簡単に避けてしまう。

「くそ、どうしてこうなるんだ!」

如月が悲しみを体全体から滲み出してくるが、そんなの知るか、俺の心の痛みをしれ!

『俺は!頑張ってきた!』

猫のように尖った爪で如月の事を勢いよくひっかこうとする、が、それも避けられる。

『ずっと、ずっと一人で!』

腕に噛みつこうと頭を前に出すが、それも避けられる、そのかわりにその腕が首を捉えようとしたから前足でそれを外す、その時爪が出ていたらしく、痛そうに如月は顔を歪めた。

『だから、お前なんていらない!そうだ、いらないんだ!』

また突進をかますが、それも避けられてしまう。

「だったら、どうしてその姿になるんだ?」

至って冷静にそう聞かれてしまうと、言葉に詰まる、自分でも発動条件がわからないからだ。

しかし、分かることもある、それは。

『おれは心を殺すことによって、こうなるのを抑えてきた!』

「どうして心を殺したんだ?」

『うるさい!うるさいうるさいうるさい!てめぇは黙って殺されればいいんだ!』

優しくされたくない、俺は元から一人なんだ、やさしさなんていらない!

「その力で、誰かを救えると?」

『うるせえ!』

「その力で、誰かを助けられると?」

『だまれ!』

「その力を使えば、誰かに助けてもらえると?」

『だまれぇぇぇぇええ!!!』

連続でひっかこうと両前足を前に出すと、それを掴まれる、外そうと後足で相手を蹴ると、びりびりと音を立てて洋服が裂ける、それに痛そうに顔を歪める如月にざまぁみろという心の声と、反発する心が同時に湧き上がり、動きを止めてしまう。

「ごめんな。」

その声と共に両前足をひとまとめにされたと思ったら、大型犬を暴れないようにだっこする要領で動けなくされた。

『は、はなせ!』

そう言って暴れるが、何故か可動範囲が広いはずの前足が如月の事を捉えない。

「神道、いや、影理、ずっと、がんばってきたんだよな。」

『だまれ!』

「ずっと、心細かったんだよな。」

『だまれ!!!』

「獣人がその姿を取る時、傷ついた獣である、俺たちは旅の中でそれを学んでいたんだ。」

『だまれぇ!!!!』

どんなに暴れても、どんなにもがいても、その拘束は外れることを知らない、毒のように俺に言葉が浸透していく。

「大丈夫、大丈夫だから、お前は人間だ、これからは俺がついている、だから、な?」

『うるさいうるさいうるさい!お前らなんか、お前らなんか!ア……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

叫びながら、心が温かくなるのを感じる、心細かったと、1人は嫌だと、家に帰りたいと、どこかが叫んでいる。

「だいじょうぶ、だいじょうぶだ。」

いつの間にかに頭を撫でられている、そして、変異体だったのが段々と人に戻っていくのが分かった。

「手負いの獣の傷は中々癒えない、しかし、治れば世界を自由に駆け回れるんだ。

心の傷は治りにくいけど、俺が友達としているから、な?」

嘘つき、嘘つきと心が言っているが、言葉では反対の事を口走る。

「本当か?」

「あぁ、なにせ、俺は神の民族だからな。」

根拠のない説明に思わず吹きだした。

「手合わせがしたくなったら、寝ている時以外いつでもかかって来い、相手になってやる。」

「なんだよそれ、おかしいだろ。」

いいながら、人間の手に戻った前足で頭を撫でている手を払った。

「もう、大丈夫か?」

「あぁ、落ち着いた、ありがとうな。」

そう言いつつも、心の中では罵倒が吹き荒れている、俺は怠け者で、何も出来なくて、人から罵倒されるのが日常だというのに、どうして助けようとするんだ、理由もない優しさは、ただ傷つけるだけだから止めやがれ死ねやボケ、と。

「まだ、俺の事を恨んでいるな。」

あまりにも図星をついてきたから尻尾が膨らむ、ん?尻尾?

「まだ耳と尻尾が出てるぞ。」

「これは……半獣人化か?」

普通の獣人はこの形のものが多く、俺のように完璧に人になるのは難しいとどこかで教わった気がするが、正直、半獣人化はできたことがなかった、まぁ、これまでの人生の中でメリットも感じられなかったしな。

それでも、まさか、半獣人化できるようになるとは思わなかった。

「ま、それだけ姿が戻れば大丈夫だろ。

で?どうする?」

驚いている時に、突然の質問、それに俺はどう返せばいいか分からずに「なにが?」と返すと

「ここで術練習をするかって話だ。」

そう答えてきたから、俺は考える、利用しようとしているんじゃないのかとか、なにを考えているんだろうかと。

しかし、答えは決まっていた。

「正直、今この状態で答えるのは非常に癪に障るが、魔法、使いこなすためにおれ、頑張るよ。」

そう、比較的前向きな気分で答えた。

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