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 とある青年がいた。

 ある国の高名な貴族の一家に生まれ、それなりの教育を受けて、優秀な成績を残した。

 青年は航空機が好きだった。幼いころに航空機の離陸光景を間近で見る機会があり、そのサイズと音量と飛行の事実に感銘を受けた当時の青年は、それ以来取り憑かれたように航空機に夢中になった。

 青年が子供のころには模型をよく造った。本物の技術者になった体で、航空機作成ごっこを友達と一緒にやった。当時の青年たちなりに丹念に航空機について調査をして、真に迫ったごっこ遊びを試みた。

 そうしていろいろな種類の模型を通じて航空機の作成過程を体感しているうちに、次第に航空機を実際に操縦したいという気持ちが収まりきらなくなってきて、ある日こっそり航空機に忍び込んで操縦しようと企んだ。この企みは忍び込む前にあっさりと当時の大人たちに阻まれたが、それ以降何度も同じ企みを実行し、ついに一回だけ航空機の操縦室に侵入することに成功した。

 ボタンやレバーがたくさんあって、操縦の仕方も分からないので、仕方なく写真を撮ったりスケッチをたくさんして帰った。後で事が露見して叱られたが、本人は今後の遊びの幅が広がってご満悦だった。

 青年には尊敬する人間が二人いた。一人は、青年の兄で、もう一人は同年代の友人だった。

 青年の兄は航空機の扱いが誰よりも上手だった。少なくとも青年は、兄が誰かとの勝負に負けるのを見たことが無かった。兄の操縦する航空機は信じられない動きをして、見る人を惚れ惚れとさせた。

 こんな世界にいても兄は国と家族を心から愛し、向上心に溢れて、兄は人格的に誰より偉大であると青年は思っている。そんな偉大な兄に倣おうと、青年はいつも頑張って航空機を操縦していた。

 青年の同年代の友人は頭が良かった。青年は彼女と会話をする時、いつも自分の頭が良くなった気がしていた。彼女が青年と会話をする時は、難しい内容を青年にも理解しやすく話し、そして会話の流れを計算して主導権を握りたがり、青年もそれに便乗して楽しく会話をした。

 彼女はとても理知的な性格をしていて、常に自分の利益が増えるようにと振舞っていた。とりわけ、敵と味方をつくるのがとてもうまいと青年は感じていた。彼女は若い年齢ながらも、異例の速度で出世を続けていた。

 彼女の他人を少し見下すような態度が青年にとって気になる部分であったが、青年と彼女の関係はおおむね良好だった。彼女の友人は数多くいたが、その中でも青年は付き合いが長く特別だった。青年の持つ知識の多くは、彼女から教えてもらったことだった。本来の自分とは不釣り合いの知識を自覚する度に、青年は何だか嬉しくなった。

 航空機に乗れるようになってから青年はよく空を飛んだ。暇な時間があれば航空機に乗って、国中のあちこちを飛び回った。たびたび限界ぎりぎりの速度に挑戦をして、時には機体を壊すような危険を冒して、周りの人間に叱られていたりした。青年は黙々と叱られて、それでも懲りずにまた限界飛行に挑戦した。

 その日、青年はいつものように航空機を操縦して飛ぼうとしていた。

 いつも通り、操縦前に航空機の点検、自身の点検、そして事故に対する備えをこなして、いつものように航空機に乗り込んだ。

 しばらく飛行した後に、事故が発生した。

 青年が飛び立ってしばらく後、航空機の速度をそろそろ上げようとしていたときに、機内に異臭が生じた。

 青年が異変を感じて間もなく、機体の操縦が何一つできなくなった。モニターが何も映さなくなり、ハンドルをどれほど動かそうと機体は何も反応しなくなった。

 機体はずっと速度を上げ続けた。動力のみが動き続け、その出力を操作することもできずに、航空機は限界を超えて飛び続けた。

 青年は緊急脱出を試みたが、出来なかった。機体が速度に耐えかねて、次第に軋み始めた。国の人間に通信を試みたが、通じなかった。航空機の機能が殆ど落ちていた。

 異臭が機内に充満していた。

 しばらく飛び続けた後、機体はばらばらになった。


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