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#013 猫と湯殿に少女がふたり。

 目の前には浅く湯を張られたバスタブ。

 中には猫用ボディソープが溶かされており、表面はよく泡立っていた。

 カティアが腕の中の猫をそっとぬるま湯に浸ける。

 猫は敏感に手足をバタつかせて抵抗の意思を示した。


「キャッ! ア、アレキサンダー、そんなに暴れてはダメです!」


 むずがる猫に女の子が手を焼いていると、マリアベルがそっと腕を伸ばして加勢した。首のうしろと背中をつかまえ、容易には逃げ出せないよう押さえつける。その状態を維持しながら、カティアが指で猫を洗っていった。


「どうしたのかしら? 今日はいつもより世話がかかるわね」


 うしろ足を掻く動作で猫はなおも人間に抗う。

 おれとしてはこの状態からさっさと逃げだしたかったので、あえて動きを止めようとはしなかった。


「もう! このままでは制服が泡だらけになってしまいます」


 怒ったカティアが猫から手を離し、おもむろに着ていた制服のシャツへ手をかける。

 それから、素早い動きで上着とスカートを一気に脱ぎ捨てた。

 少女のまだ未成熟な体を包んでいるのは白いスポーツブラと、同じく白のパンツだけとなる。ソックスはバスルームに入る前、靴と同時に脱ぎ捨てていた。


「これなら、もうどんなにお湯がかかっても平気なのです」

「カティア、あなたまでそんなアリシアみたいなはしたない真似を……」


 同室の後輩をたしなめるように声を上げかけたマリアベル。

 しかし、飛沫のかかった自らの服に目を落とし、何かを悟った表情を浮かべる。


「そうね……。ここはお風呂場なのですから」


 猫をカティアに預け、ブラウスのボタンを外していく。

 先程の女の子とは違い、彼女の方は出るところがとても出ているので、仕草もゆったりとしていた。優雅な動作で上着を脱ぐと、その下に繊細なレースで装飾された薄いピンク色のブラが見えた。内側にはランジェリーに収まりきれないほどの重量を持ったふたつの乳房が揺れている。

 プルンなどという可愛らしい感じではない。”バルン”である。なんなら、”バルルン”と表記してもいいくらいだった。


「どうせでしたら、こちらも……」


 続けてスカートに手をかける。腰の部分のホックを外し、並んだボタンを開放していく。マリアベルが手を放すと、スカートはタイルの床にストンと落ちた。露わとなった下半身を隠すのは、ブラとワンセットのピンク色のショーツただ一枚。

 決して扇情的なデザインではないのだが、彼女自身のスタイルの凄さと相まって妙に小さく見えた。どこからどう見ても”女”の体である。あまりの美しさに、おれは興奮するよりも深い感動を覚えた。


――あー。グラビアの女の子って間近で見ると、こんな印象なんだな……。


 おれはやけに冷静な反応を示してしまった。び、びびってねーし!


「これで思い切ったことが出来ますわ」


 一言つぶやいてバスタブに手をかける。そのまま、滑り込むように湯船へ肢体を浮かべた。お湯に濡れて透けそうになった下着。見えてはいけないものを白い泡がギリギリで覆い隠す。

 なんだろう。隠れているせいで余計に高まってしまったこのエロスは……。


「カティア、アレキサンダーをわたしに」


 女の子が猫をマリアベルに預ける。

 彼女は受け取ったアレキサンダーをうしろから抱きかかえ、自身のお腹の上に置いた。格好としては前足を支えられながら、お腹を大きく開いている状態だ。背中から伝わる心地よい弾力と人肌の温もり。上を見ると、視界に被さる紡錘形のたわわな物体。いまにも頭に落ちてきそうだった。


――猫のアングルってすげえな……。


 夢でなければ間違いなくパラダイスな状況。ここで死ねれば、まさに腹上死である。

 などと、しょうもない言葉遊びをしていると、遅れて湯船に乗り込んできたカティアが目の前で膝立ちになった。こちらは肌着の布地が厚いせいか、お湯に濡れても透けるようなことはなかった。それでも水に濡れた下着姿の少女というのは、存在自体があまりに犯罪的すぎる。おれは努めてそちらの方は見ないようにした。


「さあアレキサンダー。キレイキレイをしましょう……」


 なんだか楽しそうにつぶやいて、カティアが両手を伸ばす。

 背中を美女に預け、晒した下半身を少女の指先がまさぐっていった。


――なに、これえええええっ!

――どういうプレイなんだよ? オプションか! オプションサービスなのか?


