魔法恐怖症
「ちょっ大丈夫か!?」
如月が背中をさすってくれるが、正直止めて欲しい、そのままゲーゲー吐き続けて、胃の中の物が完璧に無くなった辺りで吐き気が止まった。
「す、すまない。」
情けない顔をしているのは承知だ、そして、新しく出来た部屋を汚してしまった事も申し訳なく思う。
「いや、配慮が足りなかった、こちらの落ち度だ。」
いいながらどこから取り出したのか雑巾とバケツを使って床を綺麗にしてくれている。
俺は壁にもたれかかったまま動けなくなり、息が荒くなるのがわかる。
「過呼吸にならないように、ゆっくりとした呼吸を心掛けて、はい、息をはいてー、すってー、はいてー、すってー。」
言われたことを実行すると、徐々に体に感覚が戻るのが分かる。
「よし、綺麗になった。」
如月が雑巾をバケツの中に放り込み、そのバケツを持って部屋から出ようとする。
「少し流してくるから、部屋の椅子に座って安静にしたほうがいい。」
それだけ言い残して如月は部屋から出ていった、そんな中、考えていたこととしては、それにしても、教室だなぁ、ということだけだった。
そう、ここは教室、自分の通っている学校の教室とは多少違うが、教室に違いにない、フラフラな足取りで椅子に座る、そして、罪悪感に近い何か、これは、恐怖?が俺を始めた。
教室を、汚してしまった、俺はどう償えばいい、俺に何が出来る。
頭が急速に冷えていく、魔法を使うことがここまで怖くなっているとは思わなかった、いや、魔法を使うことじゃない、まほうをしっぱいすることがおそろしいんだ。
頭の中にぐるぐると悪いことが渦巻く、どうしようもない恐怖に体が震える、身の置き場がない、おれは、どうしたらいい?
そこまで思考がドツボにはまったところで、如月が戻ってきた。
「顔色が悪いぞ、大丈夫か?」
「き、如月……。」
如月の手にはタオルとバケツが握られていた。
「ゲロ拭いたやつかそれ。」
「そんなわけないだろう、ほら、口を拭うのに使え。」
そう言われてタオルが渡される、受け取るとそのタオルは温かく、段々と寒くなるこの時期を考慮してくれたのかと感じる、そんなことを思いながらタオルを口に当てると、如月は空中に水の球を作り出し、俺の口元に寄せた。
「これも、口をゆすぐのに使ってくれ、バケツの中に出していいから。」
そう言って、バケツを机に置いた。
「それにしても、魔法恐怖症なのか?お前。」
机に手をつきながら聞いてくるのに、俺は震えながら答える。
「まほうは、魔法はもう使わなくても生きていける時代ではあるんだ、だけど、それでも俺はこの学校に選ばれたんだ、だから、怖がっちゃいけないんだ。」
俺の様子を見た如月は何事かを考えた後、不意に俺から離れ地面に手を置き、正四角形の床板の一部を外した、すると、床の下は土らしく、そこから植物が生え、花が咲いた。
見たこともない、青い花だ。
それをむしり取ると、俺に差し出してきた。
「正直、こんなので慰めになるとは思わないんだが、魔法は恐ろしいものではあるが、使いこなすと、それは綺麗な景色が見られるようになるんだ。
例えば、これは土と木属性だけで作った花だが、生きている、大元に種があるからだ。
そして、この種は元々はもう花が咲かない可能性の方が高かった種なんだ。
理由としては殻が厚くて自分からは咲くことが出来ない、おまけにかなり時が立っていて、死にかけている、そんなボロボロの状態の種でも、咲くことができるんだ。
それは、生きていたいから。
それで、お前はどうだ、傷つきボロボロになっていたとしても、頑張っているお前は、この花とどう違う。
魔法が吐く程嫌いで、それどころか学校でもボロボロになって、それでも生きようとしているお前と何が違う、それどころか、お前が今の魔法には興味がないと言って、古典魔法に興味があるといった。
今の魔法がどういったものかはわからない、だけど、恐ろしいものには変わらないだろう、ついこの間の怪我が物語っている、それでも、魔法を使いこなしたいと考えているお前は偉いよ、向上心がある、人の役に立ちたいと思っている、本当に偉い。」
何か言っているけど、何言っているんだこいつ、確かに消えたいとか、死にたいとか、よく考える、しかし、それこそ俺にとっては福音で、何をやっても怒られる俺の唯一の逃げ場だ、何もやらない俺の逃げ場をどうして塞ごうとする。
「やめろ……」
「なにをだ、神道、お前は魔法の制御が出来ないと言っていたが、それは本当か?」
「そうだ。」
「なら、ついこの間の怪我は?」
「あれも自分がやったことだ。」
やめてくれ……
「だとしたら、練習をすれば上達してそんな怪我を負わないで済むと思わないか?」
どこだ、俺の逃げ道は。
「そうだな、確かにそれは思う。」
いきなり顔をあげた俺を驚いた如月がこちらを見る、そして辛そうな顔をこちらによこした。
どうしてそんな憐れんだ顔をしているんだ、その顔をこっちに向けるな。
「だったら、一緒に練習しようと言って締めくくろうとしたんだが、どうしてそんなに辛そうな顔をしているんだ。」
心の、柔らかいところに触れてくるな!
そう思った瞬間、俺は変異を起こしていた。




