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#009 スキャンダルは創られる。

「だ、誰だ! こんな時間に?」


 つい、いぶかしむが部屋の中が暗いだけで、実際はまだ夕暮れ時だ。

 それでも突然の訪問者におれたちはあせった。


「アリシア。いるのでしょう?」


 扉の外から声が聞こえる。


「あ……マリアベル」

「あなたにお伝えしたいことがあるの。出てきてくださらない」


 訪問者の正体に気づいたアリシアが、まだ寝起きのフラフラとした足取りで出入り口に向かう。扉を内側に開け、そっと相手をうかがった。

 おれもこっそりと移動し、感づかれない場所からふたりの様子を見守る。


「なんの用?」

「あ、あなたはまた、そのような格好で……。いつも慎みを持った格好をしなさいと忠告しているでしょう」


 下着姿のまま現れた少女に苦言を告げる。

 どうも目のやり場に困っているようだ。視線が定まらず、宙を漂う。


「別にいいよ。女の子同士なんだから、気にする必要ないじゃないか」

「わ、わたくしが困るのです。そ、そのようなあられもない姿でいつもいつも出てこられては……」


 赤面しつつ、相手を諭そうとするマリアベル。

 まあな。同性だからといって、目の前に裸同然で立たれると正直、焦るよな。

 これにはおれも同意する。アリシアの場合、性別関係ないのかもしれないが……。


「どっちにしろ、ぼくはもう退学だから関係ないよ。この宿舎からもきっと追い出される……」

「そうやって、いつも自分ひとりで先走るのはおやめなさい」

「ぼくは試験に落ちた。これでもう、この学校にはいられない」


 うつむき気味に視線を落とす女の子。

 どうしたものかとマリアベルは思案顔を浮かべている。

 なんだか、おかしいな。話が噛み合っていないようだ。


「いいから、落ち着いて聞きなさい。あなたはまだ退学と決まったわけではないのよ」

「…………どういうこと?」

「試験が終わって、すぐに学校を飛び出してしまったのは良くありませんわ。指導教官の呼び出しを無視する形になりましたから……」

「それは、その……」


 指摘に声を濁らす。結果に我を忘れたせいであるのは間違いない。


「ですから、わたくしが代わりに用件を言付かってきましたの。明日、もう一度、試験の機会を設けますので時間に遅れないように、とのことですわ」

「明日? もう一度……」

「当然ですわ。試験に落ちれば補習を受け、追試の機会を待つ。許された期限までに合格を果たせばよいのです。ただ一度の試験ですべてが決まってしまうなど、誰に言われましたの?」


 マリアベルのとうとうとした説明には、おれも合点がいった。

 確かにここは教育機関なのだから、学生に修練を課すのが目的だ。

 試験はその度合いを計るためのものであり、ダメだから即失格では意味がない。


「ぼくはまだ、ここにいられるの?」

「いいも何も勝手に出ていかれては、先生方も困りますわ。ちゃんと伝えましたからね。明日も遅れてはダメですわよ」


 強く言い聞かせるように明日の予定を伝えた。

 それを受けて、少女はなおもうつむいたまま小さく漏らす。


「…………よかった」

「え? なんですの」

「ありがとう、マリアベル! ぼくはまだここにいられるんだ!」


 感極まったアリシアが泣きながら目の前のマリアベルに抱きついた。

 いきなりな行動に、バランスを崩した両者は絡み合ったまま廊下に倒れ込む。

 おっと、【定点監視ピーピング・アイ】!

 廊下の天井付近に”魔法の目”を出現させ、そこからふたりの姿をとらえ続ける。


「お、落ち着きなさい、アリシア! こ、こんな明るい場所では駄目よ」

「うう……。よかった。本当にありがとう」


 何がダメなのか、いまひとつ理解に苦しむが、とにかくマリアベルはしがみついてくるアリシアを支えて上半身を起こした。

 はた目には、明るい照明に灯された場所でふたりの美少女が腰を落として抱き合っているようにしか見えない。しかも、ひとりは半裸状態である。何、この展開……?


