TAKE9:死(5日目)
杏奈が消えて1日、あの後何も考えたくなかった。
でも、あのピンクのフリフリの部屋をまた見たいと思って、旧・杏奈の部屋へ足を運んだ。
ドアに手を掛けると、思い出の重みなのか、重々しくて力が抜けた。
2呼吸くらい深呼吸をし、バッとドアを開け放った。
目の前に広がる光景に思わず絶句した。
そこは華やかなピンクで女の子らしい部屋ではなく、暗く重々しいこもった物置部屋だった。
部屋を間違えた?
でも、確かにここの部屋。間違いない。
だって、杏奈の部屋だもの・・・。
「苺?何か探し物か?」
あたしはその場に体操座りをした。
消えたとしても、ここは杏奈の部屋。
動きたくなかった。
生きていた頃の“友情”よりも、死んでからのほうが“友情”が確かめ合えた。
そんなに寂しいことを忘れたくなかった。
あたしが何も答えなかったからだろうか、京介は困った感情をため息に混ぜて出すと腕を組んだ。
「どうした?苺?」
「兄ちゃん・・・」
京介・・・。
プルルルルルルルルルルルッ
家中に電話の着信コールが鳴り響いた。
「あ、そうだ。母さんたち誰もいないんだっ・・・」
京介はしぶしぶ頭をかきながら階段を下りていった。
あたしも追いかけるかのように杏奈の部屋の前を離れた。
何で追いかけたかって?
何か、予感がしたから。2日前には神様の夢を見たから・・・。
あたしはようやく下に降りた。
その時あたしの心臓がビクッとした。
京介は青ざめた顔をして電話で『ハイ』としか答えない。
最後まで『ハイ』としか答えず電話を切った。
その手は震えていた。
どうしたの?京介。
あたしの心の問いかけを聞いたかのように、京介はゆっくりと首だけをこちらに向けて口を開いた。
「小春が・・・死んだ?」
疑問形で意味が通じなかった。
でも、単語だけで読み取った。
あたしが・・・死んだ?
バタンッ。
足に力が入らなかった。
京介は『信じられない』と冗談で受け止めるような笑顔で立っていた。
「小春が死んじゃったんだって」
あっさりとしめて言う京介。
あたしと同じだ。足に力、入んないんでしょ?
京介は足を絡ませながらも玄関のドアに手を掛けて外に出た。
あたしも急いで深呼吸をして気を落ち着かせて足に力を入れた。
京介の横にぴったりくっついて病院へ向かった。
“あたし”を久しぶりに見た。
“お母さん”も、“お父さん”も、久しぶり!
感動で再会したはずなのに・・・こんな形でっ・・・・。
泣いてる・・・。そうだよね。“家族”だもん。
電話で駆けつけたのか、京介の“お母さん”、“お父さん”も泣いていた。
死に化粧をして肌の色が不気味に青白い。
自分の死に顔が見れなくなっていた。
ただ1人この病室で、“あたし”をのぞいて泣いていなかった人物。
京介だった。
ただ目を開いたまま硬直して、まばたきもしなかった。
それどころか顔は家を出る時よりも青ざめ、血の気がしなかった。
小刻みに体は震え、何か小声で呟いている。
見たことがない“京介”だった。
その状態で病室から出て、廊下の長いすに座りふつうの壁よりも出っ張った壁に身を任せて壁にジャムを付けたような状態だった。
あたしは京介の視線の先に立った。
目を見るとうつろで赤くなっていた。
そして、呟いていた言葉が聞こえた。
「俺・・・まだ小春に守られたままで・・・。次は俺が守ろうと思ったのに・・・。でも・・・“守る”って何だろ・・・小春のこと、好きだからかなぁ・・・」
え・・・?
今何ていったの?
京介・・・もう1回・・・。
でも、守られたって何?
「守られた・・・?」
あたしが言葉をこぼした時、京介はうつろな目をパッチリ開き、姿勢をきちんと戻すと猫背になりひざにひじを突き立てて手のひらを組んだ。
「苺・・・お前小春のこと知りたがってたよな・・・?」
「うん・・・」
え、何?
「じゃあ教えてやるよ・・・。何で小春が死んだか」