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TAKE7:禁断の決心(3日目)

小春・・・・小春殿・・・。


あたしの前には神様がいた。


お前の・・・体・・・危ない・・・。


聞き取りずらいけれど大部分はよく聞こえる。


お前の体・・・危ない。


バッ!!

あたしは汗だくで布団から飛び起きた。


「・・・・・・夢か」

悪い夢?それとも現実になる予知?

あたしは頭を抱え込みながらベッドから出た。


「おっはよー!!苺!!」

一瞬頭の中真っ白になりました。


「おはよ♪苺」


「お、はよう・・・ごじゃります」

これは杏奈か!?正真正銘の笑顔が咲いてる!?


「あ、んな・・・どうしたの?」


「ん〜?だって、あたし・・・明日最終日だしい」

は・・はぁ・・・。


「じゃあまた生まれ変わったら会えるんかなぁ〜。なんて」


「会えないわよ」

えっ!?そこまでハッキリ言わなくてもっ!!


「だって、あたし、消えるもん」

・・・・・・・・・・・・・・・・。


「は?」


「だ〜か〜ら〜。あたし、杏奈さまってことばらすの♪」

あたしの頭の中、しばらくお待ちください。

本当の焦りが感じられた。

手の握りこぶしに汗が溜まるのが分かる。


「ちょっと待って〜正体ばらすってぇ〜・・・消えるんだよ!?何言ってんの!!」

杏奈はそんな様子もなく陽気に窓を開けている。


「何って・・・ただ京介に『好きです』って言うだけーですけど」


「はぁ!?だけー、の問題じゃないのよ!?この世から何もかも無くなるんだよ?!あんたが生きていた証さえ!!」


「・・・いーよ」

え?

バタンッ

杏奈は部屋を出て行った。

あたしはその場にへたりこんだ。

何・・・?あたしまだ寝ぼけてるの??

杏奈・・・消えちゃうよ!!

あたしはバタバタと階段を掛けて降り、キッチンへと向かった。


「待ってよ!!あん・・・」

あたしがドアを開けた途端にみんな目を丸くしてあたしを見た。

あ、朝食タイムですかぁ。


「バカ」

杏奈が呟くのが聞こえてカチンとした。

朝食も食べて終わり、杏奈が食器の片づけをしていた。

あたしはそばまできて周りに聞こえないように杏奈に話した。


「ねぇ!さっきの話本当なの!?」


「うん」

あっさり答える杏奈に再びカチン。


「そんな簡単な問題じゃないでしょ!!」


「いいじゃない。あたしが決めたことなんだから」

杏奈はそう言うと食器洗いを済ませて自分の部屋に戻って行った。

こんのぉ〜!!

でも、昼が過ぎても杏奈は出てこなかった。

思い切って杏奈の部屋に入った。

あたしはそこで立ち止まった。

杏奈は窓の外を座ってみていた。

たぶん、この部屋に入ったときから。

肩が小刻みに震え、鼻をすする音が聞こえる。

泣いてたの・・・?


「杏奈・・・」

くるりと杏奈はこちらを振り返った。

杏奈の目は赤く腫れて涙が溢れ出ていた。

それに関して何も言えなかった。


「小春・・・あっ、あたし・・・正直、消えるの・・怖い・・・」

ぎゅと唇をしぼって発した言葉。


「告白しても・・消えたら京介・・の・・・心の記憶、消えるけど・・・石ころ1つでもいい・・・『あたし』を残しててほしい・・・」

涙ぐんだ声は聞くだけで精一杯だった。

無意識にあたしは杏奈に駆け寄った。


「それなら・・・気持ち伝えなくても・・・」


「バカね、あんた・・分かってない・・・」

え?

杏奈は服の袖で涙をぬぐった。

「そーゆーの、弱虫ってゆーの!!」

・・・杏奈?


「バカ・・・ホントバカ。あんた京介のことどれくらい好き?」

好き・・・そりゃ表せないほど・・・・・・。


「あたしはあふれるほど好き。こんな気持ち生きてるうちに伝えればよかったって後悔してる。だって、あたしにとって人生で1番大きな“恋”だったんだもん!こんなのっ・・・伝えずに生き返ったら前世の自分を許さない。消えたほうがましなんだ」

あたしの心の奥はズキンと痛かった。

気持ちだけじゃ杏奈に好きな気持ちは負けないと思ってた。

でも、今じゃ杏奈の方が勝ってる。


「京介にそんなこと伝えちゃったら、ホント・・・全部無くしちゃうよ?」

説得をするつもりが何か弱気になってしまう。

足が小刻みに震え始めて口元がガクガクする。


「やだよ・・・もぅ・・杏奈には・・・」


「ごめん。会えないね」

涙で濡れていた顔には涙以上に綺麗な笑顔が浮かんだ。


「っ・・・・・・」

杏奈は立ち上がってドアに手を掛けた。


「やだなぁ・・・涙は無しだよぉー。もうそんな年じゃないんだから。でも・・・」


「え?」


「やっぱり、小春がずるいって言い方・・・違ってたかも。あたしがただ、動かなかっただけだった。だから――――・・・」

だから??


「ごめんね――――――――」

申し訳なさそうなしぼれた笑顔。

そんなあっさり言わないでよ・・・仲直りできたと思ったのに。

行かないで―――――・・・。


「ばいばい、小春――――――・・・」

ガチャン。

あたしの返事も聞かずに、杏奈はドアを閉めた。

杏奈の部屋に取り残されたあたし。

一体今から何をすればいい?