 もはや抵抗は意味がない。

 猫はぬるいお湯に浸され、やさしくお腹をさすられる感覚に全身の力を抜いていた。なにより体をマリアベルに預けているという安心感が、母の懐に抱かれた子供のように安らかな眠りを誘っていった。


 ◇◇◇


 気がつくと猫は全身を白いタオルに包まれて、体を拭き取られている。

 水がしたたる様子がなくなると、自らもバスタオルを巻いたカティアが猫を抱きかかえて部屋に戻っていった。次はドライヤーで乾かすつもりか?


「さあ、アレキサンダー。キレイになりましたよ」


 やさしく声をかけながら、ベットの上に猫を置く。

 マリアベルはまだバスルームから出てきてはいなかった。

 おそらくはバスタブの清掃と、ついでに自分もシャワーを浴びている最中か?

 部屋に結界を張っている気配はない。いまならば扉を開けるだけで外に出られる。


――ここだ!


「あ! アレキサンダー、まだダメですよ!」


 カティアの制止を無視して、出入り口に駆けつける。

 体ごと引手に飛びかかり体重をかけた。ラッチが外れるのを確認して、扉の横の壁をひと蹴り。わずかに隙間が出来た!

 床に降り、頭を潜り込ませる。そのまま肩と胴をねじ込んで、するりと扉を抜けた。廊下に人影はない。おれは猫を操作して窓際の柱の影で待機させる。

 ほどなく扉が大きく開けられた。内側からカティアが顔を覗かせると、素早く左右の状況をうかがい、猫の姿がどこにもいないのを確認する。

 次の瞬間、バスタオルを巻いただけの格好で少女は通路に躍り出た。


「こいつ、まさか……」


 柱の影に隠れてた白猫の前をバスタオル一枚の女の子が通り過ぎていく。

 体勢を低くし、下から見上げていると布地の内側にまだ小さなおしりが見えた。

 その姿のままカティアは階段の手前まで行き、階下へと向かっていく。


「この世界の女の子は全員、羞恥心が欠如しているのかよ」


 大胆すぎる少女の行動にこちらのほうが少し面食らった。

 まあいい。おかげで追跡者をうまく撒くことが出来たのだ。

 動物なら一目散に遠くへ逃げていくだろうと考えてしまう先入観。

 おれはそれを利用して、死角となる場所で身を潜めていたのだ。

 急ぎアリシアの部屋の前に行き、扉を引っかく。ガリガリと木製のドアが音を立てた。


――頼む、部屋に戻っていてくれ!


 すがるような思いで扉に爪を立て続ける。

 しばらくして、中から近づいてくる足音が聞こえた。

 そして、静かに内側からドアが開かれていく。


「あれ? 君ってもしかして……」


 扉の影からアリシアが顔をのぞかせた。おれは即座に部屋の内側へ進入する。


「え? ちょ、ちょっと!」


 あわてる少女を置いて、部屋の奥のベットに飛び乗った。

 猫はグルグルとその場で回り、危険がないと判断し腰を落ち着ける。ここで休む気、満々だ。

 おそらくこいつは、女の子の香りで満たされている空間は全部、自分のナワバリと思っているのだろう。ある意味、ふてぶてしい。

 入り口から戻ってきたアリシアが、困ったような表情で突然の訪問者を見下ろしていた。


「まいったな、もう……。マドーさんを探さないといけないのに」


 つぶやいたアリシアも無理をしてまで猫を追い出すつもりはないようだ。

 どうやら、アレキサンダーのことは生徒たちの間では公然の秘密と言った存在らしい。

 おれは首輪に巻き付いた体を解いていく。ようやく猫から離れ、【神経占拠ブレイン・ジャック】の魔法を解除した。


「アリシア、おれだ。た、助けてくれ……」

「その声、マドーさん? ど、どこにいるの!」

「こっちだ。とりあえず、この体を広げてくれ」


 おれは全力で縮んだ体を揺らし、女の子の注意を引きつけた。


「こ、こんな姿になっちゃって……」


 紙を拾い上げたアリシアがくしゃくしゃの状態から大きく広げる。

 それから机の近くに移動して引き出しに手をやった。中から木製のクリップボードをひとつ取り出す。

 薄い紙切れ一枚のおれをそこに差し込み、昨日までと同じく机の上に立てた。倒れてしまわないように、いくつかの本がうしろで支えになっている。


「これで大丈夫?」


 心配そうに声をかけてくるアリシア。たくさんの苦難を乗り越え、おれはようやく彼女のもとへ帰ってきた。

 なに? シャンプープレイは苦難じゃない?

 …………いや、猫にとっては、あれ苦痛だから。

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