「ア、アアア、アリシアさん! いいから落ち着きなさい。女の子同士でこのようなことをしてはいけないわ」


 個人的には、このようなことがどのようなことなのか非常に気になる部分だが、取りあえず置いておこう。

 マリアベルの制止も聞かず、もうひとりの女の子は下着姿のまま、相手の胸に顔をうずめるよう強く抱きついていた。

 ふたりのかしましい様子に気づいた他の学生たちが、部屋の扉の奥からこっそりと廊下をうかがい始める。

 恋も恥じらう乙女たちではあるが、いけないことに興味津々なのもこのお年頃。

 ヒソヒソ話の最中に時折、嬌声が漏れ聞こえてくる。


「あわわっ! ア、アリシア、とにかく離れて下さい! このような姿をこれ以上、人に見られては……」

「マリアベルさま! 何をなされているのですか!」


 ひときわ高い女の子の声が辺りに響いた。

 名前を呼ばれた金髪の少女が弾かれたようにそちらを向く。


「か、カティア! ち、ちがうのよ、これは……」

「何がちがうというのです! こ、このような場所で、ふしだらな格好をした女の人と激しく抱き合ったりして!」


 すごい勢いでマリアベルを糾弾する謎の少女。

 アリシアよりも小柄な体に幼い表情。首元で切りそろえた黒髪。下級生だろうか?


「これは、アリシアが勝手に……」

「問答無用です。お嬢様が宿舎でいかがわしい行為にふけっていると、ご実家に連絡させていただきます」

「こ、こら! おやめなさい! 早く立って、アリシア」


 覚えのない風評にマリアベルは急ぎかたわらの少女を抱き起こす。

 そのままの勢いで女の子を部屋の中にまで押し込み、急ぎ扉を閉めた。


「あー! お嬢さま、いけません! 服を脱いだ同級生とふたりきりでお部屋にこもって一体、何を始めるおつもりですか? し、しかも、相手はわたくしとさほども変わらない同性であるなどと、これはゆゆしき事態です! どうしても我慢が出来ないというのなら、わ、わたくしだって……。とにかく、これ以上はいけません! 許されません! 不潔です! 不毛です! 背徳です! カベンティール家の名誉に傷が付いてしまいます。早く正道にお立ち返り下さい、お嬢さま! そ、そのためであれば、カティアはどのような辱めを受けても……。むしろ、その日が来るのをずっとお待ちしております!」


 どう考えても名誉を一方的に傷つけている女の子の叫び声。

 扉の外から聞こえてくる事実無根な言動にマリアベルは唇を強く噛み締めていた。


「……まったく、あの子は」

「マリアベル、どうしたの?」


 ようやく自分を取り戻したアリシアがきょとんとした表情で問いかける。

 その肩をつかみ、金髪の美少女は強い口調で用件を伝えた。


「とにかく、明日の追試は今日と同じ場所、時間は授業が終わった後の放課後ですわ。間違えないように、ちゃんと覚えていてくださいね」

「え? うん、わかったよ。どうも、ありがとう……」


 念押しに、さすがのアリシアも素直に謝意を述べる。

 それを聞いてマリアベルは安心したように相手の体から手を離し、扉に向き直った。


「今度こそ頑張りなさい。一応、応援しておいてあげるわ」


 最後にそう言い残し、引手に指をかける。

 開いた隙間から、なおもあることないこと言いふらしているカティアの顔が見えた。


「お、お嬢さま! ご無事でしたか? ま、まさか、すでにおふたりは……」

「カティア、少しお黙りなさい」


 押し殺した声で年若い少女の暴走を止める。

 それから相手の耳たぶをつねるように引っ張り、部屋を出ていった。


「まったく! こっちへ来なさい! 部屋に戻ったらお仕置きですわよ」

「そ、そんなあ! わたくしはお嬢さまのことを一番に考えて、間違った道に進むのをおいさめしようとしただけです。で、ですが、それが余計な心配だとしたら、甘んじていかような罰でも受ける所存……。どうぞ、お嬢様のお気が済むまで、存分にわたくしをいたぶってくだされば……」

「いいから、静かにしていなさい!」


 なおもエスカレートするカティアの言動。それを無理やりに遮り、足早に自分の部屋へと立ち去っていく。突然の喧騒けんそうを興奮気味に見守っていた他の生徒たちも次第に自室の扉を閉めていった。


「それにしても後からやって来た、あの騒々しい女の子は誰なんだ?」


 すべてが終わった部屋の中、アリシアに先程の人物を尋ねる。


「彼女はカティア・モーガン。この国でも有数な富豪”モーガン家”の令嬢だよ」

「にしては、マリアベルを『お嬢さま』扱いしていたな」

「まあ、モーガン家自体がカベンティールの発見した技術で事業を興しているからね。ぼくらがここへ来るときに使った乗り物も開発はモーガン家だよ」

「あー。技術屋とそれで商品展開をするディーラーの関係か」

「去年まではカティアのお姉さんがマリアベルのお世話係をしていたんだ。でも上の学部に進級して宿舎を退出してしまったから、妹のあの子が今年から代役を務めているわけ」

「務まってるのか? あれで……」


 他人事ながらに心配となった。人の世はいつも不思議である。

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