ただ杏奈が消えるのを待っとくとでもいう?

このまま会えないっても?

今ここにいる“あたし”を、“小春”として見てくれた杏奈を?

“小春”の人生の中での友達だったのに――――――!!

あたしは立ち上がって杏奈の行方を追った。

たぶん杏奈は京介のところに行ってる。

でも見当がつかない。

家の中を隅々探したけれど2人の姿は見つからない。


「杏奈っ・・・京介・・・!!」

時間が経つほど必死になる。

どこがある?どこがあ・・・

あたしの頭の中には苺として最初に訪れた場所がよぎった。


「あの公園っ・・・!!」

3歳児のような5歳児の体では走りにくいし体力もいる。

いじめられて泣きながら家に帰ってくる5歳児にも見えた。

公園は京介の家のそば。

あたしたちが生きていた頃はよく行ったものだった。

思い出の場所っ・・・杏奈!!

公園の門に入ると、小さい影が2つ見えた。

お互い向き合っている杏奈と京介だった。

とても入れる空気ではないと察した。

2人の会話が耳に届いた。


「姉ちゃん・・・??何か用?」

京介はベンチで背伸びしながら聞いた。


「ちょっと、話したいことあってね・・・」


「話?」


「うん。遠藤 杏奈って、知ってるでしょ?」

京介の肩がピクッと動いた。


「あ・・・うん」


「ちょっと気になるの・・・その子について、何か話してくれない?」

え?というかのように京介は杏奈を見た。

京介はえらくためらうように口を閉じていた。


「ダメ・・・かな?」

杏奈は眉をハの字にして肩をすぼめる。


「じゃ・・・姉ちゃんには・・・話そうかな」

京介は腕を組んで目をつむった。


「杏奈は転校生だったんだ――――――・・・」


「遠藤 杏奈です。よろしくお願いします」

転校生なんて興味ないけど、“そいつ”だけはちょっと気になった。

!!

中3にもして何だこの身長!?ちっさ!

この反応はみんな同じだった。

でも、俺みたいなリアクションで済まされないやつは何人もいたんだ。

『やっば、あの身長。小学生じゃないの?』

『ここは受験生の来るところでーす』

俺の周りからはかすかな笑い声に聞こえたものが内心をイライラさせた。

さっきの自己紹介からして“ここ”に怯えている目をしていた。

緊張といったもんじゃない、壊れそうなっ・・・。

だから俺が何とか守ってやらなきゃ。って思った。

守るって、なんか好きなやつっても思うけど、俺は違う。

いじめられてるやつ見るのぜってぇヤだから。それから逃げようとしてただけ。

俺の隣に座った時はホッとした第一印象よくしなきゃな。

ひとつ俺は咳払いをして話しかけた。


「俺、中原 京介。よろしく!あ、学級委員なんだ!何でも聞いて?」

んっ?これは挨拶といったようなものだろうか?

彼女の笑顔が返されたので安心した。


「ちょっと!京介ばっかり独占しないでよ!あ、あたし市原 小春!あたしも学級委員なんだぁ!よろしくね」

昔からの幼馴染の小春がはしゃいで彼女に言った。


「ねっねっ!あたしがなったクラスに転校生来たの初めてだよぉっ!」

そうだった。だからはしゃいでるのか・・・。

本人には悪いけど、中学生の小春には似ても似つかない体型がかわいらしく思えた。

当然座高も俺のほうがずっと高くて本当に座ったまま見下ろす形になっている。

学級委員のことがあって俺と小春は杏奈と仲良くなっていった。


「杏奈、一緒帰ろうぜ!」

あ、小春も一緒だけど。

中学3年生とは思わない異性関係に周りは驚いていた。


「お前、女子2人の中に男子1人ってやらしくないのかよ〜??」

クラスでつるむ男子からの言葉も全然気にならなかった。


「小春と遠藤、どっち選ぶんだよ?」

にんまりした笑顔を向けられて聞かれた時もあった。


「俺は、『友達』だぜ?」

かわすようにいつも答えた。

そりゃあ中学3年生にもなれば異性についても気になるもんさ。

でも俺、小春と杏奈がいるだけで今はいい。

この居場所がいいんだ――――――――――。

ある日杏奈が1人でいたんだ。

空き地で古ぼけた段ボール箱に入っていた猫の赤ん坊を抱き上げてあやしていた。

漫画やドラマでよくこんな光景あるな。

俺、ぜってぇーそういうのほっといて関わりたくない

でも杏奈は優しい目で、


「大丈夫、1人にしない」

俺めちゃくちゃ感動した。

何でも『逃げる』だけで守ったり、避けたり、自分が思うように行動してきた。

でも、杏奈は逃げることなく1つの1つを見捨てなかった。

これってすっげぇーことだよな?

杏奈は俺の憧れになったんだ。

大事な、憧れの人に・・・・・・な。




「でも・・・死んだ」

京介は抑えるように手のひらを顔に押し付けていた。

生きていて、16年。

家が近所、親が同級生の仲良しということで16年間京介と同じ時を過ごした。

でも、いっつも笑顔ばっかり向けるから・・・・・・。


泣 い た と こ ろ な ん て 見 た こ と も 無 か っ た。



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